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貴女のお名前
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ずっとずっと大切にします。
普段は、戦だの鍛練だの軍議だのに関わっているが、実は名無しさんだって年頃の女性である。
綺麗な着物に興味がない訳でも、可愛らしい小物に目を止めない訳でもなかった。
ただ、これまで特に必要だと思わなかっただけで、実際、本当に必要ではなかっただけの事だ。
しかし、今回ばかりは様子が違ったらしく、彼女は城下町の、とある反物屋の前で足を止めた。
店内には所狭しと、小物や装飾品も含め、色取り取りな品物が並んでいる。
それらの内の一つの織物に、名無しさんは目を奪われていた。
落ち着いた橙色の生地に浮かぶ、金糸、銀糸で描かれた紋様。
「可愛い・・・」
思わず、呟いて食い入る様に見詰める。
その様子を、二人の男が唖然としたり、溜息を吐いたりして見ていた。
「うわぁ、凄い。名無しさんってば、全っ然動いてないよ」
そう云ったのは、見た目は少年の様だが、今孔明と呼ばれる竹中半兵衛。
「全く、よく飽きもせず、ああしていられるものだ」
と、呆れ顔で云うのは、半兵衛と対照的に、落ち着いた印象を与える黒田官兵衛。
元々は用事があって一緒に町へやって来た三人だったが、その途中、店の前で足を止めて動かない名無しさんを置いて、二人で用を済ませて戻って来た所だ。
「そんなに良いのか、あれが」
「まぁ、名無しさんも女の子だしねぇ」
ぼそぼそと交わしながら歩み寄って行く間も、名無しさんの目はうっとりと品物を眺めている。
「いいなぁ・・・欲しいなぁ・・・」
直ぐ傍に近付いても、ちっとも気付かない彼女に半兵衛は、くすりと笑った。
戦場では男にも引けを取らない働きを見せるのに、こうしてると、名無しさんも普通の女の子だなぁ、と思う。
「買えば良いじゃん」
不意に近くで聞こえた半兵衛の声が、名無しさんを我に返らせた。
「えっ、あ、半兵衛様。どうかしたんですか?」
「どうって・・・もう用事済んだし」
「ええっ、嘘っ!?」
「嘘ではない。日の具合を見てみよ」
官兵衛に云われて、太陽の位置と延びる影の具合に気付く。
町へ出て来てから随分と時間が過ぎていた。
「・・・ごめんなさい、私ったら」
「謝んなくても良いけどさ。見てるだけじゃ、つまんないでしょ」
「えっ?」
きょとんとする名無しさんに、半兵衛は反物を指差す。
「買うか買わないかは取り敢えず置いといて、合わせる位、してみたら?」
「え、だって、あの・・・似合うかも分かんないし・・・」
と、云った名無しさんの視線が、ほんの一瞬、ちらりと官兵衛に向けられたのを、半兵衛は見逃さなかった。
余り周知されていないが、官兵衛と名無しさんが、恋仲である事を半兵衛は知っている。
恐らく、官兵衛に似合うと云って欲しいのであろう。
「俺は絶対似合うと思うけどなぁ。ね、官兵衛殿もそう思わない?」
恋する彼女の、可愛らしい女心を後押しする様に、官兵衛に同意を求めてみたが、
「似合う似合わない以前に、悩むなら止めておいた方が良い」
残念ながら、彼には意図する所が伝わらなかったらしい。
官兵衛殿の鈍感!
半兵衛は内心、がっくりと肩を落とした。
「そう・・・ですね」
と、頷く彼女の声は小さく、しょんぼりしているのが分かる。
けれど、直ぐ様、名無しさんは何でもない様に、笑顔を浮かべてみせた。
「直に日が暮れますし、もう帰りましょうか」
そう云って、くるりと向けた背中は、それでも少し寂しそうに見える。
その後ろに続きながら、半兵衛はじろりと官兵衛を睨んだ。
「女心が分かってないなぁ、官兵衛殿は」
「何の事だ」
と、問い返して来る官兵衛は、本当に分かっていない様で、半兵衛はやれやれと溜息を吐く。
これでよく恋人をやってるよ。
「あのさぁ・・・お節介だと思うけど、あれじゃ、名無しさんが可哀想だよ?似合う位云ってあげないと」
「似合うかどうかも分からぬのに、似合うと安易に云うものではなかろう」
「そーじゃなくって。あーもー。どーして分っかんないかなぁ」
がしがしと頭を掻いて、半兵衛は更に続けた。
「似合うとか関係なくってさぁ。何て云うか、女の子は理屈じゃないんだって」
「意味が分からぬな」
「だぁかぁらぁ、意味なんてないんだってば!」
その後、何とか女心の複雑さを伝え様と、ひたすら言葉を尽くす半兵衛であったが、どうにも官兵衛には理解し難い代物だったらしい。
城に戻った頃にはいい加減、説明するのにも疲れ、
「官兵衛殿、真面目なのも過ぎると質が悪いよ」
別れ際、そう云ってやるのが精一杯だった。
普段は、戦だの鍛練だの軍議だのに関わっているが、実は名無しさんだって年頃の女性である。
綺麗な着物に興味がない訳でも、可愛らしい小物に目を止めない訳でもなかった。
ただ、これまで特に必要だと思わなかっただけで、実際、本当に必要ではなかっただけの事だ。
しかし、今回ばかりは様子が違ったらしく、彼女は城下町の、とある反物屋の前で足を止めた。
店内には所狭しと、小物や装飾品も含め、色取り取りな品物が並んでいる。
それらの内の一つの織物に、名無しさんは目を奪われていた。
落ち着いた橙色の生地に浮かぶ、金糸、銀糸で描かれた紋様。
「可愛い・・・」
思わず、呟いて食い入る様に見詰める。
その様子を、二人の男が唖然としたり、溜息を吐いたりして見ていた。
「うわぁ、凄い。名無しさんってば、全っ然動いてないよ」
そう云ったのは、見た目は少年の様だが、今孔明と呼ばれる竹中半兵衛。
「全く、よく飽きもせず、ああしていられるものだ」
と、呆れ顔で云うのは、半兵衛と対照的に、落ち着いた印象を与える黒田官兵衛。
元々は用事があって一緒に町へやって来た三人だったが、その途中、店の前で足を止めて動かない名無しさんを置いて、二人で用を済ませて戻って来た所だ。
「そんなに良いのか、あれが」
「まぁ、名無しさんも女の子だしねぇ」
ぼそぼそと交わしながら歩み寄って行く間も、名無しさんの目はうっとりと品物を眺めている。
「いいなぁ・・・欲しいなぁ・・・」
直ぐ傍に近付いても、ちっとも気付かない彼女に半兵衛は、くすりと笑った。
戦場では男にも引けを取らない働きを見せるのに、こうしてると、名無しさんも普通の女の子だなぁ、と思う。
「買えば良いじゃん」
不意に近くで聞こえた半兵衛の声が、名無しさんを我に返らせた。
「えっ、あ、半兵衛様。どうかしたんですか?」
「どうって・・・もう用事済んだし」
「ええっ、嘘っ!?」
「嘘ではない。日の具合を見てみよ」
官兵衛に云われて、太陽の位置と延びる影の具合に気付く。
町へ出て来てから随分と時間が過ぎていた。
「・・・ごめんなさい、私ったら」
「謝んなくても良いけどさ。見てるだけじゃ、つまんないでしょ」
「えっ?」
きょとんとする名無しさんに、半兵衛は反物を指差す。
「買うか買わないかは取り敢えず置いといて、合わせる位、してみたら?」
「え、だって、あの・・・似合うかも分かんないし・・・」
と、云った名無しさんの視線が、ほんの一瞬、ちらりと官兵衛に向けられたのを、半兵衛は見逃さなかった。
余り周知されていないが、官兵衛と名無しさんが、恋仲である事を半兵衛は知っている。
恐らく、官兵衛に似合うと云って欲しいのであろう。
「俺は絶対似合うと思うけどなぁ。ね、官兵衛殿もそう思わない?」
恋する彼女の、可愛らしい女心を後押しする様に、官兵衛に同意を求めてみたが、
「似合う似合わない以前に、悩むなら止めておいた方が良い」
残念ながら、彼には意図する所が伝わらなかったらしい。
官兵衛殿の鈍感!
半兵衛は内心、がっくりと肩を落とした。
「そう・・・ですね」
と、頷く彼女の声は小さく、しょんぼりしているのが分かる。
けれど、直ぐ様、名無しさんは何でもない様に、笑顔を浮かべてみせた。
「直に日が暮れますし、もう帰りましょうか」
そう云って、くるりと向けた背中は、それでも少し寂しそうに見える。
その後ろに続きながら、半兵衛はじろりと官兵衛を睨んだ。
「女心が分かってないなぁ、官兵衛殿は」
「何の事だ」
と、問い返して来る官兵衛は、本当に分かっていない様で、半兵衛はやれやれと溜息を吐く。
これでよく恋人をやってるよ。
「あのさぁ・・・お節介だと思うけど、あれじゃ、名無しさんが可哀想だよ?似合う位云ってあげないと」
「似合うかどうかも分からぬのに、似合うと安易に云うものではなかろう」
「そーじゃなくって。あーもー。どーして分っかんないかなぁ」
がしがしと頭を掻いて、半兵衛は更に続けた。
「似合うとか関係なくってさぁ。何て云うか、女の子は理屈じゃないんだって」
「意味が分からぬな」
「だぁかぁらぁ、意味なんてないんだってば!」
その後、何とか女心の複雑さを伝え様と、ひたすら言葉を尽くす半兵衛であったが、どうにも官兵衛には理解し難い代物だったらしい。
城に戻った頃にはいい加減、説明するのにも疲れ、
「官兵衛殿、真面目なのも過ぎると質が悪いよ」
別れ際、そう云ってやるのが精一杯だった。