愛の妙薬
貴女のお名前
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私だけの特効薬。
城内に幾つもある木の、ある一本の木の下で、数名の女官たちが騒がしくしていた。
一様に上を見上げ、何事かを話し合っている。
「何かあったのですか?」
そこをたまたま通り掛かった楽進が、彼女たちに声を掛けた。
「楽進様!」
と、まるで窮地に駆け付けた援軍のように彼を迎え、口々に何かを伝えて来る。
しかし、数が多過ぎるのと、焦っているのか、早口なのとで、逆に伝わって来ない。
代わりに、楽進は上を見上げた。
彼女たちの視線の先、高い木の上には、
「ああ、猫が」
一匹の子猫が木から下りられず、枝に必死にしがみついて鳴いているのが見て取れ、成る程、と納得する。
楽進は一度、木の具合を見ると、
「これなら、大丈夫そうですね」
そう云って、ぐっと足を踏み込み、数回、幹を軽く蹴っただけで子猫の近くの枝へと上がって行った。
楽進の、あまりの軽やかな身の熟しに、女官たちから黄色い声が上がる。
楽進と云う男が、普段から女性に囲まれているような男ではないからだろう、慣れない黄色い声に照れて、恐縮ですと、ぺこりと頭を下げる彼に、更に女官たちの声が高くなっていた。
楽進は気を取り直して、咳払いをすると、子猫の方を見る。
突然、遣って来た楽進に、子猫は警戒して全身の毛を逆立て、唸り声を発していた。
その上、近くまで来たから気付く、子猫がしがみつく枝は細く、今にも折れそうに亀裂が入っていた。
これは・・・どうしましょう。
こうも警戒されては近付いても来ないでしょう。
楽進が悩んでいる間も、子猫の警戒は緩む事なく、寧ろ、何かあれば飛び掛かろうとして踏み込みを強くする。
「いけない!」
と、楽進が叫んだと同時に、細い枝が乾いた音を立てた。
枝が折れる様子に、女官たちからも悲鳴が上がる。
楽進は体重を預けていた枝を蹴ると、限界まで腕を伸ばし、子猫を空中で抱え込んだ。
そのまま落下しては着地した時の、足への衝撃が大きい。
回転する事でそれを弱め、楽進は地面へと下り立った。
忽ち、女官たちに囲まれる。
「素敵でしたわ、楽進様!」
「惚れ惚れ致しました!」
と、かつてない程に、しかも女性に褒めそやされ、楽進は赤くなった。
「あ、いえ・・・恐縮です。それより、この猫・・・」
どうしましょう、と腕を少し緩めた途端、子猫の手が伸びて来て、楽進は顔を思いっきり爪で引っ掻かれてしまう。
「痛たたたたっ!痛いですっ!止めて下さい!」
悲鳴を上げながら子猫を両手で掴み、体から引き離す。
「まあ、楽進様、お顔に傷が!」
「私が手当てして差し上げますわ!」
「いえ、私が!」
そう云って、女官たちが、楽進にずいっと体を寄せた。
どうやら、楽進の勇姿に心を奪われてしまったようだ。
そうとは知らず、距離を詰めて来る女官たちに、楽進はたじろいで無意識に後退る。
「あ、あの、恐縮なのですが・・・すみません!」
それだけ云って、脱兎の如く、その場から逃げ出した。
女官たちから逃げ出した楽進は、子猫を抱えたまま、医務室へと向かった。
引っ掻かれた傷の手当てをしたい、と云うのは本当だが、半分以上は建前で、医務室には楽進の恋人が勤めている。
「すみません、名無しさんは・・・」
と、医務室の扉を開けた。
「あら、楽進様。どうなさいました?」
名無しさんと呼ばれた女性は薬研から顔を上げると、
「あら、まあ、どうなさったんですか、そのお顔」
楽進の顔の傷に気付いて、慌てた様子で彼に近寄って来る。
「少し血が滲んでますね、大丈夫ですか?」
「はい、ちょっとひりひりする位で」
楽進はそう云って、両手に掴んだままの子猫を名無しさんに見せた。
「この猫も怪我をしていないかと」
「そうですね、怪我をしてる様子はないですけれど」
子猫は一声、激しい鳴き声を上げると、楽進の手を引っ掻いて逃げ出し、部屋の隅へと走って行く。
「今は気が立っているようですね」
「そのようです」
「それじゃあ、楽進様の手当てをしましょうか」
そう云って、名無しさんはにこりと微笑んだ。
城内に幾つもある木の、ある一本の木の下で、数名の女官たちが騒がしくしていた。
一様に上を見上げ、何事かを話し合っている。
「何かあったのですか?」
そこをたまたま通り掛かった楽進が、彼女たちに声を掛けた。
「楽進様!」
と、まるで窮地に駆け付けた援軍のように彼を迎え、口々に何かを伝えて来る。
しかし、数が多過ぎるのと、焦っているのか、早口なのとで、逆に伝わって来ない。
代わりに、楽進は上を見上げた。
彼女たちの視線の先、高い木の上には、
「ああ、猫が」
一匹の子猫が木から下りられず、枝に必死にしがみついて鳴いているのが見て取れ、成る程、と納得する。
楽進は一度、木の具合を見ると、
「これなら、大丈夫そうですね」
そう云って、ぐっと足を踏み込み、数回、幹を軽く蹴っただけで子猫の近くの枝へと上がって行った。
楽進の、あまりの軽やかな身の熟しに、女官たちから黄色い声が上がる。
楽進と云う男が、普段から女性に囲まれているような男ではないからだろう、慣れない黄色い声に照れて、恐縮ですと、ぺこりと頭を下げる彼に、更に女官たちの声が高くなっていた。
楽進は気を取り直して、咳払いをすると、子猫の方を見る。
突然、遣って来た楽進に、子猫は警戒して全身の毛を逆立て、唸り声を発していた。
その上、近くまで来たから気付く、子猫がしがみつく枝は細く、今にも折れそうに亀裂が入っていた。
これは・・・どうしましょう。
こうも警戒されては近付いても来ないでしょう。
楽進が悩んでいる間も、子猫の警戒は緩む事なく、寧ろ、何かあれば飛び掛かろうとして踏み込みを強くする。
「いけない!」
と、楽進が叫んだと同時に、細い枝が乾いた音を立てた。
枝が折れる様子に、女官たちからも悲鳴が上がる。
楽進は体重を預けていた枝を蹴ると、限界まで腕を伸ばし、子猫を空中で抱え込んだ。
そのまま落下しては着地した時の、足への衝撃が大きい。
回転する事でそれを弱め、楽進は地面へと下り立った。
忽ち、女官たちに囲まれる。
「素敵でしたわ、楽進様!」
「惚れ惚れ致しました!」
と、かつてない程に、しかも女性に褒めそやされ、楽進は赤くなった。
「あ、いえ・・・恐縮です。それより、この猫・・・」
どうしましょう、と腕を少し緩めた途端、子猫の手が伸びて来て、楽進は顔を思いっきり爪で引っ掻かれてしまう。
「痛たたたたっ!痛いですっ!止めて下さい!」
悲鳴を上げながら子猫を両手で掴み、体から引き離す。
「まあ、楽進様、お顔に傷が!」
「私が手当てして差し上げますわ!」
「いえ、私が!」
そう云って、女官たちが、楽進にずいっと体を寄せた。
どうやら、楽進の勇姿に心を奪われてしまったようだ。
そうとは知らず、距離を詰めて来る女官たちに、楽進はたじろいで無意識に後退る。
「あ、あの、恐縮なのですが・・・すみません!」
それだけ云って、脱兎の如く、その場から逃げ出した。
女官たちから逃げ出した楽進は、子猫を抱えたまま、医務室へと向かった。
引っ掻かれた傷の手当てをしたい、と云うのは本当だが、半分以上は建前で、医務室には楽進の恋人が勤めている。
「すみません、名無しさんは・・・」
と、医務室の扉を開けた。
「あら、楽進様。どうなさいました?」
名無しさんと呼ばれた女性は薬研から顔を上げると、
「あら、まあ、どうなさったんですか、そのお顔」
楽進の顔の傷に気付いて、慌てた様子で彼に近寄って来る。
「少し血が滲んでますね、大丈夫ですか?」
「はい、ちょっとひりひりする位で」
楽進はそう云って、両手に掴んだままの子猫を名無しさんに見せた。
「この猫も怪我をしていないかと」
「そうですね、怪我をしてる様子はないですけれど」
子猫は一声、激しい鳴き声を上げると、楽進の手を引っ掻いて逃げ出し、部屋の隅へと走って行く。
「今は気が立っているようですね」
「そのようです」
「それじゃあ、楽進様の手当てをしましょうか」
そう云って、名無しさんはにこりと微笑んだ。