ぴったりと寄り添って
貴女のお名前
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下心なんてないからな。
一羽の鷹が、その大きな翼を広げて青空の中を悠々と飛んでいる様子を、彼女は飽きる事なく見上げていた。
鷹を視線で追う事に夢中になるあまり、丸く開いた唇にも気付いていない。
その様子は、確かに愛らしいのだが、彼女が目で追っているのが自分の鷹とは言え、他に気を取られているのは面白くないと、鍾会は不機嫌な声で言った。
「おい、名無しさん。いつまで間抜け面で空を見上げているつもりだ」
言われて、彼女は気付いたように視線を鍾会に移す。
「済みません、つい・・・」
漸く自分の方を向いたにも関わらず、鍾会は咄嗟に鼻を鳴らして、彼女から視線を逸らしてしまった。
幸いな事に、名無しさんに気にした様子はなく、鍾会が何か言うのだろうかと言葉を待っている。
鍾会はちらりと、視界の隅に彼女の姿を映して言った。
「鷹など、どこでも見掛けるだろう。見飽きたりしないのか」
「はい。気持ち良さそうに飛んでいる姿がとても綺麗で。見飽きる事はありません」
名無しさんは答えながら、何故、彼がそんな事を聞いて来るのかと細い首を傾げる。
別に深い意味があって訊ねた訳でもなければ、答える言葉の用意もなく、鍾会はこれ以上は何も言うつもりはないと視線を空に移す事で示した。
名無しさんも倣って、再び視線を鷹へと向ける。
穏やかと言えば穏やかな時間だが、鍾会は弾まない彼女との会話に内心では僅かに苛立ちを覚えていた。
巷に溢れた家同士の政治的な思惑で名無しさんに引き合わされ、一目で彼女に心を奪われた鍾会は、以来、それを前提として仲を深める為に、時折二人で過ごす時間を設けている。
今日は日和も良く、名無しさんに自慢の鷹を見せてやるのも悪くないと思って小高い丘に連れて来たのだが、高が会話の一つ、どうしてこうも上手く運べないのか。
常々、女は皆、お喋りなものだと思っていたばかりに、却って物静かな性質の彼女にはどのように接したら良いか分からない。
そうは言っても、名無しさんとは未だ数える程しか会っていないのだ、そう焦る必要もないと思う一方で、早く親密になりたいとも思っていた。
しかし、この有り様である。
鷹には少なからず、興味を示している様子なのが、せめてもの救いだろう。
何か一つ位、良い所を見せて名無しさんから羨望の眼差しを向けられたい。
そんな事を考えながら、鍾会は何気なく、腕を上げて鷹を呼び寄せた。
鷹は素直に従って空から舞い降り、鍾会の腕に爪を立てて止まる。
その様子を見ていた名無しさんが、感心したように溜め息を吐いて言った。
「賢いのですね」
「当然だ、この私が躾たのだからな」
名無しさんが褒めたのは鷹の方だったが、気を良くした鍾会は誇らしげに胸を張ると、思い付いて言葉を続ける。
「その・・・私の鷹だが、名無しさんになら、触らせてやらん事もないぞ」
じっと鷹を見詰めていた名無しさんは一瞬、表情に喜色を浮かべ、次には不安そうに小さな声で言った。
「でも、嘴が鋭くて・・・怖いです」
「私の鷹が見境なく人を襲う筈がないだろう」
呆れたように言って、鍾会は腕を振り、鷹を空へと解放する。
これは彼女に良い所を見せる好機だと、然り気無く、口を開いた。
「腕を出せ」
「腕・・・ですか?」
「良いから私の言う通りにしろ」
鍾会は着けていた保護用の手袋を外し、怖ず怖ずと差し出された名無しさんの腕に被せてやりながら言う。
「猛禽類の爪から腕を守る為だ」
「は、はい」
鍾会が何をさせるつもりなのかを覚って、名無しさんは身を固くした。
そうと知って、鍾会が言う。
「私が居るのだ、安心していろ」
一羽の鷹が、その大きな翼を広げて青空の中を悠々と飛んでいる様子を、彼女は飽きる事なく見上げていた。
鷹を視線で追う事に夢中になるあまり、丸く開いた唇にも気付いていない。
その様子は、確かに愛らしいのだが、彼女が目で追っているのが自分の鷹とは言え、他に気を取られているのは面白くないと、鍾会は不機嫌な声で言った。
「おい、名無しさん。いつまで間抜け面で空を見上げているつもりだ」
言われて、彼女は気付いたように視線を鍾会に移す。
「済みません、つい・・・」
漸く自分の方を向いたにも関わらず、鍾会は咄嗟に鼻を鳴らして、彼女から視線を逸らしてしまった。
幸いな事に、名無しさんに気にした様子はなく、鍾会が何か言うのだろうかと言葉を待っている。
鍾会はちらりと、視界の隅に彼女の姿を映して言った。
「鷹など、どこでも見掛けるだろう。見飽きたりしないのか」
「はい。気持ち良さそうに飛んでいる姿がとても綺麗で。見飽きる事はありません」
名無しさんは答えながら、何故、彼がそんな事を聞いて来るのかと細い首を傾げる。
別に深い意味があって訊ねた訳でもなければ、答える言葉の用意もなく、鍾会はこれ以上は何も言うつもりはないと視線を空に移す事で示した。
名無しさんも倣って、再び視線を鷹へと向ける。
穏やかと言えば穏やかな時間だが、鍾会は弾まない彼女との会話に内心では僅かに苛立ちを覚えていた。
巷に溢れた家同士の政治的な思惑で名無しさんに引き合わされ、一目で彼女に心を奪われた鍾会は、以来、それを前提として仲を深める為に、時折二人で過ごす時間を設けている。
今日は日和も良く、名無しさんに自慢の鷹を見せてやるのも悪くないと思って小高い丘に連れて来たのだが、高が会話の一つ、どうしてこうも上手く運べないのか。
常々、女は皆、お喋りなものだと思っていたばかりに、却って物静かな性質の彼女にはどのように接したら良いか分からない。
そうは言っても、名無しさんとは未だ数える程しか会っていないのだ、そう焦る必要もないと思う一方で、早く親密になりたいとも思っていた。
しかし、この有り様である。
鷹には少なからず、興味を示している様子なのが、せめてもの救いだろう。
何か一つ位、良い所を見せて名無しさんから羨望の眼差しを向けられたい。
そんな事を考えながら、鍾会は何気なく、腕を上げて鷹を呼び寄せた。
鷹は素直に従って空から舞い降り、鍾会の腕に爪を立てて止まる。
その様子を見ていた名無しさんが、感心したように溜め息を吐いて言った。
「賢いのですね」
「当然だ、この私が躾たのだからな」
名無しさんが褒めたのは鷹の方だったが、気を良くした鍾会は誇らしげに胸を張ると、思い付いて言葉を続ける。
「その・・・私の鷹だが、名無しさんになら、触らせてやらん事もないぞ」
じっと鷹を見詰めていた名無しさんは一瞬、表情に喜色を浮かべ、次には不安そうに小さな声で言った。
「でも、嘴が鋭くて・・・怖いです」
「私の鷹が見境なく人を襲う筈がないだろう」
呆れたように言って、鍾会は腕を振り、鷹を空へと解放する。
これは彼女に良い所を見せる好機だと、然り気無く、口を開いた。
「腕を出せ」
「腕・・・ですか?」
「良いから私の言う通りにしろ」
鍾会は着けていた保護用の手袋を外し、怖ず怖ずと差し出された名無しさんの腕に被せてやりながら言う。
「猛禽類の爪から腕を守る為だ」
「は、はい」
鍾会が何をさせるつもりなのかを覚って、名無しさんは身を固くした。
そうと知って、鍾会が言う。
「私が居るのだ、安心していろ」