仕草も、声も、身のこなしも
貴女のお名前
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思い出してみれば、名無しさんが不安そうに、心細そうにしていたのは妓楼で過ごしている時からだった。
恋人の手前、矢張、食事だけとは言え、妓楼は店の女性を楽しむ場所だ、断るべきだったかと後悔する。
「済まぬ。食事だけ故、名無しさんも楽しめるかと思ったのだが、そうでもなかった様子。申し訳ない事をした」
名無しさんは徐晃の言葉にはっと顔を上げると、そんな事はないと慌てて否定して言った。
「いえ、ご飯もお酒も美味しかったです」
初めての場所に緊張していたし、沢山の女性に囲まれた事には驚いたけれど、食事もお酒も美味しかったのは本当だ。
彼女たちが見せてくれた舞も素敵で楽しかったと続けて言う。
「それならば良いのだが・・・」
と、答えていても、彼が納得していない事が、その声音で分かり、名無しさんは無意識に前を握る手に力を込めた。
嘘は言ってないけれど、どこか後ろめたく思うのは自分の本当の気持ちを言っていないからだ。
でも、こんな事、言ったら徐晃様は呆れてしまうんじゃないかしら。
でも、徐晃様は悪くないのに、徐晃様にこんな顔をさせてしまう方がもっと嫌だ、名無しさんはぽつりと口を開く。
「楽しかったのは本当です・・・でも、少しだけ、もやもやしたんです」
綺麗な人ばかりで、徐晃がそちらに目を向けている事に、名無しさんは嫉妬を覚えた。
勿論、彼の真面目な性格上、舞っている人を蔑ろにするような真似をする筈がなく、徐晃のそう言う所が好きだ。
それでも、他の女性たちに目を遣っていると言うのは、余り良い気持ちのものではない。
しかも、その女性たちは自分とは比べものにならない位に綺麗な人ばかりなのだ。
徐晃様が目移りしてしまうのではないかと不安に思うと同時に、徐晃様に限ってそんな事をする筈がないと否定しては、あんなに綺麗な人たちなら目移りしても仕方ないと、湯殿でぐるぐると考えていた内にのぼせてしまった。
そう言って俯いてしまう名無しさんに、徐晃は驚いたように目を丸くして、そして微笑んだ。
何を言うかと思えば、妓楼の女性たちに嫉妬をしていたとは、随分と可愛い事を言う。
徐晃は胸に凭れる彼女の体を軽々と抱え上げると、自分の膝の上に向かい合わせにして座らせた。
宙に浮いた体に名無しさんは小さな悲鳴を上げ、咄嗟に、前を搔き合わせていた両手を離して徐晃の肩に伸ばす。
徐晃は名無しさんの揺れる瞳を見つめて言った。
「心配しなくとも、拙者の目には名無しさんしか映っておらぬでござる」
「でも・・・胸の大きさだって・・・」
名無しさんは両手を徐晃の肩に置いた拍子に露になった自分の胸元にちらりと視線を遣る。
そこまで小さくはないと思うが、妓楼の女性たちを見た後では貧相に見えてしまう。
「男の人って、大きい方が・・・良いんでしょ?」
「そうとは限らぬ」
不安げに訊ねて来る名無しさんに、徐晃は小さく笑い声を上げた。
確かに大きさを重視する男も一定数は居るだろう、ただ、自分はそうではない。
名無しさんの腰に手を回してその体を軽く持ち上げて膝立ちにさせ、丁度、自分の顔の辺りの位置に彼女の胸元を持って来ると、徐晃はそっと膨らみに頭を寄せる。
「拙者は見た目で名無しさんを好きなった訳ではない」
言葉に偽りはないと示して名無しさんの胸に一つ、優しい口付けを落とした。
―ちゅっ
小さな音を立てた後に、その唇で言葉を続ける。
「胸が小さくとも大きくとも、名無しさんを思う気持ちは変わらぬ」
徐晃は見た目など大して気にした事はないと言った。
「・・・本当?」
「名無しさんは、拙者を見た目で好きになってくれたのでござろうか?」
どこか寂しそうな様子で、質問に質問で返され、名無しさんは直ぐ様、ふるふると首を振る。
武人らしい徐晃の逞しい腕に抱き締められる事も好きだけれど、それよりも先に好きになったのは彼の、廉直で直向きで真っ直ぐな性格だ。
それから、彼を知る度にどんどん好きになっていったのだ。
先日は、女心に疎いなりに、一生懸命に自分の事を考えて喜ばせてくれようとした徐晃の優しさに触れて、前よりももっともっと好きになった。
例え、彼に逞しい腕がなくても、徐晃が徐晃である限り、この気持ちは変わらない。
「徐晃様だから好きになったんです」
それを聞いて、徐晃は嬉しそうに微笑むと、
「拙者も名無しさんを心より愛しているでござる」
もう一度、はっきりと言葉にして、名無しさんの胸に口付けの雨を降らせ始めた。
―ちゅっ、ちゅっちゅっ
時に強く、時に優しく吸い付かれ、赤い跡が肌に浮かぶ。
「あっ、徐晃様・・・ま、待って」
そのつもりではあったが、先程までのぼせて気を失っていたのだ、名無しさんは徐晃の肩に伸ばした手で彼の襟をぎゅっと握った。
「もう少し、休んでからじゃないと・・・」
「うむ、そうであったな」
徐晃はその姿勢のまま、名無しさんを寝台に押し倒す。
「これならば良いであろう。ゆっくり進める故、休んでおられよ」
「えっ・・・?」
再び、口付けの雨が降る甘い音が、名無しさんの耳に届き始めた。
貴女の全てを愛している、その「仕草も、声も、身のこなしも」。
それを伝え切るには夜は短い。
→あとがき
恋人の手前、矢張、食事だけとは言え、妓楼は店の女性を楽しむ場所だ、断るべきだったかと後悔する。
「済まぬ。食事だけ故、名無しさんも楽しめるかと思ったのだが、そうでもなかった様子。申し訳ない事をした」
名無しさんは徐晃の言葉にはっと顔を上げると、そんな事はないと慌てて否定して言った。
「いえ、ご飯もお酒も美味しかったです」
初めての場所に緊張していたし、沢山の女性に囲まれた事には驚いたけれど、食事もお酒も美味しかったのは本当だ。
彼女たちが見せてくれた舞も素敵で楽しかったと続けて言う。
「それならば良いのだが・・・」
と、答えていても、彼が納得していない事が、その声音で分かり、名無しさんは無意識に前を握る手に力を込めた。
嘘は言ってないけれど、どこか後ろめたく思うのは自分の本当の気持ちを言っていないからだ。
でも、こんな事、言ったら徐晃様は呆れてしまうんじゃないかしら。
でも、徐晃様は悪くないのに、徐晃様にこんな顔をさせてしまう方がもっと嫌だ、名無しさんはぽつりと口を開く。
「楽しかったのは本当です・・・でも、少しだけ、もやもやしたんです」
綺麗な人ばかりで、徐晃がそちらに目を向けている事に、名無しさんは嫉妬を覚えた。
勿論、彼の真面目な性格上、舞っている人を蔑ろにするような真似をする筈がなく、徐晃のそう言う所が好きだ。
それでも、他の女性たちに目を遣っていると言うのは、余り良い気持ちのものではない。
しかも、その女性たちは自分とは比べものにならない位に綺麗な人ばかりなのだ。
徐晃様が目移りしてしまうのではないかと不安に思うと同時に、徐晃様に限ってそんな事をする筈がないと否定しては、あんなに綺麗な人たちなら目移りしても仕方ないと、湯殿でぐるぐると考えていた内にのぼせてしまった。
そう言って俯いてしまう名無しさんに、徐晃は驚いたように目を丸くして、そして微笑んだ。
何を言うかと思えば、妓楼の女性たちに嫉妬をしていたとは、随分と可愛い事を言う。
徐晃は胸に凭れる彼女の体を軽々と抱え上げると、自分の膝の上に向かい合わせにして座らせた。
宙に浮いた体に名無しさんは小さな悲鳴を上げ、咄嗟に、前を搔き合わせていた両手を離して徐晃の肩に伸ばす。
徐晃は名無しさんの揺れる瞳を見つめて言った。
「心配しなくとも、拙者の目には名無しさんしか映っておらぬでござる」
「でも・・・胸の大きさだって・・・」
名無しさんは両手を徐晃の肩に置いた拍子に露になった自分の胸元にちらりと視線を遣る。
そこまで小さくはないと思うが、妓楼の女性たちを見た後では貧相に見えてしまう。
「男の人って、大きい方が・・・良いんでしょ?」
「そうとは限らぬ」
不安げに訊ねて来る名無しさんに、徐晃は小さく笑い声を上げた。
確かに大きさを重視する男も一定数は居るだろう、ただ、自分はそうではない。
名無しさんの腰に手を回してその体を軽く持ち上げて膝立ちにさせ、丁度、自分の顔の辺りの位置に彼女の胸元を持って来ると、徐晃はそっと膨らみに頭を寄せる。
「拙者は見た目で名無しさんを好きなった訳ではない」
言葉に偽りはないと示して名無しさんの胸に一つ、優しい口付けを落とした。
―ちゅっ
小さな音を立てた後に、その唇で言葉を続ける。
「胸が小さくとも大きくとも、名無しさんを思う気持ちは変わらぬ」
徐晃は見た目など大して気にした事はないと言った。
「・・・本当?」
「名無しさんは、拙者を見た目で好きになってくれたのでござろうか?」
どこか寂しそうな様子で、質問に質問で返され、名無しさんは直ぐ様、ふるふると首を振る。
武人らしい徐晃の逞しい腕に抱き締められる事も好きだけれど、それよりも先に好きになったのは彼の、廉直で直向きで真っ直ぐな性格だ。
それから、彼を知る度にどんどん好きになっていったのだ。
先日は、女心に疎いなりに、一生懸命に自分の事を考えて喜ばせてくれようとした徐晃の優しさに触れて、前よりももっともっと好きになった。
例え、彼に逞しい腕がなくても、徐晃が徐晃である限り、この気持ちは変わらない。
「徐晃様だから好きになったんです」
それを聞いて、徐晃は嬉しそうに微笑むと、
「拙者も名無しさんを心より愛しているでござる」
もう一度、はっきりと言葉にして、名無しさんの胸に口付けの雨を降らせ始めた。
―ちゅっ、ちゅっちゅっ
時に強く、時に優しく吸い付かれ、赤い跡が肌に浮かぶ。
「あっ、徐晃様・・・ま、待って」
そのつもりではあったが、先程までのぼせて気を失っていたのだ、名無しさんは徐晃の肩に伸ばした手で彼の襟をぎゅっと握った。
「もう少し、休んでからじゃないと・・・」
「うむ、そうであったな」
徐晃はその姿勢のまま、名無しさんを寝台に押し倒す。
「これならば良いであろう。ゆっくり進める故、休んでおられよ」
「えっ・・・?」
再び、口付けの雨が降る甘い音が、名無しさんの耳に届き始めた。
貴女の全てを愛している、その「仕草も、声も、身のこなしも」。
それを伝え切るには夜は短い。
→あとがき