冬・二部
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問題を解決してほっとしたのもつかの間。
「では、二人の挙式をいつにするか決めようか」
笑顔全開の輝宗に、二人は同時に紅茶を吹きかけるところだった。
「きょっ、きょしっ!?」
「輝宗さま! お戯れはほどほどになさってください!」
「戯れではない。娘も同然のかわいい良佳が、晴れて茂庭の人間だと分かったのだ。何も障害はないではないか」
小十郎は一つ吐息し、こう言った。
「確かに、“血筋”の面では何も問題ありません。ですが、小十郎は主たる政宗さまより先に妻帯する気はありません」
「ほう」
小十郎は、昔からこう言っていた。結婚の煩わしさから逃れるためだと思ったが、どうやら本当に誓いとして立てているらしい。
「良佳はどうなのだ?」
横に視線を向けると、良佳はすぐに頷いた。
「構いません。結婚したのに金沢と仙台で離ればなれなのは嫌だし、研究を中途半端にするのはもっと嫌ですから。こちらとしても、目処立ててからが望みでしたのでちょうどいいです」
「こちらもこれか……」
とりつく島もない二人を相手にこれ以上の進展は望めず、輝宗はため息ともに諦めた。
「……しかし、人とはおさまるところにおさまるものだな」
二人が去った部屋で一人、階下を見下ろす。
二人が並んでどこかへ向かう姿が目に留まり、口元が緩んだ。
「一時は、亘理と片倉の組み合わせも良いかと思ったが、紗智嬢の価値を思えば片倉にやらなくて正解だったな。……お前はどう思う、基信?」
今は政宗の秘書を務める遠藤基信が、新しい紅茶を運んできた。
「いずれの組み合わせも、伊達の繁栄に繋がりましょう」
「優等生な回答だな」
「なれば、本音を。紗智お嬢さまは制裁をくわえた家系のご息女でいらっしゃいますが、あの方の力量を考えれば、亘理の名はいずれ関係なくなりましょう。上杉との繋がりも強く、ゆえに坊っちゃまと添わせるのが一番うまみがあらかろうかと」
「策士が。私は、そのようなこと考えたこともないわ」
「ご冗談を」
コポコポと小気味よい音と共に、アールグレイの華やかな香りが部屋に広がっていく。
「仕事優先のあの二人をどうするか。金沢の例の研究施設は既に買収済みだから、良佳が伊達と前田の板挟みで困るという悩みは起きんだろう。問題は、あの強面だな……」
思案していると、基信がぽつりと呟いた。
「坊っちゃまには、早く落ち着いていただきたいものですな」
輝宗の顔が一瞬にして晴れた。
「そうか! 私としたことが、何故気づかなかったか!」
いたずらを思い付いた子どもの表情で思案を巡らせる輝宗を、基信は静かに見つめていた。
その日の夕方。
仙台市内にある政宗行きつけの料亭に、良佳、紗智、政宗、小十郎の姿があった。四人で集まるのは、何年ぶりだろう。
話に花が咲いていたが、途中から良佳の話になった。
「……つーことは、なんだ。お前は、parentsの痴話ゲンカに巻き込まれたってことか?」
「ま、そんなとこ」
「政宗さま、箸で人をさすなど行儀が悪いですぞ」
「片倉、今はそんなことどうでもいいわよ! 良佳、何でそんなに落ち着いてんのよ!」
「紗智さま、食卓を叩いてはなりませぬ」
「小十郎、相変わらず口うるせぇな」
「お二人が食卓マナーを守ってくだされば、即座に黙ります」
三人のやり取りに、良佳は最終的に畳に伏して大笑いした。
「良佳、行儀悪いぞ」
「突っ込むのはそこじゃねぇよ、小十郎」
「そうよ! 何で笑ってられんの!? 嫌な目にいっぱい遭ったのに!」
ひとしきり笑うと、良佳はごめんと言いながら起き上がった。
「だって、皆が代わりに怒るんだもん。怒るタイミング逃したっつーの」
涙目を拭い、良佳はこう言った。
「確かにさ、結構つらいこともあったよ。けどさ、皆がずっと側にいてくれたじゃん? だから今、あたしはこうしていられるし、あたしが“あたし”でいられるんだ」
「けどっ……!」
「その心配も含めて、感謝してる。さっち、いつもありがとね。こじゅ兄も、政宗も」
ニッと笑うと、小十郎と政宗は笑った。
「……私は納得しないんだから。受けなくていい傷、負ったし」
紗智は盛大に吐息し、日本酒をあおった。
「こっちも、実は平気なんだなー。こじゅ兄におまじないかけてもらったから。ね、こじゅ兄」
瞬間、小十郎がむせた。
「小十郎、どんなmagicかけてやったんだ?」
政宗が口笛を吹くと、小十郎はごまかすように眉間を深くした。
「……秘密にございます」
「もったいぶらずに教えろよ」
「政宗さまこそ、紗智さまにどのような魔法をかけられたのですか?」
視線の先には、お揃いの婚約指輪があった。
「あなたは、アクセサリーを嫌っておられたはずだ」
「Ha! んなこた、昔の話だ」
「好きになるばっかで好かれることに免疫ねえもんな、あんたって」
「良佳、口が悪いぞ」
「そんなことより、酒がなくなったわよ、片倉」
「……Honey,早かねぇか? さっきまで、升の中に並々とあったろ」
「なに、あんた、紗智が酒豪ってこと知らねえの?」
「俺も、お前がそこまで口が悪いとは知らなかったぞ」
「片倉、いいから頼みなさいよっ」
本性を見せた女二人に、男二人は顔を見合せて戸惑うばかりだった。
「では、二人の挙式をいつにするか決めようか」
笑顔全開の輝宗に、二人は同時に紅茶を吹きかけるところだった。
「きょっ、きょしっ!?」
「輝宗さま! お戯れはほどほどになさってください!」
「戯れではない。娘も同然のかわいい良佳が、晴れて茂庭の人間だと分かったのだ。何も障害はないではないか」
小十郎は一つ吐息し、こう言った。
「確かに、“血筋”の面では何も問題ありません。ですが、小十郎は主たる政宗さまより先に妻帯する気はありません」
「ほう」
小十郎は、昔からこう言っていた。結婚の煩わしさから逃れるためだと思ったが、どうやら本当に誓いとして立てているらしい。
「良佳はどうなのだ?」
横に視線を向けると、良佳はすぐに頷いた。
「構いません。結婚したのに金沢と仙台で離ればなれなのは嫌だし、研究を中途半端にするのはもっと嫌ですから。こちらとしても、目処立ててからが望みでしたのでちょうどいいです」
「こちらもこれか……」
とりつく島もない二人を相手にこれ以上の進展は望めず、輝宗はため息ともに諦めた。
「……しかし、人とはおさまるところにおさまるものだな」
二人が去った部屋で一人、階下を見下ろす。
二人が並んでどこかへ向かう姿が目に留まり、口元が緩んだ。
「一時は、亘理と片倉の組み合わせも良いかと思ったが、紗智嬢の価値を思えば片倉にやらなくて正解だったな。……お前はどう思う、基信?」
今は政宗の秘書を務める遠藤基信が、新しい紅茶を運んできた。
「いずれの組み合わせも、伊達の繁栄に繋がりましょう」
「優等生な回答だな」
「なれば、本音を。紗智お嬢さまは制裁をくわえた家系のご息女でいらっしゃいますが、あの方の力量を考えれば、亘理の名はいずれ関係なくなりましょう。上杉との繋がりも強く、ゆえに坊っちゃまと添わせるのが一番うまみがあらかろうかと」
「策士が。私は、そのようなこと考えたこともないわ」
「ご冗談を」
コポコポと小気味よい音と共に、アールグレイの華やかな香りが部屋に広がっていく。
「仕事優先のあの二人をどうするか。金沢の例の研究施設は既に買収済みだから、良佳が伊達と前田の板挟みで困るという悩みは起きんだろう。問題は、あの強面だな……」
思案していると、基信がぽつりと呟いた。
「坊っちゃまには、早く落ち着いていただきたいものですな」
輝宗の顔が一瞬にして晴れた。
「そうか! 私としたことが、何故気づかなかったか!」
いたずらを思い付いた子どもの表情で思案を巡らせる輝宗を、基信は静かに見つめていた。
その日の夕方。
仙台市内にある政宗行きつけの料亭に、良佳、紗智、政宗、小十郎の姿があった。四人で集まるのは、何年ぶりだろう。
話に花が咲いていたが、途中から良佳の話になった。
「……つーことは、なんだ。お前は、parentsの痴話ゲンカに巻き込まれたってことか?」
「ま、そんなとこ」
「政宗さま、箸で人をさすなど行儀が悪いですぞ」
「片倉、今はそんなことどうでもいいわよ! 良佳、何でそんなに落ち着いてんのよ!」
「紗智さま、食卓を叩いてはなりませぬ」
「小十郎、相変わらず口うるせぇな」
「お二人が食卓マナーを守ってくだされば、即座に黙ります」
三人のやり取りに、良佳は最終的に畳に伏して大笑いした。
「良佳、行儀悪いぞ」
「突っ込むのはそこじゃねぇよ、小十郎」
「そうよ! 何で笑ってられんの!? 嫌な目にいっぱい遭ったのに!」
ひとしきり笑うと、良佳はごめんと言いながら起き上がった。
「だって、皆が代わりに怒るんだもん。怒るタイミング逃したっつーの」
涙目を拭い、良佳はこう言った。
「確かにさ、結構つらいこともあったよ。けどさ、皆がずっと側にいてくれたじゃん? だから今、あたしはこうしていられるし、あたしが“あたし”でいられるんだ」
「けどっ……!」
「その心配も含めて、感謝してる。さっち、いつもありがとね。こじゅ兄も、政宗も」
ニッと笑うと、小十郎と政宗は笑った。
「……私は納得しないんだから。受けなくていい傷、負ったし」
紗智は盛大に吐息し、日本酒をあおった。
「こっちも、実は平気なんだなー。こじゅ兄におまじないかけてもらったから。ね、こじゅ兄」
瞬間、小十郎がむせた。
「小十郎、どんなmagicかけてやったんだ?」
政宗が口笛を吹くと、小十郎はごまかすように眉間を深くした。
「……秘密にございます」
「もったいぶらずに教えろよ」
「政宗さまこそ、紗智さまにどのような魔法をかけられたのですか?」
視線の先には、お揃いの婚約指輪があった。
「あなたは、アクセサリーを嫌っておられたはずだ」
「Ha! んなこた、昔の話だ」
「好きになるばっかで好かれることに免疫ねえもんな、あんたって」
「良佳、口が悪いぞ」
「そんなことより、酒がなくなったわよ、片倉」
「……Honey,早かねぇか? さっきまで、升の中に並々とあったろ」
「なに、あんた、紗智が酒豪ってこと知らねえの?」
「俺も、お前がそこまで口が悪いとは知らなかったぞ」
「片倉、いいから頼みなさいよっ」
本性を見せた女二人に、男二人は顔を見合せて戸惑うばかりだった。