夕方から朝まで、ずっと
貴女のお名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どうせ分からぬのだから、嘘でも吐けば良いものを、正直に反応するとは可愛い奴よ。
色事の駆け引きは苦手であったか。
そうと考えて、曹操は名無しさんが生娘であった事を思い出す。
男と言うものを知った彼女が、そこに快楽を覚え、溺れ求めて、誰彼構わずに男を誘惑して醜聞を撒き散らすよりは、駆け引き一つできずに趣味に精を出している方が良いか。
曹操は名無しさんの手元、止まったままの刺繍針に視線を遣って言う。
「続けぬのか」
「でも・・・」
夫を放って続けて良いものだろうか。
こんな時、良い妻なら、どんな風に答えるのかしら。
「構わぬ。花の盛りは短い、後は枯れてゆくのみよ」
どこか物憂げに言われ、名無しさんは曖昧に頷いた。
これから女の盛りを迎える彼女には、曹操の心の内など、想像も付かないのだろう。
名無しさんの年の頃の自分はどうであったか。
若い体の内側から溢れ出る活力、それが今は僅かに減った気がする。
政 に、戦に、女に未だ精力的ではあるものの、あの頃と同じようにはいかなくなっていた。
しかし、減っただけで枯れてしまった訳ではない。
この場所へ遣って来た理由が、早く仕事が終わった分、余裕ができた時間の使い方に、今夜、名無しさんを誘うつもりであればこそ、数える程しか抱いてない彼女の、衣服の下に隠された肢体を、曹操は熱を込めて見詰めていた。
「あの、曹操様。そのように見詰められては・・・困ります」
そう言って、名無しさんは刺繍しようとしていた手を止めると、袖口で顔を覆い、彼の視線から逃れるように体ごと背けてしまう。
恥じ入る彼女のその仕草を、曹操は再び、からかって言った。
「愛する妻を眺めているだけであろう、何を困る必要がある」
「だって・・・男の方に見詰められるのに慣れておりません」
小さな声で返って来る言葉に、曹操は喉の奥でくつくつと笑う。
初夜を済ませておきながら、何も知らぬ小娘のような事を言うものよ。
「ふむ・・・儂に見詰められるのが嫌か。ならば・・・」
曹操は腕を伸ばすと、名無しさんの体を軽々と抱え上げ、自分の膝の間に座らせた。
名無しさんは忽ち、頬を真っ赤に染め、上擦った声で言う。
「そ、曹操様。これは・・・!」
これはこれで恥ずかしい体勢だと、下ろしてくれと身を捩る彼女の腰を強く抱き締め、曹操は囁いた。
「どうだ?これならば、儂がそなたを見詰めておる様子は分かるまい。存分に刺繍を続けよ」
そう言った曹操の声色には、この状況を楽しむ気配があり、名無しさんは困ったように眉を下げる。
背中から伝わる曹操の体温に、鼓動が速く脈打っていて、刺繍を続ける所ではなかった。
袖口を握って、きゅっと目を閉じ、体を強張らせている彼女の耳元に唇を寄せて曹操が優しく言う。
「名無しさんよ、そう緊張するでない。儂はただ、愛らしいそなたを近くで愛でていたいだけだ」
曹操は抱き締めていた手を緩めると、名無しさんの小さな手を包んだ。
「こうして触れるのも久方振りか。名無しさんが刺繍を趣味としている事も知らなんだな・・・」
ぽつりと言って、曹操はふと思い付いように口を開く。
「名無しさん、儂に衣を仕立ててはくれぬか?」
「私が、ですか?」
覆っている袖から少しだけ顔を出して問い掛けて来る彼女に、曹操は腕を伸ばしてその手元にある、刺繍された紋様を指先でなぞり、続けて言った。
「うむ、名無しさんの腕前は中々のもの。常に目に映る場所が良い。そうだな、刺繍は袖口にでも入れて貰うか」
我ながら妙案だと、満足そうに頷く。
「さすれば、愛する名無しさんが傍に居るようであろう?」
名無しさんは曹操の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
趣味の刺繍を褒めて下さった上、常に目に映していたいとまで仰って頂けるなんて、曹操様は何てお優しい方なのかしら。
「私で・・・宜しければ」
「そうと決まれば、早速、子細を決めねばな。後程、そなたの部屋へ行く。身を清めて待っておれ」
「はい」
名無しさんは素直に頷いた。
何故、身を清めるのかは分からなかったが。
そうと分かっていて、曹操は苦笑を浮かべる。
妻の寝所を訪ねる夫が、仕立ての相談だけで済ませると思っているのか。
そう言う所も愛らしいが、敢えて言って遣る必要もない。
駆け引きも知らぬ名無しさんの驚き、慌て、恥じ入る姿を楽しみ、思いのままに愛するのも一興だ。
曹操は名無しさんの体を解放して、長椅子から立ち上がると、
「さて、名無しさんよ、今宵は「夕方から朝まで、ずっと」そなたを手放さぬぞ。覚悟しておれよ」
去り際に一言を残して、その場を後にした。
→あとがき
色事の駆け引きは苦手であったか。
そうと考えて、曹操は名無しさんが生娘であった事を思い出す。
男と言うものを知った彼女が、そこに快楽を覚え、溺れ求めて、誰彼構わずに男を誘惑して醜聞を撒き散らすよりは、駆け引き一つできずに趣味に精を出している方が良いか。
曹操は名無しさんの手元、止まったままの刺繍針に視線を遣って言う。
「続けぬのか」
「でも・・・」
夫を放って続けて良いものだろうか。
こんな時、良い妻なら、どんな風に答えるのかしら。
「構わぬ。花の盛りは短い、後は枯れてゆくのみよ」
どこか物憂げに言われ、名無しさんは曖昧に頷いた。
これから女の盛りを迎える彼女には、曹操の心の内など、想像も付かないのだろう。
名無しさんの年の頃の自分はどうであったか。
若い体の内側から溢れ出る活力、それが今は僅かに減った気がする。
しかし、減っただけで枯れてしまった訳ではない。
この場所へ遣って来た理由が、早く仕事が終わった分、余裕ができた時間の使い方に、今夜、名無しさんを誘うつもりであればこそ、数える程しか抱いてない彼女の、衣服の下に隠された肢体を、曹操は熱を込めて見詰めていた。
「あの、曹操様。そのように見詰められては・・・困ります」
そう言って、名無しさんは刺繍しようとしていた手を止めると、袖口で顔を覆い、彼の視線から逃れるように体ごと背けてしまう。
恥じ入る彼女のその仕草を、曹操は再び、からかって言った。
「愛する妻を眺めているだけであろう、何を困る必要がある」
「だって・・・男の方に見詰められるのに慣れておりません」
小さな声で返って来る言葉に、曹操は喉の奥でくつくつと笑う。
初夜を済ませておきながら、何も知らぬ小娘のような事を言うものよ。
「ふむ・・・儂に見詰められるのが嫌か。ならば・・・」
曹操は腕を伸ばすと、名無しさんの体を軽々と抱え上げ、自分の膝の間に座らせた。
名無しさんは忽ち、頬を真っ赤に染め、上擦った声で言う。
「そ、曹操様。これは・・・!」
これはこれで恥ずかしい体勢だと、下ろしてくれと身を捩る彼女の腰を強く抱き締め、曹操は囁いた。
「どうだ?これならば、儂がそなたを見詰めておる様子は分かるまい。存分に刺繍を続けよ」
そう言った曹操の声色には、この状況を楽しむ気配があり、名無しさんは困ったように眉を下げる。
背中から伝わる曹操の体温に、鼓動が速く脈打っていて、刺繍を続ける所ではなかった。
袖口を握って、きゅっと目を閉じ、体を強張らせている彼女の耳元に唇を寄せて曹操が優しく言う。
「名無しさんよ、そう緊張するでない。儂はただ、愛らしいそなたを近くで愛でていたいだけだ」
曹操は抱き締めていた手を緩めると、名無しさんの小さな手を包んだ。
「こうして触れるのも久方振りか。名無しさんが刺繍を趣味としている事も知らなんだな・・・」
ぽつりと言って、曹操はふと思い付いように口を開く。
「名無しさん、儂に衣を仕立ててはくれぬか?」
「私が、ですか?」
覆っている袖から少しだけ顔を出して問い掛けて来る彼女に、曹操は腕を伸ばしてその手元にある、刺繍された紋様を指先でなぞり、続けて言った。
「うむ、名無しさんの腕前は中々のもの。常に目に映る場所が良い。そうだな、刺繍は袖口にでも入れて貰うか」
我ながら妙案だと、満足そうに頷く。
「さすれば、愛する名無しさんが傍に居るようであろう?」
名無しさんは曹操の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
趣味の刺繍を褒めて下さった上、常に目に映していたいとまで仰って頂けるなんて、曹操様は何てお優しい方なのかしら。
「私で・・・宜しければ」
「そうと決まれば、早速、子細を決めねばな。後程、そなたの部屋へ行く。身を清めて待っておれ」
「はい」
名無しさんは素直に頷いた。
何故、身を清めるのかは分からなかったが。
そうと分かっていて、曹操は苦笑を浮かべる。
妻の寝所を訪ねる夫が、仕立ての相談だけで済ませると思っているのか。
そう言う所も愛らしいが、敢えて言って遣る必要もない。
駆け引きも知らぬ名無しさんの驚き、慌て、恥じ入る姿を楽しみ、思いのままに愛するのも一興だ。
曹操は名無しさんの体を解放して、長椅子から立ち上がると、
「さて、名無しさんよ、今宵は「夕方から朝まで、ずっと」そなたを手放さぬぞ。覚悟しておれよ」
去り際に一言を残して、その場を後にした。
→あとがき