罪の償い
貴女のお名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それを探して、文鴦は彷徨わせていた視線を名無しさんに戻す。
久し振りに正面から見る名無しさんは少し痩せていて、文鴦はそのまま言葉を口にして言った。
「少し・・・痩せたな」
その瞬間、名無しさんが顔を歪め、瞳から大きな涙の粒を溢す。
「・・・誰の所為ですか」
震える声で言って、文鴦の傍に遣って来たかと思うと、両手に拳を作って、その逞しい胸を叩き出した。
「馬鹿、馬鹿馬鹿・・・文鴦様の馬鹿」
「名無しさん・・・」
されるに任せ、文鴦は名無しさんを見下ろす。
誰の所為だと言う彼女の言葉は、遠回しに文鴦の所為だと言っていた。
痩せた理由が自分の所為だと言うのなら、彼女の心は未だ、あの時のままなのだろう。
そうと分かれば、胸を叩く名無しさんの拳が愛おしい。
「あんな・・・あんな一言で終わらせようなんて卑怯です」
「済まない」
「どうして、私に何も言ってくれなかったのですか」
「・・・済まない」
「謝ってないで、言い訳の一つ位言ってみせて下さい」
「・・・済まない」
「文鴦様の馬鹿・・・」
ひたすら謝罪を繰り返すだけの文鴦に、名無しさんは涙を流しながら悪態を吐く。
本当は分かっているのだ、一介の女官である自分は、今も昔も何かを知る立場にはなく、知った所で何もできない。
ただ、一緒に来てくれと言ってくれていたならば、或いは、文鴦の行動にもっと目を配っていたのならば、女官の立場など簡単に捨ててみせようものを。
それすらできなかった事が悔しい。
名無しさんは拳を収め、文鴦の胸に縋り付いた。
文鴦は彼女を抱き締め返す事でもなく、その両腕をだらりと下ろした姿勢で言う。
「済まない、名無しさん。私は・・・」
私は?
私は何を言うつもりなのだ。
あれだけ彼女に酷い仕打ちをしておいて、許しを乞うつもりなのか。
言い訳をしてみろと名無しさんは言うが、した所で何になるのか。
痩せてしまう程、苦しんだであろう彼女に、どんな言葉なら届くのだろうか。
文鴦は胸元で肩を震わせて泣きじゃくる名無しさんに言った。
「名無しさん、どれだけの言葉を並べた所で、私は許される立場にはない」
それは名無しさんのみに限らず、司馬昭や、兵たちに対しても同じだ。
謝罪を口にすれば、自分は楽になれるだろう。
しかし、許す、許さないは相手が決める事だ。
それだけの事をしたのだと、文鴦は深く胸に刻んでいた。
「だが、もしも、名無しさんが良いと言ってくれるのならば、頼みがある」
今一度、名無しさんと愛し合いたい。
もう二度と離さないと、名無しさんの体を抱き締めたい。
そして、これから先、名無しさんの傍に居る事を日常としたい。
「それを、私が犯した「罪の償い」として、その機会を与えて欲しい」
名無しさんは答える代わりに、文鴦の広い背中に手を回した。
漸く、文鴦の手が、名無しさんの体を包む。
どこまでも優しく、温かい抱擁だった。
→あとがき
久し振りに正面から見る名無しさんは少し痩せていて、文鴦はそのまま言葉を口にして言った。
「少し・・・痩せたな」
その瞬間、名無しさんが顔を歪め、瞳から大きな涙の粒を溢す。
「・・・誰の所為ですか」
震える声で言って、文鴦の傍に遣って来たかと思うと、両手に拳を作って、その逞しい胸を叩き出した。
「馬鹿、馬鹿馬鹿・・・文鴦様の馬鹿」
「名無しさん・・・」
されるに任せ、文鴦は名無しさんを見下ろす。
誰の所為だと言う彼女の言葉は、遠回しに文鴦の所為だと言っていた。
痩せた理由が自分の所為だと言うのなら、彼女の心は未だ、あの時のままなのだろう。
そうと分かれば、胸を叩く名無しさんの拳が愛おしい。
「あんな・・・あんな一言で終わらせようなんて卑怯です」
「済まない」
「どうして、私に何も言ってくれなかったのですか」
「・・・済まない」
「謝ってないで、言い訳の一つ位言ってみせて下さい」
「・・・済まない」
「文鴦様の馬鹿・・・」
ひたすら謝罪を繰り返すだけの文鴦に、名無しさんは涙を流しながら悪態を吐く。
本当は分かっているのだ、一介の女官である自分は、今も昔も何かを知る立場にはなく、知った所で何もできない。
ただ、一緒に来てくれと言ってくれていたならば、或いは、文鴦の行動にもっと目を配っていたのならば、女官の立場など簡単に捨ててみせようものを。
それすらできなかった事が悔しい。
名無しさんは拳を収め、文鴦の胸に縋り付いた。
文鴦は彼女を抱き締め返す事でもなく、その両腕をだらりと下ろした姿勢で言う。
「済まない、名無しさん。私は・・・」
私は?
私は何を言うつもりなのだ。
あれだけ彼女に酷い仕打ちをしておいて、許しを乞うつもりなのか。
言い訳をしてみろと名無しさんは言うが、した所で何になるのか。
痩せてしまう程、苦しんだであろう彼女に、どんな言葉なら届くのだろうか。
文鴦は胸元で肩を震わせて泣きじゃくる名無しさんに言った。
「名無しさん、どれだけの言葉を並べた所で、私は許される立場にはない」
それは名無しさんのみに限らず、司馬昭や、兵たちに対しても同じだ。
謝罪を口にすれば、自分は楽になれるだろう。
しかし、許す、許さないは相手が決める事だ。
それだけの事をしたのだと、文鴦は深く胸に刻んでいた。
「だが、もしも、名無しさんが良いと言ってくれるのならば、頼みがある」
今一度、名無しさんと愛し合いたい。
もう二度と離さないと、名無しさんの体を抱き締めたい。
そして、これから先、名無しさんの傍に居る事を日常としたい。
「それを、私が犯した「罪の償い」として、その機会を与えて欲しい」
名無しさんは答える代わりに、文鴦の広い背中に手を回した。
漸く、文鴦の手が、名無しさんの体を包む。
どこまでも優しく、温かい抱擁だった。
→あとがき