幼い恋
貴女のお名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それからと言うもの、名無しさんは頻繁に夏侯淵を訪ねて遣って来た。
時には三人で楽しく、時には夏侯淵と二人きりで真剣に、そしてまた時には夏侯覇と二人きりでぎこちなく。
そうして過ぎる、ある日の帰り際に彼女は、緊張気味に小さな包みを夏侯淵に差し出した。
「あの、夏侯淵様」
「うん?何だ?」
「ええと、その、いつも教えて頂いているので・・・」
と、言葉少なに、何処か恥ずかしそうな仕草を見せる名無しさんの視線は、離れた所で弓の具合を確かめている夏侯覇にちらちらと向けられていて、包みを受け取った夏侯淵が察したように片眉を上げる。
これはもしかすると、もしかするんじゃないか。
夏侯淵は大袈裟に喜んで見せると、何事かと、夏侯覇の視線がこちらに向くのを待ってから自棄に丁寧な包みを開いた。
「お、美味そうだな」
美味そうと聞けば当然、それは食べ物で、興味を示して遣って来た夏侯覇が父親に倣って包みを覗き込む。
小さな包みの中には、お世辞にも見栄えが良いとは言えない、不格好な焼き菓子が並んでいた。
「・・・何か、下手くそって言うか、ちょっと焦げてないか?」
その、余りに素直過ぎる息子の言葉に、夏侯淵はがくりと肩を落とす。
この馬鹿息子。
どう見たって名無しさんの手作りだろうが。
夏侯覇の言葉に、名無しさんが慌てた様子で言った。
「あ、あの、お父様には何処かのお店で用意しなさいって言われたんですけど、でも、それは何だか違うような気がして・・・でも、私、お料理とかした事がないし。だから、教えて貰って何回も練習したんですけど。でも、どうしても形が上手くいかなくって・・・。でも、味は多分、大丈夫だと思うんですけど・・・」
でも、でもと必死に言い訳を並べるその声が、少しずつ小さくなっていく。
「美味しくなかったら捨てて貰っても・・・」
と、言う頃には、次いでに名無しさん自身も消え入りそうに長い睫毛を伏せ、顔を俯けて袖をぎゅっと握り締めていた。
その不安そうな様子に、夏侯淵は敢えて軽く言う。
「おいおい、名無しさん。そんなに急ぐな。未だ食ってねぇんだから美味いも不味いも分かんないんだからよ」
菓子を摘んで口に運んだ後に続けて言った。
「うん、ちゃんと美味いぞ」
そう言えば、名無しさんの視線が少しだけ上を向く。
「ほら、お前も食ってみろ」
「うん」
言われて夏侯覇も菓子を口に放り込み、咀嚼してから言った。
「うん、美味いな」
「・・・本当ですか?」
「本当だって。形は悪いけどな」
屈託のない夏侯覇に、一言余計だと、夏侯淵はこっそりと溜め息を吐く。
全く、鈍い息子だ。
名無しさんはお前の為に作ったんだぞと言ってやりたいが、それは恐らく、彼女の望む所ではない。
頻繁に顔を合わせていても、未だ短い付き合い、手作りの菓子を用意したのは良いが、気持ちが重いとは思われたくないだろう。
ここは額面通り、いつも教えて頂いている御礼として受け取るのが正解だ。
何回も練習をしたと言う彼女の白い手に残る幾つかの火傷の跡に、夏侯淵が気付いていれば、名無しさんを励まさずにはいられなかった。
「いやぁ、十分上出来だぜ。弓もだが、名無しさんは筋が良いな」
漸く、名無しさんが顔を上げる。
良かったと胸を撫で下ろして彼女が微笑んだ、その時、迎えの到着の報せが届いた。
夏侯淵は包みを手早く片付けようとして、いつの間にか減っていた菓子の量に夏侯覇をちらりと見る。
何だかんだ言っても気に入ったのか。
それとも名無しさんの手作りを俺に食べさせたくなかったのか・・・って言うのは勘繰り過ぎか。
どちらにしろ、折角の機会だ。
後は若い二人で、夏侯淵は息子の背中を叩いた。
「ほら、名無しさんを送って来い」
「うん」
夏侯覇はここでも素直で、指先に付いた菓子の欠片を舐め取ると、当然のように名無しさんを促す。
一瞬、名無しさんは驚いたように目を丸くしたが、夏侯淵にぺこりと頭を下げると先に歩き出していた夏侯覇の背中を追いかけた。
時には三人で楽しく、時には夏侯淵と二人きりで真剣に、そしてまた時には夏侯覇と二人きりでぎこちなく。
そうして過ぎる、ある日の帰り際に彼女は、緊張気味に小さな包みを夏侯淵に差し出した。
「あの、夏侯淵様」
「うん?何だ?」
「ええと、その、いつも教えて頂いているので・・・」
と、言葉少なに、何処か恥ずかしそうな仕草を見せる名無しさんの視線は、離れた所で弓の具合を確かめている夏侯覇にちらちらと向けられていて、包みを受け取った夏侯淵が察したように片眉を上げる。
これはもしかすると、もしかするんじゃないか。
夏侯淵は大袈裟に喜んで見せると、何事かと、夏侯覇の視線がこちらに向くのを待ってから自棄に丁寧な包みを開いた。
「お、美味そうだな」
美味そうと聞けば当然、それは食べ物で、興味を示して遣って来た夏侯覇が父親に倣って包みを覗き込む。
小さな包みの中には、お世辞にも見栄えが良いとは言えない、不格好な焼き菓子が並んでいた。
「・・・何か、下手くそって言うか、ちょっと焦げてないか?」
その、余りに素直過ぎる息子の言葉に、夏侯淵はがくりと肩を落とす。
この馬鹿息子。
どう見たって名無しさんの手作りだろうが。
夏侯覇の言葉に、名無しさんが慌てた様子で言った。
「あ、あの、お父様には何処かのお店で用意しなさいって言われたんですけど、でも、それは何だか違うような気がして・・・でも、私、お料理とかした事がないし。だから、教えて貰って何回も練習したんですけど。でも、どうしても形が上手くいかなくって・・・。でも、味は多分、大丈夫だと思うんですけど・・・」
でも、でもと必死に言い訳を並べるその声が、少しずつ小さくなっていく。
「美味しくなかったら捨てて貰っても・・・」
と、言う頃には、次いでに名無しさん自身も消え入りそうに長い睫毛を伏せ、顔を俯けて袖をぎゅっと握り締めていた。
その不安そうな様子に、夏侯淵は敢えて軽く言う。
「おいおい、名無しさん。そんなに急ぐな。未だ食ってねぇんだから美味いも不味いも分かんないんだからよ」
菓子を摘んで口に運んだ後に続けて言った。
「うん、ちゃんと美味いぞ」
そう言えば、名無しさんの視線が少しだけ上を向く。
「ほら、お前も食ってみろ」
「うん」
言われて夏侯覇も菓子を口に放り込み、咀嚼してから言った。
「うん、美味いな」
「・・・本当ですか?」
「本当だって。形は悪いけどな」
屈託のない夏侯覇に、一言余計だと、夏侯淵はこっそりと溜め息を吐く。
全く、鈍い息子だ。
名無しさんはお前の為に作ったんだぞと言ってやりたいが、それは恐らく、彼女の望む所ではない。
頻繁に顔を合わせていても、未だ短い付き合い、手作りの菓子を用意したのは良いが、気持ちが重いとは思われたくないだろう。
ここは額面通り、いつも教えて頂いている御礼として受け取るのが正解だ。
何回も練習をしたと言う彼女の白い手に残る幾つかの火傷の跡に、夏侯淵が気付いていれば、名無しさんを励まさずにはいられなかった。
「いやぁ、十分上出来だぜ。弓もだが、名無しさんは筋が良いな」
漸く、名無しさんが顔を上げる。
良かったと胸を撫で下ろして彼女が微笑んだ、その時、迎えの到着の報せが届いた。
夏侯淵は包みを手早く片付けようとして、いつの間にか減っていた菓子の量に夏侯覇をちらりと見る。
何だかんだ言っても気に入ったのか。
それとも名無しさんの手作りを俺に食べさせたくなかったのか・・・って言うのは勘繰り過ぎか。
どちらにしろ、折角の機会だ。
後は若い二人で、夏侯淵は息子の背中を叩いた。
「ほら、名無しさんを送って来い」
「うん」
夏侯覇はここでも素直で、指先に付いた菓子の欠片を舐め取ると、当然のように名無しさんを促す。
一瞬、名無しさんは驚いたように目を丸くしたが、夏侯淵にぺこりと頭を下げると先に歩き出していた夏侯覇の背中を追いかけた。