恋は盲目
貴女のお名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どっちもどっち。
それまで、他愛ない話を交わしていた彼は、頃合いを見計らって、小さな包みを差し出した。
「その・・・名無しさんに贈り物があるんだ」
名無しさんは口元に運んでいた茶器を、優雅な仕草で卓に置くと、正面に座る彼に微笑んで言った。
「私に?何かしら」
気に入ってくれると良いのだがと、彼が照れた様子を見せる。
「名無しさんは、その・・・行く行くは俺の妻になるのだから、今更かもしれないが・・・」
「ふふ、お優しい文烈様。勿体振らずに見せて下さいませ」
将来を誓い合う間柄の二人なら、敢えてそれを口にする曹休に、名無しさんは恥ずかしそうに頬を染め、照れ隠しに彼を急かした。
曹休は包みを解くと、一本の簪を取り出して言う。
「若い女性の間で好まれていると聞いたのだが・・・どうだろうか」
「まあ・・・」
と、言った切り、名無しさんは言葉を失った。
その簪は、どう見ても、若い女性に好まれているようには見えなかった。
いや、市井の事は分からない、もしかしたら街の女性たちには好まれているのかもしれない。
少なくとも、名無しさんの周辺、つまり、曹休程の男性と将来を誓い合えるような身分の女性たちの間では好まれる代物でないのは確かだ。
ごてごてと、これでもかと盛り付けた飾りは品がなく、安っぽく見える。
何より作りが荒い。
それなりの身分の家で生まれ育った名無しさんには、一目でそれが分かった。
傍に控えている侍女たちも、名無しさんの身の回りの世話をするだけあって、目は相当養われており、同様に絶句している。
絶対に有り得ない事だが、この簪が仮に、仕えている名無しさんを差し置いて、侍女たち宛てだったとしても、とてもじゃないが、身に着ける気にはなれず、誰もが断っていただろう。
それ程までに酷い代物だった。
分かっていないのは曹休ただ一人で、彼は黙り込む名無しさんに、不安そうに言う。
「名無しさんの、好みではなかったか?」
名無しさんは我に返ると、にっこりと満面に笑顔を浮かべて見せた。
「あ・・・いいえ、余りに素敵で、見惚れてしまいました」
「そうか、良かった」
そう言って、簪を受け取った名無しさんに、曹休は安堵の息を吐き、心底、嬉しそうに微笑む。
「無理を言って譲ってもらった甲斐があったな」
「と、仰いますと?」
曹休は再び、照れたように頭を掻きながら説明して言った。
「店の者に、さる名工が仕上げた一点ものだと言われてな。大切な人に贈りたいから、どうしてもと頼み込んだんだ」
生憎と持ち合わせがなく、店が掲げる金額に及ばなかったが、俺の必死な様子に心を打たれたと言って、手持ち分だけで良いと言ってくれた。
「あの者にも生活があるだろうに」
「そう、ですわね・・・」
名無しさんは手元の簪をちらりと見遣って曖昧に頷く。
間近で見れば尚の事、作りの荒さがよく目立った。
はっきり言って、安物だ。
文烈様は一体、どこで求めたのかしらと、名無しさんは首を傾げる。
嫌な予感しかないが、今後の為にも聞いておかなければなるまい。
「文烈様、そのお店はどこにありましたの?」
「うん?どこだったかな・・・ここに来る途中で立ち寄ったのだが」
何か手土産をと探している内に、何処かの路地に迷い込み、そこで見付けたのだと、彼は続けて言う。
「余り、良い雰囲気の通りではなかったが、そうと思えば、あの者の気骨も大したものだな」
それを聞いた名無しさんは、矢張りと、こっそりと溜め息を吐いた。
恐らく、騙されている。
この身形だ、雰囲気の良くない通りではさぞかし、好餌に見えた事だろう。
実際に幾らだったのかとは流石に聞けないが、曹休の口振りから、本来、この程度の簪につけられるべき適切な価格以上の金額を支払っていると名無しさんは確信した。
後で甄姫様に文を認めよう、曹休が曹操の縁者なら、息子の曹丕夫人の彼女とも親しくしている。
伝えた所で瑣末事だ、無意味に終わったとしても、知らせておくに越した事はない。
曹休が騙されたと知った所で、精々、落ち込む程度で済むだろうが、善良な民が被害に遭った場合、そうはいかないだろう。
騙す方が絶対的に悪いとは言え、彼らもまた、民であり、そうせざるを得ない状況だったとしたならば、全く以て、政 とは難しい。
それまで、他愛ない話を交わしていた彼は、頃合いを見計らって、小さな包みを差し出した。
「その・・・名無しさんに贈り物があるんだ」
名無しさんは口元に運んでいた茶器を、優雅な仕草で卓に置くと、正面に座る彼に微笑んで言った。
「私に?何かしら」
気に入ってくれると良いのだがと、彼が照れた様子を見せる。
「名無しさんは、その・・・行く行くは俺の妻になるのだから、今更かもしれないが・・・」
「ふふ、お優しい文烈様。勿体振らずに見せて下さいませ」
将来を誓い合う間柄の二人なら、敢えてそれを口にする曹休に、名無しさんは恥ずかしそうに頬を染め、照れ隠しに彼を急かした。
曹休は包みを解くと、一本の簪を取り出して言う。
「若い女性の間で好まれていると聞いたのだが・・・どうだろうか」
「まあ・・・」
と、言った切り、名無しさんは言葉を失った。
その簪は、どう見ても、若い女性に好まれているようには見えなかった。
いや、市井の事は分からない、もしかしたら街の女性たちには好まれているのかもしれない。
少なくとも、名無しさんの周辺、つまり、曹休程の男性と将来を誓い合えるような身分の女性たちの間では好まれる代物でないのは確かだ。
ごてごてと、これでもかと盛り付けた飾りは品がなく、安っぽく見える。
何より作りが荒い。
それなりの身分の家で生まれ育った名無しさんには、一目でそれが分かった。
傍に控えている侍女たちも、名無しさんの身の回りの世話をするだけあって、目は相当養われており、同様に絶句している。
絶対に有り得ない事だが、この簪が仮に、仕えている名無しさんを差し置いて、侍女たち宛てだったとしても、とてもじゃないが、身に着ける気にはなれず、誰もが断っていただろう。
それ程までに酷い代物だった。
分かっていないのは曹休ただ一人で、彼は黙り込む名無しさんに、不安そうに言う。
「名無しさんの、好みではなかったか?」
名無しさんは我に返ると、にっこりと満面に笑顔を浮かべて見せた。
「あ・・・いいえ、余りに素敵で、見惚れてしまいました」
「そうか、良かった」
そう言って、簪を受け取った名無しさんに、曹休は安堵の息を吐き、心底、嬉しそうに微笑む。
「無理を言って譲ってもらった甲斐があったな」
「と、仰いますと?」
曹休は再び、照れたように頭を掻きながら説明して言った。
「店の者に、さる名工が仕上げた一点ものだと言われてな。大切な人に贈りたいから、どうしてもと頼み込んだんだ」
生憎と持ち合わせがなく、店が掲げる金額に及ばなかったが、俺の必死な様子に心を打たれたと言って、手持ち分だけで良いと言ってくれた。
「あの者にも生活があるだろうに」
「そう、ですわね・・・」
名無しさんは手元の簪をちらりと見遣って曖昧に頷く。
間近で見れば尚の事、作りの荒さがよく目立った。
はっきり言って、安物だ。
文烈様は一体、どこで求めたのかしらと、名無しさんは首を傾げる。
嫌な予感しかないが、今後の為にも聞いておかなければなるまい。
「文烈様、そのお店はどこにありましたの?」
「うん?どこだったかな・・・ここに来る途中で立ち寄ったのだが」
何か手土産をと探している内に、何処かの路地に迷い込み、そこで見付けたのだと、彼は続けて言う。
「余り、良い雰囲気の通りではなかったが、そうと思えば、あの者の気骨も大したものだな」
それを聞いた名無しさんは、矢張りと、こっそりと溜め息を吐いた。
恐らく、騙されている。
この身形だ、雰囲気の良くない通りではさぞかし、好餌に見えた事だろう。
実際に幾らだったのかとは流石に聞けないが、曹休の口振りから、本来、この程度の簪につけられるべき適切な価格以上の金額を支払っていると名無しさんは確信した。
後で甄姫様に文を認めよう、曹休が曹操の縁者なら、息子の曹丕夫人の彼女とも親しくしている。
伝えた所で瑣末事だ、無意味に終わったとしても、知らせておくに越した事はない。
曹休が騙されたと知った所で、精々、落ち込む程度で済むだろうが、善良な民が被害に遭った場合、そうはいかないだろう。
騙す方が絶対的に悪いとは言え、彼らもまた、民であり、そうせざるを得ない状況だったとしたならば、全く以て、