秋・二部
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
政宗の淹れたコーヒーは豆から挽いてあり、香りも味もとても芳醇だ。
「美味しい……」
「そうか」
政宗は特段喜ぶでもなく、コーヒーを口に運んだ。
「Coffeeを飲みにここへ来た訳じゃねぇよな」
コーヒーカップを置くと、政宗は紗智を見据えた。
「婚約の話を聞いたから、ここに来たんだろ?」
「う、うん……」
「だったら、遠慮せずに言いてぇこと言いな。オレらはcoupleになるんだからよ」
鋭い隻眼と違い、言葉が軽い。
「夫婦なんて、無理して言わなくていい。望んでないって、声色に出てるわ」
紗智の言葉に、政宗は嘲笑した。
「望んでねぇ、か。確かに、アンタを望んだ訳じゃねぇ。だが、親父にアンタのことを言ったのも、その気になった親父を止めなかったのもオレだ」
「え……」
「悪ぃが、アンタが期待してるような理由からじゃねぇ。だが、しなくていいと思ったのは確かだ」
紗智はカップを置いた。
「……どんな理由であれ、政宗くんが私を視野に入れてくれるのが嬉しい。貴方の役に立ちたいって思いは、今も変わってないから」
政宗もカップを置いた。
「だから、この婚約がうちの会社を傘下に納めるためのものだとしても構わない。私は、とうの昔に家より貴方を選んでるから」
政宗はあっけにとられた。
「正気か? オレは、最初からアンタんちの会社を傘下に置くつもりだったんだぜ? アンタの親父を失脚させるため、成を助けるふりをしてアイツと徳川の縁談を持ちかけたんだ。アンタの親父は目の前の利益に飛び付き、結果宗家から問題視され今やオレの描いたシナリオ通りになった。Dadが首を縦に振りさえすりゃ、アンタの親父の首は飛び伊達製薬は手に入る。……こんなことを考えてるようなヤツだぞ、オレは」
驚きの真実だったが、紗智を幻滅させる効果はなかった。
「生憎、そんなことで幻滅するほどやわな想いじゃないの。貴方は私を救ってくれた人、そして私を変えてくれた人だもの。何があっても、この気持ちは一生変わらないわ」
「亘理……」
良佳の卒業式以来の再告白に、政宗はそう言うだけで精一杯だった。
「父は、大丈夫だと思う。電話で話した限りじゃ、もう覚悟はついてるみたいだった。傘下に置かれるだけのことをしたって、分かってたみたいだし」
「あの亘理がか?」
つい最近まで伊達製薬の社長だったから、彼の人となりは分かっている。ワンマンで野心家、非を絶対認めず、人を駒のように扱う態度が気に入らず、政宗は幾度となくぶつかってきた。ここ一年こそ急に柔らかくなったが、到底好きになれる相手ではなかった。
「私と結婚したら、そんな人と義理の親子になるけど、いいの?」
紗智が茶目っ気たっぷりに目を細めた。こんな顔も出来るのかと、政宗は新鮮な気持ちになった。
「そうだな、そこはちっとばかし考えるな」
「ふふ。お兄ちゃんと義兄弟になるのは?」
「元々、兄弟みてぇに思ってんだ。そこは問題ねぇ」
「そっか」
二人は顔を見合せ、笑った。
「アンタとは付き合い長ぇのに、オレはアンタの笑顔をものの数しか見てねぇんだな。アンタがそんな顔するって、初めて知ったぜ」
「私も政宗くんのことずっと見てきたけど、きっと本当の貴方をまだ知らない。お兄ちゃんとお義姉ちゃんの結婚に、政宗くんの野心が絡んでるって知らなかったもの」
「お互いさまってヤツだな」
政宗は、再びカップに口をつけた。
「不謹慎かもしれないけど、こんな形ででも政宗くんと婚約出来て嬉しい。こうでもしなきゃ、多分一生、政宗くんのことを始めることも終わらせることも出来なかったと思う」
想いを告げただけ満足だったから、政宗の回答をもらわずじまいだった。あの時はそれで良かったが、援助を受け続けるうち、期待してはいけないと思いつつ、政宗への気持ちは膨らむ一方だった。
「これからも、政宗くんが私に何も思わないなら、形だけの奥さんでもいい」
「Ah!?」
慌てる政宗に、紗智は微笑した。
「でもね、もし貴方の中に私が入れる余地が出来たら、その時は私を本当の奥さんにして。今は本当に、貴方の隣にいられるだけで幸せだから」
「アンタ……」
予想外の言葉に、政宗はそれ以上何も言えなかった。
「美味しい……」
「そうか」
政宗は特段喜ぶでもなく、コーヒーを口に運んだ。
「Coffeeを飲みにここへ来た訳じゃねぇよな」
コーヒーカップを置くと、政宗は紗智を見据えた。
「婚約の話を聞いたから、ここに来たんだろ?」
「う、うん……」
「だったら、遠慮せずに言いてぇこと言いな。オレらはcoupleになるんだからよ」
鋭い隻眼と違い、言葉が軽い。
「夫婦なんて、無理して言わなくていい。望んでないって、声色に出てるわ」
紗智の言葉に、政宗は嘲笑した。
「望んでねぇ、か。確かに、アンタを望んだ訳じゃねぇ。だが、親父にアンタのことを言ったのも、その気になった親父を止めなかったのもオレだ」
「え……」
「悪ぃが、アンタが期待してるような理由からじゃねぇ。だが、しなくていいと思ったのは確かだ」
紗智はカップを置いた。
「……どんな理由であれ、政宗くんが私を視野に入れてくれるのが嬉しい。貴方の役に立ちたいって思いは、今も変わってないから」
政宗もカップを置いた。
「だから、この婚約がうちの会社を傘下に納めるためのものだとしても構わない。私は、とうの昔に家より貴方を選んでるから」
政宗はあっけにとられた。
「正気か? オレは、最初からアンタんちの会社を傘下に置くつもりだったんだぜ? アンタの親父を失脚させるため、成を助けるふりをしてアイツと徳川の縁談を持ちかけたんだ。アンタの親父は目の前の利益に飛び付き、結果宗家から問題視され今やオレの描いたシナリオ通りになった。Dadが首を縦に振りさえすりゃ、アンタの親父の首は飛び伊達製薬は手に入る。……こんなことを考えてるようなヤツだぞ、オレは」
驚きの真実だったが、紗智を幻滅させる効果はなかった。
「生憎、そんなことで幻滅するほどやわな想いじゃないの。貴方は私を救ってくれた人、そして私を変えてくれた人だもの。何があっても、この気持ちは一生変わらないわ」
「亘理……」
良佳の卒業式以来の再告白に、政宗はそう言うだけで精一杯だった。
「父は、大丈夫だと思う。電話で話した限りじゃ、もう覚悟はついてるみたいだった。傘下に置かれるだけのことをしたって、分かってたみたいだし」
「あの亘理がか?」
つい最近まで伊達製薬の社長だったから、彼の人となりは分かっている。ワンマンで野心家、非を絶対認めず、人を駒のように扱う態度が気に入らず、政宗は幾度となくぶつかってきた。ここ一年こそ急に柔らかくなったが、到底好きになれる相手ではなかった。
「私と結婚したら、そんな人と義理の親子になるけど、いいの?」
紗智が茶目っ気たっぷりに目を細めた。こんな顔も出来るのかと、政宗は新鮮な気持ちになった。
「そうだな、そこはちっとばかし考えるな」
「ふふ。お兄ちゃんと義兄弟になるのは?」
「元々、兄弟みてぇに思ってんだ。そこは問題ねぇ」
「そっか」
二人は顔を見合せ、笑った。
「アンタとは付き合い長ぇのに、オレはアンタの笑顔をものの数しか見てねぇんだな。アンタがそんな顔するって、初めて知ったぜ」
「私も政宗くんのことずっと見てきたけど、きっと本当の貴方をまだ知らない。お兄ちゃんとお義姉ちゃんの結婚に、政宗くんの野心が絡んでるって知らなかったもの」
「お互いさまってヤツだな」
政宗は、再びカップに口をつけた。
「不謹慎かもしれないけど、こんな形ででも政宗くんと婚約出来て嬉しい。こうでもしなきゃ、多分一生、政宗くんのことを始めることも終わらせることも出来なかったと思う」
想いを告げただけ満足だったから、政宗の回答をもらわずじまいだった。あの時はそれで良かったが、援助を受け続けるうち、期待してはいけないと思いつつ、政宗への気持ちは膨らむ一方だった。
「これからも、政宗くんが私に何も思わないなら、形だけの奥さんでもいい」
「Ah!?」
慌てる政宗に、紗智は微笑した。
「でもね、もし貴方の中に私が入れる余地が出来たら、その時は私を本当の奥さんにして。今は本当に、貴方の隣にいられるだけで幸せだから」
「アンタ……」
予想外の言葉に、政宗はそれ以上何も言えなかった。