夕映えに
貴女のお名前
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劉禅の前を、名無しさんは澱みなく進む。
「名無しさんは城の中に詳しいのだな」
と、劉禅はその背中に声を掛けた。
一体、どこをどう曲がったのか、さっぱり分からないと言う。
名無しさんは少しだけ振り向くと、得意気に微笑んだ。
「意外と誰にも見付からずに外に出られるんですよ」
それはそれで問題だろうが、城をこっそり抜け出そうとしている今、それはありがたい話だ。
誰かに見付かったら、確実に引き戻される事は容易に想像できた。
「劉禅様、もう直ぐです」
「ふふ・・・楽しみだな」
名無しさんは点心の美味しい店だと言っていた、どんなものがあるのだろう。
夕食前だ、そんなに食べる訳にはいかないが、折角だから、温かいものが食べたい。
供される食事は毒味を介する為に、いつも冷めていて、仕方のない事だと承知していても、劉禅はその事を常に残念に思っていた。
「名無しさん、その店のお勧めは何だろうか」
「断然、春巻きです!熱々ぱりっぱりで、中の餡がとろとろで凄く美味しいんです」
「そうか。それは是非とも食べてみたいな」
そう言葉を交わし、次の角を曲がった所で、二人はぴたりとその歩みを止める。
行く道を阻むように立っている人の姿が目に映り、劉禅は溜め息と共に彼の名を呟いた。
「姜維・・・」
彼は、姜維は二人に向かって一歩を踏み出すと、劉禅を見据え、静かな声で言う。
「お戻り下さい、劉禅様」
肩を落とす劉禅を横目に、名無しさんは割り込んで言った。
「姜維様、少しだけで良いんです。見逃しては貰えないでしょうか」
「名無しさん、貴女の仕業か」
姜維は名無しさんに視線を移すと、彼女を非難するように強く睨み付ける。
「劉禅様をお護りする立場でありながなら、危険な事にお誘いするとは。貴女は一体何を考えているんだ」
静かでありながら、怒気を含んだ姜維の声音に、名無しさんはびくりと肩を震わせた。
本気で怒っていると覚って、名無しさんはそれでも姜維から視線を逸らさない。
「そんなつもりはありません。ただ、少しでも気分転換になればと・・・」
「だからと言って、碌に共を揃えずにお連れするなど。劉禅様に何かあってからでは遅いのだぞ」
姜維に一歩も譲る気配はなく、名無しさんはぎゅっと両の拳を握った。
彼の言う事も分かる、しかし、そうは言っても城下町だ、知った顔も居れば、そんなに危険でもないだろう。
その考えを読んだように、姜維は言葉を続ける。
「間者と言うのはどこに潜んでいるのか分からないものだ。城下と言えども、安心できるものではない」
「でも・・・」
その時は私が劉禅様をお守りする、そう言い掛ける名無しさんの言葉を、姜維は語気荒く、遮った。
「名無しさん、いい加減にしないか!」
流石に堪え切れず、名無しさんが一歩、後退る。
これはいけないと、その遣り取りを見ていた劉禅は、敢えてのんびりとした口調で言った。
「分かった分かった。名無しさん、残念だが姜維の言う通り、素直に戻るとしよう」
名無しさんの手を取り、来た道を戻ろうと踵を返す。
その言葉に、行動に、姜維が納得したのかは分からないが、その場から立ち去ろうとする二人を、彼は追っては来なかった。
「劉禅様・・・」
と、残念そうな表情を浮かべる彼女に、姜維の見えない所で、何も言うなと言う意思を、劉禅は自分の唇の前に人差し指を立てて見せる事で示す。
これ以上、自分が原因で、姜維と名無しさんが傷付け合う所も、傷付く所も見たくはない。
どちらも自分にとって大切な人だ。
「さあ、名無しさん。共に部屋へ戻るとしよう」
劉備はぐいぐいと彼女の手を引き、右へ左へと歩を進める。
先程、城の中に詳しいと名無しさんを褒め、さっぱり分からないと言っておきながら、彼の歩みに迷いはない。
同時に、部屋に向かっているのではない事にも気付き、何らかの意思を感じ取った名無しさんは黙って劉禅に従った。
「あの、劉禅様」
と、名無しさんが声を上げたのは、劉禅が目的地はここだと言うように足を止めたからだった。
劉禅は穏やかな笑顔を浮かべて言う。
「ああ、これは困った。部屋に戻るつもりが、違う所に辿り着いてしまったな」
「名無しさんは城の中に詳しいのだな」
と、劉禅はその背中に声を掛けた。
一体、どこをどう曲がったのか、さっぱり分からないと言う。
名無しさんは少しだけ振り向くと、得意気に微笑んだ。
「意外と誰にも見付からずに外に出られるんですよ」
それはそれで問題だろうが、城をこっそり抜け出そうとしている今、それはありがたい話だ。
誰かに見付かったら、確実に引き戻される事は容易に想像できた。
「劉禅様、もう直ぐです」
「ふふ・・・楽しみだな」
名無しさんは点心の美味しい店だと言っていた、どんなものがあるのだろう。
夕食前だ、そんなに食べる訳にはいかないが、折角だから、温かいものが食べたい。
供される食事は毒味を介する為に、いつも冷めていて、仕方のない事だと承知していても、劉禅はその事を常に残念に思っていた。
「名無しさん、その店のお勧めは何だろうか」
「断然、春巻きです!熱々ぱりっぱりで、中の餡がとろとろで凄く美味しいんです」
「そうか。それは是非とも食べてみたいな」
そう言葉を交わし、次の角を曲がった所で、二人はぴたりとその歩みを止める。
行く道を阻むように立っている人の姿が目に映り、劉禅は溜め息と共に彼の名を呟いた。
「姜維・・・」
彼は、姜維は二人に向かって一歩を踏み出すと、劉禅を見据え、静かな声で言う。
「お戻り下さい、劉禅様」
肩を落とす劉禅を横目に、名無しさんは割り込んで言った。
「姜維様、少しだけで良いんです。見逃しては貰えないでしょうか」
「名無しさん、貴女の仕業か」
姜維は名無しさんに視線を移すと、彼女を非難するように強く睨み付ける。
「劉禅様をお護りする立場でありながなら、危険な事にお誘いするとは。貴女は一体何を考えているんだ」
静かでありながら、怒気を含んだ姜維の声音に、名無しさんはびくりと肩を震わせた。
本気で怒っていると覚って、名無しさんはそれでも姜維から視線を逸らさない。
「そんなつもりはありません。ただ、少しでも気分転換になればと・・・」
「だからと言って、碌に共を揃えずにお連れするなど。劉禅様に何かあってからでは遅いのだぞ」
姜維に一歩も譲る気配はなく、名無しさんはぎゅっと両の拳を握った。
彼の言う事も分かる、しかし、そうは言っても城下町だ、知った顔も居れば、そんなに危険でもないだろう。
その考えを読んだように、姜維は言葉を続ける。
「間者と言うのはどこに潜んでいるのか分からないものだ。城下と言えども、安心できるものではない」
「でも・・・」
その時は私が劉禅様をお守りする、そう言い掛ける名無しさんの言葉を、姜維は語気荒く、遮った。
「名無しさん、いい加減にしないか!」
流石に堪え切れず、名無しさんが一歩、後退る。
これはいけないと、その遣り取りを見ていた劉禅は、敢えてのんびりとした口調で言った。
「分かった分かった。名無しさん、残念だが姜維の言う通り、素直に戻るとしよう」
名無しさんの手を取り、来た道を戻ろうと踵を返す。
その言葉に、行動に、姜維が納得したのかは分からないが、その場から立ち去ろうとする二人を、彼は追っては来なかった。
「劉禅様・・・」
と、残念そうな表情を浮かべる彼女に、姜維の見えない所で、何も言うなと言う意思を、劉禅は自分の唇の前に人差し指を立てて見せる事で示す。
これ以上、自分が原因で、姜維と名無しさんが傷付け合う所も、傷付く所も見たくはない。
どちらも自分にとって大切な人だ。
「さあ、名無しさん。共に部屋へ戻るとしよう」
劉備はぐいぐいと彼女の手を引き、右へ左へと歩を進める。
先程、城の中に詳しいと名無しさんを褒め、さっぱり分からないと言っておきながら、彼の歩みに迷いはない。
同時に、部屋に向かっているのではない事にも気付き、何らかの意思を感じ取った名無しさんは黙って劉禅に従った。
「あの、劉禅様」
と、名無しさんが声を上げたのは、劉禅が目的地はここだと言うように足を止めたからだった。
劉禅は穏やかな笑顔を浮かべて言う。
「ああ、これは困った。部屋に戻るつもりが、違う所に辿り着いてしまったな」