傷ついた心
貴女のお名前
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どうか、大切にして下さい。
廊下から派手に転ぶ音がして、間を置かず、何かが割れる音が聞こえた。
何事かと、机に向かっていた荀彧が筆を置き、廊下へ顔を出して見れば、丁度、女性が立ち上がる所だった。
彼女の傍には盆と割れた茶碗が転がっていて、運んでいる途中に転んでしまい、その拍子に盆が手を離れ、茶碗が落ちて割れたのだと分かる。
荀彧は慌てて彼女に駆け寄ると、手を差し出した。
「名無しさん!大丈夫ですか?」
「・・・転んだ」
名無しさんと呼ばれた女性は、短く答え、差し出された荀彧の手ではなく、割れてしまった茶碗に手を伸ばす。
「名無しさん、素手で掴んでは怪我をします」
と、荀彧は彼女の行動を制止して口を開くが時既に遅く、名無しさんは散らばった破片を無造作に拾い集めた。
「お茶、なくなった」
両手に集めた欠片を見せて寄越す名無しさんに、荀彧は溜め息を吐く。
素手で集めていたが為に、名無しさんの掌には血が滲んでいた。
「・・・そんな事より、早く手当てをしましょう」
そう云われて、名無しさんは首を傾げた。
「どうして?これ位、平気」
「平気って・・・全く、貴女と云う人は。兎に角、私の部屋に入って下さい」
心底、不思議がる名無しさんを、荀彧は半ば強引に部屋へ引き入れる。
彼女を長椅子に座らせ、奥から薬箱を持って来ると隣に並んで腰を下ろした。
両手の欠片を丁寧に取り除き、傷口を優しく拭き取っていく荀彧の様子を窺うように見て、名無しさんはぽつりと呟く。
「・・・荀彧様、怒ってる」
「怒っていませんよ」
「嘘、怒ってる。・・・お茶を駄目にしたから」
荀彧は微笑み、名無しさんの掌に軟膏を塗りながら云った。
「それについては本当に怒っていませんが、そうですね・・・怒っているとしたら、素手で割れたものに触った事に怒っています。怪我をする事は分かっていたでしょう」
そう云って、荀彧は彼女の手を優しく包む。
柔らかく、小さな名無しさんの手。
掌の真新しい傷口の他に、今は塞がった、古い傷跡が所々に見て取れた。
「名無しさんは怪我に慣れ過ぎです。もう少し、自分の体を大切にして下さい」
「それ、この前も云われたけど・・・私にはよく分からない」
名無しさんは困ったように形の良い眉を寄せ、首を傾ける。
「怪我なんて、舐めておけば治るんじゃないの?」
今度は荀彧が困ったように微笑んだ。
具合次第では、適切な処置と治療を施さなければ、最悪の場合、死に至る事もあると云うのに、名無しさんは怪我をする事に無頓着だ。
いや、そもそも彼女は根本的に自身について無頓着だった。
体つきは立派な女性だが、彼女の振る舞いは子供のものと大差ない。
誰もそれらを教える事がなかったのだろうと思うと、荀彧は初めて彼女と言葉を交わした時の事を思い出した。
荀彧が名無しさんと初めて会ったのは、数ヶ月前、彼が軍師として従軍していた時の事だ。
荀彧の出番など殆どないような、実際、軍師として仕事をする事がないままに終結した。
「この兵力で曹魏に勝てると思っていたのでしょうか」
と、荀彧が半分呆れ、半分感心するのも無理はない。
どこぞの、名も知らぬ役人だか領主だかが何を思ったのか、曹魏に反旗を翻した事が発端だが、軍と云っても烏合の衆、戦と呼べる体裁も成していなかった。
早々に首謀者は討ち取られ、そうと知った部下たちは、ある者はそそくさと投降し、ある者は狼狽している間に曹魏の兵によって捕縛されていった。
「ふん、つまらん奴の考える事など、所詮、この程度よ」
軍を率いて来た夏侯惇も、退屈そうに云う。
「長居は無用だ、さっさと帰るぞ」
「そうですね」
と、二人が足元に転がる、事切れた首謀者の体に背を向けた、その時、
「貴方たちがこの人を殺したの?」
不意に、近くで声が聞こえ、荀彧と夏侯惇は咄嗟に武器を構えた。
いつの間に、こんなに近くまでやって来ていたのか、声の主との距離は数十歩程しか開いていない。
余程の手練れだろう、声を掛けられるまで二人とも気配すら感じていなかった。
その声の主、この人物こそが名無しさんなのだが、この時の彼女に殺気はなく、首謀者の体に一瞥をくれると、
「死んだら、終わり。もう、これも要らない」
ぽいっと手に持っていた塊を二人に向かって投げて寄越した。
鈍い音を立てて二人の元へ転がって来たそれが人の首で、一目で曹魏の兵だと分かり、夏侯惇は低い声で言葉を絞り出す。
「・・・お前がやったのか」
返答に因っては女でも容赦なく斬り捨て兼ねない夏侯惇の気迫に、彼女は表情一つ変えず、淡々と答える。
「そう。でも、要らない。私の仕事は終わったから」
荀彧も、構えを解かずに云った。
「仕事・・・ですか」
「そう。その人に雇われてた。その人の命を狙う人を殺すのが私の仕事。でも、その人、死んだから終わり」
彼女は、名無しさんはそう云って、首を傾げると、
「未だ報酬、貰ってないのに。これからどうしよう」
と、見当外れな言葉を口にした。
荀彧と夏侯惇は呆気に取られ、互いに顔を見合わせる。
何だ、この変な女は、と夏侯惇の目が云っていた。
「・・・どうする、荀彧」
「どうすると仰られても・・・」
荀彧は構えていた武器を下ろすと、未だ首を傾げている彼女に視線を向ける。
首謀者さえ討ち取ってしまえば、それ以上を必要としないのは、こちらも同じだ。
「・・・貴女のお名前は何と仰るのですか」
「名無しさん」
「では、名無しさん殿。私たちと戦う意思がないのなら投降して下さい」
「それは、今度は貴方が私を雇うと云う事?」
名無しさんは反対側に首を傾げた。
荀彧は溜め息混じりに答えて云う。
「・・・そう取って頂いても構いません」
「分かった。そうする」
荀彧は素直に頷いた名無しさんを保護し、投降兵、捕縛した兵共々、本陣へと連れ帰った。
夜になって細やかながら、勝利の宴が開かれ、その片隅で難しい顔で酒を傾けている荀彧に、夏侯惇が声を掛ける。
「荀彧、どうするつもりだ」
何が、と問うまでもなく、彼女の事だと察して荀彧は問い返した。
「どうしましょうか」
「何も考えていなかったのか」
「あの場ではああ云う他に思い付かなかったので・・・」
ほとほと困り果てている、荀彧は何度目か分からない溜め息を吐く。
夏侯惇はふむ、と顎に手を宛てて考えると、
「いっそ、お前の護衛にどうだ」
と、云った。
「私の・・・護衛にですか?」
「ああ、あの腕前、捨てるには惜しい」
夏侯惇は彼女の様子を思い出して言葉を続ける。
声を掛けられるまで気付けなかった、あの気配の消し様。
投げて寄越した首の、躊躇いのない切り口。
「使い方次第では役に立つだろう」
「そう、でしょうか・・・」
荀彧は曖昧に返事をすると、視線を遠くにやった。
確かに、夏侯惇の云う事に一理はあるだろう、しかし、本当にそうだろうかと、荀彧は思う。
何か、言葉では表せない何かが、荀彧の胸に引っ掛かっていた。
「・・・取り敢えず、もう一度、彼女と話してみます」
荀彧は夏侯惇に一礼して、その場を後にすると、彼女の居る天幕に向かった。
一応、女性だからと、他の投降兵や捕縛兵とは場所を分け、見張りを置いている。
とは云え、夏侯惇の云う通り、彼女がその気になれば見張りなど、ただの飾りに過ぎないだろう。
荀彧は天幕の入り口に立つ彼らが無事である事に、内心、安堵した。
「名無しさん殿、入ります」
外から一声掛けて天幕の布を引き上げる。
名無しさんは大人しく筵の上に座ってぼんやりしていた。
「名無しさん殿、大丈夫ですか?」
「何が?」
と、首を傾げる。
その様子に、質問をする時に首を傾げるのは彼女の癖なのだろうかと、どうでも良い事が荀彧の頭を過る。
「怪我をしていたでしょう。軍には男性しか居ませんから、近くの村の女性に来て頂いていた筈ですが」
「ああ、うん。来た。もう帰った。・・・あの人たちが来たのは、貴方がそう云ったから?」
「え?ええ・・・そうですね」
「分かった」
名無しさんは徐に立ち上がると、自らの腰紐に手を伸ばし、衣服を脱ぎ始めた。
微かな衣擦れの音と同時に名無しさんの裸体が目に映り、荀彧は慌てて顔を逸らしながら声を張り上げる。
「えっ!?ちょっ・・・何をしているんですか!?」
「何事ですか!荀彧殿!」
尋常ではない荀彧の大きな声を聞いて、見張りの兵たちが天幕の中へと飛び込んで来た。
兵たちにとっては至極当然の行動だったが、荀彧はその事にも驚き慌て、彼らの視界を遮って名無しさんの体の前に立ち、大声で云う。
「貴方たちは出て行って下さい!名無しさん殿は服を着て!早く!」
裸の名無しさんと、酷く狼狽する荀彧は兵たちの目にどう映ったのか。
訝しみ、探るような視線を向けられながら兵たちが出て行った後で、荀彧はぐったりと肩を落とした。
こんなに大きな声を張り上げたのは初めてだ。
廊下から派手に転ぶ音がして、間を置かず、何かが割れる音が聞こえた。
何事かと、机に向かっていた荀彧が筆を置き、廊下へ顔を出して見れば、丁度、女性が立ち上がる所だった。
彼女の傍には盆と割れた茶碗が転がっていて、運んでいる途中に転んでしまい、その拍子に盆が手を離れ、茶碗が落ちて割れたのだと分かる。
荀彧は慌てて彼女に駆け寄ると、手を差し出した。
「名無しさん!大丈夫ですか?」
「・・・転んだ」
名無しさんと呼ばれた女性は、短く答え、差し出された荀彧の手ではなく、割れてしまった茶碗に手を伸ばす。
「名無しさん、素手で掴んでは怪我をします」
と、荀彧は彼女の行動を制止して口を開くが時既に遅く、名無しさんは散らばった破片を無造作に拾い集めた。
「お茶、なくなった」
両手に集めた欠片を見せて寄越す名無しさんに、荀彧は溜め息を吐く。
素手で集めていたが為に、名無しさんの掌には血が滲んでいた。
「・・・そんな事より、早く手当てをしましょう」
そう云われて、名無しさんは首を傾げた。
「どうして?これ位、平気」
「平気って・・・全く、貴女と云う人は。兎に角、私の部屋に入って下さい」
心底、不思議がる名無しさんを、荀彧は半ば強引に部屋へ引き入れる。
彼女を長椅子に座らせ、奥から薬箱を持って来ると隣に並んで腰を下ろした。
両手の欠片を丁寧に取り除き、傷口を優しく拭き取っていく荀彧の様子を窺うように見て、名無しさんはぽつりと呟く。
「・・・荀彧様、怒ってる」
「怒っていませんよ」
「嘘、怒ってる。・・・お茶を駄目にしたから」
荀彧は微笑み、名無しさんの掌に軟膏を塗りながら云った。
「それについては本当に怒っていませんが、そうですね・・・怒っているとしたら、素手で割れたものに触った事に怒っています。怪我をする事は分かっていたでしょう」
そう云って、荀彧は彼女の手を優しく包む。
柔らかく、小さな名無しさんの手。
掌の真新しい傷口の他に、今は塞がった、古い傷跡が所々に見て取れた。
「名無しさんは怪我に慣れ過ぎです。もう少し、自分の体を大切にして下さい」
「それ、この前も云われたけど・・・私にはよく分からない」
名無しさんは困ったように形の良い眉を寄せ、首を傾ける。
「怪我なんて、舐めておけば治るんじゃないの?」
今度は荀彧が困ったように微笑んだ。
具合次第では、適切な処置と治療を施さなければ、最悪の場合、死に至る事もあると云うのに、名無しさんは怪我をする事に無頓着だ。
いや、そもそも彼女は根本的に自身について無頓着だった。
体つきは立派な女性だが、彼女の振る舞いは子供のものと大差ない。
誰もそれらを教える事がなかったのだろうと思うと、荀彧は初めて彼女と言葉を交わした時の事を思い出した。
荀彧が名無しさんと初めて会ったのは、数ヶ月前、彼が軍師として従軍していた時の事だ。
荀彧の出番など殆どないような、実際、軍師として仕事をする事がないままに終結した。
「この兵力で曹魏に勝てると思っていたのでしょうか」
と、荀彧が半分呆れ、半分感心するのも無理はない。
どこぞの、名も知らぬ役人だか領主だかが何を思ったのか、曹魏に反旗を翻した事が発端だが、軍と云っても烏合の衆、戦と呼べる体裁も成していなかった。
早々に首謀者は討ち取られ、そうと知った部下たちは、ある者はそそくさと投降し、ある者は狼狽している間に曹魏の兵によって捕縛されていった。
「ふん、つまらん奴の考える事など、所詮、この程度よ」
軍を率いて来た夏侯惇も、退屈そうに云う。
「長居は無用だ、さっさと帰るぞ」
「そうですね」
と、二人が足元に転がる、事切れた首謀者の体に背を向けた、その時、
「貴方たちがこの人を殺したの?」
不意に、近くで声が聞こえ、荀彧と夏侯惇は咄嗟に武器を構えた。
いつの間に、こんなに近くまでやって来ていたのか、声の主との距離は数十歩程しか開いていない。
余程の手練れだろう、声を掛けられるまで二人とも気配すら感じていなかった。
その声の主、この人物こそが名無しさんなのだが、この時の彼女に殺気はなく、首謀者の体に一瞥をくれると、
「死んだら、終わり。もう、これも要らない」
ぽいっと手に持っていた塊を二人に向かって投げて寄越した。
鈍い音を立てて二人の元へ転がって来たそれが人の首で、一目で曹魏の兵だと分かり、夏侯惇は低い声で言葉を絞り出す。
「・・・お前がやったのか」
返答に因っては女でも容赦なく斬り捨て兼ねない夏侯惇の気迫に、彼女は表情一つ変えず、淡々と答える。
「そう。でも、要らない。私の仕事は終わったから」
荀彧も、構えを解かずに云った。
「仕事・・・ですか」
「そう。その人に雇われてた。その人の命を狙う人を殺すのが私の仕事。でも、その人、死んだから終わり」
彼女は、名無しさんはそう云って、首を傾げると、
「未だ報酬、貰ってないのに。これからどうしよう」
と、見当外れな言葉を口にした。
荀彧と夏侯惇は呆気に取られ、互いに顔を見合わせる。
何だ、この変な女は、と夏侯惇の目が云っていた。
「・・・どうする、荀彧」
「どうすると仰られても・・・」
荀彧は構えていた武器を下ろすと、未だ首を傾げている彼女に視線を向ける。
首謀者さえ討ち取ってしまえば、それ以上を必要としないのは、こちらも同じだ。
「・・・貴女のお名前は何と仰るのですか」
「名無しさん」
「では、名無しさん殿。私たちと戦う意思がないのなら投降して下さい」
「それは、今度は貴方が私を雇うと云う事?」
名無しさんは反対側に首を傾げた。
荀彧は溜め息混じりに答えて云う。
「・・・そう取って頂いても構いません」
「分かった。そうする」
荀彧は素直に頷いた名無しさんを保護し、投降兵、捕縛した兵共々、本陣へと連れ帰った。
夜になって細やかながら、勝利の宴が開かれ、その片隅で難しい顔で酒を傾けている荀彧に、夏侯惇が声を掛ける。
「荀彧、どうするつもりだ」
何が、と問うまでもなく、彼女の事だと察して荀彧は問い返した。
「どうしましょうか」
「何も考えていなかったのか」
「あの場ではああ云う他に思い付かなかったので・・・」
ほとほと困り果てている、荀彧は何度目か分からない溜め息を吐く。
夏侯惇はふむ、と顎に手を宛てて考えると、
「いっそ、お前の護衛にどうだ」
と、云った。
「私の・・・護衛にですか?」
「ああ、あの腕前、捨てるには惜しい」
夏侯惇は彼女の様子を思い出して言葉を続ける。
声を掛けられるまで気付けなかった、あの気配の消し様。
投げて寄越した首の、躊躇いのない切り口。
「使い方次第では役に立つだろう」
「そう、でしょうか・・・」
荀彧は曖昧に返事をすると、視線を遠くにやった。
確かに、夏侯惇の云う事に一理はあるだろう、しかし、本当にそうだろうかと、荀彧は思う。
何か、言葉では表せない何かが、荀彧の胸に引っ掛かっていた。
「・・・取り敢えず、もう一度、彼女と話してみます」
荀彧は夏侯惇に一礼して、その場を後にすると、彼女の居る天幕に向かった。
一応、女性だからと、他の投降兵や捕縛兵とは場所を分け、見張りを置いている。
とは云え、夏侯惇の云う通り、彼女がその気になれば見張りなど、ただの飾りに過ぎないだろう。
荀彧は天幕の入り口に立つ彼らが無事である事に、内心、安堵した。
「名無しさん殿、入ります」
外から一声掛けて天幕の布を引き上げる。
名無しさんは大人しく筵の上に座ってぼんやりしていた。
「名無しさん殿、大丈夫ですか?」
「何が?」
と、首を傾げる。
その様子に、質問をする時に首を傾げるのは彼女の癖なのだろうかと、どうでも良い事が荀彧の頭を過る。
「怪我をしていたでしょう。軍には男性しか居ませんから、近くの村の女性に来て頂いていた筈ですが」
「ああ、うん。来た。もう帰った。・・・あの人たちが来たのは、貴方がそう云ったから?」
「え?ええ・・・そうですね」
「分かった」
名無しさんは徐に立ち上がると、自らの腰紐に手を伸ばし、衣服を脱ぎ始めた。
微かな衣擦れの音と同時に名無しさんの裸体が目に映り、荀彧は慌てて顔を逸らしながら声を張り上げる。
「えっ!?ちょっ・・・何をしているんですか!?」
「何事ですか!荀彧殿!」
尋常ではない荀彧の大きな声を聞いて、見張りの兵たちが天幕の中へと飛び込んで来た。
兵たちにとっては至極当然の行動だったが、荀彧はその事にも驚き慌て、彼らの視界を遮って名無しさんの体の前に立ち、大声で云う。
「貴方たちは出て行って下さい!名無しさん殿は服を着て!早く!」
裸の名無しさんと、酷く狼狽する荀彧は兵たちの目にどう映ったのか。
訝しみ、探るような視線を向けられながら兵たちが出て行った後で、荀彧はぐったりと肩を落とした。
こんなに大きな声を張り上げたのは初めてだ。