心と心を通わせて
貴女のお名前
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典韋は息を呑んだまま動けなかった。
妻にして、と言う言葉だけが頭の中で何度も反響する。
「お嬢・・・」
掠れた声に続けて典韋の喉の奥がごくりと鳴った。
今、目の前に居る彼女は、昔から見て来た名無しさんではないと覚る。
一人の女性になった名無しさん、そうして見る彼女は、開けた胸元も相まって艶めかしく、鼓動が忙しなく典韋の胸を打った。
「典韋・・・」
名無しさんは顔を近付けると、囁くように言う。
「好きよ、典韋。貴方が好き」
その真っ直ぐな好意が、典韋を動かした。
深く息を吐く。
「・・・本当に良いんですかい?」
低く、唸るように言えば、名無しさんが一瞬、怯んだように見えた。
しかし、彼女はそこに留まり続ける。
「勿論よ。何度も良いと言っているでしょう」
「・・・分かりやした」
典韋は素早く名無しさんの手首を掴むと、体を敷布の上に押し倒した。
「きゃっ・・・」
小さな悲鳴に構わず、腰を浮かして彼女に覆い被さる。
一箇所に二人分の体重が掛かり、寝台が沈んでぎしりと音を立てた。
逃さねぇと言わんばかりに、名無しさんの手首を掴む典韋の手に力が籠る。
「痛・・・」
名無しさんは覚えた痛みに声を上げようとして、押し倒された驚きに閉じていた目を開けた。
「あ・・・っ」
視界いっぱいに映る典韋の体は想像以上に大きく、息を詰める。
怖い、その言葉が脳裏を過ぎり、思わず、名無しさんはぎゅっと目を閉じた。
掴んだ手首から伝わって来る彼女の微かな震えに気付いていながら、典韋は力を緩めない。
寧ろ、更に体重を掛けていった。
名無しさんの体が強張り、震えが強くなる。
そうなってから漸く、典韋は彼女の手首に籠めていた力を緩めた。
「怖いんでしょうや」
「怖くないわ・・・怖くなんてないわ」
本当は怖いのだ、けれど、妻にしてと言った手前、いや、そもそもこの婚姻自体、名無しさんが半ば押し掛ける形で成立したのだ。
この期に及んでとは、典韋ではなく、彼女に向けられる言葉だろう。
それが分かるからこそ、怖いと言えず、必死に虚勢を張る名無しさんに、典韋の口元が僅かに緩んだ。
「お嬢、今夜は止めときやしょうや」
そう言って、名無しさんの手首を解放し、体を起こした。
塞がれていた名無しさんの視界が広がる。
「・・・どうして」
ぽつりと漏れた彼女の声は、さっきまでの強気な様子とは違って、ほんの少しだけ揺れていた。
ゆっくりと体を起こした名無しさんは、典韋の視線から逃れるように俯き、距離を取って敷布の上に座る。
「こんな・・・情けない」
それは自分に向けて言ったのか、それとも典韋に宛てたものか。
恐らく、自分に向けて言ったのだろう。
その証拠に、膝の上に置かれた手が未だ震えていた。
「無理をする必要はねぇですぜ。・・・儂らは、その、夫婦なんですから」
夫婦、典韋の口から出た言葉に、名無しさんが驚いたように顔を上げる。
「え・・・?」
「明日も明後日も明々後日も、その先も・・・」
典韋は彼女を見詰め、きっぱりと言い切った。
「儂はお嬢の傍にずっと居やす」
「典韋・・・」
名無しさんは疑わしげな視線で典韋を見る。
「・・・本当に?」
「へい」
「・・・ずっと?」
「へい」
「・・・夫として?」
「そう呼ばれるには未だ慣れやせんが・・・」
照れたように頭を掻いて、それから居住まいを正して言った。
「腹は、括りやしたぜ」
以前、彼女に言われた言葉を、典韋は思い出す。
「決して無理強いの結婚ではないのよ」
あの時、既に名無しさんは覚悟を決めていたのだ。
自分と幸せになる覚悟を。
だからこそ、怖いと思っても強がって、怖くないと言ってみせたのだ。
そこまでする彼女に応えないままでいるのは、それこそ、罰が当たる。
自分にも言い聞かせるように、もう一度言った。
「自信はありやせんが、腹は括りやした」
名無しさんは目を細め、緩く笑みを浮かべる。
「・・・嬉しいわ。ずっと・・・私の傍に居てくれるのね?」
「へい、約束しやす」
典韋はそう言うと、ちらりと名無しさんから視線を外した。
「ですんで、それ・・・しまっちゃくれませんかね?」
「え?・・・あ」
典韋に指摘され、名無しさんは視線を自分の胸元へと運ぶ。
元はと言えば自分で開けた胸元。
恐らく、押し倒された拍子に更に乱れたのだろう、膨らみが大きく覗いていた。
みるみる頬が熱を帯び、名無しさんは慌てて衣を掻き合せる。
「ずっと見てたの!?いやらしいわね!」
「べ、別に見たくて見てた訳じゃあ・・・」
「見たくなかったの!?」
「どっちなんですかい!?」
困ったように叫ぶ典韋を真っ赤な顔で睨み付けていた名無しさんは、やがて、小さく吹き出した。
「もう・・・散々な目に遭ったわ」
「それはこっちの台詞でさあ」
典韋が苦笑いを浮かべる。
漸く、空気が緩んだ気がした。
名無しさんは座り直すと、改めて典韋に向き直る。
「不束者ですが、これから妻としてよろしくお願いします」
両手を付き、深々と頭を下げる彼女に、典韋もぺこりと返した。
「儂の方こそ。何の取り柄もねぇですが」
名無しさんはにっこりと微笑み、彼に向けて手を差し出す。
「今夜は手を繋ぐだけで良いわ。もう寝ましょう」
「へい」
躊躇いなく手を取る典韋に、素早く身を寄せ、その頬に唇を触れさせた。
「・・・っ!」
名無しさんの柔らかい唇の感触に、典韋が声にならない声を上げて体を強張らせる。
「夫婦だもの、これ位、どうって事ないでしょう?」
悪戯っぽく言われた言葉は、いつもの彼女らしくて、
「全く・・・勘弁して下せぇ」
典韋は困ったようにぼやいたが、その手を離す事はなかった。
実りの季節、この夜、確かに二人は「心と心を通わせて」いた。
→あとがき
妻にして、と言う言葉だけが頭の中で何度も反響する。
「お嬢・・・」
掠れた声に続けて典韋の喉の奥がごくりと鳴った。
今、目の前に居る彼女は、昔から見て来た名無しさんではないと覚る。
一人の女性になった名無しさん、そうして見る彼女は、開けた胸元も相まって艶めかしく、鼓動が忙しなく典韋の胸を打った。
「典韋・・・」
名無しさんは顔を近付けると、囁くように言う。
「好きよ、典韋。貴方が好き」
その真っ直ぐな好意が、典韋を動かした。
深く息を吐く。
「・・・本当に良いんですかい?」
低く、唸るように言えば、名無しさんが一瞬、怯んだように見えた。
しかし、彼女はそこに留まり続ける。
「勿論よ。何度も良いと言っているでしょう」
「・・・分かりやした」
典韋は素早く名無しさんの手首を掴むと、体を敷布の上に押し倒した。
「きゃっ・・・」
小さな悲鳴に構わず、腰を浮かして彼女に覆い被さる。
一箇所に二人分の体重が掛かり、寝台が沈んでぎしりと音を立てた。
逃さねぇと言わんばかりに、名無しさんの手首を掴む典韋の手に力が籠る。
「痛・・・」
名無しさんは覚えた痛みに声を上げようとして、押し倒された驚きに閉じていた目を開けた。
「あ・・・っ」
視界いっぱいに映る典韋の体は想像以上に大きく、息を詰める。
怖い、その言葉が脳裏を過ぎり、思わず、名無しさんはぎゅっと目を閉じた。
掴んだ手首から伝わって来る彼女の微かな震えに気付いていながら、典韋は力を緩めない。
寧ろ、更に体重を掛けていった。
名無しさんの体が強張り、震えが強くなる。
そうなってから漸く、典韋は彼女の手首に籠めていた力を緩めた。
「怖いんでしょうや」
「怖くないわ・・・怖くなんてないわ」
本当は怖いのだ、けれど、妻にしてと言った手前、いや、そもそもこの婚姻自体、名無しさんが半ば押し掛ける形で成立したのだ。
この期に及んでとは、典韋ではなく、彼女に向けられる言葉だろう。
それが分かるからこそ、怖いと言えず、必死に虚勢を張る名無しさんに、典韋の口元が僅かに緩んだ。
「お嬢、今夜は止めときやしょうや」
そう言って、名無しさんの手首を解放し、体を起こした。
塞がれていた名無しさんの視界が広がる。
「・・・どうして」
ぽつりと漏れた彼女の声は、さっきまでの強気な様子とは違って、ほんの少しだけ揺れていた。
ゆっくりと体を起こした名無しさんは、典韋の視線から逃れるように俯き、距離を取って敷布の上に座る。
「こんな・・・情けない」
それは自分に向けて言ったのか、それとも典韋に宛てたものか。
恐らく、自分に向けて言ったのだろう。
その証拠に、膝の上に置かれた手が未だ震えていた。
「無理をする必要はねぇですぜ。・・・儂らは、その、夫婦なんですから」
夫婦、典韋の口から出た言葉に、名無しさんが驚いたように顔を上げる。
「え・・・?」
「明日も明後日も明々後日も、その先も・・・」
典韋は彼女を見詰め、きっぱりと言い切った。
「儂はお嬢の傍にずっと居やす」
「典韋・・・」
名無しさんは疑わしげな視線で典韋を見る。
「・・・本当に?」
「へい」
「・・・ずっと?」
「へい」
「・・・夫として?」
「そう呼ばれるには未だ慣れやせんが・・・」
照れたように頭を掻いて、それから居住まいを正して言った。
「腹は、括りやしたぜ」
以前、彼女に言われた言葉を、典韋は思い出す。
「決して無理強いの結婚ではないのよ」
あの時、既に名無しさんは覚悟を決めていたのだ。
自分と幸せになる覚悟を。
だからこそ、怖いと思っても強がって、怖くないと言ってみせたのだ。
そこまでする彼女に応えないままでいるのは、それこそ、罰が当たる。
自分にも言い聞かせるように、もう一度言った。
「自信はありやせんが、腹は括りやした」
名無しさんは目を細め、緩く笑みを浮かべる。
「・・・嬉しいわ。ずっと・・・私の傍に居てくれるのね?」
「へい、約束しやす」
典韋はそう言うと、ちらりと名無しさんから視線を外した。
「ですんで、それ・・・しまっちゃくれませんかね?」
「え?・・・あ」
典韋に指摘され、名無しさんは視線を自分の胸元へと運ぶ。
元はと言えば自分で開けた胸元。
恐らく、押し倒された拍子に更に乱れたのだろう、膨らみが大きく覗いていた。
みるみる頬が熱を帯び、名無しさんは慌てて衣を掻き合せる。
「ずっと見てたの!?いやらしいわね!」
「べ、別に見たくて見てた訳じゃあ・・・」
「見たくなかったの!?」
「どっちなんですかい!?」
困ったように叫ぶ典韋を真っ赤な顔で睨み付けていた名無しさんは、やがて、小さく吹き出した。
「もう・・・散々な目に遭ったわ」
「それはこっちの台詞でさあ」
典韋が苦笑いを浮かべる。
漸く、空気が緩んだ気がした。
名無しさんは座り直すと、改めて典韋に向き直る。
「不束者ですが、これから妻としてよろしくお願いします」
両手を付き、深々と頭を下げる彼女に、典韋もぺこりと返した。
「儂の方こそ。何の取り柄もねぇですが」
名無しさんはにっこりと微笑み、彼に向けて手を差し出す。
「今夜は手を繋ぐだけで良いわ。もう寝ましょう」
「へい」
躊躇いなく手を取る典韋に、素早く身を寄せ、その頬に唇を触れさせた。
「・・・っ!」
名無しさんの柔らかい唇の感触に、典韋が声にならない声を上げて体を強張らせる。
「夫婦だもの、これ位、どうって事ないでしょう?」
悪戯っぽく言われた言葉は、いつもの彼女らしくて、
「全く・・・勘弁して下せぇ」
典韋は困ったようにぼやいたが、その手を離す事はなかった。
実りの季節、この夜、確かに二人は「心と心を通わせて」いた。
→あとがき