秋・二部
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店内に入ると、既に政宗が杯に口をつけていた。
「よぉ。一緒に来たのか?」
良佳が首を横に振るのと小十郎が不快な様子になったのが同時に見えたので、政宗は咳払いを一つして話を変えた。
「良佳、オレが亘理と婚約したのは知ってるか?」
「今日、メールで。子細は知らない」
「そうか。なら、詳しいことは後で話す。小十郎、まずはお前からだ。Dadから大事な話を預かってきた」
そう言うと、政宗はある封書を小十郎に渡した。
「っ、これは……」
「見ての通りだ。お前に見合い話を持ってきた」
良佳は、口をつけた梅酒を吹き出した。
「Shit,汚ぇだろ!」
「ご、ごめん!」
「政宗さま、見合いは決定事項ですか?」
良佳には構わず、小十郎は政宗に居直った。
「ああ。伊達の重役になるヤツが独り身ってのは色々面倒だからな、形だけでも受けてもらうぜ。ま、お前に決めた相手がいるってなら話は別だけどな」
ちらと良佳を見やるが、テーブルを拭くのに一生懸命でその視線に気付いていない。
「そうですか。ならばこの小十郎、政宗さまが妻帯なさるのを待ちまする。主より先に妻帯する気はございませぬ」
「そう言うと思ったから、直接説得するためにわざわざ来たんだよ」
政宗は、大きくため息をついた。
「戦国時代じゃねぇんだ。主より先に結婚しようがガキができようが、構わねぇだろうが」
「小十郎の矜持が許しません」
「なら、せめて相手だけでもさっさと決めやがれ」
「今は、伊達復帰後の道筋を固めるが先。それに、独り身と侮られるほど、小十郎の腕は鈍ってはおりませぬ」
「小十郎……」
隻眼を細める。
「オレの命令が聞けねぇってのか?」
「政宗さまの命令を聞くために生きている訳ではございません」
と、小十郎の携帯が震えた。舌打ちする政宗を一瞥し、小十郎は中座した。
「良佳」
茫然自失の良佳に話しかける。反応が返ってくるまで、しばらく時間がかかった。
「え、あ、あたしに話してたのか。あれ、兄さんは?」
「……相当ショックなんだな」
「そ、そんなことないよ、めでたいじゃん! ねえ、写真見せてよ」
「強がんな」
政宗は、写真を引ったくった。
「今、小十郎はいねぇ。素直になりな」
良佳は一瞬黙ったが、やがて首を振った。
「……馬鹿だよね。兄さんはあたしのものじゃないのに、誰かのものになっちゃうのかと思ったら、思考止まっちゃった」
「なら、お前が立候補すりゃいい」
「それは駄目」
苦笑した。
「もし、兄さんとそういう関係になれても、失うのが怖くて普通に接することができないと思う。兄さんのいない世界なんて、考えただけで怖いもん」
良佳は、俯いた。
「お前と亘理の愛情表情は、よく似てやがるな」
政宗がぽつりと呟く。
「どこが。さっちは、あたしと違って愛情を押し付けたりしない」
「そこじゃねぇよ。自分が好きになったら、一遍の迷いもなく相手を想えるとこだよ」
「え……」
「表に出して言えるか、内にこもって言えないかってだけで、相手に対する想いはぜってーぶれねぇだろ? お前ら見てたら、そう思うんだよ」
タイミングよく新しい冷酒と梅酒が運ばれてきたので、二人は新しい酒に口をつけた。
「オレが亘理と婚約したきっかけは、確かにお前の例え話だった。正直言や、恋愛に疲れてたとこもあったからな、オレを受け入れてくれるヤツなら、誰でもいいって思ってた」
「政宗……」
「気にすんな。おかげで、アイツを思い出した。アイツなら絶対オレを裏切らねぇって思ったら、何でだろうな、急に安心した。そう思ったら、亘理と結婚すんのも悪かねぇ気がしたんだ」
良佳が注いだ酒を、政宗はうまそうにあおった。
「うまく言えねぇが、今じゃアイツんとこが帰る場所みてぇな気がしてるぜ」
「何だそれ。さっちは、てめえのお母さんじゃねえっての」
「くく、やっといつものお前らしくなってきたな」
口の端を上げ、喉を鳴らし笑った。
「あ?」
「口調。ようやく崩れたな」
指摘されて、良佳は口調が崩れていることに気付いた。
「ネコかぶんのはつれぇよな」
「……かぶってるつもり、なかったんだけどな」
「なら、聞いてみるか?」
そう言って、政宗はスマホを見せてきた。
「……あ?」
画面表示を見て固まった。政宗のスマホはいつの間にか発信中で、その相手は『小十郎』となっている。通話時間は、先ほど彼が店外に出たのとほぼ一致していて、良佳の身体中から血の気が引いた。
「今の会話、まさか……っ!」
「今どころか、今までのを全部、小十郎に聞かせてやった」
不敵な笑みと共に、通話が終了した。
「なっ、何で!?」
「勘違いすんな。小十郎のためだ。アイツに見合い話を持っていったのは本当だ。なのに、アイツは妻帯する気はねぇって言いやがった。だが、唯一候補になりそうな女ならいるっつーから、そいつをわざわざオレが口説きに来たって訳だ」
「……その女ってのが、写真の人なんだろ」
「自分の目で確かめな」
奪取された見合い写真を差し出される。見て驚愕した。
「これ……、成ちゃんちのお宮参りの写真じゃん!」
「小十郎に、この計画を持ちかけたらやってみてぇって言ったんでな。成にちょいと協力してもらった」
引き戸の開閉音がし、小十郎が戻ってくるのが見えた。
「政宗さま、ありがとうございました」
「ったく、世話の焼けるヤツらだぜ。オレは引き上げる。領収書、忘れんなよ」
「ま、政宗!」
政宗は、手のひらをひらりと上げ、店から出ていった。
「良佳、向かいに座るぞ」
良佳は、黙って頷くことしか出来なかった。
「よぉ。一緒に来たのか?」
良佳が首を横に振るのと小十郎が不快な様子になったのが同時に見えたので、政宗は咳払いを一つして話を変えた。
「良佳、オレが亘理と婚約したのは知ってるか?」
「今日、メールで。子細は知らない」
「そうか。なら、詳しいことは後で話す。小十郎、まずはお前からだ。Dadから大事な話を預かってきた」
そう言うと、政宗はある封書を小十郎に渡した。
「っ、これは……」
「見ての通りだ。お前に見合い話を持ってきた」
良佳は、口をつけた梅酒を吹き出した。
「Shit,汚ぇだろ!」
「ご、ごめん!」
「政宗さま、見合いは決定事項ですか?」
良佳には構わず、小十郎は政宗に居直った。
「ああ。伊達の重役になるヤツが独り身ってのは色々面倒だからな、形だけでも受けてもらうぜ。ま、お前に決めた相手がいるってなら話は別だけどな」
ちらと良佳を見やるが、テーブルを拭くのに一生懸命でその視線に気付いていない。
「そうですか。ならばこの小十郎、政宗さまが妻帯なさるのを待ちまする。主より先に妻帯する気はございませぬ」
「そう言うと思ったから、直接説得するためにわざわざ来たんだよ」
政宗は、大きくため息をついた。
「戦国時代じゃねぇんだ。主より先に結婚しようがガキができようが、構わねぇだろうが」
「小十郎の矜持が許しません」
「なら、せめて相手だけでもさっさと決めやがれ」
「今は、伊達復帰後の道筋を固めるが先。それに、独り身と侮られるほど、小十郎の腕は鈍ってはおりませぬ」
「小十郎……」
隻眼を細める。
「オレの命令が聞けねぇってのか?」
「政宗さまの命令を聞くために生きている訳ではございません」
と、小十郎の携帯が震えた。舌打ちする政宗を一瞥し、小十郎は中座した。
「良佳」
茫然自失の良佳に話しかける。反応が返ってくるまで、しばらく時間がかかった。
「え、あ、あたしに話してたのか。あれ、兄さんは?」
「……相当ショックなんだな」
「そ、そんなことないよ、めでたいじゃん! ねえ、写真見せてよ」
「強がんな」
政宗は、写真を引ったくった。
「今、小十郎はいねぇ。素直になりな」
良佳は一瞬黙ったが、やがて首を振った。
「……馬鹿だよね。兄さんはあたしのものじゃないのに、誰かのものになっちゃうのかと思ったら、思考止まっちゃった」
「なら、お前が立候補すりゃいい」
「それは駄目」
苦笑した。
「もし、兄さんとそういう関係になれても、失うのが怖くて普通に接することができないと思う。兄さんのいない世界なんて、考えただけで怖いもん」
良佳は、俯いた。
「お前と亘理の愛情表情は、よく似てやがるな」
政宗がぽつりと呟く。
「どこが。さっちは、あたしと違って愛情を押し付けたりしない」
「そこじゃねぇよ。自分が好きになったら、一遍の迷いもなく相手を想えるとこだよ」
「え……」
「表に出して言えるか、内にこもって言えないかってだけで、相手に対する想いはぜってーぶれねぇだろ? お前ら見てたら、そう思うんだよ」
タイミングよく新しい冷酒と梅酒が運ばれてきたので、二人は新しい酒に口をつけた。
「オレが亘理と婚約したきっかけは、確かにお前の例え話だった。正直言や、恋愛に疲れてたとこもあったからな、オレを受け入れてくれるヤツなら、誰でもいいって思ってた」
「政宗……」
「気にすんな。おかげで、アイツを思い出した。アイツなら絶対オレを裏切らねぇって思ったら、何でだろうな、急に安心した。そう思ったら、亘理と結婚すんのも悪かねぇ気がしたんだ」
良佳が注いだ酒を、政宗はうまそうにあおった。
「うまく言えねぇが、今じゃアイツんとこが帰る場所みてぇな気がしてるぜ」
「何だそれ。さっちは、てめえのお母さんじゃねえっての」
「くく、やっといつものお前らしくなってきたな」
口の端を上げ、喉を鳴らし笑った。
「あ?」
「口調。ようやく崩れたな」
指摘されて、良佳は口調が崩れていることに気付いた。
「ネコかぶんのはつれぇよな」
「……かぶってるつもり、なかったんだけどな」
「なら、聞いてみるか?」
そう言って、政宗はスマホを見せてきた。
「……あ?」
画面表示を見て固まった。政宗のスマホはいつの間にか発信中で、その相手は『小十郎』となっている。通話時間は、先ほど彼が店外に出たのとほぼ一致していて、良佳の身体中から血の気が引いた。
「今の会話、まさか……っ!」
「今どころか、今までのを全部、小十郎に聞かせてやった」
不敵な笑みと共に、通話が終了した。
「なっ、何で!?」
「勘違いすんな。小十郎のためだ。アイツに見合い話を持っていったのは本当だ。なのに、アイツは妻帯する気はねぇって言いやがった。だが、唯一候補になりそうな女ならいるっつーから、そいつをわざわざオレが口説きに来たって訳だ」
「……その女ってのが、写真の人なんだろ」
「自分の目で確かめな」
奪取された見合い写真を差し出される。見て驚愕した。
「これ……、成ちゃんちのお宮参りの写真じゃん!」
「小十郎に、この計画を持ちかけたらやってみてぇって言ったんでな。成にちょいと協力してもらった」
引き戸の開閉音がし、小十郎が戻ってくるのが見えた。
「政宗さま、ありがとうございました」
「ったく、世話の焼けるヤツらだぜ。オレは引き上げる。領収書、忘れんなよ」
「ま、政宗!」
政宗は、手のひらをひらりと上げ、店から出ていった。
「良佳、向かいに座るぞ」
良佳は、黙って頷くことしか出来なかった。