夏・一部
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東京では白熱した大会が終わりを告げ、良佳は用事があるからと後輩たちと会場で別れた。
「で? 政宗はどうすんの?」
「決まってんだろ、このままお前とdateだ」
「帰れ仙台へ」
「生憎、オレも用でこっちに来てんでな。そいつが終わるまでは帰れねぇって寸法だ」
「……もう会社のことに携わるんだ」
「相変わらず、勘の鋭いこった」
彼は、抗えない運命に関する話をする時、必ずと言っていいほど自虐的に笑う。己に敷かれたレールに関しては尚更だ。
「あれ、じゃあ何で一人で行動してんの? お目付け役がすっとんできそうなもんだけど」
今頃政宗が単独行動をしていることに気付くと、政宗はオレも子供じゃねぇよとごちた。
「ふぅん、ま、こじゅ兄の手を煩わせないように自立するのはいいことだね」
「誰が、いつ煩わせたよ」
「あんたが、いつも」
「テメェ、その口塞がれてぇのか?」
「ねえ、お腹すいた。くっついてくんなら飯にしようよ」
すたすたと歩き出した良佳の後ろ姿に、政宗は小さくため息をついた。
(小十郎が自分から仙台に残るっつったなんて知ったら、アイツどう思うだろうな)
小十郎があのように言い出した理由は、紗智の婚約絡みである。おそらく、今頃は従妹に思いの丈とやらをぶつけているに違いない。
年齢の割に清濁を飲み込み育った彼は、いついかなる時も私情を押さえ込んできた。ゆえに、ちょっとした衝撃でそれが瓦解する時がある。
そして、今回それを画策したのは他でもない政宗自身だ。紗智が婚約したという話をわざと小十郎に聞かせた上で、
「もうガキじゃねぇんだ。今回はオレ一人で行く。それに、テメェがいると色々動きづれぇ案件もあんだよ」
と、帯同しづらい言葉を残して来たのだった。
「政宗?」
思案していると、良佳が覗き込んできた。
「っ」
「飯、行くの? 行かないの?」
「行ってやるけど……。お前、その前に道具ホテルに置いてこいよ」
矢筒を斜めにかけ弓袋を肩に背負った姿は、それだけで既に悪目立ちしている。まるで、戦帰りの武将のようだ。
「その格好で行ったら悪目立ちすんだろ」
「ホテル、上野。だから、食いに行った方が早いって」
空腹状態の良佳に何を言っても無駄であることを、政宗は長い付き合いで知っていた。
(ったく、無防備に顔近づけんじゃねぇよ)
心の中で悪態をつき、良佳の後を追った。
「……で? 何だって、武道館から遠い上野に宿を取ったんだ?」
普段肉を食べない良佳を無理矢理焼肉屋に連行し、半眼状態の彼女を置いて政宗は一人食事を続けていた。
「上野の近くに用があるから」
「どんな用なんだ?」
関係ないだろと突っぱねても、政宗は回答を聞くまで梃子でも動かないタイプだ。仕方なく答えることにした。
「豊臣大の院に見学しに行く」
「お前、院はうちのに行くっつってたじゃねぇか!?」
「そうなんだけどね。こじゅ兄が、研究内容と将来のこと考えたら見学だけでも行ったらどうかって。ゼミの南部教授も賛成してくれて、特別に見学許可を貰ってきてくれたんだ」
ついでに、その分野では国内有数の研究所を持つ加賀大の大学院も見学するつもりだと語った。
「……Shit、呑気に飯なんざ食ってる場合じゃねぇな」
「は?」
銀色の箸を止めると、年下の親戚はもう行くと席を立った。
「ちょ、まだ飯の途中っ……!?」
「加賀に行くのはいつだ?」
「え、明後日だけど……」
「All right.それまでに視察終えてくる。いいな、オレを置いて勝手に行くんじゃねぇぞ」
呆気にとられてしまった。
「ここはオレが奢ってやる。最後まで楽しみな」
ニッと口の端を上げ、政宗は伝票をひらひらさせて出て行ってしまった。
「……何で、あいつと院巡りしなきゃなんないの? てか、あたし肉食えねえんだけど……」
皿には、極上の牛肉がまだ残されている。普通の人なら垂涎もののそれは、良佳にとってただの塊でしかない。
仕方なく、それを焼きつつ倍以上の野菜盛りを注文した。皮肉にも、これが良佳の“一人焼肉”デビューとなったのだった。
「で? 政宗はどうすんの?」
「決まってんだろ、このままお前とdateだ」
「帰れ仙台へ」
「生憎、オレも用でこっちに来てんでな。そいつが終わるまでは帰れねぇって寸法だ」
「……もう会社のことに携わるんだ」
「相変わらず、勘の鋭いこった」
彼は、抗えない運命に関する話をする時、必ずと言っていいほど自虐的に笑う。己に敷かれたレールに関しては尚更だ。
「あれ、じゃあ何で一人で行動してんの? お目付け役がすっとんできそうなもんだけど」
今頃政宗が単独行動をしていることに気付くと、政宗はオレも子供じゃねぇよとごちた。
「ふぅん、ま、こじゅ兄の手を煩わせないように自立するのはいいことだね」
「誰が、いつ煩わせたよ」
「あんたが、いつも」
「テメェ、その口塞がれてぇのか?」
「ねえ、お腹すいた。くっついてくんなら飯にしようよ」
すたすたと歩き出した良佳の後ろ姿に、政宗は小さくため息をついた。
(小十郎が自分から仙台に残るっつったなんて知ったら、アイツどう思うだろうな)
小十郎があのように言い出した理由は、紗智の婚約絡みである。おそらく、今頃は従妹に思いの丈とやらをぶつけているに違いない。
年齢の割に清濁を飲み込み育った彼は、いついかなる時も私情を押さえ込んできた。ゆえに、ちょっとした衝撃でそれが瓦解する時がある。
そして、今回それを画策したのは他でもない政宗自身だ。紗智が婚約したという話をわざと小十郎に聞かせた上で、
「もうガキじゃねぇんだ。今回はオレ一人で行く。それに、テメェがいると色々動きづれぇ案件もあんだよ」
と、帯同しづらい言葉を残して来たのだった。
「政宗?」
思案していると、良佳が覗き込んできた。
「っ」
「飯、行くの? 行かないの?」
「行ってやるけど……。お前、その前に道具ホテルに置いてこいよ」
矢筒を斜めにかけ弓袋を肩に背負った姿は、それだけで既に悪目立ちしている。まるで、戦帰りの武将のようだ。
「その格好で行ったら悪目立ちすんだろ」
「ホテル、上野。だから、食いに行った方が早いって」
空腹状態の良佳に何を言っても無駄であることを、政宗は長い付き合いで知っていた。
(ったく、無防備に顔近づけんじゃねぇよ)
心の中で悪態をつき、良佳の後を追った。
「……で? 何だって、武道館から遠い上野に宿を取ったんだ?」
普段肉を食べない良佳を無理矢理焼肉屋に連行し、半眼状態の彼女を置いて政宗は一人食事を続けていた。
「上野の近くに用があるから」
「どんな用なんだ?」
関係ないだろと突っぱねても、政宗は回答を聞くまで梃子でも動かないタイプだ。仕方なく答えることにした。
「豊臣大の院に見学しに行く」
「お前、院はうちのに行くっつってたじゃねぇか!?」
「そうなんだけどね。こじゅ兄が、研究内容と将来のこと考えたら見学だけでも行ったらどうかって。ゼミの南部教授も賛成してくれて、特別に見学許可を貰ってきてくれたんだ」
ついでに、その分野では国内有数の研究所を持つ加賀大の大学院も見学するつもりだと語った。
「……Shit、呑気に飯なんざ食ってる場合じゃねぇな」
「は?」
銀色の箸を止めると、年下の親戚はもう行くと席を立った。
「ちょ、まだ飯の途中っ……!?」
「加賀に行くのはいつだ?」
「え、明後日だけど……」
「All right.それまでに視察終えてくる。いいな、オレを置いて勝手に行くんじゃねぇぞ」
呆気にとられてしまった。
「ここはオレが奢ってやる。最後まで楽しみな」
ニッと口の端を上げ、政宗は伝票をひらひらさせて出て行ってしまった。
「……何で、あいつと院巡りしなきゃなんないの? てか、あたし肉食えねえんだけど……」
皿には、極上の牛肉がまだ残されている。普通の人なら垂涎もののそれは、良佳にとってただの塊でしかない。
仕方なく、それを焼きつつ倍以上の野菜盛りを注文した。皮肉にも、これが良佳の“一人焼肉”デビューとなったのだった。