明日の朝
貴女のお名前
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名無しさんは下裾を持ち上げて受け皿にすると、そこに山茱萸の実を摘んで入れた。
受け皿が必要になる程の量に、袁紹が呆れたように言う。
「どれだけ食べるつもりだ」
「沢山あるから、兵の皆さんにも分けようと思って」
さも当然であるかのような言い方に、袁紹は何かを言おうとして、口を閉じた。
何を言っても無駄だ。
くれてやったとは言え、この庭は袁紹のものだと言っても彼女には伝わらない。
旬のものを分け合う、それが名無しさんの理 だ。
ならばと、袁紹は腰を曲げ、名無しさんに顔を突き付けて態とらしく言う。
「ならば、名無しさんよ。もっと摘み取らねば足らぬぞ。我が袁紹軍は精強揃い・・・名無しさんの胃袋と同じと思うでないぞ」
それを聞いて、名無しさんはぱちぱちと目を瞬かせ、それからぱっと笑顔を浮かべた。
「じゃあ、もっと集めなきゃ」
勇んで山茱萸の実に手を伸ばす。
「袁紹様も!手伝って下さい!」
「わ、私がか!?」
「二人でやった方が早いし、沢山取れます」
それもまた、名無しさんの理 。
袁紹は急かす彼女に押し切られる形で、裾を受け皿にして赤い実に手を伸ばし始めた。
小さな灯火のように揺れるそれを摘み取りながら、悪くない、とだけ思った。
受け皿にいっぱいの山茱萸を持って屋敷に戻る途中、名無しさんはうきうきと袁紹に言った。
「これだけあれば、皆に行き渡りますね」
「全く、あればあるだけ取りおって・・・」
と、言いつつも、隣を行く袁紹の表情は僅かに綻んでいる。
名無しさんと競い合うように実を集めていると、童心に返ったような心持ちだった。
「残りも集めるつもりか?」
袁紹は何気なく彼女に尋ねる。
山茱萸の庭と位置付けているだけあって、二人がこれでもかと集めても、木自体が多く、沢山の実が残っていた。
その全てを摘み取るとなれば、途方もない。
毎回付き合う程、私は暇ではないぞ。
そう言った袁紹に、名無しさんはくすくすと笑う。
「全部摘んじゃったら駄目ですよ。鳥も食べに来るし、来年の為にも置いておかなくちゃ」
名無しさんは当たり前のように続けて言った。
「村でも、全部取ったりしませんでした。少しくらい残ってた方が、次の年もちゃんと実るんです」
名無しさんはそう言いながら、赤い実に目を落とす。
「干した実は、お薬にも出来るし、茱萸袋にも使いますよ」
「ほう?名無しさんも作るか」
「一応は・・・刺繍はちょっと苦手なんですけど」
そう言って困ったように笑う名無しさんに、袁紹は喉の奥でくつりと笑う。
「それは色々と問題だな。刺繍は嫁入り道具だろう」
「でも・・・苦手なんだもん」
名無しさんは頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。
またそれか、と袁紹は軽く息を吐く。
直そう直そうとして来たが、一向に直らない彼女の言葉遣いにもいい加減、慣れてしまった。
最早、少し諦めてすらいる。
これも、名無しさんの理 だ。
並んで歩いていた袁紹は、少しだけ歩みを進め、彼女の前に立つ。
足を止めた名無しさんの顔を覗き込んで見れば、拗ねたように唇を尖らせていた。
なおも見せる子どものような振る舞い、決して褒められたものではないそれに、袁紹は無意識に頬を緩める。
「名無しさんよ、袁家の・・・いや、この袁本初の妻ならば、刺繍の一つや二つ、軽くこなさぬか」
と、言う声は静かで、咎める様子ではなかったが、名無しさんは上目遣いに袁紹を見た。
「そんな事言われても、苦手なものは苦手なんだもん」
本当に子どもと変わりない、袁紹は受け皿から実を一つ摘み上げると、名無しさんの唇にそれを押し付ける。
「ほれ、これで機嫌を直せ」
「んむっ・・・」
半ば強引に、彼女の口に含ませた。
好物を口に入れたら機嫌を直すのは子どもの必定か、忽ち、名無しさんの頬が緩む。
「美味しい」
「ならば良い」
袁紹は踵を返し、すたすたと歩き出した。
名無しさんが後ろを追って来る。
「袁紹様」
「何だ」
袁紹は振り返らない、けれど、名無しさんにはその背中が優しく見えた。
「今日のは兵の皆さんに分けるから」
「うむ」
「お薬にする分、また摘まなきゃならないんです」
頼んではいないがな、と袁紹は胸の内で言い返す。
「そうか」
「だから、「明日の朝」も、お誘いしても良いですか?」
袁紹はその言葉に歩みを緩めた。
彼女の隣に並び、視線は前に向けたままで短く言う。
「好きにせよ」
→あとがき
受け皿が必要になる程の量に、袁紹が呆れたように言う。
「どれだけ食べるつもりだ」
「沢山あるから、兵の皆さんにも分けようと思って」
さも当然であるかのような言い方に、袁紹は何かを言おうとして、口を閉じた。
何を言っても無駄だ。
くれてやったとは言え、この庭は袁紹のものだと言っても彼女には伝わらない。
旬のものを分け合う、それが名無しさんの
ならばと、袁紹は腰を曲げ、名無しさんに顔を突き付けて態とらしく言う。
「ならば、名無しさんよ。もっと摘み取らねば足らぬぞ。我が袁紹軍は精強揃い・・・名無しさんの胃袋と同じと思うでないぞ」
それを聞いて、名無しさんはぱちぱちと目を瞬かせ、それからぱっと笑顔を浮かべた。
「じゃあ、もっと集めなきゃ」
勇んで山茱萸の実に手を伸ばす。
「袁紹様も!手伝って下さい!」
「わ、私がか!?」
「二人でやった方が早いし、沢山取れます」
それもまた、名無しさんの
袁紹は急かす彼女に押し切られる形で、裾を受け皿にして赤い実に手を伸ばし始めた。
小さな灯火のように揺れるそれを摘み取りながら、悪くない、とだけ思った。
受け皿にいっぱいの山茱萸を持って屋敷に戻る途中、名無しさんはうきうきと袁紹に言った。
「これだけあれば、皆に行き渡りますね」
「全く、あればあるだけ取りおって・・・」
と、言いつつも、隣を行く袁紹の表情は僅かに綻んでいる。
名無しさんと競い合うように実を集めていると、童心に返ったような心持ちだった。
「残りも集めるつもりか?」
袁紹は何気なく彼女に尋ねる。
山茱萸の庭と位置付けているだけあって、二人がこれでもかと集めても、木自体が多く、沢山の実が残っていた。
その全てを摘み取るとなれば、途方もない。
毎回付き合う程、私は暇ではないぞ。
そう言った袁紹に、名無しさんはくすくすと笑う。
「全部摘んじゃったら駄目ですよ。鳥も食べに来るし、来年の為にも置いておかなくちゃ」
名無しさんは当たり前のように続けて言った。
「村でも、全部取ったりしませんでした。少しくらい残ってた方が、次の年もちゃんと実るんです」
名無しさんはそう言いながら、赤い実に目を落とす。
「干した実は、お薬にも出来るし、茱萸袋にも使いますよ」
「ほう?名無しさんも作るか」
「一応は・・・刺繍はちょっと苦手なんですけど」
そう言って困ったように笑う名無しさんに、袁紹は喉の奥でくつりと笑う。
「それは色々と問題だな。刺繍は嫁入り道具だろう」
「でも・・・苦手なんだもん」
名無しさんは頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。
またそれか、と袁紹は軽く息を吐く。
直そう直そうとして来たが、一向に直らない彼女の言葉遣いにもいい加減、慣れてしまった。
最早、少し諦めてすらいる。
これも、名無しさんの
並んで歩いていた袁紹は、少しだけ歩みを進め、彼女の前に立つ。
足を止めた名無しさんの顔を覗き込んで見れば、拗ねたように唇を尖らせていた。
なおも見せる子どものような振る舞い、決して褒められたものではないそれに、袁紹は無意識に頬を緩める。
「名無しさんよ、袁家の・・・いや、この袁本初の妻ならば、刺繍の一つや二つ、軽くこなさぬか」
と、言う声は静かで、咎める様子ではなかったが、名無しさんは上目遣いに袁紹を見た。
「そんな事言われても、苦手なものは苦手なんだもん」
本当に子どもと変わりない、袁紹は受け皿から実を一つ摘み上げると、名無しさんの唇にそれを押し付ける。
「ほれ、これで機嫌を直せ」
「んむっ・・・」
半ば強引に、彼女の口に含ませた。
好物を口に入れたら機嫌を直すのは子どもの必定か、忽ち、名無しさんの頬が緩む。
「美味しい」
「ならば良い」
袁紹は踵を返し、すたすたと歩き出した。
名無しさんが後ろを追って来る。
「袁紹様」
「何だ」
袁紹は振り返らない、けれど、名無しさんにはその背中が優しく見えた。
「今日のは兵の皆さんに分けるから」
「うむ」
「お薬にする分、また摘まなきゃならないんです」
頼んではいないがな、と袁紹は胸の内で言い返す。
「そうか」
「だから、「明日の朝」も、お誘いしても良いですか?」
袁紹はその言葉に歩みを緩めた。
彼女の隣に並び、視線は前に向けたままで短く言う。
「好きにせよ」
→あとがき