仕草も、声も、身のこなしも
貴女のお名前
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言葉だけでは足りないでござろう。
煌びやかな衣装に身を包んだ妓女が笛の音に合わせて舞う姿は言葉で表し難い程に美しく、誰もが無意識に魅入っていた。
紅を塗った唇に浮かぶ艷やかな笑みに、目尻に差した朱に、伸ばした指先に色香が漂う。
彼女たちが時折、送って寄越す流し目に胸を高鳴らせるのは、男であれば致し方ない事か。
視線を妓女へと遣ったままでいる恋人の、その直ぐ隣で、名無しさんは居心地が悪そうに座っていた。
高級な店、それも妓楼ならば尚更の事、女性の名無しさんがそうそう足を踏み入れる事もなく、多少、緊張もしている。
恋人と一緒だと言うのも、何せ、美女ばかりなのだ、彼がそちらに目を遣っている事で、幾らか彼女の心も不安にさせていた。
しかし、それ以上に、名無しさんは舞い手とは別の妓女たちに囲まれている事に困惑していた。
「お酒が余り進んでいないようですけれど、苦手でしたかしら?」
「宜しければ、甘いお菓子もありますよ」
「それとも、水菓子の方が良いかしら。持って来させましょうか?」
「あ、あの・・・お構い無く・・・」
矢継ぎ早にあれこれと優しい声を掛けて来られて戸惑い、小さな声で答える名無しさんの様子が、却って妓女たちを喜ばせる。
「ふふっ、緊張なさっているのね」
「まあ、お可愛らしい事」
滅多に来ない女性客、その物珍しさ故に、妓女たちは名無しさんの反応に一々楽しそうな声を上げた。
その様子を、杯を傾けながら眺めていた人物、郭嘉がからかう。
「皆、名無しさんに夢中だね。そろそろ私にも構って欲しいのだけれど」
「あら、仕方ありませんわよ、とてもお可愛らしいんですもの」
と、名無しさんに構っている妓女の一人が、郭嘉に答えて言った。
「大体、郭嘉様が連れていらしたのでしょう。そんな我儘を仰るものじゃありませんわ」
微笑みながら窘めるように言われ、郭嘉はやれやれと肩を竦めて見せる。
折角、選りすぐりの美女を呼んで集めたと言うのに、これでは意味がない。
連れて来る店を間違えたかなと、少し前の自分の行動を後悔する。
遡る事、ほんの数刻前の事だ。
一日の終わりを、今夜はどの店で過ごそうかと、宛てもなくふらふらと通りを進んでいた郭嘉は、名無しさんと、彼女の恋人である徐晃が仲良く並んで歩いているのを見かけ、二人に声を掛けた。
聞けば、夕食を採る店を探していると言う。
「私も丁度これからなのだけれど、お邪魔でなかったら一緒しても良いかな」
我ながら、図々しい事を言っている自覚はあったが、二人は快く彼の申し出を受け入れ、
「それじゃあ、取って置きの店に案内しよう」
と、連れて来たのが、この店だ。
何も、女を抱くだけが妓楼ではない。
酒を、料理を楽しむのも一つの過ごし方だ。
その席で、美女が舞い、侍る、そこが普通の酒場と少し異なるだけの事、郭嘉は軽い気持ちで、店の入口を潜ったのだった。
しかし、いざ席に着いてみれば、妓女たちの興味は名無しさんに向けられ、自分はおろか、徐晃すら疎かに扱う始末だ。
この光景を、徐晃殿はどう思っているのだろう、郭嘉は名無しさんの隣の男をちらりと窺った。
そうして見る彼はいつもと変わりなく、背筋を伸ばして静かに杯を傾けている。
多少は酔っているのか、それとも、恋人の傍だからか、彼が纏う雰囲気は柔らかく寛いでいた。
一方で、名無しさんはおろおろと顔を彷徨わせ、彼の袖を握っている。
彼女のその様子を知ってか、徐晃が杯を置いて言った。
「郭嘉殿、申し訳ござらんが、そろそろ拙者たちは暇を頂くとしよう」
穏やかだが、きっぱりとしたその言い方に、郭嘉は微笑んで頷く。
恐らく、彼は名無しさんが居心地が悪そうにしている事に気付いていたのだろうが、店に案内した郭嘉が恥を掻く事がないよう、ある程度の時間が過ぎるのを待っていたのだろう。
そうと分かれば、徐晃の気遣いは有り難く、無理に引き留めるのも悪い。
「こちらこそ、二人きりの所を邪魔をして申し訳なかったね」
今度こそ、二人でごゆっくりと、確りと野暮な事を言って送り出したのは、妓女たちを独り占めしていた名無しさんへの小さな仕返しだった。
煌びやかな衣装に身を包んだ妓女が笛の音に合わせて舞う姿は言葉で表し難い程に美しく、誰もが無意識に魅入っていた。
紅を塗った唇に浮かぶ艷やかな笑みに、目尻に差した朱に、伸ばした指先に色香が漂う。
彼女たちが時折、送って寄越す流し目に胸を高鳴らせるのは、男であれば致し方ない事か。
視線を妓女へと遣ったままでいる恋人の、その直ぐ隣で、名無しさんは居心地が悪そうに座っていた。
高級な店、それも妓楼ならば尚更の事、女性の名無しさんがそうそう足を踏み入れる事もなく、多少、緊張もしている。
恋人と一緒だと言うのも、何せ、美女ばかりなのだ、彼がそちらに目を遣っている事で、幾らか彼女の心も不安にさせていた。
しかし、それ以上に、名無しさんは舞い手とは別の妓女たちに囲まれている事に困惑していた。
「お酒が余り進んでいないようですけれど、苦手でしたかしら?」
「宜しければ、甘いお菓子もありますよ」
「それとも、水菓子の方が良いかしら。持って来させましょうか?」
「あ、あの・・・お構い無く・・・」
矢継ぎ早にあれこれと優しい声を掛けて来られて戸惑い、小さな声で答える名無しさんの様子が、却って妓女たちを喜ばせる。
「ふふっ、緊張なさっているのね」
「まあ、お可愛らしい事」
滅多に来ない女性客、その物珍しさ故に、妓女たちは名無しさんの反応に一々楽しそうな声を上げた。
その様子を、杯を傾けながら眺めていた人物、郭嘉がからかう。
「皆、名無しさんに夢中だね。そろそろ私にも構って欲しいのだけれど」
「あら、仕方ありませんわよ、とてもお可愛らしいんですもの」
と、名無しさんに構っている妓女の一人が、郭嘉に答えて言った。
「大体、郭嘉様が連れていらしたのでしょう。そんな我儘を仰るものじゃありませんわ」
微笑みながら窘めるように言われ、郭嘉はやれやれと肩を竦めて見せる。
折角、選りすぐりの美女を呼んで集めたと言うのに、これでは意味がない。
連れて来る店を間違えたかなと、少し前の自分の行動を後悔する。
遡る事、ほんの数刻前の事だ。
一日の終わりを、今夜はどの店で過ごそうかと、宛てもなくふらふらと通りを進んでいた郭嘉は、名無しさんと、彼女の恋人である徐晃が仲良く並んで歩いているのを見かけ、二人に声を掛けた。
聞けば、夕食を採る店を探していると言う。
「私も丁度これからなのだけれど、お邪魔でなかったら一緒しても良いかな」
我ながら、図々しい事を言っている自覚はあったが、二人は快く彼の申し出を受け入れ、
「それじゃあ、取って置きの店に案内しよう」
と、連れて来たのが、この店だ。
何も、女を抱くだけが妓楼ではない。
酒を、料理を楽しむのも一つの過ごし方だ。
その席で、美女が舞い、侍る、そこが普通の酒場と少し異なるだけの事、郭嘉は軽い気持ちで、店の入口を潜ったのだった。
しかし、いざ席に着いてみれば、妓女たちの興味は名無しさんに向けられ、自分はおろか、徐晃すら疎かに扱う始末だ。
この光景を、徐晃殿はどう思っているのだろう、郭嘉は名無しさんの隣の男をちらりと窺った。
そうして見る彼はいつもと変わりなく、背筋を伸ばして静かに杯を傾けている。
多少は酔っているのか、それとも、恋人の傍だからか、彼が纏う雰囲気は柔らかく寛いでいた。
一方で、名無しさんはおろおろと顔を彷徨わせ、彼の袖を握っている。
彼女のその様子を知ってか、徐晃が杯を置いて言った。
「郭嘉殿、申し訳ござらんが、そろそろ拙者たちは暇を頂くとしよう」
穏やかだが、きっぱりとしたその言い方に、郭嘉は微笑んで頷く。
恐らく、彼は名無しさんが居心地が悪そうにしている事に気付いていたのだろうが、店に案内した郭嘉が恥を掻く事がないよう、ある程度の時間が過ぎるのを待っていたのだろう。
そうと分かれば、徐晃の気遣いは有り難く、無理に引き留めるのも悪い。
「こちらこそ、二人きりの所を邪魔をして申し訳なかったね」
今度こそ、二人でごゆっくりと、確りと野暮な事を言って送り出したのは、妓女たちを独り占めしていた名無しさんへの小さな仕返しだった。