知りたきゃ教えてやるぜ？



雑賀孫市は困っていた。
目の前には安物の着物を着た少女。
畳の上で行儀よく座って孫市を見ている。
きらきらとした、その大きな瞳に見つめられ、孫市はがりがりと頭を掻いた。
何度目になるか分からない溜息と共に云う。
「名無しさん、本当に良いんだな？」
本当に、と云う所を得に強調する孫市。
名無しさんと呼ばれた少女が強く頷いた。
頬を染め、孫市にずいっと詰め寄る。
「はい。この様な事、孫市様にしか、お願い出来ないのです。どうか・・・」
と、縋る様に名無しさんは胸の前で手を結んだ。
その様子は酷く可愛らしい。
しかも、孫市様にしか、と云う、恰も特別な存在であるかの様な云い方。
断れない。
やれやれ・・・と、孫市は再び溜息を吐くと、
「・・・困ったお嬢ちゃんだ」
苦笑いして、名無しさんに手を差し出す。
途端に、ぱっと名無しさんの表情が明るくなり、その白い手がするりと滑り込んで来た。
細くて小さい。
孫市は大事な物でも扱うかの様に、名無しさんの手を優しく握り締める。
壊れそうで怖い。