希望と喜びに満ちて
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やっと、逢えた。
夏の終わり。
窓から吹き込む風が僅かに秋の気配を忍ばせていた。
けれど、暑さは未だ拭えない。
太陽が容赦なく地表を照らして気温を上昇させる。
そんな中、城の中で最も広い広間と云えども、大の男が何人も顔を突き合わせて円陣を組んでいるのは何とも暑苦しい。
しかも、全員が全員、肩や背中を丸めて縫い針を持っているのだから奇妙な事この上ない。
彼等の膝には様々な色の布が広げられていた。
その布に、丁寧に刺繍をしていく。
いかにも奇妙な光景だ。
そう思いながら、尚香は声を掛けた。
「皆~!少し休憩だ、って月英さんがお茶を入れてくれたわよ~!」
「おお、尚香殿!忝ない」
直ぐ様反応したのは劉備だ。
針を針山に刺して愛しい妻に頬を緩ませ、一目散に駆け寄った。
尚香の手にあった盆を受け取る。此処に居る人数分のお茶が乗っていた。
劉備はそれを配り、尚香は劉備が持っていた布を見て感嘆の声を上げる。
「うわぁ・・・玄徳様ってお上手ね~」
赤い布に白い糸の唐草刺繍。
見事に描かれていた。
「幼い頃から鞋や筵を編んでいたからな。割と得意だ」
照れて頬を染める劉備。
妻に褒められて嬉しいのだろう。
休憩の筈が、妻に良い所を見せ様と再び針を持った。
そんな劉備を余所に、他は休憩を始める。
「あ~、肩が凝るな・・・」
と、云って背伸びをするのは馬超。
「そうですね。目も疲れてしょぼしょぼします」
目頭を押さえるのは姜維だ。
「我モ・・・疲レタ」
魏延もぐったりと床に転がる。
黄忠がその背中に凭れ掛かった。魏延から小さな呻き声が漏れたが、気に止める様子はない。
「全く、年寄りにこんな事をさせるなんぞ、お主のカミさんは何を考えておるんじゃ!」
「仕方ありませんよ、人手が不足しているのですから」
針から馴染みの羽扇に持ち替え、云うのは諸葛亮。相変わらずの黒い笑みを浮かべていた。
「しかし、黄忠殿は流石に手練れですね。その見事に斬新な紋様、私にはとても真似出来ません」
「当然じゃ!ひょっこ共にはまだまだ負けぬぞい!」
「・・・斬新と云うか、唯単に下手くそなのでは」
茶碗を手にぽつりと呟く関平の声は幸い、黄忠の耳には届かない。
「翼徳、布がボロボロではないか」
関羽がその隣で既にぼろ布と化した布を見て云った。
張飛が慌てて取り返す。
「こんな細けぇ仕事、俺の性には合わねぇんだよ!そう云う兄者のだって大して変わんねぇじゃねぇか」
「うぬぅ・・・」
手元の布に落胆の溜息を吐く関羽。
事実、張飛と大して変わらない程にボロボロだった。
「お前さんたちの手は長年武器を扱って来たから向いてないかもしれないねぇ。でもまぁ、慣れちまえば簡単なものさ」
そう云って二人を励ますホウ統の手元の布には鮮やかな刺繍。複雑な気分だ。
「皆、月餅。試食して」
そこにひょっこり顔を出した星彩。盆に山盛りの月餅を持って来た。
劉備を除く男たちが次々に手を伸ばす。
その後から月英も顔を出した。
「孔明様!如何ですか、お味は。普通では面白くありませんから、趣向を凝らせてみました」
「・・・月英。流石です・・・と云いたい所ですが、何ですか?この、甘い様な辛い様な・・・」
「ふふっ、秘密です」
月英の何処か悪戯っぽいその答えに、危機感を覚えたのは諸葛亮だけではなかった・・・かもしれない。
「ま、不味くはないが・・・」
「微妙ですね・・・」
馬超と姜維が飛んで来た鳥にこっそり与えてみる。鳥が羽をばたつかせて逃げた。
二人して顔を見合わせる。
捨ててしまいたい衝動に駆られるが、後が怖い。
お茶で流し込む事にした。
馬超が引き攣った笑顔を浮かべ、話題を逸らす。
「そう云えば、趙雲殿はどうしたのだ?今朝から見当たらんが」
「ああ、趙雲殿なら多分、あそこでしょう」
答える諸葛亮の顔は青ざめていた。
手には二つ目の月餅。隣には浮き浮きと微笑む妻が居る。
馬超は胸の内で手を合わせた。
「あそこ?」
「ええ・・・ごほっ、月英、次は食べられる月餅を作って下さい・・・」
二つ目をかじり、そう云って諸葛亮が前のめりに崩れる。
「ああっ!?孔明様っ!!誰かが毒でも盛り込んだのですか!?」
お前だよ!!と云う突っ込みが誰の胸にも浮かんだのは云う迄もない。
月英は膝に諸葛亮の頭を乗せて、心配そうな表情で馬超に答えて云った。
「あそこ、と云うのは城下にある、一番大きな屋敷の事です」
「一番大きな屋敷?そんな所に何の用があって・・・」
「つかさに会いに行っているのだ」
その質問に答えたのは、尚香に未だ良い所を見せ様として針を動かしている劉備だった。
気が付けば、いつの間にか劉備の膝に尚香が座っている。
夏の終わり。
窓から吹き込む風が僅かに秋の気配を忍ばせていた。
けれど、暑さは未だ拭えない。
太陽が容赦なく地表を照らして気温を上昇させる。
そんな中、城の中で最も広い広間と云えども、大の男が何人も顔を突き合わせて円陣を組んでいるのは何とも暑苦しい。
しかも、全員が全員、肩や背中を丸めて縫い針を持っているのだから奇妙な事この上ない。
彼等の膝には様々な色の布が広げられていた。
その布に、丁寧に刺繍をしていく。
いかにも奇妙な光景だ。
そう思いながら、尚香は声を掛けた。
「皆~!少し休憩だ、って月英さんがお茶を入れてくれたわよ~!」
「おお、尚香殿!忝ない」
直ぐ様反応したのは劉備だ。
針を針山に刺して愛しい妻に頬を緩ませ、一目散に駆け寄った。
尚香の手にあった盆を受け取る。此処に居る人数分のお茶が乗っていた。
劉備はそれを配り、尚香は劉備が持っていた布を見て感嘆の声を上げる。
「うわぁ・・・玄徳様ってお上手ね~」
赤い布に白い糸の唐草刺繍。
見事に描かれていた。
「幼い頃から鞋や筵を編んでいたからな。割と得意だ」
照れて頬を染める劉備。
妻に褒められて嬉しいのだろう。
休憩の筈が、妻に良い所を見せ様と再び針を持った。
そんな劉備を余所に、他は休憩を始める。
「あ~、肩が凝るな・・・」
と、云って背伸びをするのは馬超。
「そうですね。目も疲れてしょぼしょぼします」
目頭を押さえるのは姜維だ。
「我モ・・・疲レタ」
魏延もぐったりと床に転がる。
黄忠がその背中に凭れ掛かった。魏延から小さな呻き声が漏れたが、気に止める様子はない。
「全く、年寄りにこんな事をさせるなんぞ、お主のカミさんは何を考えておるんじゃ!」
「仕方ありませんよ、人手が不足しているのですから」
針から馴染みの羽扇に持ち替え、云うのは諸葛亮。相変わらずの黒い笑みを浮かべていた。
「しかし、黄忠殿は流石に手練れですね。その見事に斬新な紋様、私にはとても真似出来ません」
「当然じゃ!ひょっこ共にはまだまだ負けぬぞい!」
「・・・斬新と云うか、唯単に下手くそなのでは」
茶碗を手にぽつりと呟く関平の声は幸い、黄忠の耳には届かない。
「翼徳、布がボロボロではないか」
関羽がその隣で既にぼろ布と化した布を見て云った。
張飛が慌てて取り返す。
「こんな細けぇ仕事、俺の性には合わねぇんだよ!そう云う兄者のだって大して変わんねぇじゃねぇか」
「うぬぅ・・・」
手元の布に落胆の溜息を吐く関羽。
事実、張飛と大して変わらない程にボロボロだった。
「お前さんたちの手は長年武器を扱って来たから向いてないかもしれないねぇ。でもまぁ、慣れちまえば簡単なものさ」
そう云って二人を励ますホウ統の手元の布には鮮やかな刺繍。複雑な気分だ。
「皆、月餅。試食して」
そこにひょっこり顔を出した星彩。盆に山盛りの月餅を持って来た。
劉備を除く男たちが次々に手を伸ばす。
その後から月英も顔を出した。
「孔明様!如何ですか、お味は。普通では面白くありませんから、趣向を凝らせてみました」
「・・・月英。流石です・・・と云いたい所ですが、何ですか?この、甘い様な辛い様な・・・」
「ふふっ、秘密です」
月英の何処か悪戯っぽいその答えに、危機感を覚えたのは諸葛亮だけではなかった・・・かもしれない。
「ま、不味くはないが・・・」
「微妙ですね・・・」
馬超と姜維が飛んで来た鳥にこっそり与えてみる。鳥が羽をばたつかせて逃げた。
二人して顔を見合わせる。
捨ててしまいたい衝動に駆られるが、後が怖い。
お茶で流し込む事にした。
馬超が引き攣った笑顔を浮かべ、話題を逸らす。
「そう云えば、趙雲殿はどうしたのだ?今朝から見当たらんが」
「ああ、趙雲殿なら多分、あそこでしょう」
答える諸葛亮の顔は青ざめていた。
手には二つ目の月餅。隣には浮き浮きと微笑む妻が居る。
馬超は胸の内で手を合わせた。
「あそこ?」
「ええ・・・ごほっ、月英、次は食べられる月餅を作って下さい・・・」
二つ目をかじり、そう云って諸葛亮が前のめりに崩れる。
「ああっ!?孔明様っ!!誰かが毒でも盛り込んだのですか!?」
お前だよ!!と云う突っ込みが誰の胸にも浮かんだのは云う迄もない。
月英は膝に諸葛亮の頭を乗せて、心配そうな表情で馬超に答えて云った。
「あそこ、と云うのは城下にある、一番大きな屋敷の事です」
「一番大きな屋敷?そんな所に何の用があって・・・」
「つかさに会いに行っているのだ」
その質問に答えたのは、尚香に未だ良い所を見せ様として針を動かしている劉備だった。
気が付けば、いつの間にか劉備の膝に尚香が座っている。
