小さな旦那様、小さな奥様
貴女のお名前
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ずっとずっと前から。
恋する乙女は、他人の色恋沙汰にも敏感なものなのだろうか。
いつものように関索を追っかけていた鮑三娘は、ある日、彼の兄である関興に熱い視線を送る一人の女性の存在に気付いた。
「名無しさんって、もしかして、関索のお兄さんの事、好きな感じ?」
誰かが居る所で話す内容ではないだろうと、彼女が一人きりになる時を見計らって、そう尋ねると答えが返って来るよりも早く、名無しさんと呼ばれた女性の頬が肯定するように真っ赤に染まる。
「えっ、あ・・・あの」
突然、図星を云い当てられ、名無しさんは慌てて何かを口にしようとするが、上手く言葉にできない。
「あははっ、やっぱそうなんだ。ねぇ、いつから好きなの?」
と、これまで、恋の話をできる相手が居なかった鮑三娘はつい、嬉しくなって、ぐいぐいと何も云えないでいる名無しさんに詰め寄った。
名無しさんは思わず、後退り、
「あ、あの、三娘様、ちょっと待って下さい・・・!」
「あっごめん。名無しさんって、こーゆー話、苦手?」
「苦手、ではありませんけれど」
言葉を濁して周りを伺う。
今は二人以外に人の姿はないが、ここは城内の廊下、いつ誰が通り掛かるかも知れない場所なら、名無しさんは声を潜めて云った。
「あの、三娘様。そのお話はまた後で・・・それから、誰にも内緒にしていて下さい」
「うん、良いけど・・・」
鮑三娘は名無しさんの言葉に渋々頷くと、ぱっと笑顔を浮かべて云う。
「じゃあ、今夜、あたしの部屋に来て!色々、聞きたいし」
半ば強引に、彼女を誘ったのが数ヶ月前の事で、今や鮑三娘と名無しさんは親友と呼べる間柄にまでなっていた。
「ねぇ、名無しさん。この色、あたしに似合うかな。可笑しくない?」
と、鮑三娘は悩みに悩み抜いて、最終的に選んだ服を名無しさんに見せる。
「はい、とてもお可愛らしいです」
「うん、名無しさんがそーゆーなら信じる」
二人は鮑三娘の部屋で、今日の為にめかし込んでいる最中だ。
「関索、あたしの事、可愛いって云ってくれるかなぁ」
期待と不安が織り混ざった鮑三娘の言葉に、名無しさんは優しく微笑んだ。
「きっと仰って下さいますよ」
「名無しさんもね。ほら、座って。あたしが可愛くしてあげるから」
鮑三娘は名無しさんを椅子に座らせ、彼女の髪を編み始める。
名無しさんは鮑三娘にされるままに任せ、今日までの事に思いを馳せた。
鮑三娘に関索の兄、関興に抱く恋心を知られてしまった時、どう誤魔化そうかと考えていた、あの夜を懐かしく思う。
女官たちの間で、恋の話が上がらない筈はなく、それでも、これまで誰にも打ち明けた事がなければ、こっそり思うだけで良いと思っていた。
それを、鮑三娘は、
「名無しさんが良いなら良いけど」
意外にも否定せずに受け入れてくれ、嬉しく思ったのを覚えている。
その日、名無しさんは彼女に何もかもを打ち明けた。
極一部しか知らないが、関家、張家とは縁深く、関興を始めとした息子、娘たちとは幼なじみだと云う事。
「えっ、何それ。超羨ましいんですけど。関索の子供の頃の話とか超聞きたい」
成長するに連れ、武将となった彼らに対し、女官となった名無しさんは、立場上、一線を引くようになってしまった事。
「好きになるのに立場とか関係なくない?」
他の女官たちにも打ち明けられなかったのは、彼の耳に入る事が怖かったからだった事。
人の口に戸を立てられないのなら、何かの拍子に関興が名無しさんの気持ちを知ってしまうかもしれない。
もし、そうと知った関興が名無しさんにその感情も持っていなければ、却って幼なじみ故に、気を使わせてしまうだろう。
「だから今のままで良いんです」
「そっか・・・でも、あたし、名無しさんのそーゆー気遣いしちゃうとこ、良いと思うけど」
表情を曇らせたように見えたのも束の間、鮑三娘は次にはにっこりと笑顔を浮かべた。
「あたしは、ほら、知ってると思うけど、直ぐ行動に移しちゃうし」
「そこが三娘様の良い所ですよ」
対極な性格だからこそ、名無しさんは鮑三娘に互いに何でも話せたのかも知れない。
そんな鮑三娘が、今日の話を持って来たのは、先日の事だ。
「ねぇ名無しさん!聞いて聞いて」
嬉しそうに頬を染め、彼女は続けて云った。
「関索がね、今度の休みの日、一緒に出掛ける約束してくれたんだ!」
「まあ、それは良かったですね」
鮑三娘も関索も武将なら、休みが重なる事は殆どない。
それが今回、偶然、重なる日があり、鮑三娘は好機とばかりに彼を誘い、快諾して貰えたと云う。
「もー!超嬉しいんですけど!」
文字通り、跳び跳ねて喜ぶ鮑三娘に、名無しさんは自分の事のように喜んだが、
「でね、実はその日、お兄さんの方もお休みで。だったら四人で出掛けようって事になったから、宜しくね」
「四人って・・・」
「そんなの決まってるじゃん!あたしと関索と名無しさんとお兄さんの四人」
続けて云われた彼女の言葉に、驚いて目を見開いた。
「わ、私もですか!?」
「もう決まっちゃったし」
と、鮑三娘は有無を云わせない。
「ってゆーか、関索と二人きりとか緊張する・・・お願い、名無しさん。付いて来てよ」
勿論、その言葉は建前で、鮑三娘は幼なじみだからこそ、関係を壊すかもしれない事に怯え、動き出せない名無しさんの背中を押すつもりだった。
四人の休みが重なったのは本当に偶然だが、またとない好機だ。
見てるだけで良いと云った彼女の気持ちを否定する気は更々ないにも関わらず、鮑三娘は、関索を尋ねて云っていた。
「関索、今度のお休みの日なんだけど・・・」
と、自分の事はさておき、名無しさんの事を話してしまう。
「あたし、名無しさんと仲良いし、だから応援してあげたいってゆーか・・・あ、こーゆーのって名無しさんに迷惑だと思う?」
「そんな事ないよ」
名無しさんの都合も考えず、いや、考えてはいるのだが、自分の身勝手にすら見える行動に今更、不安を覚えて問い掛けて来る鮑三娘に、関索はいつもの穏やかな笑顔を浮かべた。
「私も、名無しさんが兄上の事を慕っているのは知っていたから」
「あ・・・人のは気付くんだ」
自分の事は気付かない癖に、と鮑三娘は小さく呟く。
まあ、それはそれとして、関索も名無しさんが関興の事が好きと云う事を知っているのなら好都合だ。
「だからね、関索にも協力して欲しいの」
関索は勿論と頷くと、鮑三娘にとろけるような笑顔を向けた。
「君は優しくて素敵な人だね」
「えっ、関索・・・あたし未だ心の準備が・・・」
思い掛けず、彼に笑顔を向けられて、鮑三娘はどぎまぎする。
どうしよ、あたし、関索にこんな風に見詰められるのなんて初めてかも。
「関索・・・やっとあたしの気持ち、分かってくれたんだ」
「うん、兄上には私から声を掛けておくから」
そっちかーい!!
鮑三娘はあからさまに、がっくりと肩を落とした。
知ってた、こーゆー人だって知ってたけど!
鮑三娘は気を取り直して、咳払いをすると、関索と当日の段取りを決めてしまった。
そして待ちに待った当日、つまり今日、鮑三娘と名無しさんは朝早くから服を取っ替え引っ替え、今は髪を結っている。
鮑三娘は名無しさんの髪を編み終わると、小さな飾りを着けて声を上げた。
「出来た!名無しさんってば超可愛い!」
「ありがとうございます」
と、微笑む彼女は控え目な性格と相まって本当に可愛らしく、鮑三娘は満足そうに頷く。
「うん。それじゃあ、名無しさん、行こっか」
「はい」
二人は連れ立って、緊張に高鳴る胸を抑えながら、待ち合わせ場所の城門へと向かった。
恋する乙女は、他人の色恋沙汰にも敏感なものなのだろうか。
いつものように関索を追っかけていた鮑三娘は、ある日、彼の兄である関興に熱い視線を送る一人の女性の存在に気付いた。
「名無しさんって、もしかして、関索のお兄さんの事、好きな感じ?」
誰かが居る所で話す内容ではないだろうと、彼女が一人きりになる時を見計らって、そう尋ねると答えが返って来るよりも早く、名無しさんと呼ばれた女性の頬が肯定するように真っ赤に染まる。
「えっ、あ・・・あの」
突然、図星を云い当てられ、名無しさんは慌てて何かを口にしようとするが、上手く言葉にできない。
「あははっ、やっぱそうなんだ。ねぇ、いつから好きなの?」
と、これまで、恋の話をできる相手が居なかった鮑三娘はつい、嬉しくなって、ぐいぐいと何も云えないでいる名無しさんに詰め寄った。
名無しさんは思わず、後退り、
「あ、あの、三娘様、ちょっと待って下さい・・・!」
「あっごめん。名無しさんって、こーゆー話、苦手?」
「苦手、ではありませんけれど」
言葉を濁して周りを伺う。
今は二人以外に人の姿はないが、ここは城内の廊下、いつ誰が通り掛かるかも知れない場所なら、名無しさんは声を潜めて云った。
「あの、三娘様。そのお話はまた後で・・・それから、誰にも内緒にしていて下さい」
「うん、良いけど・・・」
鮑三娘は名無しさんの言葉に渋々頷くと、ぱっと笑顔を浮かべて云う。
「じゃあ、今夜、あたしの部屋に来て!色々、聞きたいし」
半ば強引に、彼女を誘ったのが数ヶ月前の事で、今や鮑三娘と名無しさんは親友と呼べる間柄にまでなっていた。
「ねぇ、名無しさん。この色、あたしに似合うかな。可笑しくない?」
と、鮑三娘は悩みに悩み抜いて、最終的に選んだ服を名無しさんに見せる。
「はい、とてもお可愛らしいです」
「うん、名無しさんがそーゆーなら信じる」
二人は鮑三娘の部屋で、今日の為にめかし込んでいる最中だ。
「関索、あたしの事、可愛いって云ってくれるかなぁ」
期待と不安が織り混ざった鮑三娘の言葉に、名無しさんは優しく微笑んだ。
「きっと仰って下さいますよ」
「名無しさんもね。ほら、座って。あたしが可愛くしてあげるから」
鮑三娘は名無しさんを椅子に座らせ、彼女の髪を編み始める。
名無しさんは鮑三娘にされるままに任せ、今日までの事に思いを馳せた。
鮑三娘に関索の兄、関興に抱く恋心を知られてしまった時、どう誤魔化そうかと考えていた、あの夜を懐かしく思う。
女官たちの間で、恋の話が上がらない筈はなく、それでも、これまで誰にも打ち明けた事がなければ、こっそり思うだけで良いと思っていた。
それを、鮑三娘は、
「名無しさんが良いなら良いけど」
意外にも否定せずに受け入れてくれ、嬉しく思ったのを覚えている。
その日、名無しさんは彼女に何もかもを打ち明けた。
極一部しか知らないが、関家、張家とは縁深く、関興を始めとした息子、娘たちとは幼なじみだと云う事。
「えっ、何それ。超羨ましいんですけど。関索の子供の頃の話とか超聞きたい」
成長するに連れ、武将となった彼らに対し、女官となった名無しさんは、立場上、一線を引くようになってしまった事。
「好きになるのに立場とか関係なくない?」
他の女官たちにも打ち明けられなかったのは、彼の耳に入る事が怖かったからだった事。
人の口に戸を立てられないのなら、何かの拍子に関興が名無しさんの気持ちを知ってしまうかもしれない。
もし、そうと知った関興が名無しさんにその感情も持っていなければ、却って幼なじみ故に、気を使わせてしまうだろう。
「だから今のままで良いんです」
「そっか・・・でも、あたし、名無しさんのそーゆー気遣いしちゃうとこ、良いと思うけど」
表情を曇らせたように見えたのも束の間、鮑三娘は次にはにっこりと笑顔を浮かべた。
「あたしは、ほら、知ってると思うけど、直ぐ行動に移しちゃうし」
「そこが三娘様の良い所ですよ」
対極な性格だからこそ、名無しさんは鮑三娘に互いに何でも話せたのかも知れない。
そんな鮑三娘が、今日の話を持って来たのは、先日の事だ。
「ねぇ名無しさん!聞いて聞いて」
嬉しそうに頬を染め、彼女は続けて云った。
「関索がね、今度の休みの日、一緒に出掛ける約束してくれたんだ!」
「まあ、それは良かったですね」
鮑三娘も関索も武将なら、休みが重なる事は殆どない。
それが今回、偶然、重なる日があり、鮑三娘は好機とばかりに彼を誘い、快諾して貰えたと云う。
「もー!超嬉しいんですけど!」
文字通り、跳び跳ねて喜ぶ鮑三娘に、名無しさんは自分の事のように喜んだが、
「でね、実はその日、お兄さんの方もお休みで。だったら四人で出掛けようって事になったから、宜しくね」
「四人って・・・」
「そんなの決まってるじゃん!あたしと関索と名無しさんとお兄さんの四人」
続けて云われた彼女の言葉に、驚いて目を見開いた。
「わ、私もですか!?」
「もう決まっちゃったし」
と、鮑三娘は有無を云わせない。
「ってゆーか、関索と二人きりとか緊張する・・・お願い、名無しさん。付いて来てよ」
勿論、その言葉は建前で、鮑三娘は幼なじみだからこそ、関係を壊すかもしれない事に怯え、動き出せない名無しさんの背中を押すつもりだった。
四人の休みが重なったのは本当に偶然だが、またとない好機だ。
見てるだけで良いと云った彼女の気持ちを否定する気は更々ないにも関わらず、鮑三娘は、関索を尋ねて云っていた。
「関索、今度のお休みの日なんだけど・・・」
と、自分の事はさておき、名無しさんの事を話してしまう。
「あたし、名無しさんと仲良いし、だから応援してあげたいってゆーか・・・あ、こーゆーのって名無しさんに迷惑だと思う?」
「そんな事ないよ」
名無しさんの都合も考えず、いや、考えてはいるのだが、自分の身勝手にすら見える行動に今更、不安を覚えて問い掛けて来る鮑三娘に、関索はいつもの穏やかな笑顔を浮かべた。
「私も、名無しさんが兄上の事を慕っているのは知っていたから」
「あ・・・人のは気付くんだ」
自分の事は気付かない癖に、と鮑三娘は小さく呟く。
まあ、それはそれとして、関索も名無しさんが関興の事が好きと云う事を知っているのなら好都合だ。
「だからね、関索にも協力して欲しいの」
関索は勿論と頷くと、鮑三娘にとろけるような笑顔を向けた。
「君は優しくて素敵な人だね」
「えっ、関索・・・あたし未だ心の準備が・・・」
思い掛けず、彼に笑顔を向けられて、鮑三娘はどぎまぎする。
どうしよ、あたし、関索にこんな風に見詰められるのなんて初めてかも。
「関索・・・やっとあたしの気持ち、分かってくれたんだ」
「うん、兄上には私から声を掛けておくから」
そっちかーい!!
鮑三娘はあからさまに、がっくりと肩を落とした。
知ってた、こーゆー人だって知ってたけど!
鮑三娘は気を取り直して、咳払いをすると、関索と当日の段取りを決めてしまった。
そして待ちに待った当日、つまり今日、鮑三娘と名無しさんは朝早くから服を取っ替え引っ替え、今は髪を結っている。
鮑三娘は名無しさんの髪を編み終わると、小さな飾りを着けて声を上げた。
「出来た!名無しさんってば超可愛い!」
「ありがとうございます」
と、微笑む彼女は控え目な性格と相まって本当に可愛らしく、鮑三娘は満足そうに頷く。
「うん。それじゃあ、名無しさん、行こっか」
「はい」
二人は連れ立って、緊張に高鳴る胸を抑えながら、待ち合わせ場所の城門へと向かった。