飛び込んで。



朝。
東が明け始める清々しい程に澄み切った空気の中。
まだ眠い目を擦り、趙雲は庭へと向かった。
次第に、井戸へと辿り着く。
慣れた手つきで水を汲む趙雲。水の冷たさに少し躊躇うも、顔を洗う。
朝に顔を洗うのは当然と云えば当然だが。
未だ明けぬ内から、顔を洗うのは・・・。
「おはようございます。趙雲様」
「おはよう。名無しさん」
想いを寄せる名無しさんと二人っきりになる為。
戦国と三国が融合したこの世界。
幸村と云う青年と共に行動をし始めた時、青年に付き従っていた名無しさんに。
趙雲は一目で心を奪われた。
それからと云うもの、趙雲は名無しさんと少しでも、長く過ごしたくて・・・。
名無しさんが朝早くからこの井戸で水を汲み、朝食の用意を始める事を知った趙雲は毎日。
「早いね、名無しさん」
「趙雲様こそ」
こうやって早起きをしてまで、井戸へと訪れていた。
「あら・・・趙雲様・・・」
と、名無しさんが趙雲を見てクスリと笑う。その笑顔にドキリとする趙雲。
「・・・何か？」
声が震えていないか・・・と思いながら名無しさんに尋ねる。が、名無しさんは気付かずにクスクスと笑い、
「寝癖」
悪戯っぽく、云った。
趙雲が慌てて髪を押さえる。