夏・一部
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「どうぞ」
小十郎が愛用する煙草を差し出され、それに火をつける。いつも吸っているものより苦味の強いそれにむせ返りそうになるが、慣れてくるとこれもいけるかもと思った。
「ご愛用のものは、お帰りになられるまでに用意しておきます」
「いいわよ、別に。今日はこれが吸えただけでもマシ」
「それでは、わざわざ外出なさった意味がないでしょう?」
「……どっちでもいいわよ」
ふう、と吐き出せば、苛立ちも少しだけ収まっていく。
「政宗さまのことで、ご立腹中ですか」
いきなり急所を突かれた。
「当たりですか。今朝、こちらにも連絡がありました。加賀と能登を経由し、ついでに上田に寄って帰ると」
「……あ、そ」
「おそらく、良佳と一緒の筈です」
「どうでもいい話よ」
地面に煙草を投げ捨てると、小十郎にすぐさまたしなめられた。
「悪かったわよ、ごめん」
「素直に過ちをお認めになられるところは、政宗さまとは正反対ですね」
小さく笑ったその顔に、よく見ると泥がついていた。
「片倉、泥がついてる。そこ、右頬」
小十郎が頬をぐいとこすったが、逆に泥が伸び紗智は思わず笑った。
「全然取れてないわよ」
「紗智さまは、やはり笑顔が一番ですね」
「な、何よいきなり! それより、顔貸しなさいよ」
ミニタオルで頬を擦ると、簡単に綺麗になった。
「案外、手間のかかる奴ね」
頭一つ分上にある顔を見上げれば、何故か苦しそうで。
「……無防備すぎです、紗智さま」
あっという間に抱きすくめられ、口を塞がれた。
紗智は、自分の身に何が起こったか一瞬分からなくなった。が、すぐに両手を突き出した。
「あんた、何したか分かってるの!?」
「十分、理解しています。……ですが、無防備に男の懐に飛び込む貴女が悪い」
双眸に潜む獰猛な雄に怯え後ずされば、その分だけ目の前の男が近付いてくる。そして、再び抱き留められた。
「離して!」
腕の中でもがくも女の力が男のそれにかなうはずもなく、後ずさりすればいつの間にか後ろはビニールハウスの壁で、逃げ場を失った紗智は小十郎の懐中に閉じ込められるしかなかった。
「そんな薄着で迫られて、平常心を保てる訳がありません」
首筋にかかる吐息に、身体が勝手に粟立つ。
迫ってなどないと抗議しようとすると、腕をなぞる感触にまた粟立った。小十郎の指先がむき出しの二の腕を撫でたのだ。
「夏にノースリーブなのは当たり前でしょ!?」
「俺には目の毒です。……貴女の存在そのものが、俺を狂わせるのです」
首に、チクリと鋭痛が走る。小十郎が首筋に歯を立てたらしい。もう一度もがくも、両腕でがっちり抱きかかえられていてはどうにもならない。しかも、後ろのビニル壁に押しつけられているため尚更どうしようもない。
そうこうしているうちに、今度は首筋を唇が這った。首を縮めようにも小十郎の顔があってうまくいかない。そちらに意識がいけば、無防備になった反対側の首筋を指がなぞっていく。
「あっ、や……っ!」
紗智は、自分の声ではないような喘ぎ声に内心驚きを隠せなかった。同時に、愛撫を受け入れつつある己が身を恥じた。
「……申し訳、ありません」
一呼吸終えると、小十郎は紗智から離れた。途端、紗智の左手が頬を叩いた。
「……最低。あんた、サイテー!」
避けられた衝撃を避けなかったその余裕も、紗智を苛付かせた。
「俺は、まだ足りません」
口の端を上げて笑う目の前の男に、紗智は戦慄を覚えた。
このままここにいては危ない。なのに、足が動かない。両腕で自分を抱けば、小十郎がふっと笑った。
「ご安心下さい。これ以上手は出しません。夏の熱気のせいでおかしかったのだと、どうかお忘れを」
そして、自販機へ向かうため紗智の横をすり抜けて小十郎はビニールハウスを出て行った。
「……何なの、アイツ」
触れられた腕に残る感触を消したくて、紗智は腕をこすりあげた。デリケートな肌はすぐに赤くなったが、よく見ればうっすらと指の跡が残っているのに気が付いた。
力任せに爪でかぐれば出血を起こした。帰ればきっと成実がすっ飛んでくること間違いなしの傷だが、辱めを受けたのと同じそれを体に残しておくよりはマシだと思った。
なのに、煙草を貰うまでここに残っている自分が、紗智には分からなかった。
(嫌なら帰ればいいのに)
動かない両足を、ただ呆然と見つめるしか出来なかった。
小十郎が愛用する煙草を差し出され、それに火をつける。いつも吸っているものより苦味の強いそれにむせ返りそうになるが、慣れてくるとこれもいけるかもと思った。
「ご愛用のものは、お帰りになられるまでに用意しておきます」
「いいわよ、別に。今日はこれが吸えただけでもマシ」
「それでは、わざわざ外出なさった意味がないでしょう?」
「……どっちでもいいわよ」
ふう、と吐き出せば、苛立ちも少しだけ収まっていく。
「政宗さまのことで、ご立腹中ですか」
いきなり急所を突かれた。
「当たりですか。今朝、こちらにも連絡がありました。加賀と能登を経由し、ついでに上田に寄って帰ると」
「……あ、そ」
「おそらく、良佳と一緒の筈です」
「どうでもいい話よ」
地面に煙草を投げ捨てると、小十郎にすぐさまたしなめられた。
「悪かったわよ、ごめん」
「素直に過ちをお認めになられるところは、政宗さまとは正反対ですね」
小さく笑ったその顔に、よく見ると泥がついていた。
「片倉、泥がついてる。そこ、右頬」
小十郎が頬をぐいとこすったが、逆に泥が伸び紗智は思わず笑った。
「全然取れてないわよ」
「紗智さまは、やはり笑顔が一番ですね」
「な、何よいきなり! それより、顔貸しなさいよ」
ミニタオルで頬を擦ると、簡単に綺麗になった。
「案外、手間のかかる奴ね」
頭一つ分上にある顔を見上げれば、何故か苦しそうで。
「……無防備すぎです、紗智さま」
あっという間に抱きすくめられ、口を塞がれた。
紗智は、自分の身に何が起こったか一瞬分からなくなった。が、すぐに両手を突き出した。
「あんた、何したか分かってるの!?」
「十分、理解しています。……ですが、無防備に男の懐に飛び込む貴女が悪い」
双眸に潜む獰猛な雄に怯え後ずされば、その分だけ目の前の男が近付いてくる。そして、再び抱き留められた。
「離して!」
腕の中でもがくも女の力が男のそれにかなうはずもなく、後ずさりすればいつの間にか後ろはビニールハウスの壁で、逃げ場を失った紗智は小十郎の懐中に閉じ込められるしかなかった。
「そんな薄着で迫られて、平常心を保てる訳がありません」
首筋にかかる吐息に、身体が勝手に粟立つ。
迫ってなどないと抗議しようとすると、腕をなぞる感触にまた粟立った。小十郎の指先がむき出しの二の腕を撫でたのだ。
「夏にノースリーブなのは当たり前でしょ!?」
「俺には目の毒です。……貴女の存在そのものが、俺を狂わせるのです」
首に、チクリと鋭痛が走る。小十郎が首筋に歯を立てたらしい。もう一度もがくも、両腕でがっちり抱きかかえられていてはどうにもならない。しかも、後ろのビニル壁に押しつけられているため尚更どうしようもない。
そうこうしているうちに、今度は首筋を唇が這った。首を縮めようにも小十郎の顔があってうまくいかない。そちらに意識がいけば、無防備になった反対側の首筋を指がなぞっていく。
「あっ、や……っ!」
紗智は、自分の声ではないような喘ぎ声に内心驚きを隠せなかった。同時に、愛撫を受け入れつつある己が身を恥じた。
「……申し訳、ありません」
一呼吸終えると、小十郎は紗智から離れた。途端、紗智の左手が頬を叩いた。
「……最低。あんた、サイテー!」
避けられた衝撃を避けなかったその余裕も、紗智を苛付かせた。
「俺は、まだ足りません」
口の端を上げて笑う目の前の男に、紗智は戦慄を覚えた。
このままここにいては危ない。なのに、足が動かない。両腕で自分を抱けば、小十郎がふっと笑った。
「ご安心下さい。これ以上手は出しません。夏の熱気のせいでおかしかったのだと、どうかお忘れを」
そして、自販機へ向かうため紗智の横をすり抜けて小十郎はビニールハウスを出て行った。
「……何なの、アイツ」
触れられた腕に残る感触を消したくて、紗智は腕をこすりあげた。デリケートな肌はすぐに赤くなったが、よく見ればうっすらと指の跡が残っているのに気が付いた。
力任せに爪でかぐれば出血を起こした。帰ればきっと成実がすっ飛んでくること間違いなしの傷だが、辱めを受けたのと同じそれを体に残しておくよりはマシだと思った。
なのに、煙草を貰うまでここに残っている自分が、紗智には分からなかった。
(嫌なら帰ればいいのに)
動かない両足を、ただ呆然と見つめるしか出来なかった。