夏・二部
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時は戻って、ライブが始まる一時間前。
「やっとついたな」
金沢に、伊達政宗の姿があった。
政宗は駅に到着するや、良佳と小十郎の務める民間企業に足を向けた。
この企業、実は紗智の父親が経営する伊達製薬の傘下に入っている。いずれは伊達グループの総帥となる政宗だが、今は研鑽期間ということでグループ内で最も稼ぎ頭である伊達製薬の取締役となっていて、明日行われる視察のため金沢にやってきたのである。
ちなみに、小十郎は表向き大学からの出向となっているが、伊達製薬と奥州大は提携関係にあるため、ほぼ伊達製薬の命、つまり政宗の命を受けての出向と言った方が正しい。
小十郎が研究員として奥州大にいたのは、そもそも伊達グループのためである。最も成長が見込める製薬分野において、農業分野と連結した新たなフィールドを展開出来ないかと画策しており、実際出向先でその研究は着々と進んでいる。
(オレがここに上り詰めるまでの足固めを、アイツはしっかりやっておいてくれた)
最も頼りになる男を、だからこそそろそろ自分の元に戻ってこいと言うために一日前倒しで金沢入りしたのだが、携帯に連絡すると既に定時で上がったと告げられた。なら良佳でもからかうかと言うと、彼女も一緒なのだと言った。
「なんだ、ついにデキたのか、お前ら」
冷やかすと、今日は紗智のライブだと淡々と答えられた。政宗は、ライブを失念していたのである。
実は、政宗はあまりジャズが好きではない。だから、紗智から送られたチケットを小十郎に押しつけ、ライブのことをすっかり忘れていたのである。
目当ての人物がいない以上、会社に行っても意味はない。来た道を引き返すしかなかった。
(時間が出来ちまったな)
ライブ後に小十郎、良佳と久々に再会する約束を交わしてスマホを切る。それまでは秘書を解放し、一人金沢の街を散策することにした。
まだ大学生だった頃、良佳の院見学に無理やり帯同して以来の訪問だから十年近く振りだろうか。一度しか見ていない町並みだが、不思議とよく覚えている。
(多分、良佳と一緒だったからだろうな)
楽しかった記憶は良く覚えている。同時に、苦い思いも、そしてそれに付随する記憶もよく覚えている。彼女に振られ、自分はきっと彼女以上に好きになれる女性には出会えないと思った矢先、嫌われていると思っていた紗智から告白を受けたことは昨日のように覚えている。
顔を真っ赤にしながら、震える声で告げられた想いに、正直この時は戸惑う以外何も感じられなかった。
そもそも、政宗が紗智に伊達に反旗を翻す話を持ちかけたのは、彼女が成実の妹だったからではない。言われたことに従順に従う、自分の意思を全く持たない人形だと思っていたからだ。
政宗は、伊達グループに与する前にどうしても自分の力でグループがやったことのない事業を手掛けたいと思っていた。それは、継嗣だからグループ総帥となれたと思われたくないと言う自己顕示欲でもあり、敷かれたレールから逃れられない運命への反発心のあらわれでもあった。
事業を成功させるために政宗に必要だったのが、腕が立ちかつ宗家継嗣の命令だと言えば何の疑問も持たず愚直に従う駒で、それがたまたま紗智なだけであった。
紗智自身、家に対する憤りなど家を出奔したい理由を抱えていたらしく、渡りに船と思った節はあるだろう。だが、箱入り娘で育ってきた彼女が、いくら継嗣の命令だからとは言え実家をあれほど躊躇なく飛び出すのには何か他に理由があるとは察していた。
(その理由が、まさかオレとはな)
告白を受けるまで、政宗は紗智という人間を見誤り、そして見くびっていた。
「やっとついたな」
金沢に、伊達政宗の姿があった。
政宗は駅に到着するや、良佳と小十郎の務める民間企業に足を向けた。
この企業、実は紗智の父親が経営する伊達製薬の傘下に入っている。いずれは伊達グループの総帥となる政宗だが、今は研鑽期間ということでグループ内で最も稼ぎ頭である伊達製薬の取締役となっていて、明日行われる視察のため金沢にやってきたのである。
ちなみに、小十郎は表向き大学からの出向となっているが、伊達製薬と奥州大は提携関係にあるため、ほぼ伊達製薬の命、つまり政宗の命を受けての出向と言った方が正しい。
小十郎が研究員として奥州大にいたのは、そもそも伊達グループのためである。最も成長が見込める製薬分野において、農業分野と連結した新たなフィールドを展開出来ないかと画策しており、実際出向先でその研究は着々と進んでいる。
(オレがここに上り詰めるまでの足固めを、アイツはしっかりやっておいてくれた)
最も頼りになる男を、だからこそそろそろ自分の元に戻ってこいと言うために一日前倒しで金沢入りしたのだが、携帯に連絡すると既に定時で上がったと告げられた。なら良佳でもからかうかと言うと、彼女も一緒なのだと言った。
「なんだ、ついにデキたのか、お前ら」
冷やかすと、今日は紗智のライブだと淡々と答えられた。政宗は、ライブを失念していたのである。
実は、政宗はあまりジャズが好きではない。だから、紗智から送られたチケットを小十郎に押しつけ、ライブのことをすっかり忘れていたのである。
目当ての人物がいない以上、会社に行っても意味はない。来た道を引き返すしかなかった。
(時間が出来ちまったな)
ライブ後に小十郎、良佳と久々に再会する約束を交わしてスマホを切る。それまでは秘書を解放し、一人金沢の街を散策することにした。
まだ大学生だった頃、良佳の院見学に無理やり帯同して以来の訪問だから十年近く振りだろうか。一度しか見ていない町並みだが、不思議とよく覚えている。
(多分、良佳と一緒だったからだろうな)
楽しかった記憶は良く覚えている。同時に、苦い思いも、そしてそれに付随する記憶もよく覚えている。彼女に振られ、自分はきっと彼女以上に好きになれる女性には出会えないと思った矢先、嫌われていると思っていた紗智から告白を受けたことは昨日のように覚えている。
顔を真っ赤にしながら、震える声で告げられた想いに、正直この時は戸惑う以外何も感じられなかった。
そもそも、政宗が紗智に伊達に反旗を翻す話を持ちかけたのは、彼女が成実の妹だったからではない。言われたことに従順に従う、自分の意思を全く持たない人形だと思っていたからだ。
政宗は、伊達グループに与する前にどうしても自分の力でグループがやったことのない事業を手掛けたいと思っていた。それは、継嗣だからグループ総帥となれたと思われたくないと言う自己顕示欲でもあり、敷かれたレールから逃れられない運命への反発心のあらわれでもあった。
事業を成功させるために政宗に必要だったのが、腕が立ちかつ宗家継嗣の命令だと言えば何の疑問も持たず愚直に従う駒で、それがたまたま紗智なだけであった。
紗智自身、家に対する憤りなど家を出奔したい理由を抱えていたらしく、渡りに船と思った節はあるだろう。だが、箱入り娘で育ってきた彼女が、いくら継嗣の命令だからとは言え実家をあれほど躊躇なく飛び出すのには何か他に理由があるとは察していた。
(その理由が、まさかオレとはな)
告白を受けるまで、政宗は紗智という人間を見誤り、そして見くびっていた。