はた迷惑な微罪
貴女のお名前
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鍾会は名無しさんの後ろに立ち、彼女の細い腰に腕を回して言った。
「ほら、呼んでみろ」
「はい」
名無しさんが素直に腕を上げると、くるくると旋回していた鷹が腕を目掛けて降りて来る。
腕まであと少し、と言う所で、先程、鍾会に乱暴に扱われた事に腹を立てていたのか、鷹が大きく羽をばたつかせた。
「きゃあっ!」
「っ、おい!」
名無しさんから悲鳴が上がり、その体がぐらりと揺れる。
鍾会は咄嗟に彼女の腰に回した手に力を込めるが、周りでばさばさとやられては思うように踏ん張れなかった。
「あ・・・あ・・・」
「おい、暴れるな・・・!」
そうは言っても、慌てふためく彼女の耳に届く筈がない。
二人の足が縺れて絡む。
鍾会は自分の体が揺れた瞬間、名無しさんの頭を強く抱え込んだ。
近付く地面に、反射的に背中を向けると同時に、痛みが走る。
「・・・っ!」
背中を打った衝撃で閉じた目を開くと、気が済んだのか、遥か頭上でくるくると回る鷹が見えた。
鍾会がゆっくりと息を吐き、腕の中の彼女に声を掛ける。
「・・・名無しさん?」
呼ばれて、名無しさんが恐る恐る顔を上げた。
「鍾会、様・・・」
返って来た声に鍾会は安堵の息を吐く。
「・・・何処かぶつけてないだろうな?」
「はい・・・」
名無しさんは小さく答えると、一度は上げた顔を、無意識に鍾会の胸元に埋め、衣をぎゅっと握った。
びっくりした・・・未だ胸がどきどきしてるわ。
それを和らげるように、鍾会の衣を掴む名無しさんの指先に力が籠る。
鍾会はその仕草に、喉を詰まらせた。
可愛過ぎるだろう。
思わず、名無しさんを抱き締めようとして、はっと我に返る。
何をしようとしていたのだ、私は。
「おい、いつまで・・・」
そうしているつもりだと、彼女の腰に回していた腕を退けようとした鍾会は、しかし、それを途中で引っ込めた。
未だ落ち着かないのか、名無しさんの肩が僅かに震えている。
仕方ない、名無しさんの方が離さないのだ、もう暫くこのままでいてやろうじゃないか。
鷹は相変わらず、素知らぬ顔で空を飛んでいる。
雲がゆっくりと二人の上を流れて行った。
そうして漸く、震えが収まった名無しさんがゆるゆると顔を上げた。
「・・・鍾会様」
と、彼を呼んで、忽ち、その頬を真っ赤に染める。
落ち着いて考えれば分かるだろうに、迫るような距離にある鍾会の顔に、頭が真っ白になって、名無しさんはどうして良いか分からなくなった。
「何だ」
呼ばれた鍾会が顔を巡らせる。
鍾会はそこに頬を染めた名無しさんを見ると、自分もまた、顔を真っ赤にさせた。
名無しさんと視線が絡み、鼓動が早鐘を打つ。
「い、いつまでそうしているつもりだ!」
その勢いで咎めるような言葉が出てしまって、鍾会は後悔した。
違うだろう、ここは、
「落ち着いたか?」
とか、
「もう大丈夫だ」
とか言って、微笑んでやる所じゃないか。
英才教育を受けたこの私が、判断を誤るとは。
「ご、ごめんなさい」
「いいから早く退け!重いぞ!」
再び、自己嫌悪が鍾会を襲う。
どうにも、名無しさんと居ると調子が狂って、ままならない。
名無しさんはそろそろと体を動かすと、鍾会の上から下り、芝生の上に座り込んだ。
鍾会が体を起こし、座るのを待ってから口を開く。
「あの・・・本当にごめんなさい」
「ふん・・・」
鍾会は短く鼻を鳴らして名無しさんをちらりと見た。
申し訳なさそうに体を縮こませる彼女が小さくて可愛い。
気が付けば、言葉が鍾会の口から出ていた。
「・・・怪我を、してないだろうな」
「はい」
「なら良い。それから・・・誤る必要はない。言うなら礼を言え」
名無しさんはその言葉にちょっと目を開いてから、緩く微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
鍾会は彼女が見せた柔らかい表情に、胸を跳ねさせたが、気付かない振りをして立ち上がった。
服に着いた草を払いながら言う。
「・・・帰るぞ」
「はい」
促されて立ち上がろうとする名無しさんの、その足が未だ震えていた。
鍾会がその様子に気付いていれば、
「全く・・・手間の掛かる」
そう言って、強引に彼女の体を掬い上げる。
「あ、あの・・・」
「動くな。落とされたいか」
遮るように飛んで来た彼の声は鋭かったが、歩み始めた足取りはゆっくりと進んでいた。
それを知って、名無しさんはそっと頭を鍾会の胸に預ける。
「・・・ありがとうございます」
鍾会は前を見据え、何も言わなかった。
代わりに、彼女を抱え上げる腕に僅かに力を込める。
安心しろと、その腕が言っていた。
自分が犯した、「はた迷惑な微罪」など気にも止めず、鷹は一つ大きくぐるりと回って二人の後を追い始める。
→あとがき
「ほら、呼んでみろ」
「はい」
名無しさんが素直に腕を上げると、くるくると旋回していた鷹が腕を目掛けて降りて来る。
腕まであと少し、と言う所で、先程、鍾会に乱暴に扱われた事に腹を立てていたのか、鷹が大きく羽をばたつかせた。
「きゃあっ!」
「っ、おい!」
名無しさんから悲鳴が上がり、その体がぐらりと揺れる。
鍾会は咄嗟に彼女の腰に回した手に力を込めるが、周りでばさばさとやられては思うように踏ん張れなかった。
「あ・・・あ・・・」
「おい、暴れるな・・・!」
そうは言っても、慌てふためく彼女の耳に届く筈がない。
二人の足が縺れて絡む。
鍾会は自分の体が揺れた瞬間、名無しさんの頭を強く抱え込んだ。
近付く地面に、反射的に背中を向けると同時に、痛みが走る。
「・・・っ!」
背中を打った衝撃で閉じた目を開くと、気が済んだのか、遥か頭上でくるくると回る鷹が見えた。
鍾会がゆっくりと息を吐き、腕の中の彼女に声を掛ける。
「・・・名無しさん?」
呼ばれて、名無しさんが恐る恐る顔を上げた。
「鍾会、様・・・」
返って来た声に鍾会は安堵の息を吐く。
「・・・何処かぶつけてないだろうな?」
「はい・・・」
名無しさんは小さく答えると、一度は上げた顔を、無意識に鍾会の胸元に埋め、衣をぎゅっと握った。
びっくりした・・・未だ胸がどきどきしてるわ。
それを和らげるように、鍾会の衣を掴む名無しさんの指先に力が籠る。
鍾会はその仕草に、喉を詰まらせた。
可愛過ぎるだろう。
思わず、名無しさんを抱き締めようとして、はっと我に返る。
何をしようとしていたのだ、私は。
「おい、いつまで・・・」
そうしているつもりだと、彼女の腰に回していた腕を退けようとした鍾会は、しかし、それを途中で引っ込めた。
未だ落ち着かないのか、名無しさんの肩が僅かに震えている。
仕方ない、名無しさんの方が離さないのだ、もう暫くこのままでいてやろうじゃないか。
鷹は相変わらず、素知らぬ顔で空を飛んでいる。
雲がゆっくりと二人の上を流れて行った。
そうして漸く、震えが収まった名無しさんがゆるゆると顔を上げた。
「・・・鍾会様」
と、彼を呼んで、忽ち、その頬を真っ赤に染める。
落ち着いて考えれば分かるだろうに、迫るような距離にある鍾会の顔に、頭が真っ白になって、名無しさんはどうして良いか分からなくなった。
「何だ」
呼ばれた鍾会が顔を巡らせる。
鍾会はそこに頬を染めた名無しさんを見ると、自分もまた、顔を真っ赤にさせた。
名無しさんと視線が絡み、鼓動が早鐘を打つ。
「い、いつまでそうしているつもりだ!」
その勢いで咎めるような言葉が出てしまって、鍾会は後悔した。
違うだろう、ここは、
「落ち着いたか?」
とか、
「もう大丈夫だ」
とか言って、微笑んでやる所じゃないか。
英才教育を受けたこの私が、判断を誤るとは。
「ご、ごめんなさい」
「いいから早く退け!重いぞ!」
再び、自己嫌悪が鍾会を襲う。
どうにも、名無しさんと居ると調子が狂って、ままならない。
名無しさんはそろそろと体を動かすと、鍾会の上から下り、芝生の上に座り込んだ。
鍾会が体を起こし、座るのを待ってから口を開く。
「あの・・・本当にごめんなさい」
「ふん・・・」
鍾会は短く鼻を鳴らして名無しさんをちらりと見た。
申し訳なさそうに体を縮こませる彼女が小さくて可愛い。
気が付けば、言葉が鍾会の口から出ていた。
「・・・怪我を、してないだろうな」
「はい」
「なら良い。それから・・・誤る必要はない。言うなら礼を言え」
名無しさんはその言葉にちょっと目を開いてから、緩く微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
鍾会は彼女が見せた柔らかい表情に、胸を跳ねさせたが、気付かない振りをして立ち上がった。
服に着いた草を払いながら言う。
「・・・帰るぞ」
「はい」
促されて立ち上がろうとする名無しさんの、その足が未だ震えていた。
鍾会がその様子に気付いていれば、
「全く・・・手間の掛かる」
そう言って、強引に彼女の体を掬い上げる。
「あ、あの・・・」
「動くな。落とされたいか」
遮るように飛んで来た彼の声は鋭かったが、歩み始めた足取りはゆっくりと進んでいた。
それを知って、名無しさんはそっと頭を鍾会の胸に預ける。
「・・・ありがとうございます」
鍾会は前を見据え、何も言わなかった。
代わりに、彼女を抱え上げる腕に僅かに力を込める。
安心しろと、その腕が言っていた。
自分が犯した、「はた迷惑な微罪」など気にも止めず、鷹は一つ大きくぐるりと回って二人の後を追い始める。
→あとがき