初恋
貴女のお名前
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覚えていますか。
新しく専属の女官として配属された彼女と初めて顔を合わせた時、どこかで会っただろうかと首を傾げた事を覚えている。
その感覚は暫く続き、彼女が仕事に慣れた頃を見計らって、実際に尋ねてみた事もあった。
「名無しさん、気を悪くしないで聞いて欲しいのだが・・・俺と以前、どこかで会った事はないか?」
それに対し、名無しさんは肯定も否定もせず、はぐらかすように質問に質問で返す。
「それは口説いていらっしゃるのですか?」
「いや、そんなつもりは・・・」
言われてみれば、口説いているようにも聞こえる言葉に、呂蒙は慌てる様子を見せた。
当たらずとも遠からず、そんなつもりはないと言い掛けておきながら、最近、呂蒙は彼女を女官としてだけではなく、女性として意識し始めている。
どこか未だあどけなさを残した姿は可愛らしく、だからと言って、中身まで幼い訳ではなかった。
仕事振りは言うまでもなく、言葉遣いや所作もきちんとしたもので、中々に好ましい。
そう言えば、彼女は元々は姫様付きの女官だったかと思い出した。
呂蒙が言う姫様は、孫尚香を指す。
孫尚香が自他共に認めるお転婆娘だとしても、女官までも同じように振る舞える筈がなく、寧ろ、他より厳しかった事だろう。
そうであるなら、恐らく、自分よりも遥かに若い陸遜と同じ位の年齢であろう名無しさんの、大人びた振る舞いにも納得がいった。
同時に、何度か擦れ違った事もある筈、初めて会った時に、彼女に見覚えがあると感じたのは、それに起因するものか。
そう考えると、何故、名無しさんは異動になったのか、新たな疑問が呂蒙の脳裏を掠めた。
孫尚香の周囲は中でも華やかで、女官たちの憧れだ。
一度、配属されたら、余程の事がない限り、変わる事もない。
何か、問題でも起こしたのだろうか・・・。
呂蒙はそこまで考えて、目の前の名無しさんが首を傾げている事に気付く。
会話を途中で放り出し、考え込む様子を見せる呂蒙を名無しさんがその大きな瞳で見上げていた。
呂蒙は何でもないと首を振ると、
「済まん、気にせんでくれ」
そう言って、以来、名無しさんにそれを尋ねる事はなかった。
それから幾月か過ぎた頃の事、朝議の後で、呂蒙は孫尚香に呼び止められた。
「どう?名無しさんは」
彼女が異動先で上手く遣っているかを聞きたいのだろう、そう思って呂蒙は答えて言う。
「良い働きをします」
事実、名無しさんは事の大小に関わらず、期待以上に良い働きを見せていた。
できるものなら、ずっと居て欲しいと思う。
それを聞いて、孫尚香は嬉しそうに微笑んだ。
「そうなの!名無しさんって、本当に働き者で良い子なのよ。私も手放したくなかったわ」
「え・・・?」
孫尚香の言葉に、呂蒙は目を丸くする。
手放したくなかった、確かにそう聞こえた。
ならば、何故、名無しさんは異動になったのか、今まで忘れていた疑問が甦る。
呂蒙の疑問を他所に、孫尚香は続けて言った。
「でも、仕方ないわよね。名無しさんの希望だもの」
「名無しさんの、希望ですか?」
孫尚香はそこで初めて、余計な事を口走ったかも、と口元を隠すように手で覆う。
「・・・聞こえちゃった?」
「確と、この耳に」
呂蒙が力強く頷き、孫尚香は溜め息を吐いた。
名無しさんが呂蒙に話していない事を自分から伝えるのは気が引けるが、聞こえてしまったのなら仕方ない。
「詳しい事は私も知らないわ。でも、名無しさんが呂蒙の下で働きたいって言うから・・・」
決して、孫尚香の下で働くのが不服なのではないと態々前置きをして、名無しさんは言ったと話す。
「どうしても、呂蒙様の所で働きたいのです。姫様、お願いします」
気付けば、孫尚香は名無しさんのその真剣な様子に頷いていた。
「私、てっきり二人は知り合いだと思ってたんだけど、その様子だと違うみたいね。そう言われる理由に心当たりはないの?」
「はい、さっぱり思い当たらず・・・」
もう一つの疑問も甦り、呂蒙は益々、混乱して頭を捻る。
矢張、名無しさんと俺はどこかで会っているのではないか。
会っているからこそ、希望したのではないか。
一体、いつ、どこで名無しさんと会ったのだ。
思い出そうにも思い出せず、呂蒙は考え込んで眉間に皺を寄せていた。
「気になるなら、本人に直接、聞いてみれば良いじゃない」
孫尚香はけろりと、至極真っ当な事を言って退ける。
「それは、そうですが・・・」
前回ははぐらかされたのだ、再び、尋ねた所で素直に答えてくれるだろうか。
新しく専属の女官として配属された彼女と初めて顔を合わせた時、どこかで会っただろうかと首を傾げた事を覚えている。
その感覚は暫く続き、彼女が仕事に慣れた頃を見計らって、実際に尋ねてみた事もあった。
「名無しさん、気を悪くしないで聞いて欲しいのだが・・・俺と以前、どこかで会った事はないか?」
それに対し、名無しさんは肯定も否定もせず、はぐらかすように質問に質問で返す。
「それは口説いていらっしゃるのですか?」
「いや、そんなつもりは・・・」
言われてみれば、口説いているようにも聞こえる言葉に、呂蒙は慌てる様子を見せた。
当たらずとも遠からず、そんなつもりはないと言い掛けておきながら、最近、呂蒙は彼女を女官としてだけではなく、女性として意識し始めている。
どこか未だあどけなさを残した姿は可愛らしく、だからと言って、中身まで幼い訳ではなかった。
仕事振りは言うまでもなく、言葉遣いや所作もきちんとしたもので、中々に好ましい。
そう言えば、彼女は元々は姫様付きの女官だったかと思い出した。
呂蒙が言う姫様は、孫尚香を指す。
孫尚香が自他共に認めるお転婆娘だとしても、女官までも同じように振る舞える筈がなく、寧ろ、他より厳しかった事だろう。
そうであるなら、恐らく、自分よりも遥かに若い陸遜と同じ位の年齢であろう名無しさんの、大人びた振る舞いにも納得がいった。
同時に、何度か擦れ違った事もある筈、初めて会った時に、彼女に見覚えがあると感じたのは、それに起因するものか。
そう考えると、何故、名無しさんは異動になったのか、新たな疑問が呂蒙の脳裏を掠めた。
孫尚香の周囲は中でも華やかで、女官たちの憧れだ。
一度、配属されたら、余程の事がない限り、変わる事もない。
何か、問題でも起こしたのだろうか・・・。
呂蒙はそこまで考えて、目の前の名無しさんが首を傾げている事に気付く。
会話を途中で放り出し、考え込む様子を見せる呂蒙を名無しさんがその大きな瞳で見上げていた。
呂蒙は何でもないと首を振ると、
「済まん、気にせんでくれ」
そう言って、以来、名無しさんにそれを尋ねる事はなかった。
それから幾月か過ぎた頃の事、朝議の後で、呂蒙は孫尚香に呼び止められた。
「どう?名無しさんは」
彼女が異動先で上手く遣っているかを聞きたいのだろう、そう思って呂蒙は答えて言う。
「良い働きをします」
事実、名無しさんは事の大小に関わらず、期待以上に良い働きを見せていた。
できるものなら、ずっと居て欲しいと思う。
それを聞いて、孫尚香は嬉しそうに微笑んだ。
「そうなの!名無しさんって、本当に働き者で良い子なのよ。私も手放したくなかったわ」
「え・・・?」
孫尚香の言葉に、呂蒙は目を丸くする。
手放したくなかった、確かにそう聞こえた。
ならば、何故、名無しさんは異動になったのか、今まで忘れていた疑問が甦る。
呂蒙の疑問を他所に、孫尚香は続けて言った。
「でも、仕方ないわよね。名無しさんの希望だもの」
「名無しさんの、希望ですか?」
孫尚香はそこで初めて、余計な事を口走ったかも、と口元を隠すように手で覆う。
「・・・聞こえちゃった?」
「確と、この耳に」
呂蒙が力強く頷き、孫尚香は溜め息を吐いた。
名無しさんが呂蒙に話していない事を自分から伝えるのは気が引けるが、聞こえてしまったのなら仕方ない。
「詳しい事は私も知らないわ。でも、名無しさんが呂蒙の下で働きたいって言うから・・・」
決して、孫尚香の下で働くのが不服なのではないと態々前置きをして、名無しさんは言ったと話す。
「どうしても、呂蒙様の所で働きたいのです。姫様、お願いします」
気付けば、孫尚香は名無しさんのその真剣な様子に頷いていた。
「私、てっきり二人は知り合いだと思ってたんだけど、その様子だと違うみたいね。そう言われる理由に心当たりはないの?」
「はい、さっぱり思い当たらず・・・」
もう一つの疑問も甦り、呂蒙は益々、混乱して頭を捻る。
矢張、名無しさんと俺はどこかで会っているのではないか。
会っているからこそ、希望したのではないか。
一体、いつ、どこで名無しさんと会ったのだ。
思い出そうにも思い出せず、呂蒙は考え込んで眉間に皺を寄せていた。
「気になるなら、本人に直接、聞いてみれば良いじゃない」
孫尚香はけろりと、至極真っ当な事を言って退ける。
「それは、そうですが・・・」
前回ははぐらかされたのだ、再び、尋ねた所で素直に答えてくれるだろうか。