冬・二部
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会が終わり、政宗は運転手をすると言った小十郎の申し出を断って紗智と社用車(と言っても外車だが)に乗り込んだ。
「政宗くん、どこ行くの?」
着物から洋服に着替え、幾分か苦し気だった紗智の表情が軽くなった。履き慣れない草履で足が疲れていたのだ。
「別にどこってこたぁねぇ。お前と二人になる時間が欲しかっただけだ」
「そうなの? 嬉しい」
はにかんだ顔に、政宗も笑みを浮かべた。
昨日より今日、今日より明日、紗智を想う気持ちは増していく。政略結婚から始まった仲だが、温かい感情は日に日に政宗の心に満ちていて、気持ちが落ち着いていくのが分かる。
「こんな風に感じるのは、お前がオレという存在を認めてくれるからだろうな」
「政宗くんは、皆から認められてるじゃない」
「いや、オレはまだ一人の人間として認められちゃいねぇ。所詮、daddyあってのオレだ。あの小十郎ですら、崇めてんのはdaddyだしな。……けど、お前は違う」
紗智は、政宗をずっと一人の人間として見てくれた。どんな自分でも受け入れ、政宗の全てを愛してくれている。
「そんなお前だから、安心して隣にいれるんだぜ」
「恥ずかしいな。けど、嬉しい」
紗智は、またはにかんだ。
「政宗くんこそ、私には憧れの人で恩人よ。私の世界を開いてくれただけじゃない、パートナーという、一生叶わないと思ってた夢まで叶えてくれたもの。……あのね、一つ我が儘言ってもいいかな」
「何だ」
「前、政宗くんが本当に私を奥さんにしたいと思った時にしてくれていいって言ったけど……。あれ、取り消したいの。私以外の女(ひと)に、政宗くんの隣に立って欲しくないから」
紗智の言葉に、政宗は小さく笑った。
「安心しな。オレにゃお前がいる、裏切るようなこたぁしねぇよ」
「う、うん……」
「何だ、信じらんねぇか?」
「そんなこっ……」
唇に柔らかい感触。
目の前に政宗の顔があることで、紗智は身の上に起きたことを理解した。
「ま、ま、まさ、政宗くっ……!?」
「いい加減慣れろよ。これからもっと激しい仲になるってのに、身がもたねぇぜ」
くくっと笑い、政宗はフィアンセの頬を撫でた。
「これでも、お前に惚れてきてんだぜ? 少しは自惚れろよ」
「ほ、惚れっ……!」
紗智の頭が今にもショートしそうな勢いだったので、政宗は車を発進させた。
「ところで、さっき小十郎と何話してたんだ?」
「え…と……」
呼吸を整えて、口を開いた。
「良佳とのことを聞いたの。良佳をぞんざいに扱ってる風だったから、少しこらしめてやろうと思って。そしたら、あの二人うまくいってるみたい」
「マジか!?」
政宗は嬉しげに叫んだ。
「うん。慌てさせてやろうと思って、目の前で良佳に電話したの。けど、慌てるどころか嬉しそうに話してたわ。しかも、最後のろけたし」
「あの朴念仁がのろけるとはな」
小十郎の表情を想像すると、政宗は笑えてきた。
正確に言うと、良佳と小十郎はまだ付き合っていないのだが、それだけ小十郎の表情が柔らかかったのである。
「お兄ちゃんちの七五三の写真を使ったあの作戦がきっかけだって言ってたわ」
「そうか。そりゃ、一肌脱いだ甲斐があったな」
「あの写真の意外な使い道発見、だね」
「あぁ」
元旦だけあって主要道路は空いている。政宗は適当にハンドルを回した。
「婚約して時間経つけど、やっぱり政宗くんと話すと緊張しちゃうな」
「もうちっと慣れてくりゃ、小十郎みてぇにぞんざいな扱いになんだろ?」
「政宗くんとあいつじゃ違うわ! だから、政宗くんを片倉みたいに扱ったりしない!」
茶化すつもりが、全力で否定された。
(好きってのは、究極のえこひいきだな)
紗智を見るにつけ、そう感じる。ただ、それは政宗を満足させる事象で、しばらくはこの話題で幸せの反芻をしたい気分になった。
「All right.そういうことにしといてやるぜ」
「嘘じゃないのに……」
「お前だって、オレの気持ち信じてねぇだろ?」
「信じてないんじゃなくて、まだこの環境に慣れてないだけっ」
「分かった分かった、そうムキになんなよ」
紗智の頭を軽く撫でてやった。
今はこう言ってるが、気の強い紗智のことだ。そのうち自分を尻に敷くようになるのだろう。そう感じる政宗であった。
一月逃げるとはよく言ったもので、この間正月だったはずが暦はもう一月半ばである。
「うわあ、変わったなあ」
半休を取り、十数年ぶりに仙台の地を踏んだ良佳は、進化した仙台駅前の様子に目を丸くした。
「良佳」
声に振り向くと、スーツ姿の小十郎が迎えに来てくれていた。
「こじゅ兄、忙しいのにありがと。もしかして、仕事抜けてきた?」
「いや、もう上がりだ。だから、好きなとこ連れてってやるぞ。さしずめ、仙台駅周辺が見たいんだろ?」
「ばれたか」
「あんだけキョロキョロしてりゃ、遠目でも分かる」
頭を撫でると、良佳は歯を見せて笑った。
「こじゅ兄のスケベー」
「何でそうなる」
「あたしのこと、ガン見してた証拠じゃん」
「好きな奴をガン見して悪いか?」
「好っ! こんなとこで言うなっ」
「照れんな。本当のことだ」
良佳の荷物を持つと、小十郎は一旦車へ向かった。
「ねえ、明日のホテル取るなって言ってたけど、何かあるの?」
「小原の温泉行きたいって言っただろ。そこで宿取ってるぜ」
「へ? こ、こじゅ兄と……?」
「俺以外に誰がいる」
「部屋……」
「一緒に決まってるだろ」
みるみるうちに真っ赤になる良佳に、小十郎は意地の悪い笑みを浮かべた。
「いやらしい想像しやがって。お前の方が助平だな」
「ち、ち、違ーうっ!」
「期待してるぜ」
くくっと笑う小十郎の背中に、良佳は拳を一発お見舞いするので精一杯だった。
「政宗くん、どこ行くの?」
着物から洋服に着替え、幾分か苦し気だった紗智の表情が軽くなった。履き慣れない草履で足が疲れていたのだ。
「別にどこってこたぁねぇ。お前と二人になる時間が欲しかっただけだ」
「そうなの? 嬉しい」
はにかんだ顔に、政宗も笑みを浮かべた。
昨日より今日、今日より明日、紗智を想う気持ちは増していく。政略結婚から始まった仲だが、温かい感情は日に日に政宗の心に満ちていて、気持ちが落ち着いていくのが分かる。
「こんな風に感じるのは、お前がオレという存在を認めてくれるからだろうな」
「政宗くんは、皆から認められてるじゃない」
「いや、オレはまだ一人の人間として認められちゃいねぇ。所詮、daddyあってのオレだ。あの小十郎ですら、崇めてんのはdaddyだしな。……けど、お前は違う」
紗智は、政宗をずっと一人の人間として見てくれた。どんな自分でも受け入れ、政宗の全てを愛してくれている。
「そんなお前だから、安心して隣にいれるんだぜ」
「恥ずかしいな。けど、嬉しい」
紗智は、またはにかんだ。
「政宗くんこそ、私には憧れの人で恩人よ。私の世界を開いてくれただけじゃない、パートナーという、一生叶わないと思ってた夢まで叶えてくれたもの。……あのね、一つ我が儘言ってもいいかな」
「何だ」
「前、政宗くんが本当に私を奥さんにしたいと思った時にしてくれていいって言ったけど……。あれ、取り消したいの。私以外の女(ひと)に、政宗くんの隣に立って欲しくないから」
紗智の言葉に、政宗は小さく笑った。
「安心しな。オレにゃお前がいる、裏切るようなこたぁしねぇよ」
「う、うん……」
「何だ、信じらんねぇか?」
「そんなこっ……」
唇に柔らかい感触。
目の前に政宗の顔があることで、紗智は身の上に起きたことを理解した。
「ま、ま、まさ、政宗くっ……!?」
「いい加減慣れろよ。これからもっと激しい仲になるってのに、身がもたねぇぜ」
くくっと笑い、政宗はフィアンセの頬を撫でた。
「これでも、お前に惚れてきてんだぜ? 少しは自惚れろよ」
「ほ、惚れっ……!」
紗智の頭が今にもショートしそうな勢いだったので、政宗は車を発進させた。
「ところで、さっき小十郎と何話してたんだ?」
「え…と……」
呼吸を整えて、口を開いた。
「良佳とのことを聞いたの。良佳をぞんざいに扱ってる風だったから、少しこらしめてやろうと思って。そしたら、あの二人うまくいってるみたい」
「マジか!?」
政宗は嬉しげに叫んだ。
「うん。慌てさせてやろうと思って、目の前で良佳に電話したの。けど、慌てるどころか嬉しそうに話してたわ。しかも、最後のろけたし」
「あの朴念仁がのろけるとはな」
小十郎の表情を想像すると、政宗は笑えてきた。
正確に言うと、良佳と小十郎はまだ付き合っていないのだが、それだけ小十郎の表情が柔らかかったのである。
「お兄ちゃんちの七五三の写真を使ったあの作戦がきっかけだって言ってたわ」
「そうか。そりゃ、一肌脱いだ甲斐があったな」
「あの写真の意外な使い道発見、だね」
「あぁ」
元旦だけあって主要道路は空いている。政宗は適当にハンドルを回した。
「婚約して時間経つけど、やっぱり政宗くんと話すと緊張しちゃうな」
「もうちっと慣れてくりゃ、小十郎みてぇにぞんざいな扱いになんだろ?」
「政宗くんとあいつじゃ違うわ! だから、政宗くんを片倉みたいに扱ったりしない!」
茶化すつもりが、全力で否定された。
(好きってのは、究極のえこひいきだな)
紗智を見るにつけ、そう感じる。ただ、それは政宗を満足させる事象で、しばらくはこの話題で幸せの反芻をしたい気分になった。
「All right.そういうことにしといてやるぜ」
「嘘じゃないのに……」
「お前だって、オレの気持ち信じてねぇだろ?」
「信じてないんじゃなくて、まだこの環境に慣れてないだけっ」
「分かった分かった、そうムキになんなよ」
紗智の頭を軽く撫でてやった。
今はこう言ってるが、気の強い紗智のことだ。そのうち自分を尻に敷くようになるのだろう。そう感じる政宗であった。
一月逃げるとはよく言ったもので、この間正月だったはずが暦はもう一月半ばである。
「うわあ、変わったなあ」
半休を取り、十数年ぶりに仙台の地を踏んだ良佳は、進化した仙台駅前の様子に目を丸くした。
「良佳」
声に振り向くと、スーツ姿の小十郎が迎えに来てくれていた。
「こじゅ兄、忙しいのにありがと。もしかして、仕事抜けてきた?」
「いや、もう上がりだ。だから、好きなとこ連れてってやるぞ。さしずめ、仙台駅周辺が見たいんだろ?」
「ばれたか」
「あんだけキョロキョロしてりゃ、遠目でも分かる」
頭を撫でると、良佳は歯を見せて笑った。
「こじゅ兄のスケベー」
「何でそうなる」
「あたしのこと、ガン見してた証拠じゃん」
「好きな奴をガン見して悪いか?」
「好っ! こんなとこで言うなっ」
「照れんな。本当のことだ」
良佳の荷物を持つと、小十郎は一旦車へ向かった。
「ねえ、明日のホテル取るなって言ってたけど、何かあるの?」
「小原の温泉行きたいって言っただろ。そこで宿取ってるぜ」
「へ? こ、こじゅ兄と……?」
「俺以外に誰がいる」
「部屋……」
「一緒に決まってるだろ」
みるみるうちに真っ赤になる良佳に、小十郎は意地の悪い笑みを浮かべた。
「いやらしい想像しやがって。お前の方が助平だな」
「ち、ち、違ーうっ!」
「期待してるぜ」
くくっと笑う小十郎の背中に、良佳は拳を一発お見舞いするので精一杯だった。