これ以上言わないで
貴女のお名前
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どっちが一番?
鍛練場に響き渡る、掛け声と武器がぶつかる固い音と、そして、
「甘寧、今日こそ仇を取らせてもらうよ」
「あぁ?・・・ったく、いい加減、しつけぇ野郎だな」
突っ掛かる凌統と、彼を呆れたように睨み付ける甘寧の姿は、今となっては日常茶飯事で、取っ組み合いを始めても誰も止めようとはしなかった。
いや、そもそも、凌統が甘寧に突っ掛かる理由が理由なだけに、他人に口を挟めよう筈も、将の技量的にも止めようがない。
止められるとしたら、彼らよりも上の立場か、腕っぷしに自信がある人物だ。
故に、二人の喧嘩は、偶々、その誰かが通り掛からない限り、或いはどちらかが根を上げるまで終わらないのだ。
凌統は当然ながら、父親の仇を取るつもりで甘寧に殴り掛かる。
甘寧は甘寧で、売られた喧嘩は買うような血の気の多い性格な上、諸々の事情を知った所で素直に負けてやるような男ではない、全力で凌統の体を蹴り返していた。
「いい加減にせんか、二人とも!」
と、幸か不幸か、呂蒙が通り掛かり、その様子を認めた途端、大きな声を上げて二人の間に割って入る。
「止めないで下さいよ、呂蒙殿。今日と言う今日はこいつを絞めないと俺の気が済みません」
「あぁん?それは俺の台詞だ。毎日、毎日飽きもしねぇで突っ掛かってきやがって」
呂蒙の登場で拳が止まったのも束の間、再び、殴り掛かろうとする二人の耳に、追い討ちを掛けるように、孫権の声が飛び込んで来た。
「止めよ、凌統、甘寧」
自分が仕える主の制止の言葉は則ち、命令だ。
流石に逆らえず、凌統は渋々、拳を下げるが、殺気までは押し殺し切れない。
どこにも遣り場のない感情をそのままに、凌統は何とか孫権に向かって礼を執ると、足音を立ててその場を去った。
何故、仇を討たせてもらえないのかと、何度、孫権に詰め寄ったか、その度に、何度となく宥められ、諭された事か、多過ぎて記憶にもない。
その癖、その時に覚えた憤懣は蓄積されていて、凌統は自室に戻る途中で、その苛々を発散させるように壁を思い切り殴り付けた。
「凌統様?」
と、背後から知った声が聞こえて我に返る。
わざわざ振り向かなくても分かる、恋人の、名無しさんの声だ。
鍛練場に居合わせた誰かから、若しくは呂蒙か孫権から聞いて遣って来たのであろう、彼女は水を張った盥と薬箱を持っている。
凌統は答えて振り向こうとして、その動きを止めた。
壁に八つ当たりしてたなんて、みっともないし、多分、酷い顔をしている。
名無しさんは逸らされている視線を気にするでもなく、彼に近寄ると、その腕にそっと触れた。
「凌統様、お部屋に戻りましょう」
彼女に優しい声で促され、凌統は素直に従う。
名無しさんは部屋に着くと、彼を長椅子に座らせ、自らは隣に腰を下ろした。
両手を伸ばし、項垂れる凌統の頬を掴んで無理矢理、自分の方を向かせる。
凌統が気まずそうに視線を合わせて来て、名無しさんはにっこりと微笑んだ。
「やっと目が合いましたね、凌統様」
「・・・ごめん」
小さな声で謝る凌統に、名無しさんは首を振って見せる。
彼の気持ちは、分かるつもりだ。
名無しさんは甘寧に殴られて切れてしまったのであろう、凌統の唇の端に滲んでいる血を、水に浸した布で優しく拭き取った。
「他に怪我をしてる所はありませんか?」
「あんな奴の一撃なんて、知れてるっての」
強がりか、それとも本当に大した事がないのか、そう言われて、名無しさんはそれ以上は問わずにいた。
代わりに、切れた唇の端をなぞって、少しだけ、意地悪く言う。
「これじゃあ、口付けもできませんね」
「試してみるかい?」
と、凌統は名無しさんの手首を掴むと、ゆっくりと顔を近付けて行った。
唇が今にも触れ合いそうな距離で、名無しさんがぽつりと呟く。
「・・・私と、甘寧様とどっちが好き?」
「へっ・・・?」
思わず、凌統は素っ頓狂な声を上げた。
鍛練場に響き渡る、掛け声と武器がぶつかる固い音と、そして、
「甘寧、今日こそ仇を取らせてもらうよ」
「あぁ?・・・ったく、いい加減、しつけぇ野郎だな」
突っ掛かる凌統と、彼を呆れたように睨み付ける甘寧の姿は、今となっては日常茶飯事で、取っ組み合いを始めても誰も止めようとはしなかった。
いや、そもそも、凌統が甘寧に突っ掛かる理由が理由なだけに、他人に口を挟めよう筈も、将の技量的にも止めようがない。
止められるとしたら、彼らよりも上の立場か、腕っぷしに自信がある人物だ。
故に、二人の喧嘩は、偶々、その誰かが通り掛からない限り、或いはどちらかが根を上げるまで終わらないのだ。
凌統は当然ながら、父親の仇を取るつもりで甘寧に殴り掛かる。
甘寧は甘寧で、売られた喧嘩は買うような血の気の多い性格な上、諸々の事情を知った所で素直に負けてやるような男ではない、全力で凌統の体を蹴り返していた。
「いい加減にせんか、二人とも!」
と、幸か不幸か、呂蒙が通り掛かり、その様子を認めた途端、大きな声を上げて二人の間に割って入る。
「止めないで下さいよ、呂蒙殿。今日と言う今日はこいつを絞めないと俺の気が済みません」
「あぁん?それは俺の台詞だ。毎日、毎日飽きもしねぇで突っ掛かってきやがって」
呂蒙の登場で拳が止まったのも束の間、再び、殴り掛かろうとする二人の耳に、追い討ちを掛けるように、孫権の声が飛び込んで来た。
「止めよ、凌統、甘寧」
自分が仕える主の制止の言葉は則ち、命令だ。
流石に逆らえず、凌統は渋々、拳を下げるが、殺気までは押し殺し切れない。
どこにも遣り場のない感情をそのままに、凌統は何とか孫権に向かって礼を執ると、足音を立ててその場を去った。
何故、仇を討たせてもらえないのかと、何度、孫権に詰め寄ったか、その度に、何度となく宥められ、諭された事か、多過ぎて記憶にもない。
その癖、その時に覚えた憤懣は蓄積されていて、凌統は自室に戻る途中で、その苛々を発散させるように壁を思い切り殴り付けた。
「凌統様?」
と、背後から知った声が聞こえて我に返る。
わざわざ振り向かなくても分かる、恋人の、名無しさんの声だ。
鍛練場に居合わせた誰かから、若しくは呂蒙か孫権から聞いて遣って来たのであろう、彼女は水を張った盥と薬箱を持っている。
凌統は答えて振り向こうとして、その動きを止めた。
壁に八つ当たりしてたなんて、みっともないし、多分、酷い顔をしている。
名無しさんは逸らされている視線を気にするでもなく、彼に近寄ると、その腕にそっと触れた。
「凌統様、お部屋に戻りましょう」
彼女に優しい声で促され、凌統は素直に従う。
名無しさんは部屋に着くと、彼を長椅子に座らせ、自らは隣に腰を下ろした。
両手を伸ばし、項垂れる凌統の頬を掴んで無理矢理、自分の方を向かせる。
凌統が気まずそうに視線を合わせて来て、名無しさんはにっこりと微笑んだ。
「やっと目が合いましたね、凌統様」
「・・・ごめん」
小さな声で謝る凌統に、名無しさんは首を振って見せる。
彼の気持ちは、分かるつもりだ。
名無しさんは甘寧に殴られて切れてしまったのであろう、凌統の唇の端に滲んでいる血を、水に浸した布で優しく拭き取った。
「他に怪我をしてる所はありませんか?」
「あんな奴の一撃なんて、知れてるっての」
強がりか、それとも本当に大した事がないのか、そう言われて、名無しさんはそれ以上は問わずにいた。
代わりに、切れた唇の端をなぞって、少しだけ、意地悪く言う。
「これじゃあ、口付けもできませんね」
「試してみるかい?」
と、凌統は名無しさんの手首を掴むと、ゆっくりと顔を近付けて行った。
唇が今にも触れ合いそうな距離で、名無しさんがぽつりと呟く。
「・・・私と、甘寧様とどっちが好き?」
「へっ・・・?」
思わず、凌統は素っ頓狂な声を上げた。