冬・二部
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いつも、目覚めは悪かった。もともと眠りが浅いのに加え、寝つきがよくないからだ。
小さい頃、寝る時間になるたびに両親が口論を起こし、それで目が覚めたほかの兄姉たちが良佳に腹いせをしに来たことがあり、これがトラウマになっているのが原因だった。
(ぐっすり眠ったら、次の朝、二度と目を覚まさないかも……!)
綱元が留守の日にひどい仕打ちにあったこともあり、眠ることが怖くなっていたらしい。
それが、どうだろう。
「ん……」
自然と目が覚めた時、心も体もとても軽かった。
窓から差し込む光は既に明るく、日の出の時間はとうに過ぎ、世の中が動き出すそれだと告げていた。
ぼんやりした視界が、光のおかげで少しずつ焦点が合ってきた。
(昨日は3人と久々に会って、それから酒盛りになったんだっけ……)
女2人の本性見たり――。
男性陣の呆気にとられた顔を思い出し、笑いがこみ上げてきた。
起きてすぐ笑うなど、人生初なのではないだろうか。
それも、このすがすがしい目覚めのおかげなのだろう。
「起きたか」
ぎし、とベッドが揺れた。見知らぬ天井だった視界が、ずっと想って来た男の顔でいっぱいになった。
「こ、こじゅ、兄……!?」
「何だ、ほうけた面して」
前髪をおろした強面がふっと笑った。
(あ、朝からこじゅ兄のドアップとか、心臓に悪い!!)
急いで布団で顔を覆った。
「いい加減起きねえと、朝食食いっぱぐれるぞ」
布団の上から、ポンと軽く叩かれた。
「え、ここ、どこ……?」
「何寝ぼけたこと言ってやがる。白石市だ」
そう言われても、良佳の頭はまだぼやけていた。
「昨日、紗智さまと一緒になって相当飲んでたからな。ほらよ、飲めるか?」
差し出された湯飲みを受け取る。ホカホカと沸き上がる湯気に、中身が白湯だと気付いた。
腸内環境を気にして、起き立てにいつも白湯を飲んでいると話したことを覚えてくれていたらしい。
少し口に含むと、ちょうどよい温かさが口の中を、そして体内を温めてくれた。
「おいしい」
「そりゃよかった」
体の中が温まってくると、少しずつ現実が分かってきた。
昨日、政宗、紗智と別れた後、小十郎の運転する車で白石市の温泉地である小原地区の宿にやってきた。仙台に戻ってきた時、小十郎に誘われていた、あれである。
「まさか、本当に泊まると思ってなかった」
「お前が限界まで飲んじまうから、折角の夜がお預けだったけどな」
「はっ! な、何言ってんの!!」
布団から飛び出し、拳で殴りかかった。
「おっと」
小十郎は、その拳を軽々と受け止めた。
「照れ隠しで殴ってくるな。危ないだろ」
「うう、だって、こじゅ兄がーっ!」
「俺が、何だ?」
にやりと笑う顔が、明らかにからかうそれだ。こうなると、良佳に勝ち目はない。
「……何でもない」
「何だ、やけに素直だな」
「朝ごはん、食べ損ねたくないし」
「色気より食い気か」
くくっと笑うその顔を思い切り睨んだが、小十郎はその顔を見てさらに笑うだけだった。
何とか朝食時間ギリギリに食堂に滑り込む。
二日酔いではないがそこまで空腹ではなかったので軽めに済ませようと思っていた。が、女将らしき人が各席を回ってきて、茶碗にこんもりとかゆを入れていった。
「若いんだから、これくらい食べないと!」
鍋の中には、今いる食堂客全員でも食べきれない量が入っていて、おそらく廃棄したくない思惑がお客さまサービスを上回った結果の行動なのだろう。
良佳は閉口したが、食べられない量ではなかったし、残すのももったいない気がして口に運んだ。
薄味で味付けられた粥は、本調子ではない体に沁みて不思議とスルスルと入っていった。
「あんだけ飲んだのに、よく食えるな」
「お粥だからね」
思えば、昨日は酒こそ口にしたが、つまみ以外でまともな食事をとっていなかった気がする。
女将に粥のおかわりを申し出ると、女将はとても喜んでくれ、漬物のおかわりをサービスしてくれた。
「あなたがた、ご夫婦?」
女将が去り際、尋ねてきた。
「い、いえ、違い……」
「まあ、そんなものです」
小十郎がすかさず答えた。
「ちょ、こじゅ兄!」
「違わねえだろ?」
「仲がよろしいのね」
女将はほくそ笑むと、そのまま厨房へと戻ってしまった。
「ちょっと、こじゅ兄。誤解招くようなこと言わないでよ!」
「誤解じゃねえだろ」
茶をゆっくりすする想い人の姿は余裕すらあって、一人じたばたしている自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「……そうなるといいけど」
最後の粥を口に運ぶと、ポンと頭を撫でられた。
「心配なら、既成事実作ってやるぞ」
「いらねえよ!」
思わず、素が出てしまったのだった。
小さい頃、寝る時間になるたびに両親が口論を起こし、それで目が覚めたほかの兄姉たちが良佳に腹いせをしに来たことがあり、これがトラウマになっているのが原因だった。
(ぐっすり眠ったら、次の朝、二度と目を覚まさないかも……!)
綱元が留守の日にひどい仕打ちにあったこともあり、眠ることが怖くなっていたらしい。
それが、どうだろう。
「ん……」
自然と目が覚めた時、心も体もとても軽かった。
窓から差し込む光は既に明るく、日の出の時間はとうに過ぎ、世の中が動き出すそれだと告げていた。
ぼんやりした視界が、光のおかげで少しずつ焦点が合ってきた。
(昨日は3人と久々に会って、それから酒盛りになったんだっけ……)
女2人の本性見たり――。
男性陣の呆気にとられた顔を思い出し、笑いがこみ上げてきた。
起きてすぐ笑うなど、人生初なのではないだろうか。
それも、このすがすがしい目覚めのおかげなのだろう。
「起きたか」
ぎし、とベッドが揺れた。見知らぬ天井だった視界が、ずっと想って来た男の顔でいっぱいになった。
「こ、こじゅ、兄……!?」
「何だ、ほうけた面して」
前髪をおろした強面がふっと笑った。
(あ、朝からこじゅ兄のドアップとか、心臓に悪い!!)
急いで布団で顔を覆った。
「いい加減起きねえと、朝食食いっぱぐれるぞ」
布団の上から、ポンと軽く叩かれた。
「え、ここ、どこ……?」
「何寝ぼけたこと言ってやがる。白石市だ」
そう言われても、良佳の頭はまだぼやけていた。
「昨日、紗智さまと一緒になって相当飲んでたからな。ほらよ、飲めるか?」
差し出された湯飲みを受け取る。ホカホカと沸き上がる湯気に、中身が白湯だと気付いた。
腸内環境を気にして、起き立てにいつも白湯を飲んでいると話したことを覚えてくれていたらしい。
少し口に含むと、ちょうどよい温かさが口の中を、そして体内を温めてくれた。
「おいしい」
「そりゃよかった」
体の中が温まってくると、少しずつ現実が分かってきた。
昨日、政宗、紗智と別れた後、小十郎の運転する車で白石市の温泉地である小原地区の宿にやってきた。仙台に戻ってきた時、小十郎に誘われていた、あれである。
「まさか、本当に泊まると思ってなかった」
「お前が限界まで飲んじまうから、折角の夜がお預けだったけどな」
「はっ! な、何言ってんの!!」
布団から飛び出し、拳で殴りかかった。
「おっと」
小十郎は、その拳を軽々と受け止めた。
「照れ隠しで殴ってくるな。危ないだろ」
「うう、だって、こじゅ兄がーっ!」
「俺が、何だ?」
にやりと笑う顔が、明らかにからかうそれだ。こうなると、良佳に勝ち目はない。
「……何でもない」
「何だ、やけに素直だな」
「朝ごはん、食べ損ねたくないし」
「色気より食い気か」
くくっと笑うその顔を思い切り睨んだが、小十郎はその顔を見てさらに笑うだけだった。
何とか朝食時間ギリギリに食堂に滑り込む。
二日酔いではないがそこまで空腹ではなかったので軽めに済ませようと思っていた。が、女将らしき人が各席を回ってきて、茶碗にこんもりとかゆを入れていった。
「若いんだから、これくらい食べないと!」
鍋の中には、今いる食堂客全員でも食べきれない量が入っていて、おそらく廃棄したくない思惑がお客さまサービスを上回った結果の行動なのだろう。
良佳は閉口したが、食べられない量ではなかったし、残すのももったいない気がして口に運んだ。
薄味で味付けられた粥は、本調子ではない体に沁みて不思議とスルスルと入っていった。
「あんだけ飲んだのに、よく食えるな」
「お粥だからね」
思えば、昨日は酒こそ口にしたが、つまみ以外でまともな食事をとっていなかった気がする。
女将に粥のおかわりを申し出ると、女将はとても喜んでくれ、漬物のおかわりをサービスしてくれた。
「あなたがた、ご夫婦?」
女将が去り際、尋ねてきた。
「い、いえ、違い……」
「まあ、そんなものです」
小十郎がすかさず答えた。
「ちょ、こじゅ兄!」
「違わねえだろ?」
「仲がよろしいのね」
女将はほくそ笑むと、そのまま厨房へと戻ってしまった。
「ちょっと、こじゅ兄。誤解招くようなこと言わないでよ!」
「誤解じゃねえだろ」
茶をゆっくりすする想い人の姿は余裕すらあって、一人じたばたしている自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「……そうなるといいけど」
最後の粥を口に運ぶと、ポンと頭を撫でられた。
「心配なら、既成事実作ってやるぞ」
「いらねえよ!」
思わず、素が出てしまったのだった。