あんたどう思う?
貴女のお名前
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負傷兵の確認やら手当てやら、諸々の手配を粗方終わらせた軍は、方々の天幕を引き払って拠点と定めた砦に戻り、夜も更けぬ内から祝杯を上げ始めた。
小さな砦では酒も肴も期待できず、実際、掻き集めてみても充分な量を用意できなかったが、人と言うのは雰囲気だけでも酔えるのか、賑やかを通り越して騒がしい。
賈詡はその片隅で、杯の底が隠れる程しかない酒をちびちびと舐めていた。
今日の主役は敵将を討ち取った張遼だ。
彼の周りには人が集り、称賛の言葉を次から次へと口に上らせている。
張遼はそれに一々、丁寧に応えていた。
かつては呂布と並んで武を奮っていた彼だが、戦場を離れれば、礼節を弁えている人物だ。
ああ言う所が、兵たちには好ましく映るのだろう。
俺とは違って。
別にそれが羨ましいとは思わない、人には人の、それぞれの役割と言うものがある。
張遼と言う人物を、その名前を如何に上手く活かすか、そして戦況をどう有利に運ぶかを考えるのが軍師の役割だ。
「賈詡様だって頑張ったのに・・・」
と、不満げな言葉に、賈詡は我に返り、張遼から視線を移す。
隣に並んで、同じように杯の底の酒を舐めていた名無しさんが口を尖らせていた。
確かに、張遼の武働きは目を見張るものがある。
しかし、彼の働きだけで勝てたのではない筈だ。
賈詡の策があったからこそ勝てたのではないか、それにも関わらず、持て囃される張遼に、いや、持て囃す周囲に名無しさんは腹を立てていた。
一時、直ったように見えた機嫌は、ここに来て再び、悪くなってしまったようだ。
賈詡自身は何一つ、気にはしていないのだが、腹を立てる彼女の様子に、杯に付けた唇の端が緩んでしまう。
頼んじゃいないが、可愛い事をするじゃないか。
賈詡は底の酒を舐めて言った。
「それが俺の仕事だ。大体、軍師が目立ったら終いだろう」
「でも・・・っ!」
彼女の、その荒げた声が聞こえたのか、張遼の視線が名無しさんに向けられる。
「名無しさん」
張遼は一声、名を呼ぶと、人を分けて二人の方へ遣って来た。
「怪我をしたと聞いたが、具合は如何か」
「ご心配には及びません」
名無しさんは礼を執ってから、張遼に向かってにっこりと笑って見せた。
多少の不満はあるが、張遼のお陰で勝てたのも、事実の一つであるのは間違いない。
「張遼様のご活躍に、自分の未熟さを思い知ります」
「いや、名無しさんの奮戦あってこそ、こうして勝てたのだ」
張遼は思い出すように目を細めた。
「・・・戦場での名無しさんは誰よりも輝いていた。その輝きに、私も目を奪われた一人だ」
そう言った彼のその視線も、声音も、どことなく甘やかで、賈詡は杯を持つ手に力を込めた。
ああ、これはいかん。
隅の方に居る事を良い事に、名無しさんを口説きにかかっている。
賈詡は大袈裟な動きで名無しさんの肩に手を置くと、彼女の体を強引に自分の方に引き寄せた。
「ご歓談中、悪いね。未だ仕事が残ってるんだ。そう言う訳で張遼殿、俺と名無しさんはここで退散させてもらうよ」
「そうでしたか・・・」
張遼は残念そうな表情を浮かべたが、しかし、引き止める事はせず、名無しさんの手首を掴んでその場を去って行く賈詡を見送った。
何をそんなに急いでいるのか、廊下を進む賈詡の歩みは早く、名無しさんは小走りにならざるを得なかった。
「あの・・・賈詡様」
と、彼の背中に声を掛けるが、聞こえていないのだろう、振り返る様子もない。
名無しさんは賈詡に掴まれ、引かれる手首に痛みを覚えて眉を寄せる。
「賈詡様、痛いです・・・」
そこで初めて、賈詡は名無しさんの手首を強く掴んでいる事に気付いたようで、慌てて手を離した。
「おっと、済まん済まん」
相当、強く掴んでいたのか、手首を擦る名無しさんに、賈詡は内心、自分の余裕のなさを苦々しく思う。
全く、俺とした事が、我を忘れて力加減を間違えるとは。
それに、あの場所から、張遼殿から引き離したは良いが、その後の事を考えていなかった。
仕事が残っていると言ったが、それはただの口実だ、だからと言って、連れて出た張本人が戻れと言うのも可笑しな話だろう。
これじゃ軍師失格だ。
さて、どうしたものか、言い訳が一つも浮かんで来ない。
いつもなら、一つや二つ、浮かんで来るものだが、どうやら、今夜の俺はどうかしているようだ。
仕方ない、こうなりゃ自棄だ。
たまには明けっ広げになるのも悪くないだろう。
賈詡は腰を傾け、名無しさんに顔を突き合わせて言った。
「済まん次いでに名無しさんに相談なんだが・・・」
「何でしょうか」
名無しさんは細い首を傾げて彼の言葉の続きを待つ。
真っ直ぐに自分を見詰めて来る彼女の、大きな瞳を覗き込み、賈詡は言葉を続けた。
「こんな所で言うのも何だがね、張遼殿と話してる名無しさんを見て、俺は嫉妬したみたいだ。で、感情的にあんたを連れ出して、今、この状況だ。折角の機会だ・・・本気を出して口説いてみようと思うが・・・「あんたどう思う?」」
→あとがき
小さな砦では酒も肴も期待できず、実際、掻き集めてみても充分な量を用意できなかったが、人と言うのは雰囲気だけでも酔えるのか、賑やかを通り越して騒がしい。
賈詡はその片隅で、杯の底が隠れる程しかない酒をちびちびと舐めていた。
今日の主役は敵将を討ち取った張遼だ。
彼の周りには人が集り、称賛の言葉を次から次へと口に上らせている。
張遼はそれに一々、丁寧に応えていた。
かつては呂布と並んで武を奮っていた彼だが、戦場を離れれば、礼節を弁えている人物だ。
ああ言う所が、兵たちには好ましく映るのだろう。
俺とは違って。
別にそれが羨ましいとは思わない、人には人の、それぞれの役割と言うものがある。
張遼と言う人物を、その名前を如何に上手く活かすか、そして戦況をどう有利に運ぶかを考えるのが軍師の役割だ。
「賈詡様だって頑張ったのに・・・」
と、不満げな言葉に、賈詡は我に返り、張遼から視線を移す。
隣に並んで、同じように杯の底の酒を舐めていた名無しさんが口を尖らせていた。
確かに、張遼の武働きは目を見張るものがある。
しかし、彼の働きだけで勝てたのではない筈だ。
賈詡の策があったからこそ勝てたのではないか、それにも関わらず、持て囃される張遼に、いや、持て囃す周囲に名無しさんは腹を立てていた。
一時、直ったように見えた機嫌は、ここに来て再び、悪くなってしまったようだ。
賈詡自身は何一つ、気にはしていないのだが、腹を立てる彼女の様子に、杯に付けた唇の端が緩んでしまう。
頼んじゃいないが、可愛い事をするじゃないか。
賈詡は底の酒を舐めて言った。
「それが俺の仕事だ。大体、軍師が目立ったら終いだろう」
「でも・・・っ!」
彼女の、その荒げた声が聞こえたのか、張遼の視線が名無しさんに向けられる。
「名無しさん」
張遼は一声、名を呼ぶと、人を分けて二人の方へ遣って来た。
「怪我をしたと聞いたが、具合は如何か」
「ご心配には及びません」
名無しさんは礼を執ってから、張遼に向かってにっこりと笑って見せた。
多少の不満はあるが、張遼のお陰で勝てたのも、事実の一つであるのは間違いない。
「張遼様のご活躍に、自分の未熟さを思い知ります」
「いや、名無しさんの奮戦あってこそ、こうして勝てたのだ」
張遼は思い出すように目を細めた。
「・・・戦場での名無しさんは誰よりも輝いていた。その輝きに、私も目を奪われた一人だ」
そう言った彼のその視線も、声音も、どことなく甘やかで、賈詡は杯を持つ手に力を込めた。
ああ、これはいかん。
隅の方に居る事を良い事に、名無しさんを口説きにかかっている。
賈詡は大袈裟な動きで名無しさんの肩に手を置くと、彼女の体を強引に自分の方に引き寄せた。
「ご歓談中、悪いね。未だ仕事が残ってるんだ。そう言う訳で張遼殿、俺と名無しさんはここで退散させてもらうよ」
「そうでしたか・・・」
張遼は残念そうな表情を浮かべたが、しかし、引き止める事はせず、名無しさんの手首を掴んでその場を去って行く賈詡を見送った。
何をそんなに急いでいるのか、廊下を進む賈詡の歩みは早く、名無しさんは小走りにならざるを得なかった。
「あの・・・賈詡様」
と、彼の背中に声を掛けるが、聞こえていないのだろう、振り返る様子もない。
名無しさんは賈詡に掴まれ、引かれる手首に痛みを覚えて眉を寄せる。
「賈詡様、痛いです・・・」
そこで初めて、賈詡は名無しさんの手首を強く掴んでいる事に気付いたようで、慌てて手を離した。
「おっと、済まん済まん」
相当、強く掴んでいたのか、手首を擦る名無しさんに、賈詡は内心、自分の余裕のなさを苦々しく思う。
全く、俺とした事が、我を忘れて力加減を間違えるとは。
それに、あの場所から、張遼殿から引き離したは良いが、その後の事を考えていなかった。
仕事が残っていると言ったが、それはただの口実だ、だからと言って、連れて出た張本人が戻れと言うのも可笑しな話だろう。
これじゃ軍師失格だ。
さて、どうしたものか、言い訳が一つも浮かんで来ない。
いつもなら、一つや二つ、浮かんで来るものだが、どうやら、今夜の俺はどうかしているようだ。
仕方ない、こうなりゃ自棄だ。
たまには明けっ広げになるのも悪くないだろう。
賈詡は腰を傾け、名無しさんに顔を突き合わせて言った。
「済まん次いでに名無しさんに相談なんだが・・・」
「何でしょうか」
名無しさんは細い首を傾げて彼の言葉の続きを待つ。
真っ直ぐに自分を見詰めて来る彼女の、大きな瞳を覗き込み、賈詡は言葉を続けた。
「こんな所で言うのも何だがね、張遼殿と話してる名無しさんを見て、俺は嫉妬したみたいだ。で、感情的にあんたを連れ出して、今、この状況だ。折角の機会だ・・・本気を出して口説いてみようと思うが・・・「あんたどう思う?」」
→あとがき