微笑む優しい姿
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名も無き小さな花。
それはまるで、一枚の絵の様な光景だった。
曹魏の城の中でも一際大きく切り取られた春の庭。
職人の手に因って丹念に手入れされた其処は、この季節になると、幾つもの花を咲かせ、豊かな芳香を惜し気も無く放つ。
それだけでも十分美しい景色の中で、数人の女が彩りを添えていた。
皆が質の良い服を着ていたが、汚れる事も厭わず、柔らかい芝生に直に腰を下ろし、車座に座っている。
何かを云う度に上がる、軽やかな笑い声は鳥の囀りの様だ。
柔らかな日差しを受けた女たちは更に美しく、廊下を歩いていた曹丕はその眩しさに目を細めた。
思わず立ち止まる彼に、丁度正面に座っていた女の一人が気付いて腰を上げ、優雅な所作で歩いて来る。
「我が君。休憩ですの?」
濡れた様な艶やかな黒髪と、何とも妖艶な色気を感じさせる泣き黒子。
肌は透ける様に白く、きめ細かい。
紛れもなく、絶世の美女。
そして、妻。
曹丕は曖昧に頷き、未だ座ったままでいる女たちを見た。
彼女たちは慌てて立ち上がり、それぞれがぎこちない礼を取る。
どうやら、後宮の女の様だ。
妻の甄姫程ではないが、美女と呼ぶのに差し支えない容姿の女たち。
一度位は伽を命じたかもしれない。
名前は直ぐに出て来ないが、見覚えがある。
結局の所、その程度でしかないのだが。
曹丕は甄姫に向き直ると、
「部屋で休む」
「分かりましたわ。誰か、寄越しましょうか?」
彼女は緊張から体を強張らせたままの女たちを見回した。
その中から一人を近くへと呼び、曹丕に勧める様にして云う。
「この子の琴の腕前は素晴らしいですわ。我が君も一度・・・」
「無用だ」
しかし、曹丕はあっさりと切り捨てる様に云うと、さっさと踵を返した。
勧めた甄姫も、呼ばれた女性も落胆から肩を落とす。
「・・・私では役不足でございましょうか」
女性は悔しさからか、うっすらと涙すら浮かべていた。
後宮の女たちにとって、彼の寵愛を受けないと云うのは、この上ない屈辱だろう。
甄姫はそんな彼女の肩を優しく叩き、慰める様に云う。
「そんな事、ありませんわ。貴女の腕前は本当に素晴らしいですもの。今は・・・お一人になりたいだけかもしれませんわ」
彼女はそっと涙を拭うと、
「でも、きっと我が君は凛花をお呼びになるのでしょうね」
ぽつりと愚痴を零した。
その名前に一瞬、ぴくりと反応した甄姫だったが、
「さぁ、皆の所に戻りましょう」
聞こえない振りをして、自ら庭へと足を運び始める。
女性は渋々と云った様子で甄姫の後ろに付き従った。
美しい春の庭。
戻って来る二人の姿に、誰のものとも分からぬ溜息があちこちから漏れる。
その頃、彼女の想像通り、曹丕は私室に凛花を呼んだ。
それはまるで、一枚の絵の様な光景だった。
曹魏の城の中でも一際大きく切り取られた春の庭。
職人の手に因って丹念に手入れされた其処は、この季節になると、幾つもの花を咲かせ、豊かな芳香を惜し気も無く放つ。
それだけでも十分美しい景色の中で、数人の女が彩りを添えていた。
皆が質の良い服を着ていたが、汚れる事も厭わず、柔らかい芝生に直に腰を下ろし、車座に座っている。
何かを云う度に上がる、軽やかな笑い声は鳥の囀りの様だ。
柔らかな日差しを受けた女たちは更に美しく、廊下を歩いていた曹丕はその眩しさに目を細めた。
思わず立ち止まる彼に、丁度正面に座っていた女の一人が気付いて腰を上げ、優雅な所作で歩いて来る。
「我が君。休憩ですの?」
濡れた様な艶やかな黒髪と、何とも妖艶な色気を感じさせる泣き黒子。
肌は透ける様に白く、きめ細かい。
紛れもなく、絶世の美女。
そして、妻。
曹丕は曖昧に頷き、未だ座ったままでいる女たちを見た。
彼女たちは慌てて立ち上がり、それぞれがぎこちない礼を取る。
どうやら、後宮の女の様だ。
妻の甄姫程ではないが、美女と呼ぶのに差し支えない容姿の女たち。
一度位は伽を命じたかもしれない。
名前は直ぐに出て来ないが、見覚えがある。
結局の所、その程度でしかないのだが。
曹丕は甄姫に向き直ると、
「部屋で休む」
「分かりましたわ。誰か、寄越しましょうか?」
彼女は緊張から体を強張らせたままの女たちを見回した。
その中から一人を近くへと呼び、曹丕に勧める様にして云う。
「この子の琴の腕前は素晴らしいですわ。我が君も一度・・・」
「無用だ」
しかし、曹丕はあっさりと切り捨てる様に云うと、さっさと踵を返した。
勧めた甄姫も、呼ばれた女性も落胆から肩を落とす。
「・・・私では役不足でございましょうか」
女性は悔しさからか、うっすらと涙すら浮かべていた。
後宮の女たちにとって、彼の寵愛を受けないと云うのは、この上ない屈辱だろう。
甄姫はそんな彼女の肩を優しく叩き、慰める様に云う。
「そんな事、ありませんわ。貴女の腕前は本当に素晴らしいですもの。今は・・・お一人になりたいだけかもしれませんわ」
彼女はそっと涙を拭うと、
「でも、きっと我が君は凛花をお呼びになるのでしょうね」
ぽつりと愚痴を零した。
その名前に一瞬、ぴくりと反応した甄姫だったが、
「さぁ、皆の所に戻りましょう」
聞こえない振りをして、自ら庭へと足を運び始める。
女性は渋々と云った様子で甄姫の後ろに付き従った。
美しい春の庭。
戻って来る二人の姿に、誰のものとも分からぬ溜息があちこちから漏れる。
その頃、彼女の想像通り、曹丕は私室に凛花を呼んだ。
