冬・二部
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初詣の後、紗智は政宗とともに伊達一門が会する新年の会に出席した。
「おお、これは紗智嬢。お会い出来るとは光栄です」
「あなたは多忙だから、きっと今年も来ないと皆で話をしていたのですよ」
「次期伊達頭領の妻になる方は、さすが分かっておられる」
遠回しに今までの不参加を責める言葉が続く。だが、紗智はそんな言葉を冷静に受け止め、笑顔で「今までの非礼をお許しを」と返した。
長老たちが自分に当たるのは、自分たちに反旗を翻した政宗のフィアンセであること、そして芸術という金を生むかどうか分からない、老人たちからすればギャンブルにしか思えない道に進んだことを、成功した今も快く思っていないからだ。
ただ、自分絡みの事業は伊達グループ全体の数割の売り上げに匹敵すること、そして、紗智を通じて敏腕社長・謙信との繋がりを留めておきたい思惑があるため、あまり強くは言えないらしい。
(その分、お兄ちゃんや政宗くんに当たってるの、知ってるんだから)
心で思い切り睨み付けた。
表立ってやってやりたいが、老人たちの中には謙信の会社の筆頭株主がいる。紗智にとっても“商売相手”である彼らにいい顔をするのも仕事のうちだ。紗智は、不快な言葉と気持ちを流し続けた。
そんな紗智を見つめていた政宗の前に、突如ワイングラスが差し出された。
「くだらないよなー、あのじいさんたち」
成実だった。
「使えると分かりゃ、途端ハイエナみたいに群がっちゃってさ」
「そうだな」
ワインを受け取ったが、口にはしなかった。
「けど、あいつらはまだ使い道がある。無碍にはしねぇ」
「お、成長してんな。昔はすぐ罵詈雑言浴びせてたのに~」
からかうように政宗の頬をつついた。
「当たり前だ。……色々、背負ってるからな」
政宗は目を伏せた。
「政、俺に悪いことしたとか思ってんだったら思わなくていい。一門に名を連ねてる以上、親父がしたことは許されることじゃないんだから」
成実の父・実元は、伊達の掟を破って他家と勝手に通じたことで一族の怒りを買い、伊達製薬の社長を解雇された。しかも、次期社長に長子の成実が座ることは許されず、グループ内で唯一独立経営を許されていた会社の特権は剥奪、亘理の地位は陥落した。
亘理を陥落させ、伊達製薬を手に入れようと画策したのはグループ総帥たる輝宗で、政宗はこれに加担した。だから成実と顔を合わせづらく、事実今日が久方ぶりの再会だったが、
「気にすんなよ。俺としちゃ、一研究員って立ち位置の方が動きやすいんだ。だから、今回の制裁は俺には制裁じゃない」
当の本人はあっけらかんとしていた。
「ところで、もう片方の腕は?」
小十郎のことである。
「いるぜ」
親指で集団の一角を差した先に、営業用の笑みを浮かべる強面が見えた。
「うわあ、小十郎のビジネスライクフェイス久々に見た。怖いな~」
わざと震えると、視線に気付いた小十郎がやってきた。
「政宗さま、こちらでしたか」
「ああ」
「小十郎、久しぶり~」
「成実さま、ご無沙汰しておりました」
頭を下げると、頭を下げてもらう立ち位置じゃないからと、成実は止めさせた。
「しかし、よく帰る決心したなー。良佳ちゃんを追いかけて金沢行ったのに」
「シゲ」
良佳との進展を知らない政宗がすぐさま制したが、小十郎は気に留めなかった。
「小十郎の任務が完了したため、こちらに戻ったまで。良佳は関係ありません」
「何よそれ、相っ変わらず朴念仁ね」
きつい口調で会話に割って入ってきたのは、先程まで老人に囲まれていた紗智だった。
「紗智さま、お久しぶりです」
「久しぶり、じゃないわよ。ちょっと来なさい、片倉」
小十郎の腕を取ると、呆気に取られる政宗と成実を置いて壁際へ移動した。
「良佳のこと、放って帰ってきたのなら許さないわよ」
キッと睨む。先ほど老人たちに出来なかった分までやっているかのようなきつい表情だ。
「許さない、と申しますと?」
「とぼけるなんていい度胸ね。いいわ、あんたがその気ならこっちにだって考えがあるんだから」
そう言うと、紗智は良佳に電話をした。
「……良佳? うん、明けましておめでとう。……うん、よろしくね。ねえ、隣に片倉がいるから替わるわ」
慌てふためく声がするかと思いきや、電話口の良佳は落ち着いていた。しかも、電話を受け取った小十郎も、慌てるどころか嬉しそうだった。
「良佳か、ああ、明けましておめでとう……」
ごく普通、というよりはどこか柔らかな声色だ。
「……分かった。再来週、楽しみにしてる。ついたら連絡しろ。紗智さまに替わる」
電話を返された紗智は、戸惑いを隠せぬまま電話を切った。
「ちょっと、あんたたち何なの? まるで昔みたい、ううん、もっと距離が近い感じだわ」
「それは、小十郎が良佳に惚れているからでしょう」
一瞬、何を言われたのか分からなかったが、意を解した紗智は口元を手で覆った。
「何よ、それ。いつの間に!?」
「金沢で良佳と近い距離で生活をし、あれの大切さに気付きました」
小十郎は、さらりとのろけた。
「え、じゃあ良佳のあの様子からして、あなたたち両思いなの!?」
「紗智さま」
声のトーンを落とすようジェスチャーされ、紗智は一つ息を飲んだ。
「お兄ちゃんの写真使った作戦が成功したのね」
「その節は、お世話になりました」
小十郎は頭を下げた。
「あれでうまくいったのなら、きっかけだけだったのよ、あなたたちに必要だったのは」
紗智は肩をすくめると、小十郎のネクタイを締め上げた。
「紗智、さま?」
「これ以上、良佳を泣かせたら許さないから。今のは良佳の親友としての懲罰よ。良佳にも原因あるから、これくらいで許してあげるわ」
そう言うと、紗智は着物を翻し政宗の元へ戻っていった。
「おお、これは紗智嬢。お会い出来るとは光栄です」
「あなたは多忙だから、きっと今年も来ないと皆で話をしていたのですよ」
「次期伊達頭領の妻になる方は、さすが分かっておられる」
遠回しに今までの不参加を責める言葉が続く。だが、紗智はそんな言葉を冷静に受け止め、笑顔で「今までの非礼をお許しを」と返した。
長老たちが自分に当たるのは、自分たちに反旗を翻した政宗のフィアンセであること、そして芸術という金を生むかどうか分からない、老人たちからすればギャンブルにしか思えない道に進んだことを、成功した今も快く思っていないからだ。
ただ、自分絡みの事業は伊達グループ全体の数割の売り上げに匹敵すること、そして、紗智を通じて敏腕社長・謙信との繋がりを留めておきたい思惑があるため、あまり強くは言えないらしい。
(その分、お兄ちゃんや政宗くんに当たってるの、知ってるんだから)
心で思い切り睨み付けた。
表立ってやってやりたいが、老人たちの中には謙信の会社の筆頭株主がいる。紗智にとっても“商売相手”である彼らにいい顔をするのも仕事のうちだ。紗智は、不快な言葉と気持ちを流し続けた。
そんな紗智を見つめていた政宗の前に、突如ワイングラスが差し出された。
「くだらないよなー、あのじいさんたち」
成実だった。
「使えると分かりゃ、途端ハイエナみたいに群がっちゃってさ」
「そうだな」
ワインを受け取ったが、口にはしなかった。
「けど、あいつらはまだ使い道がある。無碍にはしねぇ」
「お、成長してんな。昔はすぐ罵詈雑言浴びせてたのに~」
からかうように政宗の頬をつついた。
「当たり前だ。……色々、背負ってるからな」
政宗は目を伏せた。
「政、俺に悪いことしたとか思ってんだったら思わなくていい。一門に名を連ねてる以上、親父がしたことは許されることじゃないんだから」
成実の父・実元は、伊達の掟を破って他家と勝手に通じたことで一族の怒りを買い、伊達製薬の社長を解雇された。しかも、次期社長に長子の成実が座ることは許されず、グループ内で唯一独立経営を許されていた会社の特権は剥奪、亘理の地位は陥落した。
亘理を陥落させ、伊達製薬を手に入れようと画策したのはグループ総帥たる輝宗で、政宗はこれに加担した。だから成実と顔を合わせづらく、事実今日が久方ぶりの再会だったが、
「気にすんなよ。俺としちゃ、一研究員って立ち位置の方が動きやすいんだ。だから、今回の制裁は俺には制裁じゃない」
当の本人はあっけらかんとしていた。
「ところで、もう片方の腕は?」
小十郎のことである。
「いるぜ」
親指で集団の一角を差した先に、営業用の笑みを浮かべる強面が見えた。
「うわあ、小十郎のビジネスライクフェイス久々に見た。怖いな~」
わざと震えると、視線に気付いた小十郎がやってきた。
「政宗さま、こちらでしたか」
「ああ」
「小十郎、久しぶり~」
「成実さま、ご無沙汰しておりました」
頭を下げると、頭を下げてもらう立ち位置じゃないからと、成実は止めさせた。
「しかし、よく帰る決心したなー。良佳ちゃんを追いかけて金沢行ったのに」
「シゲ」
良佳との進展を知らない政宗がすぐさま制したが、小十郎は気に留めなかった。
「小十郎の任務が完了したため、こちらに戻ったまで。良佳は関係ありません」
「何よそれ、相っ変わらず朴念仁ね」
きつい口調で会話に割って入ってきたのは、先程まで老人に囲まれていた紗智だった。
「紗智さま、お久しぶりです」
「久しぶり、じゃないわよ。ちょっと来なさい、片倉」
小十郎の腕を取ると、呆気に取られる政宗と成実を置いて壁際へ移動した。
「良佳のこと、放って帰ってきたのなら許さないわよ」
キッと睨む。先ほど老人たちに出来なかった分までやっているかのようなきつい表情だ。
「許さない、と申しますと?」
「とぼけるなんていい度胸ね。いいわ、あんたがその気ならこっちにだって考えがあるんだから」
そう言うと、紗智は良佳に電話をした。
「……良佳? うん、明けましておめでとう。……うん、よろしくね。ねえ、隣に片倉がいるから替わるわ」
慌てふためく声がするかと思いきや、電話口の良佳は落ち着いていた。しかも、電話を受け取った小十郎も、慌てるどころか嬉しそうだった。
「良佳か、ああ、明けましておめでとう……」
ごく普通、というよりはどこか柔らかな声色だ。
「……分かった。再来週、楽しみにしてる。ついたら連絡しろ。紗智さまに替わる」
電話を返された紗智は、戸惑いを隠せぬまま電話を切った。
「ちょっと、あんたたち何なの? まるで昔みたい、ううん、もっと距離が近い感じだわ」
「それは、小十郎が良佳に惚れているからでしょう」
一瞬、何を言われたのか分からなかったが、意を解した紗智は口元を手で覆った。
「何よ、それ。いつの間に!?」
「金沢で良佳と近い距離で生活をし、あれの大切さに気付きました」
小十郎は、さらりとのろけた。
「え、じゃあ良佳のあの様子からして、あなたたち両思いなの!?」
「紗智さま」
声のトーンを落とすようジェスチャーされ、紗智は一つ息を飲んだ。
「お兄ちゃんの写真使った作戦が成功したのね」
「その節は、お世話になりました」
小十郎は頭を下げた。
「あれでうまくいったのなら、きっかけだけだったのよ、あなたたちに必要だったのは」
紗智は肩をすくめると、小十郎のネクタイを締め上げた。
「紗智、さま?」
「これ以上、良佳を泣かせたら許さないから。今のは良佳の親友としての懲罰よ。良佳にも原因あるから、これくらいで許してあげるわ」
そう言うと、紗智は着物を翻し政宗の元へ戻っていった。