秋・二部
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「坊っちゃま、つきましたぞ」
いつの間にか、うたた寝をしていたらしい。基信の声で目を覚ますと、車はライブ会場に着いていた。
「そうか。Thanks」
「お疲れが出たようですね。輝宗さま名義のマンションが近くにございます。ライブまでまだ時間がございますゆえ、そこでお休みください」
「そうだな、そうするぜ」
「今宵は、隣の部屋に紗智さまがお泊まりになられます。そのままお休みください」
「……どんな気の遣い方だよ」
ため息まじりに言うも答えはなかった。
ライブ会場から目と鼻の先にあるマンションのエントランスに入る。輝宗の知人などが長期滞在する際に貸し出しているマンションで、一度使ったことがあるが普通に賃貸で出してもすぐに埋まる立地と内装・設備だ。遊ばせておくのは勿体ないと思うが、輝宗が貸し出す気がないのだから仕方ない。
再度、時計を見る。明日からは惰眠すら取れないスケジュールだ。今ぐらいしてもいいだろうとカードキーをかざした時だった。
「政宗くん?」
聞いたことのある声に後ろを向くと、数時間後には壇上に上がっているはずの人物がそこにいた。
「亘理。何でここにいやがる?」
「リハが終わったから、休憩しに帰ってきたの」
まるで、忘れ物を取りに来た感覚で話す彼女に、さすがの政宗も唖然とした。
「本番まであともう少しだろ、いいのか?」
「本番って言っても、歌うだけだもの。リハだってやったし」
ニコリと笑う彼女の度胸に、なるほどだからいきなり渡米することになっても動じないのかと納得した。
「政宗くんも休憩? 隣に泊まるかもって話は聞いてるわ」
カードキーをかざしエントランスを抜ける彼女についていく。
「ああ。アンタのライブに備えてな」
カードキーが落ちる音に目線を上げると、紅潮した彼女の顔がそこにあった。
「そ、うな、の……」
前にも見たことある、紗智の硬直。記憶をたどると、それは彼女が自分の前でよく見せていた態度だった。
(なんだ、単に緊張してただけだったのか)
以前は、彼女のこの態度に無理解だったし腹を立てていたから、嫌われているんだとかはっきりしないヤツだと思っていた。だが、今なら分かる。全ては自分が勝手に思い込んでいただけで、紗智は自分を想うあまり緊張していただけなのだと。
自分がどんな態度を取ろうが、決して変わらなかった紗智の心。
「なんで、オレなんだ?」
ふいに、興味が沸いた。
「え?」
紗智が、紅潮したまま顔を上げる。
「アンタほどの女なら、他に男だっていただろうに」
「なんでって言われても……」
じっと、紗智を見つめる。紗智の方が耐えられなかったのか、目をそらした。
「理由は分からない。けど、政宗くんじゃなきゃダメなの。他の男(ひと)なんて、いらないって思うんだもの」
あまりのストレートな言葉に、政宗の胸の内にある甘い想いが疼き、なんだかくすぐったくなった。
「アンタ、言ってて恥ずかしくねぇのかよ」
「オブラートに包んでも、言いたいことは同じだもの。……私も、聞いてもいい?」
「なんだ」
「政宗くんは、何でずっと良佳が好きだったの?」
言葉に詰まった。
理由なんて、考えたことはなかった。彼女を想っていた頃は、ただ良佳が欲しい、良佳でなければだめだと思った。
「……言われてみりゃそうだな。分かんねぇけど、アイツでないとダメだって思ってた」
「人を好きになるって、そんなものなのかな」
「そうかもな」
カードキーを拾って差し出す。おずおず受け取る彼女の手がかすかに震えている。
「そんなに緊張しなくていいだろ。このまま結婚したら、身が持たねぇぜ」
「頭では分かってるつもりなんだけど……」
小さく俯く彼女に、ふいに悪戯心が沸いた。相手に興味が沸きさえすれけば、今までの距離感など越えてしまうのが政宗の特徴だ。
「こりゃ、荒療治が必要だな」
ニヤリと笑うと、紗智の腕を引っ張り、戸惑う彼女を抱き寄せた。
「緊張を解くにゃ、オレとの距離を縮めるこった。縮めるのに、skinshipが一番手っ取り早ぇ」
紗智は、ただ口をパクパクさせるだけだったが、政宗に顔を近づけられようやく我に返った。
「ま、ま、待っ……!」
「何だ、kissなんざ挨拶だろ? それとも、まだ待った方がいいのか?」
再び、意地の悪い笑みを浮かべる。紗智は涙目だったが、やがて首を横に振った。
「Good」
髪の毛をくしゃりと撫でた。
「……期待、してもいいの?」
腕の中で、ほんの少しだが紗智が政宗に近付いた。それが嬉しくて、政宗は紗智をもう一度抱き締めた。
「少しずつ、縮めていこうぜ。まずは、Kissだな」
腕の中で頷く紗智を、政宗は初めて愛しいと感じた。
いつの間にか、うたた寝をしていたらしい。基信の声で目を覚ますと、車はライブ会場に着いていた。
「そうか。Thanks」
「お疲れが出たようですね。輝宗さま名義のマンションが近くにございます。ライブまでまだ時間がございますゆえ、そこでお休みください」
「そうだな、そうするぜ」
「今宵は、隣の部屋に紗智さまがお泊まりになられます。そのままお休みください」
「……どんな気の遣い方だよ」
ため息まじりに言うも答えはなかった。
ライブ会場から目と鼻の先にあるマンションのエントランスに入る。輝宗の知人などが長期滞在する際に貸し出しているマンションで、一度使ったことがあるが普通に賃貸で出してもすぐに埋まる立地と内装・設備だ。遊ばせておくのは勿体ないと思うが、輝宗が貸し出す気がないのだから仕方ない。
再度、時計を見る。明日からは惰眠すら取れないスケジュールだ。今ぐらいしてもいいだろうとカードキーをかざした時だった。
「政宗くん?」
聞いたことのある声に後ろを向くと、数時間後には壇上に上がっているはずの人物がそこにいた。
「亘理。何でここにいやがる?」
「リハが終わったから、休憩しに帰ってきたの」
まるで、忘れ物を取りに来た感覚で話す彼女に、さすがの政宗も唖然とした。
「本番まであともう少しだろ、いいのか?」
「本番って言っても、歌うだけだもの。リハだってやったし」
ニコリと笑う彼女の度胸に、なるほどだからいきなり渡米することになっても動じないのかと納得した。
「政宗くんも休憩? 隣に泊まるかもって話は聞いてるわ」
カードキーをかざしエントランスを抜ける彼女についていく。
「ああ。アンタのライブに備えてな」
カードキーが落ちる音に目線を上げると、紅潮した彼女の顔がそこにあった。
「そ、うな、の……」
前にも見たことある、紗智の硬直。記憶をたどると、それは彼女が自分の前でよく見せていた態度だった。
(なんだ、単に緊張してただけだったのか)
以前は、彼女のこの態度に無理解だったし腹を立てていたから、嫌われているんだとかはっきりしないヤツだと思っていた。だが、今なら分かる。全ては自分が勝手に思い込んでいただけで、紗智は自分を想うあまり緊張していただけなのだと。
自分がどんな態度を取ろうが、決して変わらなかった紗智の心。
「なんで、オレなんだ?」
ふいに、興味が沸いた。
「え?」
紗智が、紅潮したまま顔を上げる。
「アンタほどの女なら、他に男だっていただろうに」
「なんでって言われても……」
じっと、紗智を見つめる。紗智の方が耐えられなかったのか、目をそらした。
「理由は分からない。けど、政宗くんじゃなきゃダメなの。他の男(ひと)なんて、いらないって思うんだもの」
あまりのストレートな言葉に、政宗の胸の内にある甘い想いが疼き、なんだかくすぐったくなった。
「アンタ、言ってて恥ずかしくねぇのかよ」
「オブラートに包んでも、言いたいことは同じだもの。……私も、聞いてもいい?」
「なんだ」
「政宗くんは、何でずっと良佳が好きだったの?」
言葉に詰まった。
理由なんて、考えたことはなかった。彼女を想っていた頃は、ただ良佳が欲しい、良佳でなければだめだと思った。
「……言われてみりゃそうだな。分かんねぇけど、アイツでないとダメだって思ってた」
「人を好きになるって、そんなものなのかな」
「そうかもな」
カードキーを拾って差し出す。おずおず受け取る彼女の手がかすかに震えている。
「そんなに緊張しなくていいだろ。このまま結婚したら、身が持たねぇぜ」
「頭では分かってるつもりなんだけど……」
小さく俯く彼女に、ふいに悪戯心が沸いた。相手に興味が沸きさえすれけば、今までの距離感など越えてしまうのが政宗の特徴だ。
「こりゃ、荒療治が必要だな」
ニヤリと笑うと、紗智の腕を引っ張り、戸惑う彼女を抱き寄せた。
「緊張を解くにゃ、オレとの距離を縮めるこった。縮めるのに、skinshipが一番手っ取り早ぇ」
紗智は、ただ口をパクパクさせるだけだったが、政宗に顔を近づけられようやく我に返った。
「ま、ま、待っ……!」
「何だ、kissなんざ挨拶だろ? それとも、まだ待った方がいいのか?」
再び、意地の悪い笑みを浮かべる。紗智は涙目だったが、やがて首を横に振った。
「Good」
髪の毛をくしゃりと撫でた。
「……期待、してもいいの?」
腕の中で、ほんの少しだが紗智が政宗に近付いた。それが嬉しくて、政宗は紗智をもう一度抱き締めた。
「少しずつ、縮めていこうぜ。まずは、Kissだな」
腕の中で頷く紗智を、政宗は初めて愛しいと感じた。