一日の中で一番楽しみにしているんだ。



日が落ちる始める頃の、淡い橙色が、室内に二つの影を浮かび上がらせる。
一つは屋敷の主、毛利元就の、もう一つは此処に勤める女中の名無しさんのものであった。
夕食までの、少しばかり手持ち無沙汰のこの時間、元就は毎日、彼女を半ば強引に、自室に誘い込む。
「さぁ、名無しさん。始めようか」
元就が徐にそう云うと、名無しさんは僅かに躊躇った様子を見せた。
「でも・・・私・・・」
「私とするのは嫌かい？」
「そう云う訳では・・・」
と、尚も躊躇う彼女に、元就は穏やかに微笑み掛ける。
「大丈夫、ちゃんと優しくするから」
云って、その黒髪に触れ、宥める様に撫でてやれば、漸く、名無しさんは首を縦に振った。
元就は嬉しそうに顔を綻ばせる。
素早く支度を整え上げ、名無しさんの手を引き、向かいに座らせた。
「良いかい？」
「は、はい・・・」
それを合図に、二人の視線が絡み合う。
暫く、どちらも無言だったが、ふと、名無しさんが堪り兼ねた様子で、か細い声を上げた。
「あっ・・・元就様、そこは・・・」
「じゃあ、こっちはどうだい？」
嫌々と首を振る名無しさんに、元就は楽しげに笑う。
「それじゃあ、ここは？」
「嫌っ・・・そこも、駄目・・・」
いつの間にか、彼女の瞳にはうっすらと涙の膜が張っていた。