夏・一部
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「お相手は、確か豊臣グループの……」
「無駄口叩きに来たなら出て行って。練習の邪魔」
「練習という割には、随分荒っぽい弾き方に見受けられましたが」
「これが私のやり方なの。素人にとやかく言われたくないわ」
「失礼しました。ご無礼をお許し下さい」
一礼して去る小十郎の背中を見た時、ふとあることに気が付いた。
「ねえ、政宗くんは?」
「は、昨日から東京支社の視察のため上京しておいでです」
「お目付け役のあなたを置いて?」
「政宗さまとて、もう子供ではございませぬ」
直感で違うと思った。きっと付いて来るなと念を押されたのだろう。どこか行きたい所があって、視察を受け入れる条件としてそこへの自由行動と単独行動を示したに違いない。
(東京……。確か良佳もインカレで行ってる……)
脳内で合致した答えに、紗智は思わず頭を振った。
そうまでして追いかけたい相手なのか。彼女の瞳には小十郎しか映っていないというのに。
「紗智さま」
気付けばすぐ側に小十郎がいて、何と言う前に頭を彼のお腹に押し付けられた。
「ご無礼をお許し下さい。ですがこの小十郎、誓って貴女さまに手出しはしません」
いつも一定以上の距離を保ってきた小十郎の、突然の大胆な行動。不覚にも、紗智の心臓は高鳴った。
「じゅ、十分手を出してるわよ! 婚約した身よ、私は」
「……望まぬそれを、貴女は受け入れるというのですか?」
空気を通して伝わってくる、殺気という名の怒気。何故それが自分に向けられるのか、紗智には分からなかった。
「受け入れるも何も、この家に生まれた以上……」
「その胸にくすぶる、政宗さまへの恋慕を断ち切ってでもですか?」
途端、心のタガが外れた。力任せに小十郎を押しのけると、ピアノ椅子がガタンと大きな音を立て倒れた。ここが防音室なのが救いだと思った。
「……あんたに、あんたに何が分かるって言うのよ!? どんなに想ったって、届きゃしないわ。政宗くんはずっと良佳が好きで、良佳は彼に相応しい人間よ! 例え出自に問題があったって、そんなことっ……」
「俺から見れば、紗智さまの方がよほど相応しいと思います」
ストレートに紡がれたその言葉が、頭の中枢にガンと打ち込まれた。
「……んで、何でそんなこと言うのよ……」
ぺたんと座り込むと、目から勝手に涙が溢れた。
「何で片倉がそんなこと言うのよっ……」
「俺が、ずっと紗智さまを見てきたからです」
「え……?」
ふわりと抱き締められると、その温もりがあまりに心地よくて抵抗すら忘れていた。
「好きです。紗智さまのことが、ずっと好きだった」
回された腕が更にきつくなる。
「初めてお会いした時から、貴女しか見えなくなった。……ですが、貴女は手の届かない方。だから、この想いは一生伏して参るつもりでした」
覗き込んできた真摯な瞳の奥にある獰猛な雄が垣間見え、思わず逸らした。
「けれど、婚約されたとお聞きし、いてもたってもいられず……。恥をしのんで仙台に残った次第でして」
政宗に同行しなかったのは、政宗の我が儘ではなく小十郎の我が儘だったのだ。
「あんた……、バカじゃないの?」
「そうかもしれません」
ふっと笑い、小十郎は紗智を立たせた。
「約束ですから、手出しはいたしません。ですが、ご婚約の件はどうぞしっかりとお考え下さい。この小十郎、政宗さま以外に貴女さまを渡す気は毛頭ございませぬ」
「……何よ、それ。政宗くんになら差し出すって、やっぱりあんたバカね」
小十郎の奇天烈ぶりに、つい噴き出した。
「これ、ありがと。練習に戻るわ」
がま口を持ち上げると、小十郎は小さく頷き退室した。
掴まれた箇所が、まだ熱を帯びたままだった。
「無駄口叩きに来たなら出て行って。練習の邪魔」
「練習という割には、随分荒っぽい弾き方に見受けられましたが」
「これが私のやり方なの。素人にとやかく言われたくないわ」
「失礼しました。ご無礼をお許し下さい」
一礼して去る小十郎の背中を見た時、ふとあることに気が付いた。
「ねえ、政宗くんは?」
「は、昨日から東京支社の視察のため上京しておいでです」
「お目付け役のあなたを置いて?」
「政宗さまとて、もう子供ではございませぬ」
直感で違うと思った。きっと付いて来るなと念を押されたのだろう。どこか行きたい所があって、視察を受け入れる条件としてそこへの自由行動と単独行動を示したに違いない。
(東京……。確か良佳もインカレで行ってる……)
脳内で合致した答えに、紗智は思わず頭を振った。
そうまでして追いかけたい相手なのか。彼女の瞳には小十郎しか映っていないというのに。
「紗智さま」
気付けばすぐ側に小十郎がいて、何と言う前に頭を彼のお腹に押し付けられた。
「ご無礼をお許し下さい。ですがこの小十郎、誓って貴女さまに手出しはしません」
いつも一定以上の距離を保ってきた小十郎の、突然の大胆な行動。不覚にも、紗智の心臓は高鳴った。
「じゅ、十分手を出してるわよ! 婚約した身よ、私は」
「……望まぬそれを、貴女は受け入れるというのですか?」
空気を通して伝わってくる、殺気という名の怒気。何故それが自分に向けられるのか、紗智には分からなかった。
「受け入れるも何も、この家に生まれた以上……」
「その胸にくすぶる、政宗さまへの恋慕を断ち切ってでもですか?」
途端、心のタガが外れた。力任せに小十郎を押しのけると、ピアノ椅子がガタンと大きな音を立て倒れた。ここが防音室なのが救いだと思った。
「……あんたに、あんたに何が分かるって言うのよ!? どんなに想ったって、届きゃしないわ。政宗くんはずっと良佳が好きで、良佳は彼に相応しい人間よ! 例え出自に問題があったって、そんなことっ……」
「俺から見れば、紗智さまの方がよほど相応しいと思います」
ストレートに紡がれたその言葉が、頭の中枢にガンと打ち込まれた。
「……んで、何でそんなこと言うのよ……」
ぺたんと座り込むと、目から勝手に涙が溢れた。
「何で片倉がそんなこと言うのよっ……」
「俺が、ずっと紗智さまを見てきたからです」
「え……?」
ふわりと抱き締められると、その温もりがあまりに心地よくて抵抗すら忘れていた。
「好きです。紗智さまのことが、ずっと好きだった」
回された腕が更にきつくなる。
「初めてお会いした時から、貴女しか見えなくなった。……ですが、貴女は手の届かない方。だから、この想いは一生伏して参るつもりでした」
覗き込んできた真摯な瞳の奥にある獰猛な雄が垣間見え、思わず逸らした。
「けれど、婚約されたとお聞きし、いてもたってもいられず……。恥をしのんで仙台に残った次第でして」
政宗に同行しなかったのは、政宗の我が儘ではなく小十郎の我が儘だったのだ。
「あんた……、バカじゃないの?」
「そうかもしれません」
ふっと笑い、小十郎は紗智を立たせた。
「約束ですから、手出しはいたしません。ですが、ご婚約の件はどうぞしっかりとお考え下さい。この小十郎、政宗さま以外に貴女さまを渡す気は毛頭ございませぬ」
「……何よ、それ。政宗くんになら差し出すって、やっぱりあんたバカね」
小十郎の奇天烈ぶりに、つい噴き出した。
「これ、ありがと。練習に戻るわ」
がま口を持ち上げると、小十郎は小さく頷き退室した。
掴まれた箇所が、まだ熱を帯びたままだった。