俺のもの
貴女のお名前
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お前の何もかも全て。
恋人が何も云わず、ふらりと姿を消すのは、今回が初めてではなかった。
とは云え、慣れられるものではなく、しかも今回は、いつもよりその期間が長い気がして、名無しさんは藁にも縋る思いで司馬昭の部屋を訪ねた。
「司馬昭様、賈充様がどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?」
余り人付き合いのない恋人の、賈充の行方を知っている人物と云えば、司馬昭位しか名無しさんには思い着かない。
「いや・・・俺は知らないけど。賈充の奴、居ないのか?」
寧ろ、聞き返して来る司馬昭に、名無しさんは目に見えて落胆すると、深々と溜め息を吐いた。
頼みの綱である司馬昭が知らないのならお手上げだ。
名無しさんは部屋に入って来た時よりも更に暗い表情で云う。
「お見掛けしなくなって、もう何日になるか・・・」
「まあ、賈充の事だ、その内、何でもない顔して戻ってくるんじゃないか?」
そんな彼女を励ますように、司馬昭は努めて明るい口調で云うが、名無しさんは薄く微笑んだだけだった。
「だと良いんですけれど・・・」
と、呟く名無しさんは凋んだ花のように儚げに司馬昭の目に映る。
可愛い恋人にこんな顔をさせるなよな、と司馬昭はここに居ない賈充を責めたい気分だった。
確かに、彼の行き先に心当たりはないが、賈充が何も云わずに出て行く時は大抵、後ろ暗い事で出て行っている時だと暗黙で知っている。
しかし、そうと知っていても、それを伝えてしまえば益々、彼女の不安を煽るようで、司馬昭の口からは云い出せなかった。
「済みません、お忙しい所・・・」
と、云い掛けた名無しさんが、不意にぽろりと大粒の涙を溢し、司馬昭はぎょっと体を強張らせる。
「おい、大丈夫か?」
突然の事に司馬昭がおろおろとしている間も、名無しさんの瞳からは、堰を切ったように涙が流れていた。
「ご、ごめんなさい・・・私」
名無しさんは手の甲で何度も拭うが、一度、溢れ始めた涙は止まる事を知らない。
忽ち、追い付かなくなってしまう。
「ごめ、んなさい。私・・・心配で心配で・・・」
賈充様は今、どこで何をしていらっしゃるのだろう。
そもそも、ご無事でいらっしゃるのか。
賈充様をお見掛けしなくなってから毎日、そればかり考えて、胸が張り裂けそうに苦しい。
自分の前で、嗚咽混じりに感情を吐露する名無しさんはいじらしく、司馬昭は無意識に彼女の肩を引き寄せて抱いていた。
「そう泣くなって。可愛い顔が台無しだぜ」
と、決して本気で口説いているつもりはなかったのだが、彼女の耳元で囁いた瞬間、
「何のつもりだ、子上」
よく知った低い声が、いや、いつもよりも低く、凄味のある声が聞こえ、司馬昭は慌てて顔を上げる。
視線を巡らせてみれば、扉の所で賈充が腕を組んで立っていた。
「賈充様!」
「げっ、賈充・・・」
賈充はつかつかと足音を立てて、二人の元へ遣って来ると、司馬昭の、名無しさんの肩に置いたままの手を睨んで云う。
「子上、いつまでそうしているつもりだ」
「えっ、あっ、いや、これは・・・」
敵兵にだって、そんなに強くは向けないであろう、賈充の鋭い視線に、司馬昭は恐る恐る名無しさんの肩に触れていた手を上げた。
「そんなつもりは・・・って云うか、賈充、いつの間に帰って来てたんだよ」
「つい先程だ」
賈充は司馬昭に短く答え、名無しさんの目元を優しく拭う。
「名無しさん、他の男の前で容易に涙を見せるな。泣くのなら、俺の前だけにしろ」
「元はと云えばお前が原因なんだけどな」
「子上は黙っていろ」
小さな声で突っ込む司馬昭を再び睨み付けてから、賈充は名無しさんに続けて云った。
「お前の全ては俺のものだ。無論、涙もな」
「賈充様・・・」
そう云われて名無しさんは僅かに頬を染めるが、ならば云わずにはいられないと口を開く。
「賈充様、それならどうして、いつも私に何も仰らずに何処かへ行ってしまわれるのですか」
教えて下されば、心配する事も、涙を流す事もないのに。
賈充様の行方が分からない、それがどれだけ胸を苦しくさせるか。
「お願いです・・・もう黙って居なくなったりしないで」
「無理だな」
「おい、賈充!」
縋るような名無しさんの願いを、冷たく突き放す賈充の一言に、司馬昭は語気を荒げた。
「そんな云い方はないだろ。名無しさんがどれだけお前の事を心配してたか分かってんのか」
「勘違いするな、子上」
賈充は眉一つ、顔色一つ変えずにぴしりと司馬昭を遮り、言葉を続ける。
恋人が何も云わず、ふらりと姿を消すのは、今回が初めてではなかった。
とは云え、慣れられるものではなく、しかも今回は、いつもよりその期間が長い気がして、名無しさんは藁にも縋る思いで司馬昭の部屋を訪ねた。
「司馬昭様、賈充様がどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?」
余り人付き合いのない恋人の、賈充の行方を知っている人物と云えば、司馬昭位しか名無しさんには思い着かない。
「いや・・・俺は知らないけど。賈充の奴、居ないのか?」
寧ろ、聞き返して来る司馬昭に、名無しさんは目に見えて落胆すると、深々と溜め息を吐いた。
頼みの綱である司馬昭が知らないのならお手上げだ。
名無しさんは部屋に入って来た時よりも更に暗い表情で云う。
「お見掛けしなくなって、もう何日になるか・・・」
「まあ、賈充の事だ、その内、何でもない顔して戻ってくるんじゃないか?」
そんな彼女を励ますように、司馬昭は努めて明るい口調で云うが、名無しさんは薄く微笑んだだけだった。
「だと良いんですけれど・・・」
と、呟く名無しさんは凋んだ花のように儚げに司馬昭の目に映る。
可愛い恋人にこんな顔をさせるなよな、と司馬昭はここに居ない賈充を責めたい気分だった。
確かに、彼の行き先に心当たりはないが、賈充が何も云わずに出て行く時は大抵、後ろ暗い事で出て行っている時だと暗黙で知っている。
しかし、そうと知っていても、それを伝えてしまえば益々、彼女の不安を煽るようで、司馬昭の口からは云い出せなかった。
「済みません、お忙しい所・・・」
と、云い掛けた名無しさんが、不意にぽろりと大粒の涙を溢し、司馬昭はぎょっと体を強張らせる。
「おい、大丈夫か?」
突然の事に司馬昭がおろおろとしている間も、名無しさんの瞳からは、堰を切ったように涙が流れていた。
「ご、ごめんなさい・・・私」
名無しさんは手の甲で何度も拭うが、一度、溢れ始めた涙は止まる事を知らない。
忽ち、追い付かなくなってしまう。
「ごめ、んなさい。私・・・心配で心配で・・・」
賈充様は今、どこで何をしていらっしゃるのだろう。
そもそも、ご無事でいらっしゃるのか。
賈充様をお見掛けしなくなってから毎日、そればかり考えて、胸が張り裂けそうに苦しい。
自分の前で、嗚咽混じりに感情を吐露する名無しさんはいじらしく、司馬昭は無意識に彼女の肩を引き寄せて抱いていた。
「そう泣くなって。可愛い顔が台無しだぜ」
と、決して本気で口説いているつもりはなかったのだが、彼女の耳元で囁いた瞬間、
「何のつもりだ、子上」
よく知った低い声が、いや、いつもよりも低く、凄味のある声が聞こえ、司馬昭は慌てて顔を上げる。
視線を巡らせてみれば、扉の所で賈充が腕を組んで立っていた。
「賈充様!」
「げっ、賈充・・・」
賈充はつかつかと足音を立てて、二人の元へ遣って来ると、司馬昭の、名無しさんの肩に置いたままの手を睨んで云う。
「子上、いつまでそうしているつもりだ」
「えっ、あっ、いや、これは・・・」
敵兵にだって、そんなに強くは向けないであろう、賈充の鋭い視線に、司馬昭は恐る恐る名無しさんの肩に触れていた手を上げた。
「そんなつもりは・・・って云うか、賈充、いつの間に帰って来てたんだよ」
「つい先程だ」
賈充は司馬昭に短く答え、名無しさんの目元を優しく拭う。
「名無しさん、他の男の前で容易に涙を見せるな。泣くのなら、俺の前だけにしろ」
「元はと云えばお前が原因なんだけどな」
「子上は黙っていろ」
小さな声で突っ込む司馬昭を再び睨み付けてから、賈充は名無しさんに続けて云った。
「お前の全ては俺のものだ。無論、涙もな」
「賈充様・・・」
そう云われて名無しさんは僅かに頬を染めるが、ならば云わずにはいられないと口を開く。
「賈充様、それならどうして、いつも私に何も仰らずに何処かへ行ってしまわれるのですか」
教えて下されば、心配する事も、涙を流す事もないのに。
賈充様の行方が分からない、それがどれだけ胸を苦しくさせるか。
「お願いです・・・もう黙って居なくなったりしないで」
「無理だな」
「おい、賈充!」
縋るような名無しさんの願いを、冷たく突き放す賈充の一言に、司馬昭は語気を荒げた。
「そんな云い方はないだろ。名無しさんがどれだけお前の事を心配してたか分かってんのか」
「勘違いするな、子上」
賈充は眉一つ、顔色一つ変えずにぴしりと司馬昭を遮り、言葉を続ける。