冬・二部
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年の瀬の金沢の駅に、良佳の姿があった。年明けから、政宗の片腕として働くため仙台に戻る小十郎を見送りに来たのだ。
「こじゅ兄の列車、予定通り動くみたいで良かったね」
「ああ」
例年にないほどの積雪に見舞われている日本列島。雪深い金沢でも列車の遅延や運行中止が相次いでいたが、日差しが戻ってきたおかげで予定した列車は運行するらしい。
「輝宗さまからの御呼びだし、覚えてるな?」
「うん、ちゃんと覚えてるよ。そのあと、さっちたちと一緒にご飯食べることも」
「ならいい。仙台にゃいつ来るつもりだ?」
「有休取れたら金曜の夜。取れなかったら、土曜の夜になると思う」
「分かった。ついたら連絡しろ。迎えに行く」
「いいよ。仕事忙しいのに」
「つれねえな。そのくらいの楽しみは作らせてくれ」
自分に会いたいから迎えに行くという小十郎に、良佳は嬉しさで口元を緩めた。
告白されて以降、小十郎はところ構わず良佳を甘やかすようになっていて、やもすればその腕に甘えてしまいそうになる自分を良佳は必死に律していた。
小十郎は、依存したければすればいいと言ってくれたが、それでは駄目だと思っている。一人の人間として、心身共に自立した人として彼の隣に立ちたいと思っているからだ。
「だから、付き合う云々はもう少し待ってくれ、なんだろ?」
小十郎が言った。
「うん。ごめんね、帰るまでにはっきりした答えを出せなくて」
「いや、俺が最も欲しい答えはもうくれた。お前が、俺を好きだって答えはな」
頭一つ低い位置にある良佳の頭をポンと撫でた。
「こじゅ兄のこと、嫌いになる訳ないし」
「何だ、聞こえねえな」
「何でもないですー」
「素直じゃねえな」
「聞こえてんじゃんっ」
拳を小十郎の胸めがけて放つ。軽々と受け止められ、そのまま抱き締められた。
「こじゅ兄、恥ずかしい……」
「まわりなんざ、構やしねえよ」
もがいたが、離してくれる気配はない。寒さも相まって小十郎の温もりは離れがたいものに感じ、良佳はおとなしく腕の中に収まった。
「……あたし、こじゅ兄の隣にちゃんと立てる人間になる。こじゅ兄は依存していいって言ってくれるけど、あたしはこじゅ兄を支えられる人間になりたい。だから、次に会う時までに自分がどうしたいか、自分でちゃんと決めるね」
「ああ」
小十郎は、良佳の頭に優しくキスした。
「俺は幸せ者だな。お前に、こんなに想われて」
ホームに、列車が到着するアナウンスが流れる。
「行かねえと。じゃあな、来年仙台で待ってるぜ」
「うん」
握っていた手をほどく。温もりを失ったてのひらが、やけに冷たく感じられた。
新年。
早朝の青葉神社に、紗智と政宗の姿があった。
年を越しても例年以上の積雪と厳寒に襲われ、二人はせっかくの晴れ着の裾を終始気にしなければならない天候だった。
「服装のchoiceを間違えたか」
「足元が大変だもんね」
政宗に手を取ってもらいながら、紗智は境内をゆっくり歩いていた。
「でも、政宗くんの和装、久々だから嬉しい」
「Ah?」
「だって、かっこいいんだもの」
その言葉に、政宗はおうと小さく答えるだけで精一杯だった。ストレートに誉められ、照れてしまった。
(意識すると、誉め言葉ですら違って聞こえるんだな)
ゆるゆる歩く紗智を、ちらと盗み見る。
いつも兄・成実の影に隠れ、自分を嫌う根暗女だと思っていた。だから、例え誉め言葉を言われても、それはおべっかだと思っていた。
実際は違った。根暗に感じたのは、政宗を意識するあまり内気になっていただけで、紗智の性格は全くの正反対だった。
紗智は感情に素直な裏表のない性格で、故に我が儘に映ることもあるが、政宗はそういった性格の方が好みだし、何より紗智は情が深く信じた人間は決して裏切らない。だから、政宗は人として彼女を信頼出来ると思い、その感情がそのまま愛情へと転じていったのである。
「ついたな」
ようやく賽銭箱の前に並んだ。二人して賽銭を投げ込むと、甲高い音とともに賽銭が収まった。
「五円玉?」
「ああ」
「私も」
ご縁があるように、と五円玉を入れた政宗の横顔を見つめる。強気なのに、縁起を担ぐところはとことん担ぐ彼を、紗智は面白いと感じた。
「オレは、恋愛ってのはどちらか、あるいは両方が想い合ってるとこから始まるモンだと思ってた」
お詣りが終わり、屋台を適当に冷やかしながら境内を散策していると、政宗がこう語りだした。
「だが、策略から始まることもあるって、初めて知ったぜ」
「ご当主さまご夫婦が、その例じゃない」
ご当主さまとは輝宗のことだ。伊達一門に名を連ねる者は、幼い頃から当主をこう呼ぶよう教育されている。
「確かにな。うちはうまくいってるからな」
「でも、人は人だと思ったのね?」
「ああ。オレには、daddyや成たちみてぇなことは無理だってな。……だが、アンタが相手だからだろうな、こんなオレにもようやく幸せが舞い込もうとしてやがる」
「人は、皆幸せになっていいの。幸せの定義は人それぞれだけど、自分で自分の幸せを手放したり諦めたりする必要はないもの。……私なんて、諦めずに願ってたら政宗くんの方から来てくれたし」
「成り行きだぜ?」
「結果が全てですー」
胸をそらす紗智に、政宗は笑った。
「再来週の土日、空けてるだろうな」
「もちろん! 楽しみにしてるもの。あ、土曜日って良佳たちと食事するのよね?」
「ああ」
「あの二人、うまくいってるかな」
「さぁな。そいつを確認する意味合いもある」
どちらからともなく手を繋ぎ、境内をあとにする。面倒な親族や一門との新年の挨拶が待っているが、二人なら面倒なことは半分で済むと思えるのが嬉しい。
「行くか」
繋いだ手の温もりが頼もしく、政宗が握り返すと、紗智は恥ずかしそうにしながらも満面の笑みを見せた。
「こじゅ兄の列車、予定通り動くみたいで良かったね」
「ああ」
例年にないほどの積雪に見舞われている日本列島。雪深い金沢でも列車の遅延や運行中止が相次いでいたが、日差しが戻ってきたおかげで予定した列車は運行するらしい。
「輝宗さまからの御呼びだし、覚えてるな?」
「うん、ちゃんと覚えてるよ。そのあと、さっちたちと一緒にご飯食べることも」
「ならいい。仙台にゃいつ来るつもりだ?」
「有休取れたら金曜の夜。取れなかったら、土曜の夜になると思う」
「分かった。ついたら連絡しろ。迎えに行く」
「いいよ。仕事忙しいのに」
「つれねえな。そのくらいの楽しみは作らせてくれ」
自分に会いたいから迎えに行くという小十郎に、良佳は嬉しさで口元を緩めた。
告白されて以降、小十郎はところ構わず良佳を甘やかすようになっていて、やもすればその腕に甘えてしまいそうになる自分を良佳は必死に律していた。
小十郎は、依存したければすればいいと言ってくれたが、それでは駄目だと思っている。一人の人間として、心身共に自立した人として彼の隣に立ちたいと思っているからだ。
「だから、付き合う云々はもう少し待ってくれ、なんだろ?」
小十郎が言った。
「うん。ごめんね、帰るまでにはっきりした答えを出せなくて」
「いや、俺が最も欲しい答えはもうくれた。お前が、俺を好きだって答えはな」
頭一つ低い位置にある良佳の頭をポンと撫でた。
「こじゅ兄のこと、嫌いになる訳ないし」
「何だ、聞こえねえな」
「何でもないですー」
「素直じゃねえな」
「聞こえてんじゃんっ」
拳を小十郎の胸めがけて放つ。軽々と受け止められ、そのまま抱き締められた。
「こじゅ兄、恥ずかしい……」
「まわりなんざ、構やしねえよ」
もがいたが、離してくれる気配はない。寒さも相まって小十郎の温もりは離れがたいものに感じ、良佳はおとなしく腕の中に収まった。
「……あたし、こじゅ兄の隣にちゃんと立てる人間になる。こじゅ兄は依存していいって言ってくれるけど、あたしはこじゅ兄を支えられる人間になりたい。だから、次に会う時までに自分がどうしたいか、自分でちゃんと決めるね」
「ああ」
小十郎は、良佳の頭に優しくキスした。
「俺は幸せ者だな。お前に、こんなに想われて」
ホームに、列車が到着するアナウンスが流れる。
「行かねえと。じゃあな、来年仙台で待ってるぜ」
「うん」
握っていた手をほどく。温もりを失ったてのひらが、やけに冷たく感じられた。
新年。
早朝の青葉神社に、紗智と政宗の姿があった。
年を越しても例年以上の積雪と厳寒に襲われ、二人はせっかくの晴れ着の裾を終始気にしなければならない天候だった。
「服装のchoiceを間違えたか」
「足元が大変だもんね」
政宗に手を取ってもらいながら、紗智は境内をゆっくり歩いていた。
「でも、政宗くんの和装、久々だから嬉しい」
「Ah?」
「だって、かっこいいんだもの」
その言葉に、政宗はおうと小さく答えるだけで精一杯だった。ストレートに誉められ、照れてしまった。
(意識すると、誉め言葉ですら違って聞こえるんだな)
ゆるゆる歩く紗智を、ちらと盗み見る。
いつも兄・成実の影に隠れ、自分を嫌う根暗女だと思っていた。だから、例え誉め言葉を言われても、それはおべっかだと思っていた。
実際は違った。根暗に感じたのは、政宗を意識するあまり内気になっていただけで、紗智の性格は全くの正反対だった。
紗智は感情に素直な裏表のない性格で、故に我が儘に映ることもあるが、政宗はそういった性格の方が好みだし、何より紗智は情が深く信じた人間は決して裏切らない。だから、政宗は人として彼女を信頼出来ると思い、その感情がそのまま愛情へと転じていったのである。
「ついたな」
ようやく賽銭箱の前に並んだ。二人して賽銭を投げ込むと、甲高い音とともに賽銭が収まった。
「五円玉?」
「ああ」
「私も」
ご縁があるように、と五円玉を入れた政宗の横顔を見つめる。強気なのに、縁起を担ぐところはとことん担ぐ彼を、紗智は面白いと感じた。
「オレは、恋愛ってのはどちらか、あるいは両方が想い合ってるとこから始まるモンだと思ってた」
お詣りが終わり、屋台を適当に冷やかしながら境内を散策していると、政宗がこう語りだした。
「だが、策略から始まることもあるって、初めて知ったぜ」
「ご当主さまご夫婦が、その例じゃない」
ご当主さまとは輝宗のことだ。伊達一門に名を連ねる者は、幼い頃から当主をこう呼ぶよう教育されている。
「確かにな。うちはうまくいってるからな」
「でも、人は人だと思ったのね?」
「ああ。オレには、daddyや成たちみてぇなことは無理だってな。……だが、アンタが相手だからだろうな、こんなオレにもようやく幸せが舞い込もうとしてやがる」
「人は、皆幸せになっていいの。幸せの定義は人それぞれだけど、自分で自分の幸せを手放したり諦めたりする必要はないもの。……私なんて、諦めずに願ってたら政宗くんの方から来てくれたし」
「成り行きだぜ?」
「結果が全てですー」
胸をそらす紗智に、政宗は笑った。
「再来週の土日、空けてるだろうな」
「もちろん! 楽しみにしてるもの。あ、土曜日って良佳たちと食事するのよね?」
「ああ」
「あの二人、うまくいってるかな」
「さぁな。そいつを確認する意味合いもある」
どちらからともなく手を繋ぎ、境内をあとにする。面倒な親族や一門との新年の挨拶が待っているが、二人なら面倒なことは半分で済むと思えるのが嬉しい。
「行くか」
繋いだ手の温もりが頼もしく、政宗が握り返すと、紗智は恥ずかしそうにしながらも満面の笑みを見せた。