春・二部
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「見たかったなあ、さっちの白無垢」
二人の晴れ着姿の写真を凝視しながら、良佳は言った。
「参列者の人数が限られてたんだ、仕方ねえだろう」
ぐずぐず言う良佳のすぐ横で、小十郎が良佳をたしなめた。
「分かってるよ。うちも片倉も、伊達からすれば結局遠戚だから、式に参加する資格はなかったし。……分かってるもん」
良佳は、子供のようにぷうと頬を膨らませた。
「呼んでやれなくて悪かったな」
「いえ、政宗さまのせいではございませぬ。むしろ、こうしてお二人と直にお話できる方が、小十郎にとっては幸せにございます」
「あたしは、遠目でもいいからさっちの生白無垢見たかったー」
「そんなに褒められたものじゃないと思うんだけど……。そんなに見たかったの?」
いまだむくれる良佳に、白無垢を着た張本人は軽やかに笑った。
「見たかったよ! だって、一生に一度だよ!? だいたい、さっちがどんだけ綺麗かなんて、写真見なくたって分かってるけど!」
「オレのwifeを随分と褒めてくれんじゃねぇか」
「あたしの幼馴染だっつの」
「もう、変なところで張り合わないの」
紗智は苦笑しながら、お茶がはいったと告げた。
ここは、仙台市のとあるマンション。政宗と紗智の新居だ。神前式を終えると同時にこのマンションに引っ越してきたのだ。
「駅チカで便利だよね。けどさ、二人暮らしにしては手狭じゃない? ピアノも置いてないし」
ほわりと良い香りがする紅茶を口に運ぶ。鼻から抜ける香りを楽しんでいると、紗智が意外なことを言った。
「そうね、ここは政宗くんが仕事のために借りてるところだから」
「あれ、新居じゃないの?」
「まぁな。新居は、紗智が海外から帰ってきてから、改めて探す」
紗智は初の海外ツアーを控えており、このあと拠点である東京にトンボ帰りの予定だ。
「新婚さんなのに、お互い忙しいんだね」
「そうでもねぇよ。ツアーしょっぱなは、ちょうどhoneymoonだからな。オレも休暇を取って一緒に行ってくる」
もちろん、ただの休暇にはできない立場なので、海外視察というのがもっぱらの理由だ。
「こじゅ兄も一緒に行くの?」
「ああ。視察の時期は一緒に行く」
「そっかー。みんな海外か~」
リビングに置いてある大きなクッションに身をしずめると、良佳は一人ため息をついた。
「お前も来いよ」
「さすがに、それは無理。転職したばっかだし」
良佳は、伊達グループのとある研究所に就職していた。働いていた研究施設が伊達グループによって買収されたからだ。
研究所にそのまま残ることも可能だったが、輝宗の命により本社のある仙台に異動が決まった。また、恩師である南部の研究所との協同研究に携わることになり、輝宗によって研究員としての人生をさらに突き進むことになったのである。
「オレたちのことより、お前らはどうなんだよ」
政宗が、もうひとつの大きなクッションに身をしずめた。
「どうって?」
「Daddyが、お前らのweddingをどうするか画策してるんだよ」
良佳と小十郎は顔を見合わせた。
「結婚、ねえ……」
「小十郎も、急ぐ必要はないかと」
今さら、という二人の様子に、紗智は呆れた顔をした。
「なに、他人事みたいに言ってんのよ。当代が気にかけてるってことは、あんたたちの結婚だって、何かしら裏があるってことじゃないの」
“義父”と呼ばないあたり、輝宗の存在がどれだけ伊達グループの人間にとって脅威であるかが伺える。
「そうかもしれない。でも、あたしにとってはそこはどうでもいいんだ。こじゅ兄やみんなとずっと会えないことの方がずっと怖いことだって、もう知ってるから」
底辺の悲しみを知っている者の言葉は、とても重みがある。
「急がないという意味では、この小十郎も同じです。……とはいえ、小十郎は年齢が年齢ゆえ、後のことを考えると、少しでも早く一緒になりたいとは思っておりまする」
小十郎は今年40になる。
「Babyか」
良佳は、飲みかけた紅茶を吹き出した。
「きたねぇな!」
「ご、ごめん! や、まさか、こじゅ兄がそんなこと考えてると思わなくて……」
「今年40になるからな。さすがに、考える」
小十郎の考えを初めて聞いた良佳は、これ以上何も言えなくなった。
二人の晴れ着姿の写真を凝視しながら、良佳は言った。
「参列者の人数が限られてたんだ、仕方ねえだろう」
ぐずぐず言う良佳のすぐ横で、小十郎が良佳をたしなめた。
「分かってるよ。うちも片倉も、伊達からすれば結局遠戚だから、式に参加する資格はなかったし。……分かってるもん」
良佳は、子供のようにぷうと頬を膨らませた。
「呼んでやれなくて悪かったな」
「いえ、政宗さまのせいではございませぬ。むしろ、こうしてお二人と直にお話できる方が、小十郎にとっては幸せにございます」
「あたしは、遠目でもいいからさっちの生白無垢見たかったー」
「そんなに褒められたものじゃないと思うんだけど……。そんなに見たかったの?」
いまだむくれる良佳に、白無垢を着た張本人は軽やかに笑った。
「見たかったよ! だって、一生に一度だよ!? だいたい、さっちがどんだけ綺麗かなんて、写真見なくたって分かってるけど!」
「オレのwifeを随分と褒めてくれんじゃねぇか」
「あたしの幼馴染だっつの」
「もう、変なところで張り合わないの」
紗智は苦笑しながら、お茶がはいったと告げた。
ここは、仙台市のとあるマンション。政宗と紗智の新居だ。神前式を終えると同時にこのマンションに引っ越してきたのだ。
「駅チカで便利だよね。けどさ、二人暮らしにしては手狭じゃない? ピアノも置いてないし」
ほわりと良い香りがする紅茶を口に運ぶ。鼻から抜ける香りを楽しんでいると、紗智が意外なことを言った。
「そうね、ここは政宗くんが仕事のために借りてるところだから」
「あれ、新居じゃないの?」
「まぁな。新居は、紗智が海外から帰ってきてから、改めて探す」
紗智は初の海外ツアーを控えており、このあと拠点である東京にトンボ帰りの予定だ。
「新婚さんなのに、お互い忙しいんだね」
「そうでもねぇよ。ツアーしょっぱなは、ちょうどhoneymoonだからな。オレも休暇を取って一緒に行ってくる」
もちろん、ただの休暇にはできない立場なので、海外視察というのがもっぱらの理由だ。
「こじゅ兄も一緒に行くの?」
「ああ。視察の時期は一緒に行く」
「そっかー。みんな海外か~」
リビングに置いてある大きなクッションに身をしずめると、良佳は一人ため息をついた。
「お前も来いよ」
「さすがに、それは無理。転職したばっかだし」
良佳は、伊達グループのとある研究所に就職していた。働いていた研究施設が伊達グループによって買収されたからだ。
研究所にそのまま残ることも可能だったが、輝宗の命により本社のある仙台に異動が決まった。また、恩師である南部の研究所との協同研究に携わることになり、輝宗によって研究員としての人生をさらに突き進むことになったのである。
「オレたちのことより、お前らはどうなんだよ」
政宗が、もうひとつの大きなクッションに身をしずめた。
「どうって?」
「Daddyが、お前らのweddingをどうするか画策してるんだよ」
良佳と小十郎は顔を見合わせた。
「結婚、ねえ……」
「小十郎も、急ぐ必要はないかと」
今さら、という二人の様子に、紗智は呆れた顔をした。
「なに、他人事みたいに言ってんのよ。当代が気にかけてるってことは、あんたたちの結婚だって、何かしら裏があるってことじゃないの」
“義父”と呼ばないあたり、輝宗の存在がどれだけ伊達グループの人間にとって脅威であるかが伺える。
「そうかもしれない。でも、あたしにとってはそこはどうでもいいんだ。こじゅ兄やみんなとずっと会えないことの方がずっと怖いことだって、もう知ってるから」
底辺の悲しみを知っている者の言葉は、とても重みがある。
「急がないという意味では、この小十郎も同じです。……とはいえ、小十郎は年齢が年齢ゆえ、後のことを考えると、少しでも早く一緒になりたいとは思っておりまする」
小十郎は今年40になる。
「Babyか」
良佳は、飲みかけた紅茶を吹き出した。
「きたねぇな!」
「ご、ごめん! や、まさか、こじゅ兄がそんなこと考えてると思わなくて……」
「今年40になるからな。さすがに、考える」
小十郎の考えを初めて聞いた良佳は、これ以上何も言えなくなった。