冬・二部
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紗智が豪酒と分かり、思わぬ酒盛りになった昨夜。
おかげで政宗は泥酔してしまい、紗智との初夜はいつの間にか過ぎていた。
「……頭痛ぇ」
しかも、目覚めたら目覚めたで二日酔いという状態であった。
「政宗くん、おはよう。大丈夫?」
覗き込んできた紗智の顔は至って普通で、酒の匂いすらしない。政宗もかなりいける口だが、酒に関して彼女にはかなわないと思った。
「大丈夫?」
心配げにもう一度聞いてきたので、軽く手をあげた。
「ああ、心配すんな。……それより、悪かったな」
政宗の言わんとすることを理解し、紗智は頬を紅くした。
「そ、それだけが目的の旅行じゃ、ないから……」
そっぽを向いた彼女がかわいくて、もっとからかいたくなり彼女の首に腕をかけた。
「きゃ!」
「だな。けど、まだcheck outまでにゃ十分時間があるぜ?」
ニヤニヤ笑うと、さらに紅潮してしまったので、ついには声を出して笑ってしまった。
「も、もう! 政宗くんたら!」
「悪ぃ、ついからかっちまいたくなってな」
華奢な首から腕を離し、もう一度ベッドに横たわる。二日酔いのせいで頭がぐらんとし、世界が一瞬回って見えた。
「はい」
目線だけ横に向けると、紗智が白湯の入ったコップを差し出してくれていた。白湯は二日酔いの胃にちょうどよい温度で、量もちょうどよかった。
「俺の欲しい量がよく分かったな」
「昨日、寝る前に飲んでた量を入れたの。コップいっぱい渡したら半分残してたから、もしかしたら半分くらいが政宗くんの好みの量なのかなって思って」
興味がなければ、そんなところは見ないしそのように感じたりもしないだろう。
「お前、本当にオレが好きなんだな」
思ったことを述べると、紗智はまた赤くなりつつ頷いた。
「政宗くんは私のすべてだから」
ベッドサイドに座り、紗智は自分のカップのふちをなぞった。
「前にも言ったでしょ。私の世界を変えてくれたのは、政宗くんだって」
「あぁ」
「その世界が今の私のすべてだから、この世界がなかったら私はきっと“私”を生きられていないと思う。そういう意味でも、政宗くんは私の恩人でもあり、私のすべてなの」
「変わったのは、お前自身だ。お前が今のお前じゃ満足できずに変わりたいって思って動いたんだろ? オレは、ただ口実を与えただけだぜ」
「その口実の行き先が国外だったのは驚いたけどね」
笑うと、紗智はカップに口をつけた。中はコーヒーなのだろう、焙煎されたよい香りが政宗の鼻孔にも届いた。
「オレを忘れようとしたことはなかったのか?」
気になって問うてみた。
すると、
「忘れようと思ったことは、あったよ」
と、言われた。
「そりゃ、いつだ?」
意外なようなショックなような、何とも言えない感情が政宗の胸に込み上げたが、顔には出さずにおいた。
「アメリカ行ってる間。同じアパルトマンに気の合うお兄さんがいてね」
なんでも、高知から製品を売り込むために渡米した若社長らしく、酒は酒豪だった彼に鍛えられたのだと言った。
「出会って何ヵ月かした頃だったかな。二人ともお酒が過ぎて、私も寂しさに流されて……。そんな雰囲気になったことがあったの」
だが、政宗と同じく眼帯をした彼の顔が政宗に見えた途端、我に返ったらしい。
「触れられるのも覆いかぶさられるのも、政宗くんじゃないと嫌って思ったの」
思いが態度に出たせいか若社長とはそれ以来気まずくなり、彼が高知に帰る日も結局会わなかったらしい。
「連絡先聞いていないし、彼とはそれきり」
「……そうか」
紗智が煎れたお茶をすすると、政宗は静かに呟いた。
「あの時にね、政宗くんへの想いはわたしの一部なんだなって気付いたの。どんなに悲しくても、苦しくても、ごまかしても、ふとした瞬間に政宗くんが私の中から出てくるんだもん。もうね、自分の一部なんだ、この気持ちは」
ふふ、と笑った。
「この気持ちを手放すなんてできない。だって、手放したら私は自分で自分を手放すことになるから」
「まるで、俺がお前の存在証明みてぇだな」
また、お茶を口にした。苦さの中に芳醇な香りとほのかな甘さがあり、自分の好きな味だと思った。
「デカルトみたいだね」
「デカルト? ……ああ、“我思うゆえに我あり”ってやつか」
「“我”は、本来自分のことだけど、私の場合政宗くんなんだろうね」
「だったら、このオレもお前が想ってくれるおかげで“オレ”という存在を認識できるのかもしれねぇな」
湯呑みを置くと、紗智の膝に頭を乗せた。
「柔らかくないから、気持ちよくないよ?」
「やってもらうことに意味があんだよ」
「そうなの?」
また笑い、紗智はためらいつつ政宗の髪を梳いた。
「このままお前を抱いちまいてぇとこだが、まだ頭が痛ぇ」
「自分を大事にして。私は政宗くんが一番だから、政宗くんがそうしたいって思った時にそうしてくれたらいいよ」
「本音を言えよ」
「さっきの、本音なんだけど……」
困った顔が、嘘ではないことを物語っている。
「シゲや小十郎の前みたく、自分を出せよ。それこそ、オレを小十郎だと思って……」
「あり得ない」
にっこり笑う紗智の顔が、氷のように冷たい。
(Oh……。小十郎のヤツ、一体何しやがったんだ)
二人に問うても何も答えないことは明白だから、政宗は軽く肩をすくめ冗談だと言うにとどめた。
「もう少し、横になる」
そう言って、政宗は横になった。紗智の指はまだ政宗の髪を梳き続けた。
「気持ちがいいな……」
押し寄せるまどろみが心地よい。ふわふわした感覚は、酔いのせいだけではないだろう。
目を瞑ると、すぐに意識を手放した。おやすみという声と共に、キスが降ってきた気がした。
おかげで政宗は泥酔してしまい、紗智との初夜はいつの間にか過ぎていた。
「……頭痛ぇ」
しかも、目覚めたら目覚めたで二日酔いという状態であった。
「政宗くん、おはよう。大丈夫?」
覗き込んできた紗智の顔は至って普通で、酒の匂いすらしない。政宗もかなりいける口だが、酒に関して彼女にはかなわないと思った。
「大丈夫?」
心配げにもう一度聞いてきたので、軽く手をあげた。
「ああ、心配すんな。……それより、悪かったな」
政宗の言わんとすることを理解し、紗智は頬を紅くした。
「そ、それだけが目的の旅行じゃ、ないから……」
そっぽを向いた彼女がかわいくて、もっとからかいたくなり彼女の首に腕をかけた。
「きゃ!」
「だな。けど、まだcheck outまでにゃ十分時間があるぜ?」
ニヤニヤ笑うと、さらに紅潮してしまったので、ついには声を出して笑ってしまった。
「も、もう! 政宗くんたら!」
「悪ぃ、ついからかっちまいたくなってな」
華奢な首から腕を離し、もう一度ベッドに横たわる。二日酔いのせいで頭がぐらんとし、世界が一瞬回って見えた。
「はい」
目線だけ横に向けると、紗智が白湯の入ったコップを差し出してくれていた。白湯は二日酔いの胃にちょうどよい温度で、量もちょうどよかった。
「俺の欲しい量がよく分かったな」
「昨日、寝る前に飲んでた量を入れたの。コップいっぱい渡したら半分残してたから、もしかしたら半分くらいが政宗くんの好みの量なのかなって思って」
興味がなければ、そんなところは見ないしそのように感じたりもしないだろう。
「お前、本当にオレが好きなんだな」
思ったことを述べると、紗智はまた赤くなりつつ頷いた。
「政宗くんは私のすべてだから」
ベッドサイドに座り、紗智は自分のカップのふちをなぞった。
「前にも言ったでしょ。私の世界を変えてくれたのは、政宗くんだって」
「あぁ」
「その世界が今の私のすべてだから、この世界がなかったら私はきっと“私”を生きられていないと思う。そういう意味でも、政宗くんは私の恩人でもあり、私のすべてなの」
「変わったのは、お前自身だ。お前が今のお前じゃ満足できずに変わりたいって思って動いたんだろ? オレは、ただ口実を与えただけだぜ」
「その口実の行き先が国外だったのは驚いたけどね」
笑うと、紗智はカップに口をつけた。中はコーヒーなのだろう、焙煎されたよい香りが政宗の鼻孔にも届いた。
「オレを忘れようとしたことはなかったのか?」
気になって問うてみた。
すると、
「忘れようと思ったことは、あったよ」
と、言われた。
「そりゃ、いつだ?」
意外なようなショックなような、何とも言えない感情が政宗の胸に込み上げたが、顔には出さずにおいた。
「アメリカ行ってる間。同じアパルトマンに気の合うお兄さんがいてね」
なんでも、高知から製品を売り込むために渡米した若社長らしく、酒は酒豪だった彼に鍛えられたのだと言った。
「出会って何ヵ月かした頃だったかな。二人ともお酒が過ぎて、私も寂しさに流されて……。そんな雰囲気になったことがあったの」
だが、政宗と同じく眼帯をした彼の顔が政宗に見えた途端、我に返ったらしい。
「触れられるのも覆いかぶさられるのも、政宗くんじゃないと嫌って思ったの」
思いが態度に出たせいか若社長とはそれ以来気まずくなり、彼が高知に帰る日も結局会わなかったらしい。
「連絡先聞いていないし、彼とはそれきり」
「……そうか」
紗智が煎れたお茶をすすると、政宗は静かに呟いた。
「あの時にね、政宗くんへの想いはわたしの一部なんだなって気付いたの。どんなに悲しくても、苦しくても、ごまかしても、ふとした瞬間に政宗くんが私の中から出てくるんだもん。もうね、自分の一部なんだ、この気持ちは」
ふふ、と笑った。
「この気持ちを手放すなんてできない。だって、手放したら私は自分で自分を手放すことになるから」
「まるで、俺がお前の存在証明みてぇだな」
また、お茶を口にした。苦さの中に芳醇な香りとほのかな甘さがあり、自分の好きな味だと思った。
「デカルトみたいだね」
「デカルト? ……ああ、“我思うゆえに我あり”ってやつか」
「“我”は、本来自分のことだけど、私の場合政宗くんなんだろうね」
「だったら、このオレもお前が想ってくれるおかげで“オレ”という存在を認識できるのかもしれねぇな」
湯呑みを置くと、紗智の膝に頭を乗せた。
「柔らかくないから、気持ちよくないよ?」
「やってもらうことに意味があんだよ」
「そうなの?」
また笑い、紗智はためらいつつ政宗の髪を梳いた。
「このままお前を抱いちまいてぇとこだが、まだ頭が痛ぇ」
「自分を大事にして。私は政宗くんが一番だから、政宗くんがそうしたいって思った時にそうしてくれたらいいよ」
「本音を言えよ」
「さっきの、本音なんだけど……」
困った顔が、嘘ではないことを物語っている。
「シゲや小十郎の前みたく、自分を出せよ。それこそ、オレを小十郎だと思って……」
「あり得ない」
にっこり笑う紗智の顔が、氷のように冷たい。
(Oh……。小十郎のヤツ、一体何しやがったんだ)
二人に問うても何も答えないことは明白だから、政宗は軽く肩をすくめ冗談だと言うにとどめた。
「もう少し、横になる」
そう言って、政宗は横になった。紗智の指はまだ政宗の髪を梳き続けた。
「気持ちがいいな……」
押し寄せるまどろみが心地よい。ふわふわした感覚は、酔いのせいだけではないだろう。
目を瞑ると、すぐに意識を手放した。おやすみという声と共に、キスが降ってきた気がした。