慎みなき眼差し
貴女のお名前
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浮気、じゃないけど。
生きていれば、時に大きな決断に迫られる時がある。
徐庶は、正に今、その時を迎えていた。
自室に一人きり、誰かに相談する事もできず、文字通り、頭を抱えて悩んでいる。
「ああ・・・俺は一体どうすれば」
と、言葉に出す彼の、その苦悩を物語るように、眉間には深い皺が刻まれていた。
しかし、迷い、悩んでいながらも、自分はそうするだろうと確信がある。
愛する恋人に、名無しさんに辛い思いをさせたくはない。
「やるしか・・・ないんだ」
徐庶は覚悟を決めて呟くと、拳を強く握り締めた。
徐庶は恐る恐る、執務室の中を、扉の外から覗き込んだ。
悩んでいた所為でいつもより遅くなってしまった。
「あ、おはようございます。徐庶様」
間を置かず、恋人であり、女官でもある名無しさんの満面の笑顔と声が視界に飛び込んで来る。
徐庶は咄嗟に顔を隠して、首元を覆う襟を引き上げた。
「お、おはよう。名無しさん」
「今日も忙しくなりそうですよ」
諸葛亮様から、沢山預かりましたと言う彼女は両腕に幾つかの書簡を抱えている。
その量に、いつもならげんなりしてしまう所だが、今日はそれ所ではない。
徐庶は曖昧に答えると、彼女から顔を逸らすようにして、こそこそと机に向かった。
「徐庶様?どうかなさったんですか?」
その、明らかに挙動不審な彼の様子に、名無しさんが細い首を傾げる。
「い、いや・・・何でもないよ」
と、答える徐庶の声は動揺していて、視線をも彷徨わせていた。
徐庶様ったら、お顔を隠して、どうしちゃったのかしら。
名無しさんは不思議そうな視線のまま、徐庶の様子を窺う。
「徐庶様?お加減でも悪いんですか?」
徐庶は彼女の、自分を心配する言葉に、ぎゅっと目を閉じた。
ああ、俺は何て情けない男なんだ。
覚悟を決めて来た筈なのに、ここに来て臆病になっている。
しかも、名無しさんに心配までさせて。
どうせ、いつかは分かるんだ。
だったら、早い方が良い。
徐庶は頭巾と襟の隙間から、名無しさんを上目遣いに見て、尋ねて言う。
「あの、名無しさん・・・笑わないでくれるかい?」
「何をですか?」
「・・・笑わないって約束してくれるなら、話すよ」
変な徐庶様、何かも分からないのに約束なんてできる訳がないのに。
そう思いながらも、名無しさんは約束すると言って頷いた。
徐庶は一つ、深く息を吐くと、思い切って襟を掴んでいた手を離す。
同時に、名無しさんは笑いはしなかったが、驚いたように目を、口を丸くし、手に持っていた書簡を取り落とした。
書簡が床を打つ音が響き、それが静まり返ってから漸く、名無しさんの口が開く。
「徐庶様・・・一体、どうなさったんですか?」
彼女がぱちぱちと大きな目を瞬かせるのも無理はない、徐庶の顔には、髭がなかった。
「ええと・・・変、かな?」
「あ、いえ・・・」
変、ではないとは思うが、何だろう、違和感がある。
良く知っている筈なのに、知らない人みたいだ。
まじまじと穴が開く程に見詰めて来る名無しさんに、徐庶は照れたように手を翳して顔を隠した。
「その、名無しさん・・・余り見詰めないでくれないか」
「あ・・・ごめんなさい」
そう言われて初めて、かなりの時間、見詰めていた事に気付いた名無しさんは僅かに頬を染める。
ちょっと不躾だったかしら。
でも、お髭のない徐庶様も素敵で、つい目が行ってしまう。
生きていれば、時に大きな決断に迫られる時がある。
徐庶は、正に今、その時を迎えていた。
自室に一人きり、誰かに相談する事もできず、文字通り、頭を抱えて悩んでいる。
「ああ・・・俺は一体どうすれば」
と、言葉に出す彼の、その苦悩を物語るように、眉間には深い皺が刻まれていた。
しかし、迷い、悩んでいながらも、自分はそうするだろうと確信がある。
愛する恋人に、名無しさんに辛い思いをさせたくはない。
「やるしか・・・ないんだ」
徐庶は覚悟を決めて呟くと、拳を強く握り締めた。
徐庶は恐る恐る、執務室の中を、扉の外から覗き込んだ。
悩んでいた所為でいつもより遅くなってしまった。
「あ、おはようございます。徐庶様」
間を置かず、恋人であり、女官でもある名無しさんの満面の笑顔と声が視界に飛び込んで来る。
徐庶は咄嗟に顔を隠して、首元を覆う襟を引き上げた。
「お、おはよう。名無しさん」
「今日も忙しくなりそうですよ」
諸葛亮様から、沢山預かりましたと言う彼女は両腕に幾つかの書簡を抱えている。
その量に、いつもならげんなりしてしまう所だが、今日はそれ所ではない。
徐庶は曖昧に答えると、彼女から顔を逸らすようにして、こそこそと机に向かった。
「徐庶様?どうかなさったんですか?」
その、明らかに挙動不審な彼の様子に、名無しさんが細い首を傾げる。
「い、いや・・・何でもないよ」
と、答える徐庶の声は動揺していて、視線をも彷徨わせていた。
徐庶様ったら、お顔を隠して、どうしちゃったのかしら。
名無しさんは不思議そうな視線のまま、徐庶の様子を窺う。
「徐庶様?お加減でも悪いんですか?」
徐庶は彼女の、自分を心配する言葉に、ぎゅっと目を閉じた。
ああ、俺は何て情けない男なんだ。
覚悟を決めて来た筈なのに、ここに来て臆病になっている。
しかも、名無しさんに心配までさせて。
どうせ、いつかは分かるんだ。
だったら、早い方が良い。
徐庶は頭巾と襟の隙間から、名無しさんを上目遣いに見て、尋ねて言う。
「あの、名無しさん・・・笑わないでくれるかい?」
「何をですか?」
「・・・笑わないって約束してくれるなら、話すよ」
変な徐庶様、何かも分からないのに約束なんてできる訳がないのに。
そう思いながらも、名無しさんは約束すると言って頷いた。
徐庶は一つ、深く息を吐くと、思い切って襟を掴んでいた手を離す。
同時に、名無しさんは笑いはしなかったが、驚いたように目を、口を丸くし、手に持っていた書簡を取り落とした。
書簡が床を打つ音が響き、それが静まり返ってから漸く、名無しさんの口が開く。
「徐庶様・・・一体、どうなさったんですか?」
彼女がぱちぱちと大きな目を瞬かせるのも無理はない、徐庶の顔には、髭がなかった。
「ええと・・・変、かな?」
「あ、いえ・・・」
変、ではないとは思うが、何だろう、違和感がある。
良く知っている筈なのに、知らない人みたいだ。
まじまじと穴が開く程に見詰めて来る名無しさんに、徐庶は照れたように手を翳して顔を隠した。
「その、名無しさん・・・余り見詰めないでくれないか」
「あ・・・ごめんなさい」
そう言われて初めて、かなりの時間、見詰めていた事に気付いた名無しさんは僅かに頬を染める。
ちょっと不躾だったかしら。
でも、お髭のない徐庶様も素敵で、つい目が行ってしまう。