愛さずにはいられぬこの思い
貴女のお名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
長椅子に腰を下ろす袁紹の隣に、名無しさんは寄り添うようにして座った。
何処か緊張した面持ちで、開いていく包みを見ている。
微かな衣擦れの音がして、小さな袋が袁紹の目に映った。
「これは・・・」
「茱萸袋です」
「見れば分かる。だが・・・」
袁紹は茱萸袋を手に取ると、まじまじとそれを眺める。
決して見事な出来とは言えなかった。
袋の縫い目は不揃いで、控え目に揺れる房飾りの長さは揃っていない。
正面の刺繍には何度も針を刺した跡があった。
一目で、苦手だと言っていた名無しさんが、懸命に作ったものだと分かる。
「名無しさんが・・・作ったのか?」
気付いてもらえた、名無しさんはぱっと顔に笑顔を浮かべた。
「はいっ!」
「そうか・・・」
袁紹はそろりと指先で刺繍をなぞる。
所々、糸が引き攣っているが、それが何故か愛しく思えた。
「まあ・・・中々の出来だな」
それは褒め言葉だろうか、しかし、名無しさんは嬉しそうに袁紹に顔を寄せ、弾む声で言う。
「甄姫様に毎日教えてもらってね」
「そうか」
「袁紹様に贈ろうと思って。いっぱい頑張ったの!」
そう言って彼女は袁紹に頭を差し出した。
その行動に、袁紹は一瞬、目を丸くする。
これは、頭を撫でて褒めろと言う事か?
自ら強請って来るとは、図々しい娘だ。
苦笑混じりに手を伸ばした袁紹の、名無しさんの頭を撫でる動きは優しい。
「・・・えへへっ」
照れ臭そうに、嬉しそうに、満足そうに笑う声が袁紹の耳に届く。
名無しさんは撫でられる為に下に向けていた顔を上げると、今度はそわそわと体を揺らして言った。
「あの・・・喜んで、もらえましたか?」
不安そうな瞳が袁紹を捉える。
袁紹は小さく息を吐いた。
茱萸袋を知らぬ筈もない。
「聞くまでもなかろう」
そう答えると、手の中の茱萸袋へ再び視線を落とす。
見れば見る程、不格好だ。
刺繍は嫁入り道具だ、他の娘なら、もっと美しく仕上げるだろう。
だが、それが名無しさんらしかった。
袁紹は今までの時間を静かに思い出す。
ぱたぱたと立てる足音。
弾むような声。
夜半、眠たげに擦り寄って来た温もり。
袖を掴む小さな指。
抱けば未だ少しだけ強張る身体。
それでも逃げず、己へ身を委ねる事。
朝になれば、何事もなかったように笑う顔。
少しずつ、本当に少しずつ、彼女は自分の傍へ馴染んで来た。
そして、自分もまた、それを望んでいたのだ。
袁紹はふっと目を細める。
胸の内へ落ちたその事実は、不思議な程に自然だった。
まるで、とうの昔から知っていた事を、今になって漸く認めたかのように。
気付けば、「愛さずにはいられぬこの思い」をこの胸に抱えていたのだ。
袁紹はゆっくりと視線を名無しさんに向けた。
己の言葉を待つように、真っ直ぐ此方を見上げる瞳。
その姿に、自然と口元が緩む。
「・・・どうやら私は、随分前からお前を愛していたらしい」
それを聞いた途端、名無しさんがぱちりと目を瞬かせた。
「・・・え?」
呆けたような声、本人は袁紹が何を口にしたのか理解し切れていないらしい。
袁紹はそこで、自分が随分ととんでもない事を口走ったのだと遅れて気付く。
だが、不思議と後悔はなかった。
ここに至るのは当然の事だったのだ。
→あとがき
何処か緊張した面持ちで、開いていく包みを見ている。
微かな衣擦れの音がして、小さな袋が袁紹の目に映った。
「これは・・・」
「茱萸袋です」
「見れば分かる。だが・・・」
袁紹は茱萸袋を手に取ると、まじまじとそれを眺める。
決して見事な出来とは言えなかった。
袋の縫い目は不揃いで、控え目に揺れる房飾りの長さは揃っていない。
正面の刺繍には何度も針を刺した跡があった。
一目で、苦手だと言っていた名無しさんが、懸命に作ったものだと分かる。
「名無しさんが・・・作ったのか?」
気付いてもらえた、名無しさんはぱっと顔に笑顔を浮かべた。
「はいっ!」
「そうか・・・」
袁紹はそろりと指先で刺繍をなぞる。
所々、糸が引き攣っているが、それが何故か愛しく思えた。
「まあ・・・中々の出来だな」
それは褒め言葉だろうか、しかし、名無しさんは嬉しそうに袁紹に顔を寄せ、弾む声で言う。
「甄姫様に毎日教えてもらってね」
「そうか」
「袁紹様に贈ろうと思って。いっぱい頑張ったの!」
そう言って彼女は袁紹に頭を差し出した。
その行動に、袁紹は一瞬、目を丸くする。
これは、頭を撫でて褒めろと言う事か?
自ら強請って来るとは、図々しい娘だ。
苦笑混じりに手を伸ばした袁紹の、名無しさんの頭を撫でる動きは優しい。
「・・・えへへっ」
照れ臭そうに、嬉しそうに、満足そうに笑う声が袁紹の耳に届く。
名無しさんは撫でられる為に下に向けていた顔を上げると、今度はそわそわと体を揺らして言った。
「あの・・・喜んで、もらえましたか?」
不安そうな瞳が袁紹を捉える。
袁紹は小さく息を吐いた。
茱萸袋を知らぬ筈もない。
「聞くまでもなかろう」
そう答えると、手の中の茱萸袋へ再び視線を落とす。
見れば見る程、不格好だ。
刺繍は嫁入り道具だ、他の娘なら、もっと美しく仕上げるだろう。
だが、それが名無しさんらしかった。
袁紹は今までの時間を静かに思い出す。
ぱたぱたと立てる足音。
弾むような声。
夜半、眠たげに擦り寄って来た温もり。
袖を掴む小さな指。
抱けば未だ少しだけ強張る身体。
それでも逃げず、己へ身を委ねる事。
朝になれば、何事もなかったように笑う顔。
少しずつ、本当に少しずつ、彼女は自分の傍へ馴染んで来た。
そして、自分もまた、それを望んでいたのだ。
袁紹はふっと目を細める。
胸の内へ落ちたその事実は、不思議な程に自然だった。
まるで、とうの昔から知っていた事を、今になって漸く認めたかのように。
気付けば、「愛さずにはいられぬこの思い」をこの胸に抱えていたのだ。
袁紹はゆっくりと視線を名無しさんに向けた。
己の言葉を待つように、真っ直ぐ此方を見上げる瞳。
その姿に、自然と口元が緩む。
「・・・どうやら私は、随分前からお前を愛していたらしい」
それを聞いた途端、名無しさんがぱちりと目を瞬かせた。
「・・・え?」
呆けたような声、本人は袁紹が何を口にしたのか理解し切れていないらしい。
袁紹はそこで、自分が随分ととんでもない事を口走ったのだと遅れて気付く。
だが、不思議と後悔はなかった。
ここに至るのは当然の事だったのだ。
→あとがき