私を喜ばせたいとお望みなら
貴女のお名前
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楽しかった、そう云おうとして、名無しさんは口ごもった。
楽しかったって答えなきゃ、徐晃様を傷付けちゃう・・・でも、でも。
「名無しさん?」
返事を躊躇っていると、頭上から、戸惑うような声で名を呼ばれる。
続けて、おろおろとする気配が伝わって来て、名無しさんはきゅっと唇を結んで俯いた。
楽しかったと云ってくれるだろうと期待していた徐晃は、黙って俯く彼女の様子を窺う。
「その、何かお気に召さなかったでござろうか」
名無しさんは俯いたまま、ふるふると首を振った。
「楽しかった、です・・・でも、何だか、他の人と出掛けてるみたいな感じがして・・・」
小さな声で呟くように、名無しさんはぽつりぽつりと云う。
いつもは、一番最初に鍛冶屋に行って、お喋りしながらお昼ごはんの順番を待って、それから、意味もなくぶらぶらして終わるのに、今日はそれが全然なかった。
「いつもの徐晃様らしくなくて・・・少し、寂しかったです」
徐晃はそれを聞いて愕然とする。
まさか、良かれと思ってしていた事が、裏目に出てとは。
そんなつもりはなかったとは云え、名無しさんに寂しい思いをさせてしまった。
「それは・・・申し訳ない事をした」
徐晃は項垂れ、沈んだ声で言葉を続ける。
「ご存知の通り、拙者は武骨故、名無しさんに楽しんで頂けているか、常々不安に思っており申した」
毎回、同じ道程で、自分は何とも思わないが、名無しさんは退屈ではないだろうか。
だから今回、二人で出掛ける前に、どうしたら名無しさんに喜んでもらえるか、他の人に助言を求めていた。
徐晃は徐晃なりに、彼女を喜ばせようと、楽しませようとしていたのだ。
「それが却って名無しさんにそのような思いをさせてしまったとは・・・知らぬ事とは云え、心からお詫び申し上げる」
「いいえ、私の方こそ・・・」
名無しさんはぱっと顔を上げると、徐晃の袖口を引いた。
「ごめんなさい、徐晃様のお気持ちも知らないで」
そうと知れば、らしくない彼の行動にも納得できた。
でも、知っていて下さったら嬉しい、と名無しさんは続けて云う。
鍛冶屋で職人さんたちと楽しげにお話する徐晃様を見ているのが好き。
順番を待ちながら話をしている時間が好き。
宛てもなく、隣に並んで歩くのが好き。
いつも同じで良いの、同じが良いの。
「私を喜ばせたいとお望みなら」
いつもの徐晃様でいて下さい。
名無しさんは頬を染め、甘えるように上目遣いで徐晃を見詰めた。
「そんな徐晃様が・・・大好きだから」
「名無しさん・・・」
「だから・・・いつも通りで、お願いします」
今日はいつもと違う一日だったけれど、別れ際はいつもと同じが良い。
そう云って、徐晃に向かって顔を僅かに寄せて目を閉じる。
名無しさんが望んでいるのは、いつもと変わらない、二人で出掛けた後の口付け。
徐晃は屈み込むと、そっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
→あとがき
楽しかったって答えなきゃ、徐晃様を傷付けちゃう・・・でも、でも。
「名無しさん?」
返事を躊躇っていると、頭上から、戸惑うような声で名を呼ばれる。
続けて、おろおろとする気配が伝わって来て、名無しさんはきゅっと唇を結んで俯いた。
楽しかったと云ってくれるだろうと期待していた徐晃は、黙って俯く彼女の様子を窺う。
「その、何かお気に召さなかったでござろうか」
名無しさんは俯いたまま、ふるふると首を振った。
「楽しかった、です・・・でも、何だか、他の人と出掛けてるみたいな感じがして・・・」
小さな声で呟くように、名無しさんはぽつりぽつりと云う。
いつもは、一番最初に鍛冶屋に行って、お喋りしながらお昼ごはんの順番を待って、それから、意味もなくぶらぶらして終わるのに、今日はそれが全然なかった。
「いつもの徐晃様らしくなくて・・・少し、寂しかったです」
徐晃はそれを聞いて愕然とする。
まさか、良かれと思ってしていた事が、裏目に出てとは。
そんなつもりはなかったとは云え、名無しさんに寂しい思いをさせてしまった。
「それは・・・申し訳ない事をした」
徐晃は項垂れ、沈んだ声で言葉を続ける。
「ご存知の通り、拙者は武骨故、名無しさんに楽しんで頂けているか、常々不安に思っており申した」
毎回、同じ道程で、自分は何とも思わないが、名無しさんは退屈ではないだろうか。
だから今回、二人で出掛ける前に、どうしたら名無しさんに喜んでもらえるか、他の人に助言を求めていた。
徐晃は徐晃なりに、彼女を喜ばせようと、楽しませようとしていたのだ。
「それが却って名無しさんにそのような思いをさせてしまったとは・・・知らぬ事とは云え、心からお詫び申し上げる」
「いいえ、私の方こそ・・・」
名無しさんはぱっと顔を上げると、徐晃の袖口を引いた。
「ごめんなさい、徐晃様のお気持ちも知らないで」
そうと知れば、らしくない彼の行動にも納得できた。
でも、知っていて下さったら嬉しい、と名無しさんは続けて云う。
鍛冶屋で職人さんたちと楽しげにお話する徐晃様を見ているのが好き。
順番を待ちながら話をしている時間が好き。
宛てもなく、隣に並んで歩くのが好き。
いつも同じで良いの、同じが良いの。
「私を喜ばせたいとお望みなら」
いつもの徐晃様でいて下さい。
名無しさんは頬を染め、甘えるように上目遣いで徐晃を見詰めた。
「そんな徐晃様が・・・大好きだから」
「名無しさん・・・」
「だから・・・いつも通りで、お願いします」
今日はいつもと違う一日だったけれど、別れ際はいつもと同じが良い。
そう云って、徐晃に向かって顔を僅かに寄せて目を閉じる。
名無しさんが望んでいるのは、いつもと変わらない、二人で出掛けた後の口付け。
徐晃は屈み込むと、そっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
→あとがき