春・二部
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桜の花が舞い散る頃、とある神社で神前結婚式が行われた。
この神社では、少し変わったスタイルがもちいられている。
神前結婚式では、新郎新婦ははじめから正面に座っていることが多いが、この神社では新婦が一度、新郎のそばへ移る。
この行動によって、参加者はもちろん、新婦も自分は相手の家へ「嫁ぐ」のだと、より強く印象を受けるスタイルとなっている。
もちろん、受け止める側の新郎も同様に強く印象を受ける。むしろ、新郎の方がより強くそれを受けるといってもいいだろう。
本来は、この式をもって新しい人間を「家」に向かえるのだと、新郎側の人間に“覚悟”を持たせるための新婦の可視化行動なのだが、今回の結婚では決してそうではない。
新郎新婦の結婚を口実に、「亘理伊達家」が「本家伊達家」に屈服することを外部にアピールするためだけの行為なのだ。
(まぁ、だからジジィどもは、この神社で式挙げろっつったんだろうけどよ)
家の名前に対して着席数が圧倒的に少ないこの神社での結婚式をすすめられた理由を、政宗はきちんと理解していた。
もちろん、反対することだってできた。ほかでもない、自分と紗智の結婚式なのだから。
だが、そんなことをしたとしても、自分たちの意見だけでは簡単に握りつぶされていたであろう。同時に、「伊達輝宗」という、超えなければならないでかい存在によってサポートされる未来も容易に想像できた。
だからこそ、政宗は今回の式に関して一切口を挟まなかった。
口を出したとすれば、参加できない者たちへの救済の意味を込めたお披露目パーティーを断固拒否したくらいだ。
(Partyなんざ開いた日にゃ、どうせdaddyの独壇場だ)
わんさかやってくる招待客に、新郎新婦そろって見世物として紹介され続けるのがオチで、名家のパーティーなどそんなものであり、自分はまだ「伊達輝宗の息子」でしかない存在だということもよく分かっていた。
だから、彼にとって式はどうでもよいモノだったのである。
(まぁ、それに……)
ちら、と、隣を見やる。
(白無垢姿の紗智を、大勢にさらさなくていいのはある意味ラッキーだな)
親族を含め、20名が最大の会場だからこそ、彼女の姿をじっくりと見られるのもその人数に限られている。
(こんだけキレイなコイツを、よそのヤローに見せてやる必要なんざどこにもねぇからな)
贔屓目でなくても、紗智はいつも以上に綺麗だった。
いつもは仕事の関係上ドレス姿が多いせいか、和服姿がより新鮮に映る。元々、容姿は端麗な方で、洋装より和装の方が映える顔立ちだ。政宗は、つくづくもったいないと思っていた。
(まぁ、ライブに着物ってワケにゃいかねぇからな。仕方ねぇんだけどよ)
そう思ったところで、笑いがこみあげてきた。
自分は、紗智の和装を見せびらかしたいのか、見せたくないのか。
(ずいぶんと惚れこんじまったモンだぜ、この独眼竜がよ)
クッと喉の奥で笑った。
「……政宗くん?」
その声が聴こえたのか、紗智は緊張から伏していた目をそっと政宗に向けてきた。
「……なんでもねぇ。気にすんな」
「そう?」
紗智はそう言うと、再び目を伏せた。
紗智のすごいところは、政宗の言葉を素直に信じるところだ。普通は、気にするなと言われても自分の気持ちや知りたい欲求に負けて追求しそうなものだが、紗智にはその考えが全くない。
(全幅の信頼ってヤツか、あるいは……)
引き続き祝詞が響く社内で、今日を境に正式に自分の伴侶となる紗智の心を、政宗は内心測りかねていた。
昔のことを思い出すに、紗智は“自分”というものを持たずに大人になった節がある。それは、強き存在に従い、時流を読むことに全神経を注ぐ亘理伊達家の生き方そのものとも言えるのだが、ほんの少しの縁を運に変え、自分の才能である「歌(ライブ)」に生きる道を見出し、そして見事に切り開いてみせた紗智は、まさしくその力を持っていると言えよう。
自分のことを幼少の頃からずっと想い続けていたというが、強き存在に従う亘理伊達家の嗅覚なのではないかと感じることさえある。
(だとしてもだ)
式が終わり、紗智の手を取り社内から出た。通りすがりの観光客から歓声があがる。
桜の花びらは今もひらひらと舞い落ち、地面には見事な花莚(むしろ)ができあがっていて、世界は白無垢姿の紗智の姿がより映える色に満ちていた。
(オレに価値があるうちは、紗智はオレのそばにいるってこった)
彼女の気持ちが、彼女オリジナルのものなのか、あるいは亘理のなせる技なのかは分からない。
分からないが、相手の気持ちというものはいつだって分からないものだ。
「紗智」
名を呼ばれ、紗智が口元を綻ばせる。
今、自分の隣には自分を信じて笑顔を向けてくれる紗智がいる。分かっていることは、“今”この瞬間だけなのだ。
だったら、今この瞬間に沸き起こってくる正直な気持ちを、ストレートに伝えるのが最も自分らしい。
「なに、政宗くん」
左薬指に光る指輪が春の陽を受けて光る。政宗は、光につられて指に、そして手のひらにキスを落とした。
「I love you」
観光客からまた別の歓声があがり、参列席にいた成実は泡を吹いて倒れ、神社は神事を執り行った後とは思えない、賑やかな時が過ぎようとしていた。
この神社では、少し変わったスタイルがもちいられている。
神前結婚式では、新郎新婦ははじめから正面に座っていることが多いが、この神社では新婦が一度、新郎のそばへ移る。
この行動によって、参加者はもちろん、新婦も自分は相手の家へ「嫁ぐ」のだと、より強く印象を受けるスタイルとなっている。
もちろん、受け止める側の新郎も同様に強く印象を受ける。むしろ、新郎の方がより強くそれを受けるといってもいいだろう。
本来は、この式をもって新しい人間を「家」に向かえるのだと、新郎側の人間に“覚悟”を持たせるための新婦の可視化行動なのだが、今回の結婚では決してそうではない。
新郎新婦の結婚を口実に、「亘理伊達家」が「本家伊達家」に屈服することを外部にアピールするためだけの行為なのだ。
(まぁ、だからジジィどもは、この神社で式挙げろっつったんだろうけどよ)
家の名前に対して着席数が圧倒的に少ないこの神社での結婚式をすすめられた理由を、政宗はきちんと理解していた。
もちろん、反対することだってできた。ほかでもない、自分と紗智の結婚式なのだから。
だが、そんなことをしたとしても、自分たちの意見だけでは簡単に握りつぶされていたであろう。同時に、「伊達輝宗」という、超えなければならないでかい存在によってサポートされる未来も容易に想像できた。
だからこそ、政宗は今回の式に関して一切口を挟まなかった。
口を出したとすれば、参加できない者たちへの救済の意味を込めたお披露目パーティーを断固拒否したくらいだ。
(Partyなんざ開いた日にゃ、どうせdaddyの独壇場だ)
わんさかやってくる招待客に、新郎新婦そろって見世物として紹介され続けるのがオチで、名家のパーティーなどそんなものであり、自分はまだ「伊達輝宗の息子」でしかない存在だということもよく分かっていた。
だから、彼にとって式はどうでもよいモノだったのである。
(まぁ、それに……)
ちら、と、隣を見やる。
(白無垢姿の紗智を、大勢にさらさなくていいのはある意味ラッキーだな)
親族を含め、20名が最大の会場だからこそ、彼女の姿をじっくりと見られるのもその人数に限られている。
(こんだけキレイなコイツを、よそのヤローに見せてやる必要なんざどこにもねぇからな)
贔屓目でなくても、紗智はいつも以上に綺麗だった。
いつもは仕事の関係上ドレス姿が多いせいか、和服姿がより新鮮に映る。元々、容姿は端麗な方で、洋装より和装の方が映える顔立ちだ。政宗は、つくづくもったいないと思っていた。
(まぁ、ライブに着物ってワケにゃいかねぇからな。仕方ねぇんだけどよ)
そう思ったところで、笑いがこみあげてきた。
自分は、紗智の和装を見せびらかしたいのか、見せたくないのか。
(ずいぶんと惚れこんじまったモンだぜ、この独眼竜がよ)
クッと喉の奥で笑った。
「……政宗くん?」
その声が聴こえたのか、紗智は緊張から伏していた目をそっと政宗に向けてきた。
「……なんでもねぇ。気にすんな」
「そう?」
紗智はそう言うと、再び目を伏せた。
紗智のすごいところは、政宗の言葉を素直に信じるところだ。普通は、気にするなと言われても自分の気持ちや知りたい欲求に負けて追求しそうなものだが、紗智にはその考えが全くない。
(全幅の信頼ってヤツか、あるいは……)
引き続き祝詞が響く社内で、今日を境に正式に自分の伴侶となる紗智の心を、政宗は内心測りかねていた。
昔のことを思い出すに、紗智は“自分”というものを持たずに大人になった節がある。それは、強き存在に従い、時流を読むことに全神経を注ぐ亘理伊達家の生き方そのものとも言えるのだが、ほんの少しの縁を運に変え、自分の才能である「歌(ライブ)」に生きる道を見出し、そして見事に切り開いてみせた紗智は、まさしくその力を持っていると言えよう。
自分のことを幼少の頃からずっと想い続けていたというが、強き存在に従う亘理伊達家の嗅覚なのではないかと感じることさえある。
(だとしてもだ)
式が終わり、紗智の手を取り社内から出た。通りすがりの観光客から歓声があがる。
桜の花びらは今もひらひらと舞い落ち、地面には見事な花莚(むしろ)ができあがっていて、世界は白無垢姿の紗智の姿がより映える色に満ちていた。
(オレに価値があるうちは、紗智はオレのそばにいるってこった)
彼女の気持ちが、彼女オリジナルのものなのか、あるいは亘理のなせる技なのかは分からない。
分からないが、相手の気持ちというものはいつだって分からないものだ。
「紗智」
名を呼ばれ、紗智が口元を綻ばせる。
今、自分の隣には自分を信じて笑顔を向けてくれる紗智がいる。分かっていることは、“今”この瞬間だけなのだ。
だったら、今この瞬間に沸き起こってくる正直な気持ちを、ストレートに伝えるのが最も自分らしい。
「なに、政宗くん」
左薬指に光る指輪が春の陽を受けて光る。政宗は、光につられて指に、そして手のひらにキスを落とした。
「I love you」
観光客からまた別の歓声があがり、参列席にいた成実は泡を吹いて倒れ、神社は神事を執り行った後とは思えない、賑やかな時が過ぎようとしていた。