言い寄る男
貴女のお名前
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芽は小さな内に摘んでおかねばな。
蓋を開けた瞬間に立ち上る湯気と、その下から現れた、白く、艶やかな生地に、名無しさんは満足そうに呟いた。
「うん、美味しそうにできた」
未だ熱いそれが、冷めてしまわないように包み、厨房を出る。
「司馬師様、喜んで下さるかしら」
と、恋仲である彼の元へと急いだ。
出来立てを届けたい一心で、廊下を小走りに進む。
名無しさんは一つ目の角を曲がった所で、
「あ、名無しさん」
「夏侯覇様、鄧艾様」
夏侯覇と鄧艾の二人に出くわした。
「今、お戻りですか?」
と、尋ねる名無しさんに、二人が頷いて答える。
「ああ、今し方、戻った所だ」
「もう、へとへとで立ってるのも辛い・・・」
二人とも、笑顔を見せてはいるが、身なりはぼろぼろで、声までも疲弊していた。
それもその筈、夏侯覇と鄧艾は長期の遠征で城を離れ、久し振りに、帰城した所だった。
「この後は休暇、貰えるし、暫くゆっくり過ごすつもり」
「その前に報告書が待っているが」
「鄧艾殿、それは云わないでくれ・・・」
と、夏侯覇がぐったりと頭を落とす。
名無しさんはその様子に、
「あっ、あのっ良かったら・・・」
二人に包みの中身、出来立ての肉まんを差し出した。
目の前の、熱々の肉まんが二人の食欲を刺激する。
「あ、いや、しかし、名無しさん殿。これは・・・」
「司馬師殿に用意したんじゃ・・・?」
断る姿勢を見せつつも、肉まんから目を離せないでいる二人に、名無しさんは微笑んだ。
「大丈夫です、ちょっと沢山作り過ぎちゃったかなって思ってましたし。味見すると思って」
気を使わせないように言葉を選ぶ名無しさんに、二人は胸を熱くする。
何て良い子だろう、司馬師殿が羨ましい。
「それでは有り難く・・・」
「頂きまーす」
二人は同時に、肉まんを頬張った。
「うん、これは旨い」
と、手放しに称賛する鄧艾に、夏侯覇も頷く。
瞬く間にぺろりと平らげ、夏侯覇がにこりと笑顔で云った。
「あー旨かった。名無しさん、ご馳走さま。あ、司馬師殿の所に行くんだろ。足止めして悪かったな」
司馬師殿も褒めてくれるぞ、絶対、と云って、先を急ぐ彼女を見送る。
「良いよなぁ、司馬師殿。あんな可愛い名無しさんに手料理作ってもらえるなんて、最高だよな」
「名無しさんは良い妻になるだろうな」
「あーっ!俺も名無しさんみたいな可愛い彼女が欲しいっ!と云うか名無しさんが欲しいぃっ!」
夏侯覇の叫びが、虚しく廊下に谺した。
名無しさんは二人と別れ、先へと急いで進む。
司馬師の部屋は、厨房から大分離れていて、冷めてしまわないかと心配になっていた。
次の角を曲がれば、丁度、道半ばだ。
名無しさんは二つ目の角を曲がった、瞬間、
「きゃあっ」
「あっ悪りいっ」
彼女は誰かにぶつかり、危うく肉まんを落としかける。
しかし、寸での所で横から手が伸びて来て、落とさずに済んだ。
「名無しさん、大丈夫?」
と、手を伸ばした人物、王元姫が名無しさんの顔を覗き込む。
「元姫様・・・はい、ありがとうございます。・・・あっ、肉まんっ!」
「大丈夫、無事よ」
「良かったぁ」
肉まんをしっかりと抱え、安堵に胸を撫で下ろす名無しさんの直ぐ傍で、ぶつかった張本人、司馬昭が不満そうに唇を尖らせていた。
「おいおい、二人とも俺への心配はないのかよ」
「前を見ていなかった子上殿が悪いのよ」
「全く、その通り。しかも、女性に謝らせるとは男の風上にも置けません」
と、王元姫、諸葛誕の二人に責められ、司馬昭は益々、膨れっ面になる。
拗ねる司馬昭に、名無しさんは彼の顔を覗き込むようにして云った。
「あ、あの、司馬昭様、本当にごめんなさい。私、急いでて・・・」
上目遣いで謝る名無しさんの様子は可愛らしく、兄の恋人だと云うのに司馬昭は思わず、頬を染める。
「え、あ、いや、まぁ、うん」
と、しどろもどろに頷き、慌てて一つ咳払いをして云った。
「所で名無しさん、その・・・もし良かったら、その肉まん分けて貰えねぇかな、なんて」
司馬昭は両手を合わせ、頭を下げる。
「昼飯食えなくて、腹減って死にそうなんだ」
時刻は昼を過ぎている、それはお腹が空いて当然だろう。
しかし、王元姫が横から口を出して云った。
「それは子上殿の自業自得でしょう」
「そうです、付き合わされる我々の身にもなって頂きたい!」
と、諸葛誕が続けて云うには、どうやら司馬昭は寝坊で朝議をすっぽかしたらしく、その罰として、父、司馬懿が所蔵する書物の虫干しを命じられた。
一人で出来る量ではないと、王元姫、諸葛誕に泣き付き、昼を過ぎて漸く、全ての書物を運び終えた所だった。
「いや、そう云われれば、そうなんだけど・・・」
今にも泣き出しそうな司馬昭に、名無しさんはくすくすと笑い出す。
司馬師様の弟に、可愛いなんて失礼かしら、と思いながら肉まんを差し出した。
「構いませんよ。元姫様と諸葛誕様も、良かったら」
「いや、我々は・・・」
「子元殿の為に作ったんでしょう」
と、云いながら、ちらちらと肉まんを見る諸葛誕と王元姫に名無しさんは微笑む。
「大丈夫です、沢山作りましたから」
「旨いな、これ」
既に頬張っていた司馬昭を二人は睨み付け、それから礼を云って有り難く頂戴する事にした。
「うん、凄く美味しい」
破顔して云う王元姫に続いて、諸葛誕も云う。
「それに見た目も素晴らしい」
「食っちまえば一緒だろ」
早くも二つ目に伸ばしていた司馬昭の手を、諸葛誕がびしりと叩いた。
「司馬昭殿は分かっておられぬ!料理とは見た目も大事。であれば、名無しさん殿がどれだけ研鑽を積んだ事か。偏に司馬師殿への愛があればこそ、これだけ見事に美しい肉まんを作り上げられるのだ」
率直な諸葛誕の言葉に名無しさんは照れて頬を染める。
「そこまで仰って頂けるなんて、嬉しいです」
「あー・・・うん。まぁ、名無しさんが兄上大好きっ!て云うのは伝わって来るな」
いつの間にか、二つ目も完食した司馬昭は少しだけ、遠い目をしていた。
何で名無しさんは兄上の恋人なんだろう。
蓋を開けた瞬間に立ち上る湯気と、その下から現れた、白く、艶やかな生地に、名無しさんは満足そうに呟いた。
「うん、美味しそうにできた」
未だ熱いそれが、冷めてしまわないように包み、厨房を出る。
「司馬師様、喜んで下さるかしら」
と、恋仲である彼の元へと急いだ。
出来立てを届けたい一心で、廊下を小走りに進む。
名無しさんは一つ目の角を曲がった所で、
「あ、名無しさん」
「夏侯覇様、鄧艾様」
夏侯覇と鄧艾の二人に出くわした。
「今、お戻りですか?」
と、尋ねる名無しさんに、二人が頷いて答える。
「ああ、今し方、戻った所だ」
「もう、へとへとで立ってるのも辛い・・・」
二人とも、笑顔を見せてはいるが、身なりはぼろぼろで、声までも疲弊していた。
それもその筈、夏侯覇と鄧艾は長期の遠征で城を離れ、久し振りに、帰城した所だった。
「この後は休暇、貰えるし、暫くゆっくり過ごすつもり」
「その前に報告書が待っているが」
「鄧艾殿、それは云わないでくれ・・・」
と、夏侯覇がぐったりと頭を落とす。
名無しさんはその様子に、
「あっ、あのっ良かったら・・・」
二人に包みの中身、出来立ての肉まんを差し出した。
目の前の、熱々の肉まんが二人の食欲を刺激する。
「あ、いや、しかし、名無しさん殿。これは・・・」
「司馬師殿に用意したんじゃ・・・?」
断る姿勢を見せつつも、肉まんから目を離せないでいる二人に、名無しさんは微笑んだ。
「大丈夫です、ちょっと沢山作り過ぎちゃったかなって思ってましたし。味見すると思って」
気を使わせないように言葉を選ぶ名無しさんに、二人は胸を熱くする。
何て良い子だろう、司馬師殿が羨ましい。
「それでは有り難く・・・」
「頂きまーす」
二人は同時に、肉まんを頬張った。
「うん、これは旨い」
と、手放しに称賛する鄧艾に、夏侯覇も頷く。
瞬く間にぺろりと平らげ、夏侯覇がにこりと笑顔で云った。
「あー旨かった。名無しさん、ご馳走さま。あ、司馬師殿の所に行くんだろ。足止めして悪かったな」
司馬師殿も褒めてくれるぞ、絶対、と云って、先を急ぐ彼女を見送る。
「良いよなぁ、司馬師殿。あんな可愛い名無しさんに手料理作ってもらえるなんて、最高だよな」
「名無しさんは良い妻になるだろうな」
「あーっ!俺も名無しさんみたいな可愛い彼女が欲しいっ!と云うか名無しさんが欲しいぃっ!」
夏侯覇の叫びが、虚しく廊下に谺した。
名無しさんは二人と別れ、先へと急いで進む。
司馬師の部屋は、厨房から大分離れていて、冷めてしまわないかと心配になっていた。
次の角を曲がれば、丁度、道半ばだ。
名無しさんは二つ目の角を曲がった、瞬間、
「きゃあっ」
「あっ悪りいっ」
彼女は誰かにぶつかり、危うく肉まんを落としかける。
しかし、寸での所で横から手が伸びて来て、落とさずに済んだ。
「名無しさん、大丈夫?」
と、手を伸ばした人物、王元姫が名無しさんの顔を覗き込む。
「元姫様・・・はい、ありがとうございます。・・・あっ、肉まんっ!」
「大丈夫、無事よ」
「良かったぁ」
肉まんをしっかりと抱え、安堵に胸を撫で下ろす名無しさんの直ぐ傍で、ぶつかった張本人、司馬昭が不満そうに唇を尖らせていた。
「おいおい、二人とも俺への心配はないのかよ」
「前を見ていなかった子上殿が悪いのよ」
「全く、その通り。しかも、女性に謝らせるとは男の風上にも置けません」
と、王元姫、諸葛誕の二人に責められ、司馬昭は益々、膨れっ面になる。
拗ねる司馬昭に、名無しさんは彼の顔を覗き込むようにして云った。
「あ、あの、司馬昭様、本当にごめんなさい。私、急いでて・・・」
上目遣いで謝る名無しさんの様子は可愛らしく、兄の恋人だと云うのに司馬昭は思わず、頬を染める。
「え、あ、いや、まぁ、うん」
と、しどろもどろに頷き、慌てて一つ咳払いをして云った。
「所で名無しさん、その・・・もし良かったら、その肉まん分けて貰えねぇかな、なんて」
司馬昭は両手を合わせ、頭を下げる。
「昼飯食えなくて、腹減って死にそうなんだ」
時刻は昼を過ぎている、それはお腹が空いて当然だろう。
しかし、王元姫が横から口を出して云った。
「それは子上殿の自業自得でしょう」
「そうです、付き合わされる我々の身にもなって頂きたい!」
と、諸葛誕が続けて云うには、どうやら司馬昭は寝坊で朝議をすっぽかしたらしく、その罰として、父、司馬懿が所蔵する書物の虫干しを命じられた。
一人で出来る量ではないと、王元姫、諸葛誕に泣き付き、昼を過ぎて漸く、全ての書物を運び終えた所だった。
「いや、そう云われれば、そうなんだけど・・・」
今にも泣き出しそうな司馬昭に、名無しさんはくすくすと笑い出す。
司馬師様の弟に、可愛いなんて失礼かしら、と思いながら肉まんを差し出した。
「構いませんよ。元姫様と諸葛誕様も、良かったら」
「いや、我々は・・・」
「子元殿の為に作ったんでしょう」
と、云いながら、ちらちらと肉まんを見る諸葛誕と王元姫に名無しさんは微笑む。
「大丈夫です、沢山作りましたから」
「旨いな、これ」
既に頬張っていた司馬昭を二人は睨み付け、それから礼を云って有り難く頂戴する事にした。
「うん、凄く美味しい」
破顔して云う王元姫に続いて、諸葛誕も云う。
「それに見た目も素晴らしい」
「食っちまえば一緒だろ」
早くも二つ目に伸ばしていた司馬昭の手を、諸葛誕がびしりと叩いた。
「司馬昭殿は分かっておられぬ!料理とは見た目も大事。であれば、名無しさん殿がどれだけ研鑽を積んだ事か。偏に司馬師殿への愛があればこそ、これだけ見事に美しい肉まんを作り上げられるのだ」
率直な諸葛誕の言葉に名無しさんは照れて頬を染める。
「そこまで仰って頂けるなんて、嬉しいです」
「あー・・・うん。まぁ、名無しさんが兄上大好きっ!て云うのは伝わって来るな」
いつの間にか、二つ目も完食した司馬昭は少しだけ、遠い目をしていた。
何で名無しさんは兄上の恋人なんだろう。