明日の朝
貴女のお名前
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続いて行く。
朝の庭は、未だ夜の名残りを薄く漂わせていた。
草葉の先に滲んだ露が、低い光を受けて鈍く煌めく。
風は殆どなかった。
静けさが庭の輪郭をなぞる。
その中を、名無しさんは慣れたようにゆっくりと歩いていた。
早起きは苦ではない。
村に居た頃は夜が明ける前から動き出していた。
時折、寝過ごす事もあるが、それは袁紹と過ごした夜の翌朝だけだ。
名無しさんは更に奥へと歩みを進める。
やがて、四阿が見えて来た。
その軒下に、庭の景観に不釣り合いなものが吊るされている、三枝九葉草である。
葉が十分に茂り、緑色が濃くなっている時期に名無しさんが刈り取っておいたものだ。
それを数本ずつに纏めて紐で縛り、逆さに吊るして乾燥させている。
名無しさんはその下に近付くと、裾を捲り上げて欄干に足を掛けた。
「よっ、と・・・」
小さな声を漏らしながら、三枝九葉草の束へと手を伸ばし、指先で葉に触れて乾燥具合を確かめる。
ぱりっと乾いた音を立てるが、僅かに湿り気が残っていた。
「もう少しかな・・・」
しっかり乾燥させておかないと、長く保たない。
名無しさんは束ねた紐が緩んでいないかを確かめてから、そのまま体を横にずらす。
足で欄干の上をなぞり、次の束へと手を伸ばした。
その軽い身のこなしに迷いはなく、高い場所に特に怖がる様子もない。
袁紹様に見られたら、何か言われるかな。
名無しさんは以前、彼に、
「木登りでも始めるつもりか」
と、言われた事を思い出し、くすりと笑う。
今の所、その予定はないが、この姿を見られたら、また同じ事を言われるだろう。
まあ、見られないように早起きしてるんだけど。
名無しさんは丁寧に一つずつ、確かめて行く。
自分が使う為ではない。
誰かの為に、と言う訳でもない。
村に居た頃と同じ、ただ、必要になった時に困らないように。
それだけの事だと、思っている。
一通り、束の具合を見終えた名無しさんは欄干からひらりと飛び下りた。
汚れを落としに行かなくちゃ。
そう思いながら、来た道を戻る時だった。
彼女の視界の隅に赤い色が入り込む。
名無しさんは視線を巡らせ、目に映った赤い色に、
「あ・・・」
と、小さく声を上げた。
ここに来る時は、三枝九葉草の事ばかり考えていて、周りを見る余裕がなく、気付かなかった。
いつの間にか、山茱萸の実が赤く色付いている。
名無しさんは木に近付き、つやつやと光る実を見上げた。
指先でそれに触れると、口の中にあの甘酸っぱい味が広がるようだ。
よく食べたり、お薬にしてたっけ。
これも今度、干しておかなくちゃ。
茱萸袋は・・・刺繍、苦手だし、どうしようかな。
・・・皆、元気にしてると良いな。
名無しさんの胸に、懐かしさが込み上げる。
摘み取ろうと動いていた彼女の指先が、不意に止まった。
何を思ったか、名無しさんはきゅっと指先を握ると、小走りに駆け出す。
来た道を戻らず、目の前の小川を飛び越えた。
空気を孕んだ裾がふわりと揺れる。
朝の庭は、未だ夜の名残りを薄く漂わせていた。
草葉の先に滲んだ露が、低い光を受けて鈍く煌めく。
風は殆どなかった。
静けさが庭の輪郭をなぞる。
その中を、名無しさんは慣れたようにゆっくりと歩いていた。
早起きは苦ではない。
村に居た頃は夜が明ける前から動き出していた。
時折、寝過ごす事もあるが、それは袁紹と過ごした夜の翌朝だけだ。
名無しさんは更に奥へと歩みを進める。
やがて、四阿が見えて来た。
その軒下に、庭の景観に不釣り合いなものが吊るされている、三枝九葉草である。
葉が十分に茂り、緑色が濃くなっている時期に名無しさんが刈り取っておいたものだ。
それを数本ずつに纏めて紐で縛り、逆さに吊るして乾燥させている。
名無しさんはその下に近付くと、裾を捲り上げて欄干に足を掛けた。
「よっ、と・・・」
小さな声を漏らしながら、三枝九葉草の束へと手を伸ばし、指先で葉に触れて乾燥具合を確かめる。
ぱりっと乾いた音を立てるが、僅かに湿り気が残っていた。
「もう少しかな・・・」
しっかり乾燥させておかないと、長く保たない。
名無しさんは束ねた紐が緩んでいないかを確かめてから、そのまま体を横にずらす。
足で欄干の上をなぞり、次の束へと手を伸ばした。
その軽い身のこなしに迷いはなく、高い場所に特に怖がる様子もない。
袁紹様に見られたら、何か言われるかな。
名無しさんは以前、彼に、
「木登りでも始めるつもりか」
と、言われた事を思い出し、くすりと笑う。
今の所、その予定はないが、この姿を見られたら、また同じ事を言われるだろう。
まあ、見られないように早起きしてるんだけど。
名無しさんは丁寧に一つずつ、確かめて行く。
自分が使う為ではない。
誰かの為に、と言う訳でもない。
村に居た頃と同じ、ただ、必要になった時に困らないように。
それだけの事だと、思っている。
一通り、束の具合を見終えた名無しさんは欄干からひらりと飛び下りた。
汚れを落としに行かなくちゃ。
そう思いながら、来た道を戻る時だった。
彼女の視界の隅に赤い色が入り込む。
名無しさんは視線を巡らせ、目に映った赤い色に、
「あ・・・」
と、小さく声を上げた。
ここに来る時は、三枝九葉草の事ばかり考えていて、周りを見る余裕がなく、気付かなかった。
いつの間にか、山茱萸の実が赤く色付いている。
名無しさんは木に近付き、つやつやと光る実を見上げた。
指先でそれに触れると、口の中にあの甘酸っぱい味が広がるようだ。
よく食べたり、お薬にしてたっけ。
これも今度、干しておかなくちゃ。
茱萸袋は・・・刺繍、苦手だし、どうしようかな。
・・・皆、元気にしてると良いな。
名無しさんの胸に、懐かしさが込み上げる。
摘み取ろうと動いていた彼女の指先が、不意に止まった。
何を思ったか、名無しさんはきゅっと指先を握ると、小走りに駆け出す。
来た道を戻らず、目の前の小川を飛び越えた。
空気を孕んだ裾がふわりと揺れる。