春・二部
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前だけを見て歩き出した幼馴染は、今回のツアーをきっと成功させるだろう。そして、拠点を海外に移す未来も確定しているに違いない。
長い付き合いから、そう感じた。
小十郎も異動後の仕事が大変なのだろう、メッセージを送れど既読がついたまま返事はない。
自分の大切な人たちが明るい未来へとまた一歩近づいたのに、良佳の心は沈んでいた。
自分だって、長年想い続けた相手と気持ちを通じ合わせ、仕事だって好きな職につけている。人生グラフを描けば、間違いなく上昇方向に伸びているはすなのに、なぜか一人置いて行かれた気分が拭えずにいた。
「……よし」
意を決し、良佳は車に乗り込んだ。向かった先は、先祖の茂庭綱元が眠る御廟だった。
実は、何か迷いが出た時、良佳は一人でこっそり先祖の墓に参ることにしていた。
幾多の苦難を乗り越え、生涯をかけて暴君と呼んでもよい伊達政宗に仕え続けた先祖の心中に思いを馳せると、少しだけ気持ちが楽になることが多かったからだ。幼少期より親から心労をかけ続けられた自分の人生と、何か重なるものを感じるからなのかもしれない。
仙台から御廟がある大崎市の「石雲寺」に到着したのは、もう少しで正午になる時刻だった。
驚いたことに、そこには先客がいた。
「……兄さん?」
良佳の声に振り向いたのは、良佳のすぐ上の兄・綱元だった。
「良佳か。奇遇だな、こんなところで会うとは」
綱元は、妹の顔を見ると少し微笑んだ。
「兄さん、久しぶり! いつ帰国したの? 連絡くれたら迎えに行ったのに」
綱元は、仕事で日本とヨーロッパを行き来する生活を続けている。良佳とは金沢に旅立ったあの日以来なので、実に7年ぶりの再会であった。
「家のことを済ますためにな、おととい帰ってきたばかりだ」
だが、またすぐに戻らなけばならず、だから連絡しなかったのだと兄は言った。
「お前こそ、宮城に戻ってきたんだってな。小十郎から聞いた」
「うん」
「おめでとう、と言っておくか」
綱元は、少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「まだ結婚してないんですけど?」
「同じようなものだろう。あの小十郎が、獲物を目の前にして放っておくはずがないからな」
「獲物って……」
からかう兄に、良佳は困ったように笑い、それを見て綱元も笑った。
「お前の笑顔がまた見られるようになって安心したよ」
「兄さんのおかげ、デス」
「俺は何もしてないさ。お前が、お前の人生を諦めなかったから今がある」
「そう、なのかな……」
「お前の目の前にある現実が、そうだろう。いい加減、お前は自己評価を上げろ」
小さく笑うと、綱元はさて行くかと言った。
「え、もう行くの? うち、寄っていけばいいのに」
「そうしたいのは山々だが、さっきも言った通り茂庭の諸々が俺を待ってるのでな」
長兄たちが家を出たため、茂庭家は綱元が後を継いだ。寺に来たのも、そのためだったらしい。
「お前も家に来るか。両親と、少しは打ち解けられるようになったそうじゃないか」
「……やめとく。今行けば、結婚はどうするんだとか、新居はどこにするんだとか決まってないこと聞かれるだろうし、めんどい」
「そうか」
綱元は、それだけ言うと深く追求してこなかった。
「何かあれば遠慮なく連絡してこい。あと2日は日本にいるからな、話くらいは聞いてやる」
甘やかすでもなく、突き放すでもない。本人が言いたくなれば聞くという兄のスタンスは、相変わらずだった。
「ありがと、綱兄。相変わらずで安心した」
「そうか」
良佳の頭をポンと叩くと、綱元は去っていった。
兄の背中を見送ると、また自分は見送る側なのかと心の底にタールのような重いモノを感じ、体まで重くなっていく気がした。
長い付き合いから、そう感じた。
小十郎も異動後の仕事が大変なのだろう、メッセージを送れど既読がついたまま返事はない。
自分の大切な人たちが明るい未来へとまた一歩近づいたのに、良佳の心は沈んでいた。
自分だって、長年想い続けた相手と気持ちを通じ合わせ、仕事だって好きな職につけている。人生グラフを描けば、間違いなく上昇方向に伸びているはすなのに、なぜか一人置いて行かれた気分が拭えずにいた。
「……よし」
意を決し、良佳は車に乗り込んだ。向かった先は、先祖の茂庭綱元が眠る御廟だった。
実は、何か迷いが出た時、良佳は一人でこっそり先祖の墓に参ることにしていた。
幾多の苦難を乗り越え、生涯をかけて暴君と呼んでもよい伊達政宗に仕え続けた先祖の心中に思いを馳せると、少しだけ気持ちが楽になることが多かったからだ。幼少期より親から心労をかけ続けられた自分の人生と、何か重なるものを感じるからなのかもしれない。
仙台から御廟がある大崎市の「石雲寺」に到着したのは、もう少しで正午になる時刻だった。
驚いたことに、そこには先客がいた。
「……兄さん?」
良佳の声に振り向いたのは、良佳のすぐ上の兄・綱元だった。
「良佳か。奇遇だな、こんなところで会うとは」
綱元は、妹の顔を見ると少し微笑んだ。
「兄さん、久しぶり! いつ帰国したの? 連絡くれたら迎えに行ったのに」
綱元は、仕事で日本とヨーロッパを行き来する生活を続けている。良佳とは金沢に旅立ったあの日以来なので、実に7年ぶりの再会であった。
「家のことを済ますためにな、おととい帰ってきたばかりだ」
だが、またすぐに戻らなけばならず、だから連絡しなかったのだと兄は言った。
「お前こそ、宮城に戻ってきたんだってな。小十郎から聞いた」
「うん」
「おめでとう、と言っておくか」
綱元は、少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「まだ結婚してないんですけど?」
「同じようなものだろう。あの小十郎が、獲物を目の前にして放っておくはずがないからな」
「獲物って……」
からかう兄に、良佳は困ったように笑い、それを見て綱元も笑った。
「お前の笑顔がまた見られるようになって安心したよ」
「兄さんのおかげ、デス」
「俺は何もしてないさ。お前が、お前の人生を諦めなかったから今がある」
「そう、なのかな……」
「お前の目の前にある現実が、そうだろう。いい加減、お前は自己評価を上げろ」
小さく笑うと、綱元はさて行くかと言った。
「え、もう行くの? うち、寄っていけばいいのに」
「そうしたいのは山々だが、さっきも言った通り茂庭の諸々が俺を待ってるのでな」
長兄たちが家を出たため、茂庭家は綱元が後を継いだ。寺に来たのも、そのためだったらしい。
「お前も家に来るか。両親と、少しは打ち解けられるようになったそうじゃないか」
「……やめとく。今行けば、結婚はどうするんだとか、新居はどこにするんだとか決まってないこと聞かれるだろうし、めんどい」
「そうか」
綱元は、それだけ言うと深く追求してこなかった。
「何かあれば遠慮なく連絡してこい。あと2日は日本にいるからな、話くらいは聞いてやる」
甘やかすでもなく、突き放すでもない。本人が言いたくなれば聞くという兄のスタンスは、相変わらずだった。
「ありがと、綱兄。相変わらずで安心した」
「そうか」
良佳の頭をポンと叩くと、綱元は去っていった。
兄の背中を見送ると、また自分は見送る側なのかと心の底にタールのような重いモノを感じ、体まで重くなっていく気がした。