春・二部
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墓参りを終えたその夜、良佳のスマホが鳴った。小十郎だった。
『すまねえな、今まで連絡出来なくて』
声がとても疲れている。その声を聞き、良佳は言いたいことをぐっと飲み込みこう言った。
「気遣わないでよ。輝宗おじさんとこの部署、社内でも一番忙しい部署だって政宗から聞いてたからさ。こっちも色々忙しかったし。……ほら、疲れてるでしょ、電話切って早く休みなよ」
『本当にそう思ってるか?』
ドキッとした。本当は、そんなこと微塵も思っていなかったからだ。
育ってきた環境のせいで、良佳は今もなお本音を言うことに抵抗がある。それは、親密な相手であれば尚更顕著に表れる。
幼い頃、言いたいことを言ってケガを負ったことがトラウマになっているのもあるが、“嫌われたくない”という思いが人一倍強いのだ。
『お前は小せえ頃から甘えたれだったからな』
「言い方」
苦笑したが、否定はしなかった。
『言いたいことがあるなら言え。言っても怒らねえし、そんくらいでお前から離れたりしねえよ』
「……うん」
『何年、お前に片思いしてきたと思ってる』
「そのセリフ、まんまあたしのっ……!」
ここまで言って、はめられたと気付いた。
「こじゅ兄、ズルい……」
良佳は、顔から湯気が出るかと思った。
『いつも、そんくらい素直なら助かるんだがな』
くく、と小十郎は笑った。いつの間にか、声に張りが戻っていた。
「ねえ、こじゅ兄」
『何だ』
「みんな、どうやって言いたいこと言ってるの? あたしには、分からない」
幼い頃の良佳を知っているだけに、小十郎は何と言えばよいか言葉に詰まった。逡巡したのち、小十郎は意を決してこう言った。
『お前が、お前の気持ちを受け入れ、時にはいなすこと、じゃねえかと思う』
「え……」
『お前は、環境のせいで自分の気持ちを押し殺す癖を身につけちまった。ただ、お前は根っからの負けず嫌いだし、押し殺すにゃ向いてねえほどの熱い感情を持ってるタイプだ』
確かに、先ほど小十郎に片思いの年数を言われた時、咄嗟に出たのが“自分の方が”と主張する言葉だった。
末っ子ならではの自己主張の激しさを持っていることは自覚しているが、本質はもっと激しいものが眠っているのかもしれない。良佳は、知らない自分の一面を見た気がした。
『お前を見てると、時々輝宗さまと重なる。あの方も、本来はとても情熱的な方だからな』
「ええ、おじさんと!?」
『そういうところもそっくりだな』
また、くく、と小十郎は笑った。
『俺も、最近知ったんだ。案外、輝宗さまは人好きのする方だ。今までは人の食えねえ方だと思っていたがな』
直属の配下となり、伊達輝宗という男は誰よりも夢想家で、誰よりも負けず嫌いな人間だと知った。
『夢想家だからこそ、誰よりも現実を直視なさる。そして、現実から決して逃げない。それと同時に、ご自分の感情に流されない。受け入れ、いなし、時には感情を力に変える方法をご存知だ。……お前に同じことをしろとは言わねえが、輝宗さまの生き方は、お前のそいつのヒントにもなるかもしれねえ』
だから話をしたのだと、小十郎は言った。
もしかしたら、輝宗は自身と良佳をどこかで重ねてみていたのかもしれない。奨学金という形で進学を援助し続けてくれたのも、それがあったからなのかもしれない。
「ありがと、こじゅ兄。自分でも色々調べたりしたけど、こじゅ兄の言葉が一番しっくりきた」
昼間感じたタールのような心の重さは、いつの間にか忘れていた。
『……お前は、やっぱり根が素直なんだな』
またも笑う小十郎に、良佳は訝しんだ。
「素直って良くない?」
『違えよ。お前が、俺に惚れてるってのがよく分かったって話だ』
「は!? い、今の話のどこでどうしてそういう話になんのさ!!」
またもや湯気が出そうになる。
『来週の土曜は、久々に休みが取れる。仙台市近郊になるが、マンション探しに行かねえか?』
「へ、は、マンション?」
『同じ県内にいるのに、離れて暮らしてるなんざ意味ねえだろうが』
「え、それって……」
『良佳、結婚しようぜ。嫌とは言わせねえがな』
耳に響く低音が、甘さと拒否を認めない凄みをもって良佳の鼓膜を、そして胸の奥を震わせる。
「の、望むところ! ……あ」
『……こんな時に、負けず嫌い発動させるんじゃねえよ』
呆れつつ、小十郎はまた笑ったのだった。
『すまねえな、今まで連絡出来なくて』
声がとても疲れている。その声を聞き、良佳は言いたいことをぐっと飲み込みこう言った。
「気遣わないでよ。輝宗おじさんとこの部署、社内でも一番忙しい部署だって政宗から聞いてたからさ。こっちも色々忙しかったし。……ほら、疲れてるでしょ、電話切って早く休みなよ」
『本当にそう思ってるか?』
ドキッとした。本当は、そんなこと微塵も思っていなかったからだ。
育ってきた環境のせいで、良佳は今もなお本音を言うことに抵抗がある。それは、親密な相手であれば尚更顕著に表れる。
幼い頃、言いたいことを言ってケガを負ったことがトラウマになっているのもあるが、“嫌われたくない”という思いが人一倍強いのだ。
『お前は小せえ頃から甘えたれだったからな』
「言い方」
苦笑したが、否定はしなかった。
『言いたいことがあるなら言え。言っても怒らねえし、そんくらいでお前から離れたりしねえよ』
「……うん」
『何年、お前に片思いしてきたと思ってる』
「そのセリフ、まんまあたしのっ……!」
ここまで言って、はめられたと気付いた。
「こじゅ兄、ズルい……」
良佳は、顔から湯気が出るかと思った。
『いつも、そんくらい素直なら助かるんだがな』
くく、と小十郎は笑った。いつの間にか、声に張りが戻っていた。
「ねえ、こじゅ兄」
『何だ』
「みんな、どうやって言いたいこと言ってるの? あたしには、分からない」
幼い頃の良佳を知っているだけに、小十郎は何と言えばよいか言葉に詰まった。逡巡したのち、小十郎は意を決してこう言った。
『お前が、お前の気持ちを受け入れ、時にはいなすこと、じゃねえかと思う』
「え……」
『お前は、環境のせいで自分の気持ちを押し殺す癖を身につけちまった。ただ、お前は根っからの負けず嫌いだし、押し殺すにゃ向いてねえほどの熱い感情を持ってるタイプだ』
確かに、先ほど小十郎に片思いの年数を言われた時、咄嗟に出たのが“自分の方が”と主張する言葉だった。
末っ子ならではの自己主張の激しさを持っていることは自覚しているが、本質はもっと激しいものが眠っているのかもしれない。良佳は、知らない自分の一面を見た気がした。
『お前を見てると、時々輝宗さまと重なる。あの方も、本来はとても情熱的な方だからな』
「ええ、おじさんと!?」
『そういうところもそっくりだな』
また、くく、と小十郎は笑った。
『俺も、最近知ったんだ。案外、輝宗さまは人好きのする方だ。今までは人の食えねえ方だと思っていたがな』
直属の配下となり、伊達輝宗という男は誰よりも夢想家で、誰よりも負けず嫌いな人間だと知った。
『夢想家だからこそ、誰よりも現実を直視なさる。そして、現実から決して逃げない。それと同時に、ご自分の感情に流されない。受け入れ、いなし、時には感情を力に変える方法をご存知だ。……お前に同じことをしろとは言わねえが、輝宗さまの生き方は、お前のそいつのヒントにもなるかもしれねえ』
だから話をしたのだと、小十郎は言った。
もしかしたら、輝宗は自身と良佳をどこかで重ねてみていたのかもしれない。奨学金という形で進学を援助し続けてくれたのも、それがあったからなのかもしれない。
「ありがと、こじゅ兄。自分でも色々調べたりしたけど、こじゅ兄の言葉が一番しっくりきた」
昼間感じたタールのような心の重さは、いつの間にか忘れていた。
『……お前は、やっぱり根が素直なんだな』
またも笑う小十郎に、良佳は訝しんだ。
「素直って良くない?」
『違えよ。お前が、俺に惚れてるってのがよく分かったって話だ』
「は!? い、今の話のどこでどうしてそういう話になんのさ!!」
またもや湯気が出そうになる。
『来週の土曜は、久々に休みが取れる。仙台市近郊になるが、マンション探しに行かねえか?』
「へ、は、マンション?」
『同じ県内にいるのに、離れて暮らしてるなんざ意味ねえだろうが』
「え、それって……」
『良佳、結婚しようぜ。嫌とは言わせねえがな』
耳に響く低音が、甘さと拒否を認めない凄みをもって良佳の鼓膜を、そして胸の奥を震わせる。
「の、望むところ! ……あ」
『……こんな時に、負けず嫌い発動させるんじゃねえよ』
呆れつつ、小十郎はまた笑ったのだった。