上機嫌
貴女のお名前
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そう陸遜に大見得を切ったは良いが、さて、名無しさんに何と言って訊こうか。
鍛練の後、自室に戻った凌統は、長椅子に背中を預け、天井を仰いでいた。
先程、陸遜に話した通り、視線を時々外される位で、名無しさんとは抱擁も口付けもしているのだ、仲違いしている訳ではない。
凌統は以前、名無しさんが可愛らしい嫉妬心を見せてから毎日、一日の終わりの数時間を彼女と一緒に過ごしている。
恐らく、いや、必ず、今日も彼女と過ごす事になるだろうと確信していた。
「・・・いっそ喧嘩にでもなれば楽なんだろうけどねぇ」
「また甘寧様の事ですか?」
突然、声と共に、ひょいと顔が視界に飛び込んで来て、凌統は体を強張らせる。
「うわっ!・・・って、名無しさんか」
その言い方に、名無しさんは頬を膨らませた。
「他に誰か来る予定だったんですか?」
「まさか」
凌統は驚きに速く脈打つ鼓動を抑えながら、隣においでと、名無しさんの細い手首を引いた。
名無しさんは素直に凌統の隣に腰を下ろす。
その瞳には疑うような色が浮かんでいた。
「それで、誰の事を考えていたんですか?」
「誰って・・・俺が名無しさんの事以外、考えてると思うのかい?」
「本当に?」
「本当だっての」
こう言う事を訊いて来るから、名無しさんが視線を逸らす理由に心当たりがないのだ。
今は、じっと自分を見詰めて離さない名無しさんに、凌統は顔を寄せて言う。
「何なら、証明してみせようか?」
彼女は嬉しそうに微笑むと、そっと目を閉じて見せた。
最初は触れるだけの口付けを、次は少しだけ長く唇を触れ合わせる。
離れる間際、名無しさんが小さく笑い声を上げた。
「ふふっ・・・」
「ん、何だい?」
「ううん、何でもないです」
何か言いたい事を隠す彼女の様子に、凌統は唇の端を吊り上げる。
「名無しさん、言いたい事があるなら、はっきり言いなよ。じゃないと・・・」
「じゃないと?」
「もう一回、その口、塞いじまうよ?」
凌統はそう言って、今度は体ごと、名無しさんに寄せて行った。
その時の事だ、名無しさんが嫌だと言うように顔を背けて目を逸らし、後退ったのは。
「それ以上・・・近寄らないで下さい」
いつもは黙って離れる所を、今回はご丁寧に言葉まで付け加える彼女に、凌統は眉を顰める。
今日の名無しさんのその態度はちょっと酷いんじゃないかい?
いつまでも、俺が黙ってると思うなよ。
凌統は構わずに名無しさんを追い詰めるように躙り寄って行った。
それに合わせて、名無しさんは後退るが、長椅子の肘掛けに阻まれてしまう。
凌統は肘掛けに腕を伸ばすと、名無しさんを長椅子と自分の間に閉じ込めた。
逃げ場を失くした名無しさんは、膝を抱えて踞るようにして顔を隠す。
「駄目・・・」
「何が」
なるべく、苛立つ感情を抑え、凌統は名無しさんの頭上で問い掛けて言った。
「ねぇ、名無しさん。最近、ちょいちょい避けてないかい?」
答える代わりに、名無しさんの肩がびくりと震える。
やっぱり、避けてたのか。
そうと知って胸に浮かぶのは疑問だ。
口付けを受けてくれるのに、何故、避けるような真似をするのか。
「名無しさん、俺の事、嫌いかい?」
名無しさんが顔を膝に埋めたまま、否定するように首をふるふると振る。
「俺の事、好き?」
「・・・好き」
「じゃあ、何で避けるのさ」
凌統は肘掛けから手を離すと、その手を半ば強引に彼女の顎の下に差し入れ、顔を自分の方に向けさせた。
あの時と逆だなと、思い出しながら見た名無しさんの頬は真っ赤に染まっていて、凌統は目を丸くする。
俺から逃げてる癖に、何で、こんな可愛い顔してんのさ。
「え、っと・・・名無しさん」
と、言ったきり、凌統は黙り込んだ。
何を言えば良いのか分からず、彼女の顎を掴む手から力が抜ける。
名無しさんはその隙に、再び、凌統から顔を背けると両手で隠すように覆った。
「だから近寄らないでって言ったのに・・・」
「いや、よく分かんないんだけど・・・?」
「だって、だって・・・」
名無しさんは意を決して顔を上げると、怒ったような口調で言う。
「凌統様ったら、格好良過ぎるんだもの!」
思いも掛けない彼女の言葉は、忽ち、凌統の頬を真っ赤に染め上げた。
一度でも言葉にしてしまえば、止められないとばかりに、名無しさんは口を開いた勢いで言葉を続ける。
「凌統様が格好良過ぎて、もう無理なんです!少しだけなら大丈夫なんですけど、ずっと見てると胸がどきどきして、苦しくって。だから、だから・・・っ」
「俺を見ないようにしてたって事かい?」
「はい・・・」
頷く名無しさんに、凌統は声を上げて笑い出した。
嫌われた訳じゃなくて良かったと、内心、深く安堵する。
名無しさんは笑い続ける凌統をじろりと睨んだ。
「そんなに笑わなくても・・・」
「ごめん、ごめん」
凌統は何とか笑い声を納め、深呼吸を繰り返して息を整えると、
「悪いけど、こればかりは慣れてもらうしかないね。・・・ほら、名無しさん」
優しく名無しさんの両頬を掴み、笑顔を浮かべて言う。
「俺を見て」
慣れるまで、飽きるまで、嫌になるまで、俺を見て。
「無理、です・・・っ!」
「ほらほら、名無しさん。逃げない逃げない」
ちゃんと俺を見てくれるまで、部屋から出すつもりはないっての。
凌統は無理矢理、その唇を奪おうと、名無しさんに覆い被さった。
その翌日、昨日までとは打って変わって「上機嫌」な凌統の姿を見掛けた陸遜は、何があったのかを覚って嫌味を口にする。
「随分とお楽しみだったようですね」
凌統は得意気に唇の端を吊り上げ、真正面から受けて立って言った。
「まあね、ちょっと寝不足気味だけど」
→あとがき
鍛練の後、自室に戻った凌統は、長椅子に背中を預け、天井を仰いでいた。
先程、陸遜に話した通り、視線を時々外される位で、名無しさんとは抱擁も口付けもしているのだ、仲違いしている訳ではない。
凌統は以前、名無しさんが可愛らしい嫉妬心を見せてから毎日、一日の終わりの数時間を彼女と一緒に過ごしている。
恐らく、いや、必ず、今日も彼女と過ごす事になるだろうと確信していた。
「・・・いっそ喧嘩にでもなれば楽なんだろうけどねぇ」
「また甘寧様の事ですか?」
突然、声と共に、ひょいと顔が視界に飛び込んで来て、凌統は体を強張らせる。
「うわっ!・・・って、名無しさんか」
その言い方に、名無しさんは頬を膨らませた。
「他に誰か来る予定だったんですか?」
「まさか」
凌統は驚きに速く脈打つ鼓動を抑えながら、隣においでと、名無しさんの細い手首を引いた。
名無しさんは素直に凌統の隣に腰を下ろす。
その瞳には疑うような色が浮かんでいた。
「それで、誰の事を考えていたんですか?」
「誰って・・・俺が名無しさんの事以外、考えてると思うのかい?」
「本当に?」
「本当だっての」
こう言う事を訊いて来るから、名無しさんが視線を逸らす理由に心当たりがないのだ。
今は、じっと自分を見詰めて離さない名無しさんに、凌統は顔を寄せて言う。
「何なら、証明してみせようか?」
彼女は嬉しそうに微笑むと、そっと目を閉じて見せた。
最初は触れるだけの口付けを、次は少しだけ長く唇を触れ合わせる。
離れる間際、名無しさんが小さく笑い声を上げた。
「ふふっ・・・」
「ん、何だい?」
「ううん、何でもないです」
何か言いたい事を隠す彼女の様子に、凌統は唇の端を吊り上げる。
「名無しさん、言いたい事があるなら、はっきり言いなよ。じゃないと・・・」
「じゃないと?」
「もう一回、その口、塞いじまうよ?」
凌統はそう言って、今度は体ごと、名無しさんに寄せて行った。
その時の事だ、名無しさんが嫌だと言うように顔を背けて目を逸らし、後退ったのは。
「それ以上・・・近寄らないで下さい」
いつもは黙って離れる所を、今回はご丁寧に言葉まで付け加える彼女に、凌統は眉を顰める。
今日の名無しさんのその態度はちょっと酷いんじゃないかい?
いつまでも、俺が黙ってると思うなよ。
凌統は構わずに名無しさんを追い詰めるように躙り寄って行った。
それに合わせて、名無しさんは後退るが、長椅子の肘掛けに阻まれてしまう。
凌統は肘掛けに腕を伸ばすと、名無しさんを長椅子と自分の間に閉じ込めた。
逃げ場を失くした名無しさんは、膝を抱えて踞るようにして顔を隠す。
「駄目・・・」
「何が」
なるべく、苛立つ感情を抑え、凌統は名無しさんの頭上で問い掛けて言った。
「ねぇ、名無しさん。最近、ちょいちょい避けてないかい?」
答える代わりに、名無しさんの肩がびくりと震える。
やっぱり、避けてたのか。
そうと知って胸に浮かぶのは疑問だ。
口付けを受けてくれるのに、何故、避けるような真似をするのか。
「名無しさん、俺の事、嫌いかい?」
名無しさんが顔を膝に埋めたまま、否定するように首をふるふると振る。
「俺の事、好き?」
「・・・好き」
「じゃあ、何で避けるのさ」
凌統は肘掛けから手を離すと、その手を半ば強引に彼女の顎の下に差し入れ、顔を自分の方に向けさせた。
あの時と逆だなと、思い出しながら見た名無しさんの頬は真っ赤に染まっていて、凌統は目を丸くする。
俺から逃げてる癖に、何で、こんな可愛い顔してんのさ。
「え、っと・・・名無しさん」
と、言ったきり、凌統は黙り込んだ。
何を言えば良いのか分からず、彼女の顎を掴む手から力が抜ける。
名無しさんはその隙に、再び、凌統から顔を背けると両手で隠すように覆った。
「だから近寄らないでって言ったのに・・・」
「いや、よく分かんないんだけど・・・?」
「だって、だって・・・」
名無しさんは意を決して顔を上げると、怒ったような口調で言う。
「凌統様ったら、格好良過ぎるんだもの!」
思いも掛けない彼女の言葉は、忽ち、凌統の頬を真っ赤に染め上げた。
一度でも言葉にしてしまえば、止められないとばかりに、名無しさんは口を開いた勢いで言葉を続ける。
「凌統様が格好良過ぎて、もう無理なんです!少しだけなら大丈夫なんですけど、ずっと見てると胸がどきどきして、苦しくって。だから、だから・・・っ」
「俺を見ないようにしてたって事かい?」
「はい・・・」
頷く名無しさんに、凌統は声を上げて笑い出した。
嫌われた訳じゃなくて良かったと、内心、深く安堵する。
名無しさんは笑い続ける凌統をじろりと睨んだ。
「そんなに笑わなくても・・・」
「ごめん、ごめん」
凌統は何とか笑い声を納め、深呼吸を繰り返して息を整えると、
「悪いけど、こればかりは慣れてもらうしかないね。・・・ほら、名無しさん」
優しく名無しさんの両頬を掴み、笑顔を浮かべて言う。
「俺を見て」
慣れるまで、飽きるまで、嫌になるまで、俺を見て。
「無理、です・・・っ!」
「ほらほら、名無しさん。逃げない逃げない」
ちゃんと俺を見てくれるまで、部屋から出すつもりはないっての。
凌統は無理矢理、その唇を奪おうと、名無しさんに覆い被さった。
その翌日、昨日までとは打って変わって「上機嫌」な凌統の姿を見掛けた陸遜は、何があったのかを覚って嫌味を口にする。
「随分とお楽しみだったようですね」
凌統は得意気に唇の端を吊り上げ、真正面から受けて立って言った。
「まあね、ちょっと寝不足気味だけど」
→あとがき