無理強いの結婚
貴女のお名前
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今にも発狂しそうな典韋の様子に、見ていられないと、夏侯惇は二人の間に割って入った。
「所で、名無しさん、典韋に用があったのだろう?」
「あ、そうでしたわ」
名無しさんは用事を思い出すと、ころりと態度を変え、離れた所で控えていた侍女たちを近くに呼び寄せる。
数名の侍女の手には、それぞれに異なる色の反物が乗っていた。
「祝言の後には初夜が控えているでしょう?契りを交わす大切な夜だもの、折角だから、典韋の好む色で新しく夜着を仕立てようと思っているのだけれど・・・」
「しょっ、初夜ぁ!?」
素頓狂な声を上げる典韋の隣で、夏侯惇は彼女の発言を嗜める。
「おい、名無しさん。お前も一応、女だろう。もう少し、恥じらいと言うものを・・・・」
「叔父様こそ、少しは遠慮して下さいません?いつまで私たち夫婦の間に首を突っ込んでいるおつもりですの?」
未だ夫婦じゃないですぜ、ぽつりと呟いた典韋の言葉は、生憎と名無しさんの耳には届かない。
良くも悪くも、嫁入りの事で頭を一杯にしている今の名無しさんには何を言っても無駄だ。
夏侯惇はやれやれと肩を落とすと、
「分かった分かった、俺は退散するとしよう」
典韋の肩を励まして叩き、その場を後に立ち去って行ってしまった。
残される典韋の心境は如何程のものか、心細そうに夏侯惇の背中を見送っている。
「さぁ、典韋。叔父様も居なくなった事だし、話の続きを・・・」
と、名無しさんは言い掛けて、尚も未だ、悲愴感を漂わせている典韋の姿に、不意に口を閉じた。
控えている侍女たちにそっと目配せをして、下がらせる。
周りに誰も居なくなってから、名無しさんは典韋に優しく微笑んだ。
「ねぇ、典韋・・・典韋は私の事が嫌いかしら?」
「嫌いかなんて、とんでもねえ!」
何を言い出すかと思えば、典韋は彼女の質問を否定して、大袈裟に首を振る。
名無しさんは曹操の娘だ、嫌いな筈がない。
寧ろ、曹操がそうであるように、名無しさんも大切な人だ。
そうと聞いて、名無しさんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「嫌いでないのなら、私を妻になさい。私も、父が信頼している典韋を、信頼して・・・いいえ、慕っています。だから・・・」
お願い、どうか最後まで私の話を聞いて下さい。
そう言うと、名無しさんは典韋の手を取り、両手で包んだ。
「私とて、曹操の娘なら、政治の道具となる事も覚悟していました」
見知らぬ男の元に嫁ぎ、見知らぬ土地で過ごす、その覚悟はしていた。
けれど、幸いにして、父親の部下に、それも親衛隊である典韋に嫁ぐ事が決まった時の、それを告げられた時の私の気持ちを、貴方は知らないでしょう。
「私は、本当に嬉しかったのですよ」
「お嬢・・・」
ほんのりと頬を染め、自分を見詰める彼女の瞳に、典韋は胸を高鳴らせる。
「父に言われたから嫁ぐのではありません。私は私の意思で、典韋に嫁ぐと決めたのです」
「でも、儂ゃあ・・・この通りの荒くれ者で・・・」
親衛隊として周りからは一目置かれているかも知れないが、見た目通りに学もなければ、誇れるものは、この腕力だけ。
名無しさんと並ぶに値するとは思えない。
そもそも、夏侯惇に見出だされなければ、ここには居なかったのだ。
殿に仕えられる、それだけで充分だ。
「これ以上を望んだりなんかしたら、罰が当たりやすぜ」
「誰よりも忠義を尽くす典韋に、罰など当たる筈もないでしょう」
もしも、典韋に罰が当たると言うのならば、私が抗議してやろう。
典韋のこれ程の忠心に応えぬとは、そちらの方が罰当たりだと。
名無しさんのその言い様が可笑しく、典韋は小さく笑い声を上げた。
「お嬢は怖いもの知らずでさあ」
「ええ、私に怖いものなどありません。典韋さえ、私の傍に居てくれれば・・・」
名無しさんは典韋の手を包む両手にぎゅっと力を込めて言う。
「私は典韋を心から慕っているわ。決して・・・決して「無理強いの結婚」ではないのよ」
「お嬢・・・。そう言われても儂ゃあ、どうすれば良いか」
それでも、中々、受け入れられないでいる典韋に、名無しさんはにっこりと微笑んだ。
「決まっているわ、私と幸せになる事だけ考えていれば宜しいの」
貴方には、それを受け取る資格があるのだから、躊躇いなく、私を妻にしなさい。
そう言った名無しさんの、有無を言わせない微笑みに、典韋は無意識に頷いていた。
→あとがき
「所で、名無しさん、典韋に用があったのだろう?」
「あ、そうでしたわ」
名無しさんは用事を思い出すと、ころりと態度を変え、離れた所で控えていた侍女たちを近くに呼び寄せる。
数名の侍女の手には、それぞれに異なる色の反物が乗っていた。
「祝言の後には初夜が控えているでしょう?契りを交わす大切な夜だもの、折角だから、典韋の好む色で新しく夜着を仕立てようと思っているのだけれど・・・」
「しょっ、初夜ぁ!?」
素頓狂な声を上げる典韋の隣で、夏侯惇は彼女の発言を嗜める。
「おい、名無しさん。お前も一応、女だろう。もう少し、恥じらいと言うものを・・・・」
「叔父様こそ、少しは遠慮して下さいません?いつまで私たち夫婦の間に首を突っ込んでいるおつもりですの?」
未だ夫婦じゃないですぜ、ぽつりと呟いた典韋の言葉は、生憎と名無しさんの耳には届かない。
良くも悪くも、嫁入りの事で頭を一杯にしている今の名無しさんには何を言っても無駄だ。
夏侯惇はやれやれと肩を落とすと、
「分かった分かった、俺は退散するとしよう」
典韋の肩を励まして叩き、その場を後に立ち去って行ってしまった。
残される典韋の心境は如何程のものか、心細そうに夏侯惇の背中を見送っている。
「さぁ、典韋。叔父様も居なくなった事だし、話の続きを・・・」
と、名無しさんは言い掛けて、尚も未だ、悲愴感を漂わせている典韋の姿に、不意に口を閉じた。
控えている侍女たちにそっと目配せをして、下がらせる。
周りに誰も居なくなってから、名無しさんは典韋に優しく微笑んだ。
「ねぇ、典韋・・・典韋は私の事が嫌いかしら?」
「嫌いかなんて、とんでもねえ!」
何を言い出すかと思えば、典韋は彼女の質問を否定して、大袈裟に首を振る。
名無しさんは曹操の娘だ、嫌いな筈がない。
寧ろ、曹操がそうであるように、名無しさんも大切な人だ。
そうと聞いて、名無しさんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「嫌いでないのなら、私を妻になさい。私も、父が信頼している典韋を、信頼して・・・いいえ、慕っています。だから・・・」
お願い、どうか最後まで私の話を聞いて下さい。
そう言うと、名無しさんは典韋の手を取り、両手で包んだ。
「私とて、曹操の娘なら、政治の道具となる事も覚悟していました」
見知らぬ男の元に嫁ぎ、見知らぬ土地で過ごす、その覚悟はしていた。
けれど、幸いにして、父親の部下に、それも親衛隊である典韋に嫁ぐ事が決まった時の、それを告げられた時の私の気持ちを、貴方は知らないでしょう。
「私は、本当に嬉しかったのですよ」
「お嬢・・・」
ほんのりと頬を染め、自分を見詰める彼女の瞳に、典韋は胸を高鳴らせる。
「父に言われたから嫁ぐのではありません。私は私の意思で、典韋に嫁ぐと決めたのです」
「でも、儂ゃあ・・・この通りの荒くれ者で・・・」
親衛隊として周りからは一目置かれているかも知れないが、見た目通りに学もなければ、誇れるものは、この腕力だけ。
名無しさんと並ぶに値するとは思えない。
そもそも、夏侯惇に見出だされなければ、ここには居なかったのだ。
殿に仕えられる、それだけで充分だ。
「これ以上を望んだりなんかしたら、罰が当たりやすぜ」
「誰よりも忠義を尽くす典韋に、罰など当たる筈もないでしょう」
もしも、典韋に罰が当たると言うのならば、私が抗議してやろう。
典韋のこれ程の忠心に応えぬとは、そちらの方が罰当たりだと。
名無しさんのその言い様が可笑しく、典韋は小さく笑い声を上げた。
「お嬢は怖いもの知らずでさあ」
「ええ、私に怖いものなどありません。典韋さえ、私の傍に居てくれれば・・・」
名無しさんは典韋の手を包む両手にぎゅっと力を込めて言う。
「私は典韋を心から慕っているわ。決して・・・決して「無理強いの結婚」ではないのよ」
「お嬢・・・。そう言われても儂ゃあ、どうすれば良いか」
それでも、中々、受け入れられないでいる典韋に、名無しさんはにっこりと微笑んだ。
「決まっているわ、私と幸せになる事だけ考えていれば宜しいの」
貴方には、それを受け取る資格があるのだから、躊躇いなく、私を妻にしなさい。
そう言った名無しさんの、有無を言わせない微笑みに、典韋は無意識に頷いていた。
→あとがき