私には富も名声もいらない
貴女のお名前
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私が心から求めるものは唯一つ。
遠くとは言え、戦闘が未だ続いているにも関わらず、彼女は早くも寛いだ様子で酒を呷っていた。
「随分と気の早い事だね」
天幕に遣って来た郭嘉は、嫌味で言ったつもりはなかったが、彼女は鼻を鳴らして応える。
「勝ち戦だ、酒を飲む以外に遣る事がない」
郭嘉がちらりと動かした視線の先、机の上に広げている地図と駒が、それを物語っていた。
援軍として来たと言うのに、兵たちに無駄足を踏ませてしまったかな。
唇の端に苦笑いを浮かべ、郭嘉は相変わらず、澄ました表情で酒を飲む彼女の向かいの、空いている席に勝手に座った。
一応、この場では郭嘉の方が立場が上になる、本来なら、彼女の言葉遣いは勿論、席に着いたままの態度も褒められたものではないが、今更そんな事でとやかく言う程、浅い付き合いではない。
本当に勿体ないと、郭嘉は目の前の彼女に思う。
武器を持たせれば一騎当千、策を立てさせれば神算鬼謀と言うまでは行かないものの、曹操軍の中では居並ぶ将兵、軍略家と引けを取らない働きを見せる癖に、立身出世に興味がないのか、彼女の立ち位置は未だ下方の将軍職だ。
余りに昇格を拒否するが為に、主君である曹操に呆れた様子で溜め息を吐かれたのも、彼女位だろう。
「お主が出世せねば、下に就く者も出世できぬであろう」
然もありなんと、頷く諸将に囲まれ、逃げ場を失くした彼女が渋々、今の立場に就いたのは既に遠い昔の話だ。
あれから幾年と幾月過ぎても、どれだけの戦場でそれなりの活躍をしても、彼女は今以上の立場に就こうとはしなかった。
一体、何が彼女をそうさせるのか。
それが郭嘉の興味を引くものであれば、今日までの月日の多くを、彼女との付き合いに費やしている。
それでも、さっぱり見当が付かないまま、今日に至るのだが。
大抵の女性を籠絡させて来た郭嘉の興味を引く女性も、彼女位だ。
「所で名無しさん。気が早い次いでに城下に良い店を見付けてね。帰ったら戦勝祝いにどうかな?」
戦場ではない場所で、それぞれの仕事を全うしている時は、時折、仲間を誘って城下に繰り出しては酔い潰れるまで飲む間柄だ、彼女の好みも熟知していた。
名無しさんは唇の端を吊り上げて微笑むと、
「会計は当然、郭嘉持ちだろう?」
「それはどうかな。今回、私の出番はなかったからね」
大した恩賞は期待できないと、はぐらかす郭嘉に声を上げて笑いながら言う。
「そんな事を言ったら、私も何もしていない。一人で空にした酒樽の数なら誇れるが」
そうは言っていても、言葉通りでない事を、郭嘉は承知していた。
立身出世に興味はなくとも、与えられた任務はきっちりと熟すのが名無しさんと言う将だ。
「それじゃあ、今回は二人きりでいこうか。それならば、私の懐も悲鳴を上げないだろうし」
そう言って、郭嘉は若干の含みを忍ばせた視線を名無しさんに投げ掛ける。
二人は、互いに知らない仲ではなかった。
切っ掛けと呼べる大層な出来事はなく、何となくの雰囲気に流され、関係を持った二人は、それからちょくちょく体を重ねている。
巷で見る恋人や夫婦のように愛を囁き合う事はないが、相性は良いのだろう、名無しさんに否はなかった。
「さて、そろそろ報せが来る頃合いだろう。郭嘉殿、私の部下は皆、疲弊している。貴殿の早馬を借りても良いか」
「ああ、勿論」
郭嘉はにっこりと笑顔を浮かべると、静かに席を立って言う。
「一刻も早く、貴女と楽しい夜を過ごしたいからね」
郭嘉程に整った容姿を持つ男に、そう言われて頬を染めないのもまた、彼女位だった。
遠くとは言え、戦闘が未だ続いているにも関わらず、彼女は早くも寛いだ様子で酒を呷っていた。
「随分と気の早い事だね」
天幕に遣って来た郭嘉は、嫌味で言ったつもりはなかったが、彼女は鼻を鳴らして応える。
「勝ち戦だ、酒を飲む以外に遣る事がない」
郭嘉がちらりと動かした視線の先、机の上に広げている地図と駒が、それを物語っていた。
援軍として来たと言うのに、兵たちに無駄足を踏ませてしまったかな。
唇の端に苦笑いを浮かべ、郭嘉は相変わらず、澄ました表情で酒を飲む彼女の向かいの、空いている席に勝手に座った。
一応、この場では郭嘉の方が立場が上になる、本来なら、彼女の言葉遣いは勿論、席に着いたままの態度も褒められたものではないが、今更そんな事でとやかく言う程、浅い付き合いではない。
本当に勿体ないと、郭嘉は目の前の彼女に思う。
武器を持たせれば一騎当千、策を立てさせれば神算鬼謀と言うまでは行かないものの、曹操軍の中では居並ぶ将兵、軍略家と引けを取らない働きを見せる癖に、立身出世に興味がないのか、彼女の立ち位置は未だ下方の将軍職だ。
余りに昇格を拒否するが為に、主君である曹操に呆れた様子で溜め息を吐かれたのも、彼女位だろう。
「お主が出世せねば、下に就く者も出世できぬであろう」
然もありなんと、頷く諸将に囲まれ、逃げ場を失くした彼女が渋々、今の立場に就いたのは既に遠い昔の話だ。
あれから幾年と幾月過ぎても、どれだけの戦場でそれなりの活躍をしても、彼女は今以上の立場に就こうとはしなかった。
一体、何が彼女をそうさせるのか。
それが郭嘉の興味を引くものであれば、今日までの月日の多くを、彼女との付き合いに費やしている。
それでも、さっぱり見当が付かないまま、今日に至るのだが。
大抵の女性を籠絡させて来た郭嘉の興味を引く女性も、彼女位だ。
「所で名無しさん。気が早い次いでに城下に良い店を見付けてね。帰ったら戦勝祝いにどうかな?」
戦場ではない場所で、それぞれの仕事を全うしている時は、時折、仲間を誘って城下に繰り出しては酔い潰れるまで飲む間柄だ、彼女の好みも熟知していた。
名無しさんは唇の端を吊り上げて微笑むと、
「会計は当然、郭嘉持ちだろう?」
「それはどうかな。今回、私の出番はなかったからね」
大した恩賞は期待できないと、はぐらかす郭嘉に声を上げて笑いながら言う。
「そんな事を言ったら、私も何もしていない。一人で空にした酒樽の数なら誇れるが」
そうは言っていても、言葉通りでない事を、郭嘉は承知していた。
立身出世に興味はなくとも、与えられた任務はきっちりと熟すのが名無しさんと言う将だ。
「それじゃあ、今回は二人きりでいこうか。それならば、私の懐も悲鳴を上げないだろうし」
そう言って、郭嘉は若干の含みを忍ばせた視線を名無しさんに投げ掛ける。
二人は、互いに知らない仲ではなかった。
切っ掛けと呼べる大層な出来事はなく、何となくの雰囲気に流され、関係を持った二人は、それからちょくちょく体を重ねている。
巷で見る恋人や夫婦のように愛を囁き合う事はないが、相性は良いのだろう、名無しさんに否はなかった。
「さて、そろそろ報せが来る頃合いだろう。郭嘉殿、私の部下は皆、疲弊している。貴殿の早馬を借りても良いか」
「ああ、勿論」
郭嘉はにっこりと笑顔を浮かべると、静かに席を立って言う。
「一刻も早く、貴女と楽しい夜を過ごしたいからね」
郭嘉程に整った容姿を持つ男に、そう言われて頬を染めないのもまた、彼女位だった。