どうしようもないこの思い
貴女のお名前
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一区切りついた所で、陸遜は退席を申し出た。
孫権は詰まらなさそうな顔をしたが、事後処理が残っていますのでと言えば、それ以上は引き留めず、陸遜を再度、労って送り出す。
当然、部屋付きの名無しさんも陸遜に従い、その場を後にした。
部屋に着くなり、深々と息を吐き、寝台の縁に腰掛ける陸遜から羽織を受け取った名無しさんは、彼の疲れた様子を見て、心配そうに顔を覗き込む。
「お水でもお持ちしましょうか?」
「いえ・・・」
「でも、今日は珍しく、沢山過ごされたでしょう?」
ちゃんと見ていましたよと笑って言う彼女は、弟を心配する姉の顔をしていた。
「直ぐにお持ちしますから、寝てしまわないで下さいね」
と、立ち去ろうとする名無しさんの袖を、陸遜は掴んで引き留める。
「行かないで下さい」
陸遜の呟く声に振り向いた名無しさんは、項垂れた姿勢でいる彼の様子が、いつもとは違う事を察して、隣にそっと腰を下ろした。
放すまいと、まるで幼子のように袖をぎゅっと掴む彼の手に優しく手を重ね、穏やかな声で陸遜に問い掛ける。
「どうかなさったんですか?」
陸遜は俯いたまま、ぽつりと言った。
「もう・・・終わりにしませんか?」
「え?」
「私はもう、終わらせたいのです。・・・姉弟の、真似事は・・・」
そう言って顔を上げた陸遜に、名無しさんは目を瞬かせた。
彼の、この表情は一体どうした事か。
微笑んでいる筈なのに、苦しそうで、辛そうで、今にも泣きそうに見える。
「陸遜、様・・・?」
「私は・・・貴女を女性として好きなのです。だから、お願いです」
陸遜は重ねられていた手を解き、今度は自分から彼女の手を握った。
呂蒙と親しげに話していた、姉弟の真似事とは異なる、あの雰囲気。
何故、貴女が見せるあの笑顔の、直ぐ傍に居るのが私ではないのだろう。
弟みたいだからと言うのならば、弟でありたくない。
「これからは、私を弟ではなく、男として見て頂きたいのです」
名無しさんは少しの間、呆けたように陸遜を見詰めていたが、彼の言わんとする所を覚って、忽ち、頬に朱を走らせた。
突然の事に狼狽え、視線を彷徨わせる。
陸遜はこちらを見てくれと言う代わりに、彼女の手を強く引いた。
「私は未熟で頼りなく、貴女にこんな事を言うには相応しくないのかもしれません・・・ですが、このまま胸に秘め続けるのは苦しくて」
名無しさんを熱く見詰め、言葉を続ける。
「名無しさん。もし、どなたか好い人が居ないのであれば、私と・・・深い仲になって頂けませんか」
思いの全てを告げてから見る名無しさんは、これまで陸遜に見せた事のない表情をしていた。
姉らしい振る舞いはどこかに忘れて置いて来たように、頬は勿論、耳まで真っ赤にさせている。
「あ、あの・・・」
と、言った切り、名無しさんは黙り込み、俯いてしまった。
名無しさんとて、恋を知らない訳ではない。
そうなりたいと言う陸遜の気持ちも、分かるつもりだ。
誰だって、異性として好ましく思う相手に願う事は同じだろう。
すっかり姉のように振る舞う事が染み付いていた名無しさんは、彼が異性である事を今更ながら、意識した。
戯れ言に乗って、弟の真似事をしているのだとばかり思っていた彼の、自分の手を優しく握るその手は大きく、その体つきも確かに男のもので、鼓動を一つ、大きく跳ねさせる。
陸遜様に、そんな風に思われていたなんて。
何て答えたら良いのかしら。
答え倦ね、視線を彷徨わせる名無しさんに、陸遜は握った指先に少しだけ力を込めて言う。
「・・・ずっと、我慢していたんです」
低く、押し殺した声だった。
「貴女が笑顔を見せてくれる度に、私の名を呼ぶ度に・・・嬉しいのに、苦しかったんです」
陸遜の言葉が一度途切れ、代わりに息が深く落ちる。
「弟として傍に居られるのは、幸せでした。ですが・・・」
一瞬だけ目を伏せ、それから真っ直ぐに彼女を見た。
「それでは、もう足りないのです」
静かだが、逃げ場を与えない声。
名無しさんが知らない、男の声。
「「どうしようもないこの思い」を・・・受け取っては頂けませんか」
陸遜はもうそれ以上は言わなかった。
ただ、名無しさんの言葉を待っている。
その沈黙が、彼女には酷く長く感じられた。
窺うように伏せていた目を上げれば、自分を見つめる陸遜の視線と打つかる。
その熱さに、名無しさんは胸を跳ねさせた。
違う、と何処かで思う。
これはもう弟でも、弟みたいでもない。
「私は・・・陸遜様にとっては姉、ではないのですね」
小さく問うと、陸遜は即座に首を振る。
「違います」
間を置かずに続けて言った。
「もう、違います」
そう言われた瞬間、名無しさんは眉を下げて笑った。
「・・・困りましたね」
「何がですか」
「私、未だ上手く・・・陸遜様を男の人として見慣れていません」
一瞬だけ固まったように見えた陸遜は、次の瞬間、耳までも赤く染め上げる。
名無しさんは少しだけ陸遜の手を握り返した。
「これから、慣れていきますから・・・少し、お時間を下さいね」
陸遜は微笑むと、静かに頷いた。
→あとがき
孫権は詰まらなさそうな顔をしたが、事後処理が残っていますのでと言えば、それ以上は引き留めず、陸遜を再度、労って送り出す。
当然、部屋付きの名無しさんも陸遜に従い、その場を後にした。
部屋に着くなり、深々と息を吐き、寝台の縁に腰掛ける陸遜から羽織を受け取った名無しさんは、彼の疲れた様子を見て、心配そうに顔を覗き込む。
「お水でもお持ちしましょうか?」
「いえ・・・」
「でも、今日は珍しく、沢山過ごされたでしょう?」
ちゃんと見ていましたよと笑って言う彼女は、弟を心配する姉の顔をしていた。
「直ぐにお持ちしますから、寝てしまわないで下さいね」
と、立ち去ろうとする名無しさんの袖を、陸遜は掴んで引き留める。
「行かないで下さい」
陸遜の呟く声に振り向いた名無しさんは、項垂れた姿勢でいる彼の様子が、いつもとは違う事を察して、隣にそっと腰を下ろした。
放すまいと、まるで幼子のように袖をぎゅっと掴む彼の手に優しく手を重ね、穏やかな声で陸遜に問い掛ける。
「どうかなさったんですか?」
陸遜は俯いたまま、ぽつりと言った。
「もう・・・終わりにしませんか?」
「え?」
「私はもう、終わらせたいのです。・・・姉弟の、真似事は・・・」
そう言って顔を上げた陸遜に、名無しさんは目を瞬かせた。
彼の、この表情は一体どうした事か。
微笑んでいる筈なのに、苦しそうで、辛そうで、今にも泣きそうに見える。
「陸遜、様・・・?」
「私は・・・貴女を女性として好きなのです。だから、お願いです」
陸遜は重ねられていた手を解き、今度は自分から彼女の手を握った。
呂蒙と親しげに話していた、姉弟の真似事とは異なる、あの雰囲気。
何故、貴女が見せるあの笑顔の、直ぐ傍に居るのが私ではないのだろう。
弟みたいだからと言うのならば、弟でありたくない。
「これからは、私を弟ではなく、男として見て頂きたいのです」
名無しさんは少しの間、呆けたように陸遜を見詰めていたが、彼の言わんとする所を覚って、忽ち、頬に朱を走らせた。
突然の事に狼狽え、視線を彷徨わせる。
陸遜はこちらを見てくれと言う代わりに、彼女の手を強く引いた。
「私は未熟で頼りなく、貴女にこんな事を言うには相応しくないのかもしれません・・・ですが、このまま胸に秘め続けるのは苦しくて」
名無しさんを熱く見詰め、言葉を続ける。
「名無しさん。もし、どなたか好い人が居ないのであれば、私と・・・深い仲になって頂けませんか」
思いの全てを告げてから見る名無しさんは、これまで陸遜に見せた事のない表情をしていた。
姉らしい振る舞いはどこかに忘れて置いて来たように、頬は勿論、耳まで真っ赤にさせている。
「あ、あの・・・」
と、言った切り、名無しさんは黙り込み、俯いてしまった。
名無しさんとて、恋を知らない訳ではない。
そうなりたいと言う陸遜の気持ちも、分かるつもりだ。
誰だって、異性として好ましく思う相手に願う事は同じだろう。
すっかり姉のように振る舞う事が染み付いていた名無しさんは、彼が異性である事を今更ながら、意識した。
戯れ言に乗って、弟の真似事をしているのだとばかり思っていた彼の、自分の手を優しく握るその手は大きく、その体つきも確かに男のもので、鼓動を一つ、大きく跳ねさせる。
陸遜様に、そんな風に思われていたなんて。
何て答えたら良いのかしら。
答え倦ね、視線を彷徨わせる名無しさんに、陸遜は握った指先に少しだけ力を込めて言う。
「・・・ずっと、我慢していたんです」
低く、押し殺した声だった。
「貴女が笑顔を見せてくれる度に、私の名を呼ぶ度に・・・嬉しいのに、苦しかったんです」
陸遜の言葉が一度途切れ、代わりに息が深く落ちる。
「弟として傍に居られるのは、幸せでした。ですが・・・」
一瞬だけ目を伏せ、それから真っ直ぐに彼女を見た。
「それでは、もう足りないのです」
静かだが、逃げ場を与えない声。
名無しさんが知らない、男の声。
「「どうしようもないこの思い」を・・・受け取っては頂けませんか」
陸遜はもうそれ以上は言わなかった。
ただ、名無しさんの言葉を待っている。
その沈黙が、彼女には酷く長く感じられた。
窺うように伏せていた目を上げれば、自分を見つめる陸遜の視線と打つかる。
その熱さに、名無しさんは胸を跳ねさせた。
違う、と何処かで思う。
これはもう弟でも、弟みたいでもない。
「私は・・・陸遜様にとっては姉、ではないのですね」
小さく問うと、陸遜は即座に首を振る。
「違います」
間を置かずに続けて言った。
「もう、違います」
そう言われた瞬間、名無しさんは眉を下げて笑った。
「・・・困りましたね」
「何がですか」
「私、未だ上手く・・・陸遜様を男の人として見慣れていません」
一瞬だけ固まったように見えた陸遜は、次の瞬間、耳までも赤く染め上げる。
名無しさんは少しだけ陸遜の手を握り返した。
「これから、慣れていきますから・・・少し、お時間を下さいね」
陸遜は微笑むと、静かに頷いた。
→あとがき